第四部:無機化学の基礎 金属元素(典型元素)

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  ここでは,周期表 2族の金属元素について, 【周期表 2族とは】, 【ベリリウム,マグネシウムの特徴】, 【アルカリ土類金属の特徴】 に項目を分けて紹介する。

  周期表 2族とは

 周期表 2族の元素,ベリリウム( Be ),マグネシウム( Mg ),カルシウム( Ca ),ストロンチウム( Sr ),バリウム( Ba ),ラジウム( Ra )は,全て金属元素である。この中で,Be , Mg を除く元素の性質が類似しているので,Ca , Sr , Ba , Ra はアルカリ土類金属元素と呼ばれる。
 また,ベリリウム( Be ),ストロンチウム( Sr ),バリウム( Ba )は,レアメタルに分類される元素である。
 なお,マグネシウム( Mg ),カルシウム( Ca )は,人の健康を維持するために必要不可欠の栄養素のため,健康増進法において,必須ミネラルに指定されている。

 次には,周期表 2族(単体)の基礎物性を紹介する。なお,比較のため,身近な金属単体として,アルミニウム( Al ),鉄( Fe ),銅( Cu )の値も併記する。
 なお,ポーリングの電気陰性度イオン化エネルギーは別途紹介している。なお,これらの値は,算出に用いる解離エネルギー値や結合エネルギー値の改訂で変わるので,紹介した値は最新値ではなく,引用文献での値である。


周期表 2 族元素の基礎物性(参考; Al, Fe, Cu )
  元素記号    Be    Mg    Ca    Sr    Ba    Ra    Al    Fe    Cu 
  原子番号    4    12    20    38    56    88    13    26    29 
  原子量    9.012    24.31    40.08    87.62    137.3    226    26.98    55.85    63.55 
  融点(℃)    1287    650    843    777    726    700    660.3    1538    1084 
  密度(×106 gm-3   1.85    1.74    1.55    2.64    3.51    5.50    2.70    7.87    8.94 
  結晶構造    hcp    hcp    fcc    fcc    bcc    bcc    fcc    bcc    fcc 
  格子定数(×10-10 m)    2.287 , 3.583    3.209 , 5.21    5.576    6.085    5.025    5.148    4.0496    2.867    3.615 
  モース硬度    6.5    2.5    1.75    1.5    1.25    ?    2.8    4.0    3.0 
  電気抵抗(×10-8 Ωm:20℃)    6.4    4.4    3.36    13.2    33.2    100    2.82    9.61    1.68 
  熱伝導率( W m-1K-1:300K)    200    156    201    35.4    18.4    18.6    237    80.4    401 
 出典:化学便覧(融点,密度,格子定数,電気抵抗率,熱伝導率),モース硬度(化学便覧など)
 備考: hcp (六方最密充填,ちよう密六方),fcc (立方最密充填,面心立方格子),bcc (体心立方格子)

 【参考】
 レアメタル( rare metal )
 希少金属ともいわれ,以下の ①~④ のどれか一項目を満たし,かつ ⑤ の条件にあてはまるものをいう。
 ① 存在する量が少ない
 ② 鉱床を作らず,広く薄く分布している
 ③ 鉱床を作っても,特定の国や地域に限定されている
 ④ 鉱物からの取り出し,精製が難しい
 ⑤ 現代の産業に欠かせない素材である
 レアメタル以外の金属はコモンメタル( common metal :汎用金属)という。チタン( Ti )のように,④と⑤でレアメタルに分類される元素は,精錬技術の向上などによりレアメタルからコモンメタルに変更される可能性がある。
 必須ミネラル
 健康増進法(平成 14年法律第 103 号)に基づき厚生労働大臣が定める「日本人の食事摂取基準(2015年版)」 に基準摂取量が定められているミネラルをいう。必要所要量の違いで,主要ミネラル 7 種,微量ミネラル 9 種に分けられる。
 主要ミネラル( 100 mg /1日 以上):硫黄 S(骨・軟骨・皮膚・髪の毛・爪など),塩素 Cl(胃液中の胃酸),ナトリウム Na(血液・体液の浸透圧を調整),カリウム K( 血圧の上昇抑制,利尿作用),マグネシウム Mg(骨や歯の強か,酵素の補助),カルシウム Ca(骨・歯の成分,エネルギー代謝),リン P(骨・歯の成分,代謝の補助)
 微量ミネラル( 100 mg /1日 未満): 鉄 Fe(赤血球のヘモグロビン),亜鉛 Zn(生殖機能,ホルモン合成),銅 Cu(ヘモグロビン生成,骨格成分),マンガン Mn(骨や関節),ヨウ素 I(甲状腺ホルモン,代謝),セレン Se(抗酸化力,老化防止),モリブデン Mo(肝臓,腎臓の老廃物分解),クロム Cr(糖の代謝),フッ素 F(虫歯予防)

