第四部:無機化学の基礎 金属元素(遷移元素)
☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒
ここでは,遷移元素周期表 9族の金属元素について, 【周期表 9族について】,【コバルト】,【ロジウム】,【イリジウム】,【マイトネリウム】に項目を分けて紹介する。
周期表 9族について
周期表 9族に分類される元素,コバルト( Co ),ロジウム( Rh ),イリジウム( Ir ),マイトネリウム( Mt )の概要を紹介する。
なお,実用材料などに利用される主な元素を太字で示した。また,コバルト,ロジウムは,レアメタルに分類される元素である。
さらに,コバルトは,鉄族元素(鉄 Fe ,コバルト Co ,ニッケル Ni )に,ロジウムとイリジウムは,白金族元素(白金 Pt ,パラジウム Pd ,ロジウム Rh ,ルテニウム Ru ,イリジウム Ir ,オスミウム Os )としても分類される。
次表には,これらの中から実用に供され元素の基礎物性を紹介する。比較のため,身近な金属単体として,アルミニウム,鉄の値も併記する。
なお,ポーリングの電気陰性度,イオン化エネルギーは別途紹介している。なお,これらの値は,算出に用いる解離エネルギー値や結合エネルギー値の改訂で変わるので,紹介した値は最新値ではなく,引用文献での値である。
【参考】
レアメタル( rare metal )
希少金属ともいわれ,以下の ①~④ のどれか一項目を満たし,かつ ⑤ の条件にあてはまるものをいう。
① 存在する量が少ない
② 鉱床を作らず,広く薄く分布している
③ 鉱床を作っても,特定の国や地域に限定されている
④ 鉱物からの取り出し,精製が難しい
⑤ 現代の産業に欠かせない素材である
レアメタル以外の金属はコモンメタル( common metal :汎用金属)という。チタン( Ti )のように,④と⑤でレアメタルに分類される元素は,精錬技術の向上などによりレアメタルからコモンメタルに変更される可能性がある。
元素記号 | Co | Rh | Ir | Al | Fe |
---|---|---|---|---|---|
原子番号 | 27 | 45 | 77 | 13 | 26 |
原子量 | 58.93 | 102.91 | 192.217 | 26.98 | 55.85 |
融点(℃) | 1495 | 1964 | 2466 | 660.3 | 1538 |
密度(×106 gm-3) | 8.90 | 12.41 | 22.56 | 2.70 | 7.87 |
結晶構造 | hcp | fcc | fcc | fcc | bcc |
格子定数(×10-10 m) | 2.507 , 4.069 | 3.803 | 3.839 | 4.0496 | 2.867 |
モース硬度 | 5.0 | 6.0 | 6.5 | 2.8 | 4.0 |
電気抵抗(×10-8 Ωm:20℃) | 6.24 | 4.33 | 4.71 | 2.82 | 9.61 |
熱伝導率( W m-1K-1:300K) | 100 | 150 | 147 | 237 | 80.4 |
備考: hcp (六方最密充填,ちよう密六方),fcc (立方最密充填,面心立方格子),bcc (体心立方格子)
ページの先頭へ
コバルト( Co )
天然には,コバルトを多く含む鉱物が多数ある。主要鉱物として,リンネ鉱( Co3S4 ),輝コバルト鉱( CoAsS ),サフロ鉱( (Co,Fe)As2 ),ヘテロゲナイト( CoO(OH) )などがある。他には,硫化鉱物のジャイプライト,カティエライト,ジーゲン鉱,カロール鉱,コバルトペントランド鉱,グローコドート鉱,砒化鉱物の方砒コバルト鉱,モデライト,ランギサイト,酸化鉱物のコバルト華などがある。
コバルト鉱物の冶金が困難なこともあり,コバルトの採取を目的に採掘している鉱山は無い。鉱業的には,銅採取を目的として採掘される中央アフリカの銅鉱層(赤銅鉱,孔雀石,藍銅鉱,自然銅などを含む)に含有するコバルトが利用されている。
コバルト単体は,常温・常圧で六方最密充填構造( hcp )が安定で,449℃以上で面心立方構造( fcc )に転移するレアメタルにも分類される金属である。
反応性
中性の水や常温の空気中では,酸素,水と反応し,表面が水酸化物( Co(OH)2 )で覆われ不動態化し,その後の酸化還元反応が抑制される。
希硝酸には溶けるが,酸化性のない酸(例えば塩酸,希硫酸など)には,鉄より耐性が高い。濃硝酸に対しては,不動態被膜の形成で酸化反応が抑制される。
