化 学 (無機化学)

  ☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒
 
 ここでは,元素分析目的で実施される機器分析として発光分光分析に関連して,【発光分光分析とは】【発光分光分析の原理】【装置の構成と分析方法】【関連用語】に項目を分けて紹介する。

 【発光分光分析とは】

 元素の定性・定量分析が可能な多数の機器分析法がある。表面分析を除き,元素(イオン)の直接的な定量分析が可能な JIS 規格の一つとして JIS K 0116 「発光分光分析通則: General rules for atomic emission spectrometry 」がある。
 この他には JIS K 0121 「原子吸光分析通則」,JIS K 0133 「高周波プラズマ質量分析通則」,JIS K 0119 「蛍光 X 線分析方法通則」,JIS K 0127 「イオンクロマトグラフィー通則」などがある。
 
 発光分光分析(atomic emission spectrometry)とは,試料に含まれる対象元素を高周波プラズマ,スパーク放電,グロー放電,レーザなどによって気化励起し,得られる原子スペクトル線を分光器又は分光光度計で観測する定性・定量分析の総称である。
 高周波プラズマ( high frequency plasma )には,方式により,ラジオ波領域の高周波電力を誘導結合させて発生する誘導結合プラズマ( ICP ),マイクロ波領域の高周波電力によって誘導されて発生するマイクロ波誘導プラズマ( MIP )がある。一般的な発光分光分析では,ICP を用いた装置が多く用いられる。
 一般的に,単に発光分光分析法という場合は,古くから鉄鋼分析や固体の表面分析などで用いられてきたスパーク放電を励起源とする方法を意味する場合が多いので,誘導結合プラズマを用いた方法を意味する場合は,ICP 発光分光分析と称するのがよい。
 
 JIS K 0116 「発光分光分析通則」では,ICP 発光分光分析とスパーク放電発光分光分析が規定されている。

 

 【発光分光分析の原理】

 原子吸光分析で紹介したように,励起した原子は緩和過程で発光する。この発光スペクトル(輝線スペクトル)を測定することで,元素の定性と定量分析が可能となる。
 なお,高温のガスなど物体の出す熱放射光は連続スペクトルとなるが,励起した原子の緩和で発せられる光は,元素固有の波長を持ち,波長の幅が極めて狭い輝線スペクトルとなる。
 
 炎色反応とは異なり,発光分光では,大きなエネルギーを与えて,より高い励起状態から低いエネルギー状態への遷移で発生する輝線スペクトルを利用するため,ほとんどの元素( 72 元素の定性,定量分析が可能になる。
 より高いエネルギー状態の実現には,概ね1万℃に達するスパーク放電や高周波プラズマが利用される。
 
 ICP の原理は,プラズマトーチの周囲に巻き付けた高周波誘導コイルに 27.12 MHz(もしくは 40.68 MHz)の高周波電流を流すことで,コイル周辺に高周波磁界を作る。
 アルゴンガスを流した状態で放電すると,生成した電子やアルゴンイオンが電界により加速され,高速で電界内を移動する。高速電子とアルゴンガスとの衝突による電離で,電子密度が急激に増加しトーチの開放端で瞬時にプラズマが発生する。
 アルゴンガスの電離による電子やイオンの生成と消滅がつりあった状態(平衡状態)でプラズマが維持される。安定運転時には,コイルに 0.6 ~ 1.4 kW 程度の電力が流れ,プラズマの温度が約 10,000 K に到達する。

 ICP 発光分光分析装置の原理・プラズマトーチ

ICP 発光分光分析装置の原理・プラズマトーチ
元図出典:(般社)日本分析機器工業会ICP発光分光分析装置の原理と応用

  ページの先頭へ

 【装置の構成と分析方法】

 ICP 発光分光分析装置は,励起源部,試料導入部,発光部,分光測光部,データ処理部,制御部から構成される。
 励起源部は,発光部を維持するための電源回路,制御回路である。
 発光部は,トーチと誘導コイルからなるプラズトーチの発生部である。
 試料導入部は,発光部に試料を霧状(微細な液滴)にして導入するための部分で,ネブライザー(nebulizer)やスプレーチャンバーなどの器具で構成される。
 分光測光部は,発光部から放射された光の集光系,スペクトル線を分離する分光部,光の強度を計測する検出器で構成される。分光器( Spectrometer )には,複数あるスペクトル線を順次計測するシーケンシャル形分光器(ツェルニ・ターナー形分光器),複数のスペクトル線を同時に計測できるパッシェン・ルンゲ形分光器,エシェル形分光器などがある。検出器は,入射光の強度を計測するのもで,光電子増倍管や半導体検出器が用いられる。
 
