化 学 第四部:無機化学の基礎

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 ここでは,溶液の電気伝導率測定に関連し, 【電気伝導率とは】, 【溶液の電気伝導率】, 【溶液抵抗の測定装置】, 【容器(セル)定数の決定】, 【電気伝導率測定に関連する用語】 に項目を分けて紹介する。

  電気伝導率とは

 前項の【電気伝導率測定】で紹介した測定原理の適用例として,水質分析などで広く用いられる電解液の電気伝導率測定を紹介する。
 なお,電気伝導率( electric conductivity )は,JIS規格で規定する導電率( conductivity )の他に,一般的には比電導度( specific conductivity ),電気伝導度( conductance ),電導率( conductivity ),または単に伝導率( conductivity ),伝導度( conductivity )と称されることもあるので,意味は文脈から理解しなければならない。次には,JIS 規格での用語の定義を紹介する。
 
 JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」
 電気伝導度(溶液の)( conductance (of solution) )
 溶液の電気抵抗の逆数。 SI単位はジーメンス(S)
 電気伝導率( electric conductivity ),導電率(溶液の)( conductivity (of solution) )
 溶液がもつ抵抗率の逆数で,電極間距離を電極表面積と電気抵抗との積で除した値。 SI単位は Sm-1(ジーメンス毎メートル=Ω-1 m-1 )。
 注記 電気伝導率,電気伝導度及び測定セルのセル定数は,次の式で示す関係にある。
      L = J×LX
      ここに,L :測定試料の電気伝導率( S /m ),J :セル定数( m-1 ),LX :測定した電気伝導度( S )
 
 JIS K 0130 「電気伝導率測定方法通則」
 電気伝導度( conductance )
 電解質水溶液を満たした電極間の溶液の電気抵抗 ( R ) の逆数。
 注記 記号は G ,単位は S (ジーメンス)。
 電気伝導率( electrical conductivity, electric conductivity, electrolytic conductivity )
 面積 1 m2 の 2 個の平面電極が,距離 1 m で対向している容器に電解質水溶液を満たして測定した電気抵抗の逆数。
 注記 導電率ともいう。記号はκ(カッパ),単位は S /m であるが,電気伝導率の数値によって,mS /m,µS /m などを用いる。

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  溶液の電気伝導率

 これまでは,固体の電気伝導率は,物質の形状に依存しない物性値として,電気抵抗率 ρの逆数記号σ(シグマ)で表し,導体の電気抵抗 R ,表面積 A ,電極間の距離 d から次式を用いて求めることができるとしてきた。
      σ= 1 /ρ= R-1 ( d /A )
 
 溶液の電気伝導率は,後述するように,測定する容器(セル)の形状の影響を受けるため,用いる容器で決まる容器定数 J ( cell constant )を実験的に求め,得られた溶液抵抗 Rsoln から電気伝導率を次式から求めなければならない。
 このとき,溶液の電気伝導率には,記号κ(カッパ)単位 S m-1 (ジーメンス毎メートル)を用いるのが一般的である。
      κ = Rsoln-1 J
 
 溶液の電気伝導率κは,溶液中の電解質の濃度と種類(イオンの移動度)で変化する。このため,種々の溶液の電気伝導性の比較に不都合が生じる。
 そこで,溶液間の比較では,モル濃度当りの伝導率,すなわちモル伝導率Λ(ラムダ)を用いるのが一般的である。
 溶液のモル濃度を c ( mol m-3 ) とすると,モル伝導率Λ(単位: S m2 mol-1 )は,次式で定義される。
      Λ = κ /c
 一般にΛの値は,濃度の増加とともに減少する傾向があり,塩化カリウム( KCl )などの強電解質の希釈溶液では Λと c との関係が直線になる。これをコールラウシュ( Kohlrausch )の平方根則という。
 複数の濃度で計測し,濃度 c = 0 に補外したΛの値を無限希釈モル伝導率Λという。無限希釈状態では,強電解質でも弱電解質でも完全に解離している(解離度 a = 1 )とみなせる。
 例えば,電解質 AB の場合に,電解質のΛは,構成イオン( A+ ,B- )の無限希釈モル伝導率(λ+ ,λ- :小文字のラムダ)の和で表すことができる。
      Λ = λ+ + λ-
 これをコールラウシュのイオン独立移動の法則という。弱電解質のΛは,この法則を用いて間接的に求めることができる。
 
