化 学 (無機化学)

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 ここでは,機器類に用いられる集積回路に関連して,【集積回路とは】【半導体について】【実用半導体の種類と特徴】【集積回路の作り方】に項目を分けて紹介する。

 【集積回路とは】

 電気・通信に限らず,機器の小型化や高性能化には,異なる機能を持つ複数の部品を一つにまとめた集積回路( Integrated Circuit :略称 IC )が必要不可欠である。
 なお,一般的に用いられる用語 LSI ( large scale integration :大規模集積回路)は,構成する素子の規模によるIC (集積回路)の分類である。ちなみに,素子数 1000 ~ 100000 のものを LSI という。
 
 集積回路は,複数の機能を発揮するため,複数の半導体素子を複数の端子で結び,一つのパッケージにした電気回路である。
 主要な構成材料の半導体( semiconductor )とは,金属など電気抵抗率の小さい導体とプラスチックやセラミックスなどの電気抵抗率の大きい絶縁体の中間的な抵抗率をもつ物質を言う。元素単体では,半金属元素けい素( Si )やゲルマニウム( Ge )などがある。

 

 【半導体について】

 半導体の電気伝導性は,熱,光,磁場,電圧,電流,放射線などの影響で顕著に変わる。この特徴は,半導体固体のエネルギーバンド( energy band )の構造によって説明される。
 原子が結合し分子が形成されると,「分子軌道について」で紹介したように,電子軌道が分裂し分子軌道が形成される。
 分子軌道は,結合した原子の数だけ分裂するので,固体の金属などでは,膨大な数の分子軌道が形成されることになる。この時,軌道間のエネルギー差は著しく小さく,連続はしていないが,あたかも連続した帯状の様相を呈する。この帯状の分子軌道をエネルギーバンドという。
 エネルギーバンドには,価電子に満たされたエネルギーバンド(価電子帯: valence band ,充満帯ともいう)と価電子を持たないエネルギーバンド(伝導帯: conduction band ,空帯ともいう)が,電子が採ることのできないエネルギー順位の領域禁制帯: forbidden band )を挟んで存在する。
 なお,禁制帯の幅をバンドギャップ( band gap )という。価電子帯の電子は,分子軌道に固定されているが,熱エネルギー等で伝導帯に遷移した電子は,原子間を自由に移動(自由電子できる。
 
 金属のような電気伝導性の良い良導体は,エネルギーバンドで紹介したように,価電子帯と伝導帯のバンドギャップが殆ど無く,熱エネルギーで伝統帯に容易に遷移できる。
 一方,プラスチックやセラミックなど不導体(絶縁体)は,熱エネルギーでは容易に超えられないバンドギャップを持つため,電気伝導性が著しく悪い。
 半導体では,良導体と不導体の中間的なバンドギャップを有し,比較的小さな電圧,温度などの環境条件変化で価電子帯の電子が伝導帯に遷移できるため,特異な電気伝導性を示すことができる。
 
 元素単体で半導体の特性を有するのは,けい素( Si )やゲルマニウム( Ge )などの半金属元素と分類される元素である。

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 【実用半導体の種類と特徴】

 純粋な半導体(真正半導体: intrinsic semiconductor )は,金属に比べ動ける荷電粒子キャリア: carrir )の密度が圧倒的に小さい。真正半導体のキャリアは,熱エネルギーで価電子帯から伝導帯に励起された電子,価電子帯の電子が抜けた穴(正孔: positive hole )であるが,室温程度での数密度は小さい。
 そこで,実用される半導体では,真正半導体に,ごく微量の不純物を導入することで,キャリアの密度を増加するよう工夫されたものである。なお,不純物の添加をドーピング( doping )という。
 添加する不純物は,ドーパント( dopant )と呼ばれ,電子供給を目的にするドーパントをドナー( donor ),正孔供給を目的にするドーパントをアクセプタ( acceptor )と呼ぶ。
 半導体は,ドナーを添加した,n 型半導体( negative semiconductor )アクセプタを添加した p 型半導体( positive semiconductor )に大別される。
 