周期表

周期表(2015年)

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  ベリリウム,マグネシウムの特徴

 周期表 2族 Be , Mg がアルカリ土類金属に属さないのは,次に例示するように,化学的特性が大きく異なるためである。
 単体と水の反応性: Be , Mg ≪アルカリ土類金属
 酸化物と水の反応性: Be , Mg ≪アルカリ土類金属
 水酸化物の水溶解性と塩基性: Be , Mg ≪アルカリ土類金属
 硫酸塩の水溶解性: Be , Mg ≫アルカリ土類金属
 炎色反応:Be , Mg の視認不可

 ベリリウム( Be )
 ベリリウムは,ベリリウムとアルミニウムとのケイ酸塩鉱物である緑柱石( beryl:Be3Al2Si6O18 )などの鉱物から産出される。ベリリウムの元素名はこの鉱物から発見されたことを由来とする。
 蛇足:緑柱石に不純物として鉄(Ⅱ)イオンを含むものは青色を示しアクアマリンと呼ばれ,不純物としてバナジウム又はクロムを含むものは緑色を示しエメラルドと呼ばれる。

 単体は,常温では硬く脆い銀白色の金属で,空気中放置で表面に形成する酸化被膜のため安定に存在できる。
 ベリリウムの標準酸化還元電位は -1.85 V と還元性が強く大きな化学活性を期待されるが,表面が酸化被膜に覆われ不動態化するため常温付近の温度ではに対しての強い耐性を示す。しかし,強塩基に対してはベリリウム酸イオン( Be(OH)42- )を形成し,水素ガス発生と共に溶解する。酸やアルカリに対する性質はアルミニウムと類似している。

 用途例
 高温で展延性が増すため,400 ℃以上の高温条件で使用する部品などに用いられる。強い曲げ強さ,高い剛性,熱的安定性,熱伝導率の高さ,低い密度などの物理的特性を利用し,音響材料,特に軍事産業や航空宇宙産業で軽量部材として実用されている。
 ベリリウムは,原子量が小さい(電子が少ない)ため,X線に対する透過性が高い。この性質を利用し,X線装置などのX線透過窓として用いられている。

 マグネシウム( Mg )
 天然のマグネシウム分は,鉱物のカンラン石( (Mg,Fe)2 SO4 ),海水成分として存在する。
 マグネシウムの単体は,常温の空気中で表面の酸化で灰色を帯びるが,同じ第 2 族のカルシウムほどの反応性はない。水との接触で表面に不動態皮膜を形成し,カルシウム とは異なり腐食の進行は著しく抑制される。

 表面が酸化物でおおわれると比較的安定するなど,マグネシウムはベリリウムと共通した化学的性質を持つが,次の点で差異が認められる。
 ベリリウム化合物は共有結合性のものが多いのに対し,マグネシウム化合物はイオン結合性が強い。ベリリウムは塩基に溶解するが,マグネシウムは塩基に溶解しない。
 酸に接触すると,例えば Mg + H2SO4 ( 2H+ + SO42- ) → MgSO4 ( Mg2+ + SO42- ) + H2と,激しく水素を発生する酸化還元反応が起きる。

