第二部:物質の状態と変化 液体への溶解(基礎)

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  ここでは,溶解現象を理解するため, 【溶解とは】, 【液体について】, 【理想溶液とは】, 【無熱溶液とは】, 【正則溶液とは】, 【電解質溶液とは】, 【溶媒・溶質】  に項目を分けて紹介する。

 溶解とは

 溶解( dissolution )
 一般的には,JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」では,“液体に他の物質が溶け込んで均一な相になる現象”と定義している。すなわち,液体に気体,液体や固体が溶ける現象をいう。
 なお,材料工学などの分野では,固体中に気体が溶ける現象,固溶体( solid solution )を形成する現象などについてもいわれる。また,金属工業などの技術分野では,金属が溶融すること,即ち固体の融解現象溶解と称することもある。合金の製造では,熱して液状にした金属に合金成分を溶解する作業を含むため,融解も含めて溶解と称しているようである。
 【参考】
 固溶体( solid solution )
 複数の元素が互いに溶け合い,全体として均一の固相となっているものをいう。一般には,金属元素を含む場合に固溶体といい,非金属元素同士の場合は混晶(mixed crystal)ともいわれる。
 合金( alloy )
 2 種以上の金属元素で構成される金属材料。または,金属元素と非金属元素との共融体で金属的性質を示す材料をいう。主要成分の数により 2元合金・3元合金・4元合金などという。

 溶液( solution )
 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」では,“ 2種類以上の物質から成る均一の液相。”と定義している。すなわち,2 種以上の物質で構成する液体状態の混合物をいう。
 一般的には,微視的レベルの分子,イオン,それらの会合物が均一に分散している液体を言うことが多い。
 定義から,一方の物質が,巨視的な分子の集合体として均質に分散している場合(コロイド溶液)も溶液と呼ぶ場合がある。
 【参考】
 コロイド( colloid )
 分散質(コロイド粒子)が分散媒(均質な媒質)中に分散している状態にある系(分散系という)についていう。
 コロイド粒子とは,直径 1 ~ 500 nm ( 10-9 ~ 5 × 10-7 m ) 程度の微粒子あるいは巨大分子をいう。
 分散系は,分散媒と分散質の状態(気体,液体,固体)により,分散媒が気体の場合は,エアロゾル( aerosol ,エーロゾルともいう)と称し,分散媒が液体のものを総称してゾル( sol )又はコロイド溶液( colloidal solution )と称す。分散媒が固体のものを総称して,固体コロイドと称す。  コロイド溶液は,疎水コロイド,親水コロイド,分子コロイド,会合コロイドに分類される。

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 液体について

 三態( three states of matter )
 気体( gas ),液体( liquid ),固体( solid )に分けられる物質の状態をまとめて物質の三態三相( three phases of matter )と呼ぶ。
 物質の三相(気相,液相,固相)は,温度や圧力を変えることで,相互に変化する。この変化を相転移( phase transition )相変態( phase transformation )といわれる。
 気体とは
 物質の三態の一つで,一定の形と体積を持たず,自由に流動し,圧縮やずれに対する抵抗が小さく,圧力の増減で体積が容易に変化する状態である。また,外部から力を受けない状態では,気体の体積が無限に膨張する。 なお,物体が気体状態にあるときの相を気相( gas phase )と呼ぶ。
 気体を構成する粒子(原子や分子)は,自由かつランダムに動く熱運動をしている。気体の粒子は,それぞれ離れているため,粒子間には引力(分子間力)が働かない
 液体とは
 液体は,物質の三態の一つで,流動的で容器に合わせて形を変えることができる。液体は気体と異なり,分子間の相互作用(分子間力)で粒子間の距離がほぼ一定に保たれ,容器全体に広がることが無い。また,圧縮性が小さいので,ほぼ一定の密度を保つ。一般的に,液体の密度は,固体の密度に近く,気体より著しく高い。 なお,物体が液体状態にあるときの相を液相( liquid phase )と呼ぶ。
 一般的には,液相が単一の物質で構成されているとき,純液体や単に液体と呼び,2種類以上の物質からなる場合を溶液と呼び区別する場合が多い。
 固体とは
 固体は,物質の三態の一つで,液体と比較して変形や体積変化が極めて小さい。固体を構成する粒子(原子,分子やイオン)は,粒子間の相互作用(分子間力により振動以外の粒子の運動が制限される。粒子が規則正しい繰り返しで並ぶ場合(結晶質)と不規則に並ぶ場合(非晶質,アモルファス)がある。 なお,物体が固体状態にあるときの相を固相( solid phase )と呼ぶ。