 n 型半導体
 n 型半導体は,周期表第 14 族のけい素( Si )やゲルマニウム( Ge )の価数( 4 価)より価数の多い元素を極微量添加することで得られる。例えば,5 価の元素として,周期表第 15 族のりん( P )やひ素( As )などが添加する不純物として用いられる。
 ドナーにより生成されたキャリア(電子)は,ドナー原子により束縛されるが,束縛力が弱く,束縛を離れて結晶の原子間を自由に動きまわることができる。
 エネルギーバンドの構造で言えば,下図に示すように,禁制帯の上端付近ドナー準位(図ではドナーレベル)を形成し,熱エネルギーで容易に伝導帯へ励起できる。この場合のフェルミ準位は,禁制帯中のドナー準位と伝導帯の間になる。
 
 フェルミ準位( Fermi level )とは,フェルミ粒子系(ここでは電子)の化学ポテンシャルμで,絶対零度( 0 K )ではフェルミ粒子の最高の準位のエネルギー値(フェルミエネルギー)で,与えられた温度条件ではフェルミ粒子の存在確率 50 %になるエネルギー値を意味する。

 n 型半導体の原理

n 型半導体の原理
元図出典:甲南大学工学部物理学科半導体/電子デバイス物理

 p 型半導体
 電圧をかけると,正孔の移動によって電荷が運ばれる半導体である。
 p 型半導体は,周期表第 14 族のけい素( Si )やゲルマニウム( Ge )の価数( 4 価)より価数の少ない元素を極微量添加することで得られる。例えば,3 価の元素として,周期表第 13 族のほう素( B ),アルミニウム( Al )などが添加する不純物として用いられる。
 アクセプタを添加していない半導体(真正半導体)では,価電子帯の電子が伝導帯側に遷移することで,価電子帯に電子の抜け(正孔が生成する。
 自由電子が正孔に移動すると,別の個所で電子の遷移と正孔が生成し,結果として正孔の位置が自由に移動することになる。この際,電圧に応じて電子とは逆方向へ流れる。
 アクセプタを添加することで,エネルギーバンドの構造は,下図に示すように,禁制帯の下端付近アクセプタ準位(図ではアクセプタレベル)と呼ばれる空の準位を形成する。このため,価電子帯から熱エネルギーで価電子がアクセプタ準位に容易に励起でき,価電子帯に多くの正孔が生じる。この場合に,フェルミ準位は禁制帯中のアクセプタ準位と価電子帯の間になる。

 p 型半導体の原理

p 型半導体の原理
元図出典:甲南大学工学部物理学科半導体/電子デバイス物理

 pn 接合( pn junction )
 pn接合とは,p 型半導体と n 型半導体の接触している部分を言い,整流性,光ダイオードなどで知られる電界発光(エレクトロルミネセンス),太陽電池として知られる光起電力効果(光電効果の一種)などの特異な現象を示すなど,半導体素子として多くの形で利用されている。
 なお,金属と半導体の接合をショットキー接合( Schottky barrier junction )といい,pn 接合と同様の原理で整流性を示す。
 
 pn 接合は,下図に示すように,p 型半導体と n 型半導体との接触で,n 型の電子が p 型に,p 型の空孔が n 型に拡散することで内部電解が生じる。これにより,双方のフェルミ順位の差が小さくなり,フェルミ順位の一致で拡散が停止する。
 この時,接合面付近には伝導帯の電子と価電子帯の空孔が無い領域(空乏層が生じる。pn 接合の電流電圧特性は空乏層の存在に支配される。
 この状態では,内部電解を打ち消す外部電位を与えると電流が流れ,反対方向の電位では電流が流れない(整流性)。この素子は,pn 接合ダイオードとして知られる。