 試料溶液の調製
 代表的な材料について,試料溶液調整法を紹介する。
 金属試料は,一般に塩酸,硝酸又はこれらの混酸で溶液化する。
 セラミックス試料は,一般に酸分解法又はアルカリ融解法を用いて分解し溶液化する。
 生体試料,医薬品,食品,農作物などは,一般に硝酸を用いて酸分解する。
 河川水,地下水などの水試料は,分析対象外の懸濁物質などを孔径 0.45 μm のフィルタを用いてろ過した後に,硝酸を加えて pH 1 以下にして保存する。
 岩石,鉱物などの地質学的試料の全量を定量分析する場合には,ふっ化水素酸,及び硝酸を用いた酸分解によって溶解する。
 
 定量分析
 分析に用いるスペクトル線は,各元素の発光線の中から,目的とする定量範囲に適する発光強度を与える発光線を選択する。共存成分による各種の干渉(妨害)がある場合には,干渉のない発光線を選択する。
 対象元素の濃度は,一定時間の積分によって得られた発光強度を用いて,検量線法(発光強度法,強度比法(内標準法),標準添加法)を用いて求める。
 具体的な方法は,「検量線を用いた定量」で紹介した方法と基本的に同じである。
 一例を示すと,発光強度法とは,測定対象の元素の標準物質を用い,濃度が異なる 4 種類以上の検量線作成用溶液を調製し,この検量線作成用溶液の発光強度と濃度との関係線(検量線)を用いて,試料の発光強度に対応する濃度を求める方法である。
 測定対象元素の定量値は,質量分率( mg /kg など),又は質量濃度( mg /L など)などの適切と考えられる単位を用いて表示される。

  ページの先頭へ

 【関連用語】

 シーケンシャル形分光器( sequential scanning spectrometer )
 入射光を分光し,1 本のスペクトル線の強度,又は一連のスペクトル線の強度を順次測定する装置。
 同時測定形分光器( simultaneous spectrometer )
 入射光を分光し,複数のスペクトル線の強度を同時に測定する装置。
 空試験溶液( blank solution )
 測定対象元素又は干渉元素の分析室環境,器具類及び試薬類からの汚染の有無を調べるため,分析操作に使用するガラスなどの器具類及び装置との接触,並びに溶媒,試薬及び内標準元素の添加を含めて,試料と全く同様に処理された水,又は他の成分が試料と同一で測定対象元素を含まない溶液。操作ブランクともいう。
 検出下限( detection limit )
 試料中に存在する測定対象元素の検出可能な最低の濃度(量)。バックグラウンド強度の標準偏差の 3 倍の信号を与える濃度とする。検出限界ともいう。
 装置検出下限,ILOD( instrument limit of detection )
 検量線用ブランク溶液を連続 10 回測定したときに得られる信号の標準偏差の 3 倍の信号を与える濃度。装置検出限界ともいう。
 方法定量下限,MLOQ( method limit of quantification )
 空試験溶液を連続 10 回測定したときに得られる信号の標準偏差の 14.1 倍の信号を与える濃度。
 スパーク放電(spark discharge)
 点火回路によって約 10 kV 程度の高電圧を対電極と試料電極との間に印加して絶縁破壊を生じさせることによって,主放電回路のコンデンサに蓄えられた電荷を電極間に瞬時に流して起こす放電。この瞬間的な放電のピーク電流は,数十から 200 A(アンペア)に達し,これによって試料が励起発光する。
 時間分解測光法( time resolved photometric method )
 放電パルスごとに,かつ,時間分解したときに得られる光電電流を積分し,その個々の積分値を統計処理し解析して濃度を求める方法。

  ページの先頭へ