 液体の特徴
 液体は,分子の位置が固定されず流動できるが,圧力を加えても大きく変動しないほど密に詰まっていることから,気体と固体の中間的な状態と考えられる。
 しかしながら,気体分子運動論( kinetic theory of gases )固体物理学( solid-state physics )に比較して,液体の状態を扱う液体論( liquid theory )は十分に発達していない。
 これは,気体は自由に運動できる粒子と仮定することで理想化できること,固体(結晶)は規則的に配列した分子の熱運動で平衡の位置から僅かに移動(分子振動)すると仮定して理想化できることに対し,液体の分子の配置は,気体のように無秩序でもなければ,固体のような規則性もなく,分子種により作用する分子間力が異なるなどの液体特有の複雑さを含むため,容易には理想化できないことにある。ここで,次には液体の複雑さの一例として異常液体を紹介する。

 異常液体( abnormal liquid )
 多くの物質は,液相から固相への相変位で,分子の流動が可能な分子間隔(分子サイズの約 10%)から僅かに縮まるため,密度( density )が僅かに増加(体積減少)する。
 一方,水( H2O ),ケイ素( Si ),ゲルマニウム( Ge ),ガリウム( Ga ),ビスマス( Bi )などは,液相の分子配置よりかさ高い固相(結晶構造)になるため,液相から固相に相変位することで密度が減少(体積増加)する。これらの固相より液相の密度が大きい物質を異常液体と呼ぶ。

主な物質(異常液体)の密度( g/cm3 ; 1気圧)比較
物質名  固体の密度(温度)   液体の密度(融点) 
  水( H2O ) 0.916 72 ( 0℃) 0.999 84 ( 0℃)
{ 0.999 97 ( 4℃)}
  ケイ素( Si 14) 2.329(室温) 2.57 ( 1414℃)
  ガリウム( Ga 31) 5.91(室温) 6.095 ( 29.7646℃)
  ゲルマニウム( Ge 32) 5.323(室温) 5.60 ( 938.25℃)
  ビスマス( Bi 83) 9.78(室温) 10.05 ( 271.5℃)
  参考 アルミニウム( Al 13)  2.70(室温) 2.375 ( 660.32℃)
  参考 鉄( Fe 26) 7.874(室温) 6.98 ( 1538℃)
 液体の種類
 周期表第 18族(希ガス元素)のヘリウム ( He ),ネオン ( Ne ),アルゴン ( Ar )など単原子で安定して存在できる物質(単原子分子ともいう)を除き,液体は複数の原子が結合した分子の集合である。
 液体は,構成する粒子の属性(中性分子,金属,塩)の違いにより,分子性液体,金属性液体,イオン液体に大別される。
 なお,単一の物質で構成される場合には液体(純液体)と呼び,2種類以上の物質から構成される場合には溶液( solution )と呼び区別する場合が多い。

 分子性液体( molecular liquid )
 中性(電荷を持たない状態)の分子からなる分子性物質( molecular substance )の液体の総称である。分子性液体としては,身近なものとして水,多くの有機化合物(有機溶剤,油脂など),液化した酸素,窒素,ヘリウムなどが知られる。
 分子性液体(溶液)は,中性分子(粒子)の振舞いに影響する分子間相互作用,分子内相互作用によって区分される。
 分子性液体を溶媒とし,他の物質を溶質として混合(溶解)した分子性溶液は,溶媒分子と溶質分子の分子サイズの違い,溶媒分子間及び溶媒分子と溶質分子との間に働く分子間力(ファンデルワールス力,双極子相互作用など)の違いなどにより,理想溶液,無熱溶液,正則溶液,電解質溶液などに大別される。なお,それぞれの詳細については後述する。