 np 接合の概念図

np 接合の概念図
元図出典:甲南大学工学部物理学科半導体/電子デバイス物理

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 【集積回路の作り方】

 高純度けい素の製造
 純度の高い石英( SiO2 )を電気炉(コークス+石英を原料に,カーボン電極を用いたアーク炉)を用いて還元して 95 %以上のけい素単体(金属シリコン)を得る。
      SiO2 + C → Si + CO2 , SiO2 + 2C → Si + 2CO
 他に,テルミット法(アルミニウム粉末による還元法)による方法もある。
      3SiO2 + 4Al → 3Si + 2Al2O3
 けい素の精製
 塩素( Cl2 )中でけい素( Si )を加熱することで,沸点 57.6 ℃の四塩化けい素( SiCl4 )などの塩化けい素が得られる。
      Si + 2Cl2 → SiCl4
 蒸留して得られた高純度の四塩化けい素は,水素還元することで,高純度のけい素単体(多結晶シリコン)が得られ,太陽光発電用パネルや光ファイバの製造に用いられる。
      SiCl4 + 2H2Si + 4HCl
 より高純度を必要とするシリコンウェハなどは,けい素単体,水素,四塩化けい素を加熱(約 500 ℃)することで得られる沸点 31.8 ℃の三塩化シラン( SiHCl3 )を多段階蒸留し,超高純度( 99.999999999 %以上)まで精製したものが用いられる。
 単結晶シリコンの製造
 高純度三塩化シラン,水素の混合ガスを反応炉(約1,000℃以上)に導入し,炉中の芯材表面にけい素を析出させて棒状の多結晶シリコンを得る。
 多結晶シリコンを高純度の石英るつぼで溶融(約 1420 ℃)し,種となる単結晶シリコン棒をゆっくりと回転させながら引き上げることで,種と同じ原子配列の単結晶シリコン(棒状)が得られる( Cz 法:チョクラルスキー法)。
 シリコンウェハの製造
 棒状の単結晶シリコン(直径 10 ~ 30 cm)をグラインダーで均一な直径となるように仕上げ,次いで,ワイヤソーで必要寸法の厚み( 0.5 ~ 1.5 mm )に切断(スライス)する。スライスしたシリコン円盤を鏡面となるよう研磨する。
 回路の作製例
 1.炉内で加熱することで,シリコンウェハの表面に酸化膜( SiO2 )を形成する。
 2.フォトレジスト( Photoresist )を塗布し,回路を写真転写し,露光した部分のフォトレジスト膜を化学処理で取り除く。
 なお,フォトレジストとは,光や電子線等によって溶解性などの物性が変化する組成物をいう。
 3.ドーパントのイオン( B3+,As5+,P5+ など)をイオン加速機でシリコンウェハ上に打ち込み,基板となる半導体領域( n 型,p 型)を作る。(イオンはフォトレジスト膜を通過できない)
 加熱(アニール)して注入したイオンとシリコン原子と結合を促し,最後にフォトレジスト膜を除去する。
 4.論理素子と論理素子が相互に干渉しないように,絶縁体を埋め込む溝(トレンチ)を作る。まず,フォトレジストにより,溝以外の部分に酸化を防止する窒化けい素膜( Si3N4 )を堆積させ,次いで熱酸化により窒化けい素膜で覆われていない箇所を酸化( SiO2 )させる。
 窒化けい素膜,酸化膜をフロロカーボンガスで除去することで,表面に素子領域をなる部分を囲む溝を形成できる。
 5.素子表面に,ゲート電極,ソース,ドレインと呼ばれる回路の基本となる領域を形成する。
 6.金などで配線し集積回路を作る。一個のウェハには数百の集積回路があるので,個々の回路を切り取る。
 7.銅やアルミニウムで尽くされているアタッチメントに集積回路を乗せ,アタッチメントと回路をアルミニウム線や金線などを超音波で接続する(ワイヤボンディング)。
 8.全体をプラスチックでモールド(封止)し,いわゆるICチップが完成する。

ゲート電極,ソース,ドレイン模式図

ゲート電極,ソース,ドレイン模式図
図出典:産業技術総合研究所トランジスタの接合位置をサブナノメートルの精度で制御

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