第四部:無機化学の基礎 金属元素(遷移元素)
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ここでは,遷移元素周期表 7族の金属元素について, 【周期表 7族について】, 【マンガン】, 【テクネチウム】, 【レニウム】, 【ボーリウム】 に項目を分けて紹介する。
周期表 7族について
周期表 7族に分類される元素,マンガン( Mn ),テクネチウム( Tc ),レニウム( Re ),ボーリウム( Bh )の概要を紹介する。
なお,実用材料などに利用される主な元素を太字で示した。また,マンガン,レニウムは,レアメタルに分類され,マンガンは,必須ミネラルにも分類される元素である。
次表には,これらの中から実用に供され元素の基礎物性を紹介する。比較のため,身近な金属単体として,アルミニウム,鉄の値も併記する。
なお,ポーリングの電気陰性度,イオン化エネルギーは別途紹介している。なお,これらの値は,算出に用いる解離エネルギー値や結合エネルギー値の改訂で変わるので,紹介した値は最新値ではなく,引用文献での値である。
【参考】
レアメタル( rare metal )
希少金属ともいわれ,以下の ①~④ のどれか一項目を満たし,かつ ⑤ の条件にあてはまるものをいう。
① 存在する量が少ない
② 鉱床を作らず,広く薄く分布している
③ 鉱床を作っても,特定の国や地域に限定されている
④ 鉱物からの取り出し,精製が難しい
⑤ 現代の産業に欠かせない素材である
レアメタル以外の金属はコモンメタル( common metal :汎用金属)という。チタン( Ti )のように,④と⑤でレアメタルに分類される元素は,精錬技術の向上などによりレアメタルからコモンメタルに変更される可能性がある。
必須ミネラル
健康増進法(平成 14年法律第 103 号)に基づき厚生労働大臣が定める「日本人の食事摂取基準(2015年版)」 に基準摂取量が定められているミネラルをいう。必要所要量の違いで,主要ミネラル 7 種,微量ミネラル 9 種に分けられる。
主要ミネラル( 100 mg /1日 以上):硫黄 S(骨・軟骨・皮膚・髪の毛・爪など),塩素 Cl(胃液中の胃酸),ナトリウム Na(血液・体液の浸透圧を調整),カリウム K( 血圧の上昇抑制,利尿作用),マグネシウム Mg(骨や歯の強か,酵素の補助),カルシウム Ca(骨・歯の成分,エネルギー代謝),リン P(骨・歯の成分,代謝の補助)
微量ミネラル( 100 mg /1日 未満): 鉄 Fe(赤血球のヘモグロビン),亜鉛 Zn(生殖機能,ホルモン合成),銅 Cu(ヘモグロビン生成,骨格成分),マンガン Mn(骨や関節),ヨウ素 I(甲状腺ホルモン,代謝),セレン Se(抗酸化力,老化防止),モリブデン Mo(肝臓,腎臓の老廃物分解),クロム Cr(糖の代謝),フッ素 F(虫歯予防)
元素記号 | Mn | Te | Re | Al | Fe |
---|---|---|---|---|---|
原子番号 | 25 | 43 | 75 | 13 | 26 |
原子量 | 54.94 | 98 | 186.21 | 26.98 | 55.85 |
融点(℃) | 1246 | 2157 | 3186 | 660.3 | 1538 |
密度(×106 gm-3) | 7.21 | 11 | 21.02 | 2.70 | 7.87 |
結晶構造 | *1 | hcp | hcp | fcc | bcc |
格子定数(×10-10 m) | *1 | 2.741 , 4.400 | 2.761 , 4.458 | 4.0496 | 2.867 |
モース硬度 | 6.0 | ? | 7.0 | 2.8 | 4.0 |
電気抵抗(×10-8 Ωm:20℃) | 144 | ? | 19.3 | 2.82 | 9.61 |
熱伝導率( W m-1K-1:300K) | 7.81 | 50.6 | 48 | 237 | 80.4 |
備考: hcp (六方最密充填,ちよう密六方),fcc (立方最密充填,面心立方格子),bcc (体心立方格子) *1 :立方晶系(体心立方類似構造),格子定数 8.894
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マンガン( Mn )
天然には,数多くのマンガンを含む鉱物として比較的豊富に存在する。その中で,主要な鉱物は,ハウスマン鉱( Mn3O4 ),軟マンガン鉱( MnO2 ),クリプトメレン( K(Mn2+,Mn4+)8O16 ),菱マンガン鉱( MnCO3 ),テフロ鉱( Mn2SiO4 ),バラ輝石( MnSiO3 ),ブラウン鉱( Mn2+Mn3+Si8O12 )などである。
その他には,閃(せん)マンガン鉱,ラムスデル鉱,緑マンガン鉱,ビクスビ鉱,轟(とどろき)石,万次郎鉱,キミマン鉱,水マンガン鉱,パイロックスマンガン,満礬柘榴(まんばんざくろ)石,バスタム石,アレガニー石,イネス石などがある。また,深海底には,金属水酸化物の塊であるマンガン団塊として存在する。