 金属性液体( metallic liquid )
 液体金属( liquid metal )ともいい,広義には,融点( melting point )から沸点( boiling point )の間に加熱した液相( liquid phase )の金属の総称である。
 狭義には,大気圧の常温付近で液相として安定に存在する水銀( Hg ;融点 -38.83℃,沸点 356.73℃),セシウム( Cs ;融点 28.44℃,沸点 671℃),ルビジウム( Rb ;融点 39.31℃,沸点 688℃),ガリウム( Ga ;融点 29.765℃,沸点 2403℃ ),水銀の合金(アマルガム),ガリウムの合金(ガリンスタン)などを指す。
 液体金属の共通の性質として,分子性液体と同様に流動性を持つが,分子性液体に比較して表面張力が大きく,熱や電気の伝導性が高く,磁場の影響を受け易いなどがある。

 イオン液体( ionic liquid )
 イオン結晶を溶融した液相( liquid phase )のの総称であり,イオンを溶質とする電解質溶液(分子性液体)とは異なる。
 なお,古い文献でイオン性液体と記述されていたが,近年の文献ではイオン液体と記述する例が多い。
 塩化ナトリウム( NaCl )などの無機塩は,イオンサイズが小さいため,イオン間の静電相互作用が非常に大きい。このため,液化するためには,塩化ナトリウム(融点 800.4℃)で 800℃を超える高温まで加熱する必要がある。
 そこで,一方のイオンをイオンサイズの大きい有機イオンに置換することで,静電相互作用の影響を下げられるので,室温付近でも液体状態で存在できるほどに融点を下げられる。
 1990年代に,安定性に優れる有機イオンの開発が進み,融点が 100℃以下で,コンデンサー,リチウムイオン電池,燃料電池,太陽電池などに実用可能な種々のイオン液体が開発された。
 イオン液体の種類と概要については,試薬として市販している東京化成工業(株)関東化学(株)などの製品解説が参考になる。

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 理想溶液とは

 溶液( solution )は,JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」で“ 2種類以上の物質から成る均一の液相。”と定義している。
 一般的な溶液は,大多数を占める液体(溶媒; solvent )に溶解した少量成分の物質(溶質; solute )で構成される。
 このため,溶液は,溶媒の特性,溶媒と溶質の関係,溶質の量などによる熱力学的扱いの違いにより,理想溶液実在溶液( real solution )に分けられる。実在溶液は,さらに無熱溶液,正則溶液,電解質溶液などに分類される。
 【参考】
 実在溶液( real solution )
 理想溶液に対比する用語で,現実に存在する非理想溶液をいう。すなわち,理想溶液は,ラウールの法則が成立する溶液をいうが,この法則が成立するのはごく限られた成分の組合せの場合である。従って,実用の溶液の多くはこの法則から外れるため,理想溶液に対して実在溶液という。

 理想溶液( ideal solution )
 溶液の中で,溶媒の分子と溶質の分子との間の相互作用が等価で,それぞれを区別できない混合状態の溶液をいう。
 理想溶液は,熱力学的概念で,ラウールの法則が導かれる。
 すなわち,構成分子(溶媒と溶質)の分子の大きさがほぼ等しく,混合熱がゼロで,混合による容積変化もゼロで,全温度範囲,全濃度範囲でもラウールの法則が成立する溶液を理想溶液完全溶液(perfect solution)という。
 例えば,ベンゼン( C6H6 )にトルエン( C6H5CH3 )を溶解した溶液は,理想溶液と見なされる。