用途例
金属素材としての用途
コバルト単体の用途はほとんどなく,特殊鋼(超硬合金,超高速度工具鋼,耐熱耐摩耐蝕鋼,高速度鋼,など)の合金成分として広範囲で利用されている。
コバルト合金:最多成分のコバルトとニッケル,クロム,モリブデンなどとの合金で,高温雰囲気での強度,耐浸炭性,耐酸化特性に優れ,ジェットエンジンコンポーネント,アフターバーナー部に使用されている。
コバルト・クロム合金:最多成分のコバルトとクロム,モリブデンの合金で,腐食しにくいため入れ歯用金属,歯科医療や外科手術などで使われている。
超硬合金:タングステンカーバイト( WC )の結合剤としてコバルトが用いられる。耐摩耗性が要求される切削工具(超硬切削工具),金型などに利用されている。
ニッケル合金:最多成分のニッケルとクロム,モリブデン,コバルトなどとの合金で,高温での強度,耐酸性,耐食性を持ち,熱安定性,成形性,耐応力腐食割れにも優れ,多くの工業分野で用いられるいる。
サマリウムコバルト磁石:組成比 Sm2Co17 の磁石で,サマリウム磁石に次ぐ磁力で,温度特性が良く,使用可能温度が 350℃程度のため高温環境で使用されている。
化合物としての用途
主なコバルト化合物の用途を次に紹介する。
コバルト酸リチウム( LiCoO2 ):パソコン,携帯電話,デジタルカメラなどで用いられるリチウムイオン電池の正極に用いられている。
アルミン酸コバルト( CoAl2O4 ):コバルト青といわれる耐光性,耐薬品性の良い高級な青色無機顔料として,塗料,絵の具,プラスチックの着色顔料などに用いられている。
酸化コバルト( CoO ):ガラスの着色(青)に用いられる。他に,酸化コバルトと酸化亜鉛( ZnO ),酸化アルミニウム( Al2O3 )の混合物を 1200℃で焼成した海碧(かいへき)は,青色の釉薬として用いられる。
塩化コバルト(Ⅱ)( CoCl2 ):シリカゲルの吸湿指示薬,指温塗料,ガラスや陶器の着色に用いられる。
コバルト 60 :半減期 5.27年の放射性同位体は,医療用(ガン治療),工業用(非破壊検査)のガンマ線源として利用されている。
ページの先頭へ
ロジウム( Rh )
天然には,ロジウムを主成分とする鉱物( RhAsS など)も存在するが,この鉱物はまれで,他の白金族元素の鉱物中に少量成分として含まれていることが多い。
ロジウムは,常温・常圧で単純立方構造が安定な,白金族元素(白金 Pt,パラジウム Pd,ロジウム Rh,ルテニウム Ru,イリジウム Ir,オスミウム Os )の 1 つで,レアメタル,貴金属にも分類される金属である。
用途例
用途としては,自動車排ガス浄化を目的とする三元触媒(炭化水素,一酸化炭素,窒素酸化物を同時に処理する触媒)として,白金,パラジウム,ロジウムの粒子を保持した触媒装置に用いられる。
他に,坩堝(るつぼ)や熱電対(白金との合金)などにも利用される。
【参考】
貴金属( noble metal , precious metal )
貴金属という場合には,化学変化の起こしにくい金属としての貴金属( noble metal ),産出量が少なく高価な金属としての貴金属( precious metal )の意味がある。
ページの先頭へ
イリジウム( Ir )
天然には,自然イリジウム( Ir,Os,Ru ),自然オスミウム( Os,Ir,Ru ),自然ルテニウム( Ru,Ir,Os ),輝イリジウム鉱( IrAs2 )や白金族元素を含む鉱物に含まれる。
イリジウム単体は,常温・常圧で面心立方構造( fcc )が安定な白金族元素(白金 Pt,パラジウム Pd,ロジウム Rh,ルテニウム Ru,イリジウム Ir,オスミウム Os )の 1 つで展延性に乏しく,加工が難しい金属である。
反応性
イリジウム単体は,酸,塩基,常温の王水に溶解しない金属である。
用途例
キログラム原器,メートル原器の原材料(白金 90%,イリジウム 10%の合金)に使われている。
他に,点火プラグの電極,ペン先の材料として用いられている。
マイトネリウム( Mt )
マイトネリウムは,原子番号109,原子量 (278) の元素である。安定同位体は存在せず。半減期が大変短い(ミリ秒オーダー)複数の放射性同位体が確認されている。物理的・化学的性質が不明な人工金属元素である。
ドイツの重イオン科学研究所の加速器を使い人工的に作られた元素で,オーストリア人の物理学者リーゼ・マイトナーから元素名が付けられた。
ページの先頭へ