 用途例
 軽金属材料として,種々の合金が開発され,航空機,自動車,各種機械,携帯用機器の筐体や医療機器の他に,宇宙産業,兵器産業で多く実用されている。また,プラスチックの代替材料としても期待されている。
 反応性の高さから脱酸素剤,脱硫剤,有機合成用試薬としても用いられている。

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  アルカリ土類金属の特徴

 アルカリ土類金属に分類されるカルシウム( Ca ),ストロンチウム( Sr ),バリウム( Ba )に共通する化学特性を紹介する。
 単体と水の接触
 常温で水と反応し,水素を発生し,水酸化物を作る。水溶液は強い塩基性を示す。
      M + 2H2O → M(OH)2 + H2
 酸化物と水や酸との反応性
 アルカリ土類金属の酸化物( CaO , SrO , BaO )は,塩基性酸化物であり,水との接触で強い塩基性を示す水酸化物になる。
      MO + H2O → M(OH)2
 酸とは中和反応する。
      MO + 2HCl → MCl2 + H2O

 カルシウム( Ca )
 天然では,海水中にイオンとして存在するとともに,海水成分と二酸化炭素の反応生成物( CaCO3 )が堆積した方解石(カルサイト)やあられ石(アラゴナイト)として産出する。
 単体は,常温の空気中で,酸素,水蒸気と速やかに反応する。さらに,金属表面に生成した酸化カルシウム( CaO )や水酸化カルシウム( Ca(OH)2 )が二酸化炭素と反応し,金属表面には難溶性の炭酸カルシウム( CaCO3 )を生成する。このため,保管は,空気・水蒸気との接触を防止できる石油などに浸漬する。
 用途例
 カルシウムの単体として用途はほとんどないが,酸化物( CaO ),炭酸物( CaCO3 )は,土木材料,工業材料,食品工業で広く用いられている。次には,用途の例を列挙する。
 建設・建築用資材として用いるセメント,モルタル,石材,断熱材,保温材などの原料,製鋼工程での添加剤,エポキシ樹脂の製造,アセチレンの製造,ガラスの製造,乾燥剤,食品添加物,入浴剤,研磨剤,肥料など。

 ストロンチウム( St )
 スコットランドのストロンチアンで発見されたストロンチアン石( SrCO3 )の成分から命名された。天然には,天青石( SrSO4 )としても存在する。放射性同位体のストロンチウム 90 の半減期は 28.90年である。
 用途例
 炎色反応が深紅色で,花火や発炎筒の赤い色に塩化ストロンチウムなどが用いられる。炭酸ストロンチウムはフェライトなどの磁性材料の原料に,単体のストロンチウムは真空装置中のガス吸着目的に活用されている。

 バリウム( Ba )
 天然には,重晶石( BaSO4 ),毒重石( BaCO3 )などの鉱石として存在する。工業的には,電気分解ではなく,酸化バリウム( BaO )をアルミニウムと反応させて得る。
 バリウムの単体は,カルシウム,ストロンチウムに比較して反応性が高い。
 用途例
 バリウム単体として,真空管内の酸素やその他のガスを取り除く目的で用いられていたが,この用途は姿を消しつつある。単体としての主な用途は,合金の添加材である。
 硫酸バリウム( BaSO4 )は,塗料などの顔料(沈降性硫酸バリウム),ゴム製品の充填剤,ポリマーの添加剤,レントゲン撮影時の造影剤として用いられる。
 その他に実用されている化合物には,炭酸バリウム( BaCO3 ),酸化バリウム( BaO ),花火の緑色に硝酸バリウム( Ba (NO3)2 ),テルミット溶接の開始材として過酸化バリウム( BaO2 ),黄色の顔料としてクロム酸バリウム( BaCrO4 ),フェライト磁石としてバリウムフェライト( BaFe12O19 )が用いられている。

 ラジウム( Ra )
 ラジウムは,原子番号 88 ,原子量( 226 )のアルカリ土類金属の一つである。安定同位体が存在せず,天然に 4 種類の同位体が存在する。
 単体は,密度 約 5~6×106 gm-3 ,融点 700℃,常温・常圧で体心立方構造( bcc )が安定で,水と激しく反応し,空気中で容易に酸化される。

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