 熱力学的取扱いの詳細は下記の【参考書】に譲り,ここでは概要を紹介する。理想溶液では,混合による熱の出入りが無いので,各成分のエンタルピー変化が無い(ΔmixH = 0 )。従って,混合によるギブスの自由エネルギー変化ΔmixGは,次式で表される。
      ΔmixG = ΔmixH - TΔmixS = - TΔmixS
 理想溶液では,大きさがほぼ同じ分子のランダムな混合と考えられるので,各成分の自由体積も等しい( V1f = V2f = Vfとできる。ここで成分 1 ( n1 mol )と成分 2 ( n2 mol )を混合したとき,エントロピー変化(ΔmixS )は,それぞれの成分のモル分率{χ1 = n1/(n1+n2)}を用いて,
      ΔmixS = n1 R ln{(n1 + n2)Vf / n1 Vf }+ n2 R ln{(n1 + n2)Vf / n2 Vf }= - R( n1 lnχ1 + n2 lnχ2 )
と表せるので,理想溶液のギブスの自由エネルギー変化は,
      ΔmixG = RT( n1 lnχ1 + n2 lnχ2 )
で表せる。なお,R は気体定数( gas constant )である。

 理想希薄溶液( ideal dilute solution )
 溶質の混合熱がゼロでなくとも,溶媒についてラウールの法則がおおよそ成立し,溶質についてヘンリーの法則が成り立つ溶液をいう。
 具体的には,溶媒のモル分率を 1 とみなせるほど溶質の量が極めて少ない希薄溶液である。
 溶質がヘンリーの法則に従う理想希薄溶液と溶液がラウールの法則に従う完全溶液とを合わせて理想溶液と呼ぶ場合もある。

 【参考】
 ラウールの法則( Raoult's law )
 「混合溶液の各成分の蒸気圧はそれぞれの純液体の蒸気圧と混合溶液中のモル分率の積で表される」をいう。一般的には,十分に希薄な溶液について成り立つ。
 すなわち,混合溶液の各成分の純液体の時の蒸気圧を Pi ,各成分のモル分率をχi とすると,各成分の蒸気圧 Pi は,
       Pi = Pi χi
と表せる。
  混合溶液の全蒸気圧 P は,全成分の圧力の和で表せるので,
       P = ΣPi = ΣPi χi
となる。
 ヘンリーの法則( Henry's law )
 「揮発性の溶質を含む希薄溶液が気相と平衡にあるとき,気相内の溶質の分圧 p は溶液中の濃度 c に比例する。」と表現される。
 このとき,溶質のモル分率をχとすると,溶質の分圧 p には,
       p = KHχ
が成り立つ。なお, KH は比例定数でヘンリー定数と呼ばれる。
 溶質が気体の場合に,ある圧力のあまり高くない範囲で「一定の温度において,一定量の溶媒に溶けることができる気体の物質量は,その気体の圧力(分圧)に比例」とも表現される。
 エンタルピー( enthalpy )
 熱含量( heat content )とも言われ,一般的には記号 H で表される。系の圧力 P ,体積 V と内部エネルギー U のとき,エンタルピーは,次のように定義される。
     H = U + P V
 エントロピー( entropy )
 系の微視的な「乱雑さ」を表す指標として,伝統的にはクラウジウスの不等式(Σ( Qi / Ti ) ≦ 0 )を用いて定義している。エントロピーの次元は,エネルギーを温度で割った次元(単位:ジュール毎ケルビン)をもち,記号 S を用いて表される。
 混合エントロピー( entropy of mixing :化学辞典)
 2種類以上の純物質が混合するときのエントロピー変化。気体どうし,液体どうし,固体どうしがそれぞれ理想気体混合物,理想溶液,理想固溶体をつくるときの混合エントロピーは,
    ΔS = - Σ niR ln xi
であり,ここで,ni と xi はそれぞれ混合物成分 i の物質量およびモル分率,Rは気体定数である。モル分率 xi はつねに 1 より小さいから,ΔS はつねに正,すなわち,混合によりエントロピーは増加する。これは混合による無秩序性の増加に対応する。
 【参考書】
 熱力学的扱いの詳細は,篠田耕三 著「溶液と溶解度」(丸善),原田義也 著「化学熱力学」(裳華房),香山滉一郎 著「化学熱力学」(アグネ技術センター)などが参考となる。

