第四部:無機化学の基礎 非金属元素
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ここでは,非金属元素の代表的な硫黄化合物として, 【硫黄について】, 【硫化物とは】, 【非金属元素の硫化物】, 【金属元素の硫化物】 に項目を分けて紹介する。
硫黄について
硫黄( sulfur )
周期表 16族第 3周期の記号 S ,原子番号 16 ,原子量 32.07 の元素である。
硫黄単体の沸点は,444.6 ℃であるが,融点や固体の密度は,多くの同素体や結晶多形が存在し,それぞれで異なる。
硫黄は数多くの同素体を形成することで知られている。天然には,S2 , S4 , S6 , S7 ,S8 などが知られている。また,人為的に合成され環状の同素体として S6 , S7 , S9 , S10 , S11 , S12 , S18 , S20 等が確認されている。
天然で一般的に見られる同素体は,環状の S8 硫黄である。これには,複数の結晶形が存在する。例えば,α硫黄は,融点 112.8 ℃,比重 2.07 の淡黄色の斜方晶,β硫黄は,融点 119.6 ℃,比重 1.96 の淡黄色の単斜晶,γ硫黄は,融点 106.8 ℃,比重 1.955 の淡黄色の針状の単斜晶である。結晶構造については,固体の形と結晶構造で紹介している。
α硫黄は,95.5 ℃以下で安定な構造で,これを徐々に加熱すると,95.5℃以上で安定なβ硫黄を経て119℃で融解し液状の黄色いλ硫黄となる。さらに加熱すると 160 ℃以上で褐色のμ硫黄となる。
150 ℃以上で融解した硫黄をゆっくりと冷却すると真珠硫黄と呼ばれるγ硫黄が得られる。
【参考】
単体( simple substance,simplex )
単一の元素だけからできている物質。化合物に対する用語。
同素体( allotrope )
同一元素の原子からつくられるが,原子の配列(結晶構造)が異なる単体,分子の結合様式が異なる物質同士の関係をいう。同素体は同じ元素から構成される単体であるが,それぞれの化学的・物理的性質が異なる。
例えば,結合様式の異なる酸素( O2 )とオゾン( O3 )の関係,炭素( C )の配列(結晶構造)が異なる石墨(黒鉛,グラファイト)とダイヤモンドの関係,リン( P )の結晶構造の異なる黄りん,赤リン,紫リンなどの関係,環状の硫黄( S8 )の結晶構造の異なるα硫黄(斜方硫黄),β硫黄(単斜硫黄)とγ硫黄(単斜硫黄)の関係を同素体という。
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硫化物とは
硫化物( sulfide )
各種辞書・辞典類の解説には,
“硫黄とそれよりも陽性(電気陰性度の低い)の元素との化合物の総称。”
“硫黄化合物のうち硫黄原子が最低酸化数である -2 を持つものの総称。”
とある。
硫酸( H2SO4 )や二酸化硫黄( SO2 )などは,硫黄の電気陰性度 2.5 より電気陰性度の高い酸素( 3.5 ),すなわち陰性の元素との化合物であること,さらに硫黄の酸化数が硫酸で +6 ,二酸化硫黄で +4 であることから硫化物とは言えないことになる。
一般的には,硫化水素( H2S )の H を他の原子に置換した構造を持つ化合物が硫化物に相当する。
硫化水素や二硫化炭素( CS2 )など非金属元素との硫化物は,共有結合性の分子を形成する物が多い。硫化ナトリウム( Na2S )や硫化銅( CuS )などの金属元素との硫化物は,2 価の硫黄陰イオン(硫化物イオン)とイオン結合性の化合物(塩)の形をとる化合物が多い。
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非金属元素の硫化物
非金属元素の硫化物には,例えば,気体の硫化水素( H2S ),液体の二硫化炭素( CS2 ),固体の二硫化ケイ素( SiS2 ),硫化窒素( N4S4 , N2S4 ),硫化リン( P4S3 , P2S5 , P4S7 ),硫化ヒ素( As2S2 , As2S5 )などがある。
広義には,複数の硫黄原子が直接結合した二硫化物( S2 )多硫化物( S8 など)も含める。
有機化合物でも C – S – C や H – S – C の構造をもつ化合物を硫化メチル,硫化アリルなど硫化○○で呼ばれることもあるが,日本語では無機化合物を硫化物,有機化合物をスルフィドと呼称を区分している。
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金属元素の硫化物
金属元素の硫化物は,金属と硫黄の直接反応や金属の酸化物・水酸化物と硫化水素や硫黄との反応で得られる。また,金属塩水溶液に硫化水素を通すことでも得ることができる。
硫黄の水素酸すなわち硫化水素( H2S )は二塩基酸なので,金属の硫化物には酸性塩( MHS )と正塩( M2S )とがある。酸性塩は水に溶けるが,正塩はアルカリ金属元素の化合物以外は水に対し難溶(不溶)である。
水酸化アルカリ( NaOH や KOH )などの強塩基性水溶液に硫化水素( H2S )を加えると,硫化物イオン( S2- )が発生し硫化ナトリウム( Na2S )や硫化カリウム( K2S )などの塩を形成する。
しかし硫化物イオンは非常に塩基性が強く,pH 14 以下の通常の水溶液中では加水分解し,硫化水素イオン( HS- )となる。
アルカリ金属元素の硫化物を溶解した水溶液が pH 7 以下では,硫化水素( H2S )が発生する。
このように,アルカリ金属元素の硫化物を水に溶解した場合に,水溶液の最終的な pH によって生成する化学種が異なる。
遷移金属元素の塩を含む水溶液は,H2S , NaSH , Na2S などの硫化物と反応して固体の塩として沈殿する。遷移金属元素の硫化物はすべて難溶で,特有の色があり,半導体としての性質をもつものもある。
例えば,黄色の無機顔料(カドミウムイエロー)として用いられた硫化カドミウム( CdS )は半導体の性質を利用した光センサーとして用いられ,放射線の検出用のシンチレータに硫化亜鉛( ZnS )が用いられている。
遷移金属元素の硫化物には,天然に存在する物(硫化鉱物といわれる)も多い。例えば,鉄の硫化鉱物として黄鉄鉱( Fe2S )と結晶構造の異なる白鉄鋼( Fe2S ),磁硫鉄鉱( Fe1-XS )が,銅と鉄の硫化鉱物として黄銅鉱( CuFeS2 )が,モリブデンの硫化鉱物として輝水鉛鉱( MoS2 )が,亜鉛の硫化鉱物として閃(せん)亜鉛鉱( ZnS )が,鉛の硫化鉱物として方鉛鉱( PbS )が,水銀の硫化鉱物として辰砂(しんしゃ)( HgS )などが重要な鉱物資源として知られている。
遷移金属元素の硫化物を空気中で強熱すると酸化され,硫酸塩や酸化物になる。また,多くの硫化物は酸で分解され硫化水素( H2S )を発生する。
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