 【参考】
 電気抵抗率( electrical resistivity )
 抵抗率(resistivity)や比抵抗(specific electrical resistance)ともいわれ,物質・材料の電流の流れ難さを比較する時に用いられる材料固有の物性値で,上述の電気伝導率の逆数である。材料学の分野では,体積抵抗率(volume resistivity),体積固有抵抗という場合もある。
 物質の電気抵抗 R は,物質の電気抵抗率ρ,物質の長さ L ,断面積 Aのとき,ρ=RA/ L で表され,単位は,Ω・m が用いられる。
 なお,電気抵抗率は,温度,材料に含まれる不純物,塑性ひずみの有無などにより変わるので,材料設計も容易で,ひずみや応力のセンサにも利用される。
 
 JIS C 5600「電子技術基本用語」における定義
 電気伝導( electric conduction )
 物質に外部電界を印加することによって,電荷が移動して電流が流れる現象。 電荷を運ぶキャリヤの種類に応じて,電子伝導,正孔伝導又はイオン伝導という。
 コンダクタンス( conductance )
 物体の電流の流れやすさを表す量で,単位電圧を印加したときに流れる電流。
 I = GV( I:電流,V:電圧,G:コンダクタンス)で Gの単位は,S (= A/V )。
 導電率,(電気)伝導率,(電気)伝導度( conductivity )
 物質の電流の流れやすさを表す尺度で,単位電界を印加したときに流れる電流密度。
 抵抗( resistance )
 物体の電流の流れ難さを表す量で,コンダクタンスの逆数。 単位(Ω=1/S) 。
 抵抗率,比抵抗( resistivity,specific resistance )
 物体の電流の流れ難さを表す尺度で,導電率の逆数。 単位は(Ωm)。

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  溶液抵抗の測定装置

 溶液の電気伝導率は,数千 Hz (ヘルツ)までの比較的低い周波数の交流を用いて計測するのが一般的である。
 汎用で用いられる装置には,交流(市販の装置では周波数 1000 Hz 前後)を用いた 2 端子(電極)法を用いたホイーストンブリッジによる計測装置が多い。

溶液の電気伝導率測定用セル(交流 2 端子(電極)法)と等価回路

溶液の電気伝導率測定用セル(交流 2 端子(電極)法)と等価回路

 電極界面のインピーダンスの和が溶液抵抗( Rsoln )に比較し,著しく小さい場合には,交流 2 端子(電極)法でも十分な精度で溶液抵抗を求めることができる。しかし,電極界面のインピーダンスの寄与が無視できない場合には交流 4 端子(電極)法を用いるのが良い。
 交流 2 端子(電極)法を有効に適用するための条件は,
   1 )電極系の反応が十分に早い条件を用いる。
   2 )電極表面積が十分に大きい。
   3 )低い周波数で計測しない。
 条件 1 ),2 )を満足する電極として,水溶液系では十分に大きい白金黒をめっきした白金電極が用いられる。また,分極効果を小さくするためには,3 V 以下の低い電極間電圧を用いるのが望ましい。
 一般的な水溶液について,具体的な電気伝導率測定は,JIS K 0130 「電気伝導率測定方法通則」JIS K 0101 「工業用水試験方法」,25 ℃での電気伝導率 1mS m-1 以下の溶液の測定は,JIS K 0552 「超純水の電気伝導率試験方法」が参考になる。

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  容器(セル)定数の決定

 試料が金属などの固体の場合は,試料の寸法を精度よく調整でき,表面積 A ,電極間の距離 d と測定した電気抵抗 R を用いて,次式から電気伝導率σを求めることができる。
      σ= 1 /ρ= R-1 ( d /A )
 
 試料が液体の場合は,通常は上図に示したようなガラス製などの容器を用いて,試料の形状を限定することになる。固体の場合の d /A に相当する係数を基準となる溶液を用いて得たセル定数(容器定数) J を用いる。
 