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 無熱溶液とは

 溶液( solution )は,JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」で“ 2種類以上の物質から成る均一の液相。”と定義している。
 一般的な溶液は,大多数を占める液体(溶媒; solvent )に溶解した少量成分の物質(溶質; solute )で構成される。
 このため,溶液は,溶媒の特性,溶媒と溶質の関係,溶質の量などによる熱力学的扱いの違いにより,理想溶液実在溶液( real solution )に分けられる。実在溶液は,さらに無熱溶液,正則溶液,電解質溶液などに分類される。

 無熱溶液( athermal solution )
 前述の理想溶液と次に紹介する正則溶液との中間に当たるもので,溶液を構成する分子の大きさが異なるが,相互作用が非常に似ており,混合熱がゼロとなる溶液をいう。
 無熱溶液は,溶質の混合で混合熱がゼロ,すなわちエンタルピー変化は無い(ΔH=0 )が,混合エントロピー変化(ΔS )が理想溶液と異なるのが特徴である。
 1,2-ジブロモエタン(臭化エチレン; C2H4Br2 )と 3-ブロモ-1-プロペン(臭化アリル,臭化プロピレン; C3H5Br )の溶液は,無熱溶液の例として知られている。

 熱力学的取扱いの詳細は前出の【参考書】に譲り,ここでは概要を紹介する。無熱溶液では,混合による熱の出入りが無いので,各成分のエンタルピー変化が無い(ΔmixH = 0 )。 従って,混合によるギブスの自由エネルギー変化ΔmixGは,次式で表される。
      ΔmixG = ΔmixH - TΔmixS = - TΔmixS
 しかし,無熱溶液では,溶液を構成する分子の大きさが異なるなるため,各成分の自由体積は異なる( V1f ≠ V2f。ここで成分 1 ( n1 mol )と成分 2 ( n2 mol )を混合したとき,エントロピー変化(ΔmixS )は,
      ΔmixS = n1 R ln{(n1 V1f + n2 V2f )/ n1 V1f }+ n2 R ln{(n1 V1f + n2 V2f )/ n2 V2f } = -R[ n1 ln{ n1 V1f /(n1 V1f + n2 V2f )}+ n2 ln{ n2 V2f /(n1 V1f + n2 V2f )}]
で表せる。なお,R は気体定数( gas constant )である。

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 正則溶液とは

 溶液( solution )は,JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」で“ 2種類以上の物質から成る均一の液相。”と定義している。
 一般的な溶液は,大多数を占める液体(溶媒; solvent )に溶解した少量成分の物質(溶質; solute )で構成される。
 このため,溶液は,溶媒の特性,溶媒と溶質の関係,溶質の量などによる熱力学的扱いの違いにより,理想溶液実在溶液( real solution )に分けられる。実在溶液は,さらに無熱溶液,正則溶液,電解質溶液などに分類される。

 正則溶液( regular solution )
 理想溶液無熱溶液と異なり,溶質の混合による混合熱(溶解熱)を必要とするが,各分子の分子間力の差異に打ち勝つだけの熱エネルギーを持つ溶液,すなわち,一定温度以上の溶液では,完全にランダムに混じり合っていると仮定でき,混合エントロピーの変化(ΔS )理想溶液の場合と同じである溶液である。
 このように,室温付近で正則溶液として扱える溶液は,溶質と溶媒との間の凝集力がファンデルワールス力(厳密にはロンドン分散力)のみの場合の溶液である。
 表現を変えると,室温程度の熱エネルギーでは,打ち勝つことのできない静電相互作用(イオン結合),会合(水素結合),双極子相互作用(分極等の特異な分子間相互作用を受けない溶液である。