純度 93~98%のマンガンは,鉱石を電気炉で溶融する乾式法で得られる。純度 99%以上の高純度マンガンを得る場合には,軟マンガン鉱を硫酸で溶解し,陽極に鉛,陰極にアルミニウムを用いた電解法が用いられる。
マンガン単体は,硬く非常に脆い金属である。常温・常圧で複雑な立方晶系(体心立方類似構造:αマンガン)が安定であるが,温度によりいくつかの同素体(βマンガン 742℃以上,γマンガン 1095℃以上,δマンガン 1134℃以上)がある。
反応性
マンガン単体は,比較的反応性の高い金属であるが,中性の水や常温の空気中では,酸素,水と反応し,表面が酸化物被膜で覆われ,その後の反応が抑制される。
酸化物被膜は,比較的厚いため表面は,赤みがかった灰白色となる。酸(希酸)には容易に溶解し,淡桃色の 2価のマンガンイオン ( Mn2+ ) を生成する。
用途例
金属素材としての用途
マンガンは,鉄鋼の強度や硬度など諸性質の調整に必須の元素で,粗鋼生産段階でフェロマンガン(マンガン75~85%含むマンガンと鉄の合金)やシリコマンガン(マンガン60%以上,けい素約15%含む合金)の形で添加される。
なお,鉄鋼の製造に用いる脱酸剤,脱硫剤又は合金成分添加剤として用いるフェロマンガンはJIS G2301「フェロマンガン」に,シリコマンガンはJIS G2304「シリコマンガン」に規定されている。
化合物としての用途
身近な用途には,正極活性物質として酸化マンガン(Ⅳ)( MnO2 )を用いた乾電池(マンガン乾電池,アルカリ乾電池,リチウム電池)の正極に使われる。また,磁性材料(マンガン,亜鉛,鉄を含む金属酸化物)がインダクタコイルやトランスのコア材料として用いられる。
過マンガン酸カリウム( KMnO4 )は,酸性溶液中で強い酸化作用を示し,一般的な酸化剤として,水中に含まれる有機物や酸化されやすい物質( COD :化学的酸素要求量)の検出に用いる試薬など,広く用いられている。
人体にとり必須元素の一つで,骨の形成や代謝,消化などを助ける働きがある。植物にとっても必須元素で肥料に硫酸マンガンなどの化合物が用いられる。
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テクネチウム( Tc )
テクネチウムは,天然では非常にまれで,ウラン鉱中のウラン 238 の自発核分裂で微量生じる。発見されている元素のすべてが放射性同位体で,半減期が最も長いのが 420万年のテクネチウム 98 である。
医療用に実用される半減期約 21万年のテクネチウム 99 の核異性体(原子核が非常に長く励起した状態を保っている原子核)である半減期約 6時間のテクネチウム 99m は,放射性廃棄物中から単離する方法,モリブデン 99 に中性子を照射する方法から得られている。
用途例
テクネチウム 99m は,β線を出さず核異性体転移によってγ線のみを出しテクネチウム 99になる。放出するγ線は,体外から測定しやすく,半減期も適当に短い(約 6 時間)ので,医療において画像診断に用いられる。
放射性医薬品として投与し,骨・腎臓・肺・甲状腺・肝臓・脾臓などのシンチグラム(調べたい物質の移動や蓄積度合いを調べる方法)に用いられる。
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レニウム( Re )
天然のレニウムは極めて少なく,レアメタルのなかで最も珍しい元素である。レニウムを主成分とする鉱物は,レニウム鉱( ReS2 )とタキアン鉱( (Cu,Fe) (Re,Mo)4S8 )のみである。
レニウム鉱の発見は 最近( 1992 年)で,レニウムの生産は,もっぱら輝水鉛鉱( MoS2 )に 0.2 %程度含まれるレニウムの回収によっていた。
レニウムには,安定同位体のレニウム 185はあるが,存在量が多い( 62.6 %)のは,半減期 412億年の放射性同位体レニウム 187である。
レニウムは,常温・常圧で六方最密充填構造( hcp )が安定な硬い金属である。
反応性
レニウム単体は,酸化力のある硝酸や熱濃硫酸には溶解するが,塩酸やふっ化水素酸には溶解しない。
用途例
レニウムの用途は限られており,ニッケル・レニウム合金は,耐熱性を求めるジェットエンジンなどに,レニウム・タングステン合金は,フィラメント,高温測定用熱電対,航空宇宙用部品,医療用X線管ターゲットなどに使用されている。
その他の用途
同位体の比率による鉄隕石や硫化鉱物などの年代測定(レニウム-オスミウム法)にも用いられている。
大量破壊兵器の拡散防止を目的とし,経済産業省では,輸出貿易管理令を平成26年7月25日に改定し,“レニウム,レニウム合金又はレニウム・タングステン合金の一次製品”の貿易を管理している。
ボーリウム( Bh )
ボーリウムは,原子番号 107 ,原子量(270),安定同位体は存在せず,半減期が数秒からミリ秒台と非常に短い放射性同位体が複数知られている。ボーリウム単体及び化合物の物理的・化学的性質の詳細は不明である。
ドイツの重イオン研究所の加速器で作られた人工の元素である。元素名は,物理学者ニールス・ボーアの名に因んで付けられた。
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