 一般的なセル定数の求め方を,JIS K 0130 「電気伝導率測定方法通則」に規定される方法を紹介する。
 セル定数の測定は,試料を試験するごとに行う必要はないが,電極表面の経時変化の影響を排除するため,定期的に JISに規定する塩化カリウム標準液を用いて行う必要がある。
 セル定数は,JIS に規定する測定範囲に対応する塩化カリウム標準液で洗浄したセルを満たす。
 このセルを 25 ℃± 0.1 ℃に保ち,電気伝導度を測定する。同じ塩化カリウム標準液を入れ替えて測定を行い,測定値が± 3.0%で一致するまでこれを繰り返す。
 なお,塩化カリウム標準液の調製に用いた水の電気伝導率は,別に,セル定数既知のセルを用いて測定する。セル定数既知のセルがないときは,同じセルで塩化カリウム標準液と水との両者の電気伝導度を測定し,その差を塩化カリウムによる電気伝導度としてセル定数の算出に使う。
 測定された値から,次の式によってセル定数を算出する。
       J = ( κKCl + κH2O ) /G0 ,又は
      J = κKCl /G1

      ここに, J :セル定数 ( m-1 )
           G0 :測定した電気伝導度 ( mS )
           G1 : G0 から調整に用いた水の電気伝導度を差し引いた値 ( mS )
           κKCl :使用した塩化カリウム標準液の電気伝導率 ( mS m-1 )
           κH2O :塩化カリウム標準液の調整に用いた水の電気伝導率 ( mS m-1 )

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  電気伝導率測定に関連する用語

 JIS K 0130 「電気伝導率測定方法通則」
 適用範囲 この規格は,電解質水溶液及び水(河川水,海水,雨水,蒸留水,脱イオン水など)の 5 µS/m ~ 200 S/m ( 25 ℃ ) の範囲の電気伝導率の測定方法について規定する。
 セル( cell )
 電気伝導率測定用電極を,電気絶縁体で作った容器に固定したもの。
 セル定数 ( cell constant )
 塩化カリウム標準液を満たしたセルの電極間で測定した電気伝導度で,その標準液の電気伝導率を除したもの。単位は m−1 。電磁誘導方式では,上記のように定義されるセル定数はないが,それと等価なものをセル定数とする。
 交流 2 電極方式電気伝導率計 ( AC two − terminal electric conductivity meter )
 2 個の電極間に正弦波,方形波などの交流を印加し,電極間を流れる電流を測定して電気伝導率を求める計測器。
 交流 4 電極方式電気伝導率計 ( AC four − terminal electric conductivity meter )
 4 個の電極を適切な間隔で配置し,外側の 2 個の電極間に電流を流して,内側の 2 個の電極間の電位差を測定し,電気伝導率を求める計測器。
 電磁誘導方式電気伝導率計 ( inductive conductivity meter, electromagnetic conductivity meter )
 電磁誘導作用を利用して電気伝導率を求める計測器。
 
 JIS K 0101 「工業用水試験方法」
 適用範囲 この規格は,工業用水の試験方法について規定する。
 電気伝導率
 電気伝導率は,溶液がもつ電気抵抗率 ( Ω・m ) の逆数に相当し,S/m の単位で表す。また,電気伝導度は,溶液がもつ電気抵抗 ( Ω ) の逆数に相当し,S の単位で表す。
 水の試験では,温度 25 ℃の値を用い S/m 及び S の千分の一を単位とし,それぞれ mS/m 及び mS で表す。試料の電気伝導率が 1mS/m ( 25 ℃ ) 以下の測定の場合には,JIS K 0552 を適用する。
 
 JIS K 0552 「超純水の電気伝導率試験方法」
 適用範囲 この規格は,超純水の電気伝導率の試験方法について規定する。
 連続測定法
 この方法は試料を流液形検出器に連続的に導入するか,又は試料が流れる配管中に配管挿入形検出器を直接取り付けて連続測定する場合に適用できる。測定範囲: 5 ~ 1000 µS/m ( 25℃ )
 間欠測定法
 この方法は連続測定法が適用できない試料容器などに採取された試料を試験する場合に適用できる。測定範囲: 5 ~ 1000 µS/m ( 25℃ )

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