 熱力学的取扱いの詳細は下記の【参考書】に譲り,ここでは概要を紹介する。正則溶液では,混合による熱の出入りがあり,混合のエンタルピー変化(ΔmixH ≠ 0 )の項を持つ混合のギブスの自由エネルギー変化ΔmixGは次式になる。
      ΔmixGΔmixH - TΔmixS
 正則溶液では,完全にランダムな混合と仮定しているので,混合のエントロピー変化(ΔmixS )は,理想溶液と同様に,それぞれの成分のモル分率{χ1 = n1/(n1+n2)}を用いて表せるので,ギブスの自由エネルギー変化は,
      ΔmixG = ΔmixH + RT( n1 lnχ1 + n2 lnχ2 )
となる。なお,R は気体定数( gas constant )である。

 この式は,混合のエンタルピー変化混合のギブスの自由エネルギー変化に寄与することを表す。
 式から,温度,溶質の濃度が一定であれば,混合のエントロピーの項は変わらないので,溶液の安定性は,溶解熱(内部エネルギーの変化),すなわち溶媒種の溶質分子との分子間相互作用の強さの差によることが分かる。

 【参考】
 ロンドン分散力( London dispersion force )
 分子や原子などに生じる一時的な電気双極子間の引力によって生じる弱い分子間力をロンドン分散力という。ファンデルワールス力も狭義にはロンドン分散力である。
 ファンデルワールス力( Van der Waals force )
 互いに近づいた原子,分子,及びイオン間に働き,その力は粒子間の距離の 6 乗( 7 乗とする文献も)に反比例する。従って,力の作用する距離は限られた範囲となる。
 水素結合( hydrogen bond )
 分子間に水素を介して働く力を水素結合という。
 第 2 周期の元素(炭素,窒素,フッ素)の水素化物は,分子量が小さいにもかかわらず,同族元素の第 3 周期の元素より異常に高い沸点,融点を有する。このことは,これらの分子にファンデルワールス力以外の強い分子間力(水素結合)が働いていることを示す。
 分極( polarization )
 電極系において,電流が流れていない状態の電位から電流を流すように電極電位をずらす操作,又は電流を流すことによって電極電位がずれる現象( JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」)。
 なお,分極という場合には,電荷の分極(誘電分極,又は電気分極という),磁極の分極(磁気分極),化学結合の分極,電気化学的分極などがある。
 誘電分極( dielectric polarization )
 JIS C 5600「電子技術基本用語」で“電気的な分極で,電気分極ともいう。特に誘電体(絶縁体)の分極によって生じた単位体積当たりの双極子モーメント P を指すことが多く,電界を E ,電束密度を D とすると,次の式で表す。P = D -ε0E ”と定義している。
 誘電分極の度合いを示す双極子モーメント P (単位 C・m-2 )は, P = D –ε0E と定義される。ここで,D は電束密度,ε0 は真空の誘電率( 8.854×10-12 A2·s2·N-1·m-2 )である。すなわち,誘電分極は,電束密度の真空からのずれを表している。

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 電解質溶液とは

 溶液( solution )は,JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」で“ 2種類以上の物質から成る均一の液相。”と定義している。
 一般的な溶液は,大多数を占める液体(溶媒; solvent )に溶解した少量成分の物質(溶質; solute )で構成される。
 このため,溶液は,溶媒の特性,溶媒と溶質の関係,溶質の量などによる熱力学的扱いの違いにより,理想溶液実在溶液( real solution )に分けられる。実在溶液は,さらに無熱溶液,正則溶液,電解質溶液などに分類される。


