第四部:無機化学の基礎 非金属元素

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  ここでは,非金属元素の代表的な炭素と窒素の化合物として, 【炭素・窒素について】, 【炭化物とは】, 【窒化物とは】 に項目を分けて紹介する。

  炭素・窒素について

 炭素( carbon )
 周期表 14族第 2周期の元素記号 C ,原子番号 6 ,原子量 12.01 の元素である。
 全元素で最も高い昇華点 3642 ℃を持ち,常圧下では融点を持たない固体である。密度は複数の同素体で異なり,非晶質炭素で 1.8 ~ 2.1×106 g/m3 ,グラファイト 2.26×106 g/m3 ,ダイヤモンド 32513×106 g/m3 である。
 炭素の電子軌道には,4つの外殻電子と 4つの空があるため,元素の中でも最も多い 4 組の共有結合が可能である。このため,多様な分子が作れ,学問分野として有機化学を成立させるほどの多様性を有する。

 窒素( nitrogen )
 周期表 15族第 2周期の元素記号 N ,原子番号 7 ,原子量 14.007 の元素である。
 空気の約 78%を占め,タンパク質等の生体物質中に含まれ,生物にとって必須の元素である。単体の融点 -210℃,沸点 -195.79℃,0℃ 1気圧で密度 1.251g/L の気体である。
 安価で活性が低く無毒のため,液体窒素( liquid nitrogen )は,冷却剤として化学・物理実験のみならず医療・各種産業分野で広く用いられている。

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  炭化物とは

 炭化物( carbide )
 各種辞書・辞典類では,
 “炭素とそれよりも陽性(電気陰性度の低い)の元素との化合物の総称。”
 “炭素の化合物のうち,金属,ホウ素,ケイ素などとの化合物をいう。”
と解説されている。

 アルカリ金属,アルカリ土類金属などとの炭化物は,水と反応して炭化水素を放つが,ケイ素,ホウ素などとの炭化物はきわめて安定で硬い化合物である。
 炭化物は,陽性の強い元素とのイオン性炭化物,陽性が比較的弱く原子半径の小さい元素との共有結合性炭化物,原子半径の大きい元素との侵入型炭化物の 3 種に大別される。

 イオン性炭化物( ionic carbide )
 炭素の陰イオン種( C4- , C22- , C34- )と他の陽イオンとからなる化合物で,陰イオンの種類によりメタニド( methanide ),アセチリド( acetylide ),アリリド( allylide )に,さらに炭素のグラファイト構造の間に金属原子が挿入された層状構造に分類される。
 メタニド( C4-
 一般分子式 M2C , M4C3 型(例えば, Be2C , Al4C3 )となり,加水分解でメタン( CH4 )を生成する。
 アセチリド( C22-
 一般分子式 M2C2 , MC2 型(例えば,Na2C2 , K2C2 , Cu2C2 , Ag2C2 , BeC2 , CaC2 , BaC2 , ZnC2 , HgC2 )となり,加水分解でアセチレン( HC≡CH )を生成する。
 過去には,手軽なアセチレンガス発生源として,カーバイト(炭化カルシウム: CaC2 )と水の反応を利用していた。
 アリリド( C34-
 一般分子式 M2C6 型(例えば,Al2C6 )となり,加水分解で三重結合を持つプロピン( CH3C≡CH )を生成する。
 層状構造
 グラファイトの各層間に金属原子が入った MC8 型,2 層ごとに金属原子が入った MC16 型の化合物がある。

 共有結合性炭化物( covalent carbide )
 共有結合性炭化物は,一般に炭化水素のような独立した共有性分子をつくるものと,炭化ケイ素( SiC ),炭化ホウ素( B4C )など元素同士が共有結合で結びついた三次元結合(巨大分子)の炭化物となるものがある。巨大分子は,ダイヤモンドと同様に高い硬度を示す。

 侵入型炭化物( interstitial carbide )
 遷移金属などの金属結晶格子の隙間へ炭素が侵入した化合物である。例えば,金属原子の隙間すべてに炭素が侵入した炭化物は,NaCl型の構造となり,一般式 MC の組成を示す。他に,金属元素の種類により,M2C 型,M3C 型,M3C2 型の侵入型炭化物がある。
 侵入型炭化物は,不透明で金属光沢,電気伝導性がある。主な金属の炭化物の例を次に示す。
   MC型: TiC , ZrC , VC , NbC , TaC , MoC , WC
   M2C型: V2C , Ta2C , Mo2C , W2C
   M3C型: Mn3C , Te3C , Co3C , Ni3C
   M3C2: Cr3C2

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  窒化物とは

 窒化物( nitride )
 各種辞書・辞典類では,
 “窒素とそれよりも陽性(電気陰性度の低い)の元素,特に金属との化合物の総称”
 “低電気陰性度原子と窒素との化合物で,窒素の酸化数 -3 のものの総称。”
と解説されている。

 窒素は,窒化物の他に過窒化物( N22- ),アジ化物( N3- イオンを含む化合物)も形成できる。
 分野によっては,窒化物アジ化物を含めていう場合もあるが,厳密には性質が異なるため,区別するのが良い。

 窒化物は,ニトリドともいわれ,現時点で,( Au ),白金族元素( Ru , Os , Rh , Ir , Pd , Pt ),及び周期表 18族元素( He , Ne , Ar , Kr , Xe , Ra )を除くすべての元素との化合物が知られている。
 通常の窒化物は,炭化物と同様に,イオン性,共有結合性,侵入型の 3種に分類される。

 イオン性窒化物( ionic nitride )
 アルカリ金属( Li , Na , K , Rb , Cs , Fr ),アルカリ土類金属( Ca , Sr , Ba , Ra ),亜鉛( Zn ),カドミウム( Cd )などの化合物(窒化ナトリウム Na3N ,窒化マグネシウム Mg3N2 など)で,元素間の直接反応で得られる。
 化合物としては,M3N 型( Li , Na , Cu (I) など),M3N2( Mg , Ca , Sr , Ba , Zn , Cd など),M3N4( Th など)が知られている。これらの多くは,融点が高く,水と反応してアンモニア( NH3 )を生成ずる。

 共有結合性窒化物( covalent nitride )
 水素と周期表 18族の元素を除く典型元素との化合物で,一般的には,アンモニア( NH3 ),窒化ホウ素( BN ),窒化リン( P2N3 )など原子価に従った組成である。

 侵入型窒化物( interstitial nitride )
 遷移元素の窒化物で,金属原子のすきまに窒素原子が侵入した構造となるため,窒化鉄( Fe4N ),窒化チタン( TiN ),窒化バナジウム( VN )などがある。金属原子のすきまに窒素原子が侵入した構造をとるため,正確な化学量論的な値をとらないことが多い。

 【参考】
 化学量論( stoichiometry )
 化学反応において,反応に関与する物質の物質量の関係を取り扱う化学の一領域をさす。質量保存の法則,定比例の法則,気体反応の法則などは化学量論的な関係であるという。今日では,物質の化学組成とその物理的性質との間の数量的関係を研究する広義の物理化学をいう。

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