 電解質溶液( electrolyte solution )
 電解質( electrolyte )が解離して,イオンとして誘電率の大きい溶媒に溶解した溶液でる。
 電解質とは,例えば,JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」では,“水などの溶媒に溶けてイオン化し,その溶液が電気伝導性をもち,電流を通すと電気分解現象を起こす物質。”と定義している。
 電解質は,物質がイオンで構成されるイオン性物質( ionic substance )と電荷を持たない中性の分子で構成される分子性物質( molecular substance )に分けられる。
 イオン性物質には,塩化ナトリウムなどのアレニウス酸由来の陰イオンとアレニウス塩基由来の陽イオンの化合物(酸塩基反応)である,他にアルカリ金属やアルカリ土類金属の陽イオンと水酸化物イオン( OH)の化合物であるアレニウス塩基(アルカリ)もイオン性物質である。
 分子性物質の電解質には,水などの極性溶媒中で解離してイオンを生成するアレニウス酸がある。
 電解質は,溶媒中で全てが解離することが無く,与えられた条件(温度,濃度など)で一定の割合で解離する。解離の状態は,電解質総数に対する電離したイオンの数との比である電離度 α( degree of electrolytic dissociation ; 0~1 の数値)で表される。電離度の大きい( 1に近い)ものを強電解質( strong electrolyte ),小さい( 0に近い)ものを弱電解質( weak electrolyte )という。
 例えば,酸・塩基では,塩酸,硝酸,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどの水中でほぼ完全に解離しイオンを生成する強電解質(いわゆる強酸,強塩基),酢酸やアンモニアのような溶解した成分の一部が解離しイオンと中性分子が共存する弱電解質(いわゆる弱酸,弱塩基)に分けられる。
 
 JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」では,電解質溶液を“電気伝導性をもつ溶液。イオン性物質を水などの極性溶媒に溶解して調製する。”と定義しているように,一般的には,イオン性物質(塩)を極性溶媒に溶解した溶液と理解されている。
 イオン性物質(塩)は,解離することで,正と負の電荷を持つイオンを生じる。このため正・負のイオン間に強い静電相互作用が働くので,正と負のイオンを安定的に分散するためには,静電相互作用を相対的に弱める必要がある。
 水などの溶媒分子が分極する極性溶媒では,解離したイオンの周りを溶媒分子で取り囲む(溶媒和( solvation ))ことができ,正と負のイオンの間隔を広げ,イオン間の静電相互作用の力を相対的に弱めることができる。 従って,イオン性物質(塩)が解離して溶解できるのは,高い極性を持つ溶媒のみで,石油系溶剤などの無極性や弱い極性の溶媒はイオン性物質を溶解することができない。
 一般的には,イオン性物質(塩)が一定量の溶媒に溶ける限界の量(飽和溶液の濃度)である溶解度( solubility )は,電解質を強く解離させることができる極性が強く比誘電率の高い溶媒ほど大きくなる。
 
 【参考】
 誘電率( permittivity )
 電媒定数ともいい,誘電体の誘電分極が生じる程度を表す物質定数,すなわち,外部から電場を与えたとき,物質内の原子や分子の応答の程度を表す。
 電束密度 D と電場の強さ E との関係 D = εE を与えるε(電束密度と電場の強さとの比)をいう。
 しかし,一般に誘電率といった場合は,誘電体の誘電率を真空の誘電率( 8.854×10-12 A2·s2·N-1·m-2 )でわった比誘電率(relative permittivity)を指すことが多い。
 イオン( ion )
 原子,又は分子が 1 個,又は数個の電子を授受することで電荷を持つ物質を指す。
 最外殻の軌道電子を放出することで,単原子,又は原子団(複数の原子が結合)は正の電荷を持つ陽イオンになる。
 最外殻の電子軌道に電子を受け取ることで,単原子,又は原子団は負の電荷を持つ陰イオンになる。
 溶媒和( solvation )
 溶質分子や電離して生じたイオンが,静電気力や水素結合などの作用で,溶媒分子に取り囲まれ,相互作用しながら拡散する現象である。溶媒が水の場合には,特に水和という。

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 溶媒・溶質

 溶液( solution )は,JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」で“ 2種類以上の物質から成る均一の液相。”と定義している。
 一般的な溶液は,液体(溶媒; solvent )に溶解した物質(溶質; solute )で構成される。

 溶媒( solvent )
 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」では,“溶液において物質を溶解させるために用いる液体。”と定義している。すなわち,物質(固体,液体,気体)を均一に溶かす液体の呼称である。
 溶媒には,目的物質を良く溶かす(溶解度が高い)こと,化学的に安定で溶質と化学反応しないことが求められる。
 工業分野では,溶媒より広い意味合いを持たせ,溶剤( solvent )とも呼ばれる。溶剤と称した場合には,単一物質の液体を用いた本来の溶媒の他に,対象物質の溶解性や分散性改善目的に,複数の溶媒を混合した液体を含む。複数の溶媒の混合であることを強調する場合には,混合溶剤( mixed solvent )と称している。

 溶媒は,用いる液体の分子中の電子の偏りに基づく双極子の有無により極性溶媒(親水性)と無極性溶媒(低極性,疎水性)とに大別される。極性溶媒は,さらにプロトン性溶媒( protic solvent )と非プロトン性溶媒( aprotic solvent )とに分類される。
 主な溶媒
 無(低)極性溶媒
 電子の偏りが無い分子,又は分子の対称性により,正の荷電の重心と負の荷電の重心が一致する分子の液体である。極性の低い有機化合物の溶解に用いられる。
 実用される主な無極性溶媒には,沸点の低い順に,ジエチルエーテル( (C2H5)2O ; 35℃),トリクロロメタン(クロロホルム, CHCl3 ; 61℃),ヘキサン( C6H14 ; 69℃),ベンゼン( C6H6 ; 80℃),トルエン( C6H5CH3 ; 111℃),キシレン( C6H4(CH3)2 ; 139℃)などが挙げられる。
 極性溶媒(プロトン性)
 プロトン性溶媒とは,プロトン( H )を容易に供与する特性を持つ極性溶媒である。高い誘電率及び高い極性を有し,溶媒は水素結合を示し,極性を有する化合物やの溶解などに用いられる。
 実用される主な溶媒には,沸点の低い順に,メタノール( CH3OH ; 65℃),エタノール( C2H5OH ; 79℃),プロパノール( C3H7OH ; 82℃),水( H2O ; 100℃),ギ酸( CH3OOH ; 101℃),酢酸( C2H5OOH ; 118℃)など溶媒分子間で水素結合を形成している溶媒が挙げられる。
 極性溶媒(非プロトン性)
 非プロトン性溶媒とは,プロトン( H )を供与する特性を持たず,一般的には,中間的な誘電率及び極性を持つ溶媒である。極性有する化合物やある種のの溶解などに用いられる。
 実用される主な溶媒には,沸点の低い順に,ジクロロメタン(塩化メチレン( CH2Cl2 ; 40℃),アセトン( CH3COCH3 ; 56℃),テトラヒドロフラン( 環状エーテル化合物, C4H8O ; 66℃),酢酸エチル( CH3CO2CH2CH3 ; 77℃),アセトニトリル( C2H3N ; 82℃)などが挙げられる。

 溶質( solute )
 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」では,“溶液における溶媒以外の化学種。”と定義している。すなわち,溶媒に溶かされた成分を溶質という。溶質は,固体,液体,気体のいずれでもよい。
 溶媒と溶質の関係は,量の多少とは関係ない。例えば,20℃で水 100 g に対し,砂糖(ショ糖)は 200 g 以上溶解するが,この溶液は,水を溶媒とする“砂糖水,あるいは砂糖の水溶液”として扱われる。
 なお,溶質が液体の場合は,注目する物質により溶媒と溶質の関係が決まる。例えば,エタノールに対する水の溶解では水が溶質となり,水に対するエタノールの溶解ではエタノールが溶質になる。

 溶媒への溶解性は,経験則として似た者同士の相性が良い」と言い表せられるように,【双極子とは】で紹介した分子の極性を考慮して,無極性分子は無極性溶媒に,極性分子は極性溶媒に溶け易いと考えて大きな問題はない。

 【参考】
 双極子( dipole )
 分子内に生じた電子の偏りを原因として発生する電荷のひずみである。すなわち,分子構造の中で,正の電荷の重心と負の電荷の重心が一致しない電荷の配置を双極子という。

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