第四部:無機化学の基礎 無機化学とは(基本)
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ここでは,無機化合物の電気的特性に関連し, 【物質の電気的性質とは】,【オームの法則】,【電気抵抗率】,【電気伝導率(導電率)】に項目を分けて紹介する。
物質の電気的性質とは
物質が電気を導くか否かは,物質の状態(固体,液体,気体)で異なる意味を持つ。
固体( solid )
原子又はイオンの配置が固定され,動くことができない。このため,固体の電気伝導は電子の移動に限定される(電子伝導)。
固体の電子伝導は,【エネルギーバンド】で紹介した自由電子の移動で説明される。
エネルギーバンドは,電子に満たされた価電子帯(充満帯)と,電子を含まない伝導帯(空準位)に分けられ,エネルギーギャップをバンドギャップ(禁制帯)という。
エネルギーバンドの構造により,物質の電気特性は,不動態,半導体,導体に分けられる。
価電子帯の電子が伝導帯に容易には移動できないほど禁制帯のエネルギーギャップが大きい物質を不導体( nonconductor )や絶縁体( insulator )という。
禁制帯のエネルギーギャップが比較的小さく,条件次第で伝導帯に電子が移動できる物質は,半導体( semiconductor )と呼ばれる。
価電子帯の電子が伝導帯に容易に移動できるほど禁制帯のエネルギーギャップが小さい物質を導体( conductor )という。
金属のような良導体( good conductor )では,エネルギーギャップが非常に小さく,価電子帯の電子の一部が比較的自由に伝導帯に移ることができる。
この電子は,隣り合う原子の間を自由に動き回ることができるので,自由電子と呼ばれる。
液体( liquid )
液体は,構成する粒子の属性(金属,塩,中性分子)の違いにより,金属性液体,イオン液体,分子性液体に大別される。
なお,単一の物質で構成される場合には液体(純液体)と呼び,2種類以上の物質から構成される場合には溶液( solution )と呼び区別する場合が多い。
金属性液体( metallic liquid )
液体金属,溶融金属とも呼ばれる金属性液体は,固体金属と同様に,自由電子による電気伝導が期待できる。
イオン液体( ionic liquid )
イオン結晶を溶融した液体であり,イオンの移動による電気伝導が期待できる。近年には,安定性に優れる有機イオンの開発が進み,融点が 100℃以下で,コンデンサー,リチウムイオン電池,燃料電池,太陽電池などに実用可能な種々のイオン液体が開発されている。
分子性液体( molecular liquid )
中性(電荷を持たない状態)の分子からなる分子性物質( molecular substance )の液体の総称である。分子性液体としては,身近なものとして水,多くの有機化合物(有機溶剤,油脂など),液化した酸素,窒素,ヘリウムなどが知られる。
溶液( solution )
分子性液体を溶媒とし,他の物質を溶質として混合(溶解)した分子性溶液は,溶媒分子と溶質分子の分子サイズの違い,溶媒分子間及び溶媒分子と溶質分子との間に働く分子間力(ファンデルワールス力,双極子相互作用など)の違いなどにより,理想溶液,無熱溶液,正則溶液,電解質溶液などに大別される。
電解質溶液のイオン伝導
電解質溶液( electrolyte solution )の中に導線で結ばれた 2つの電極を置いた場合に,電極表面で起きる反応について考える。
一方の電極表面で,電子が何れかの物質(分子やイオン中の)に取り込まれ,結果として陽イオンが中性分子に,又は中性分子が陰イオンになるなどの変化(還元反応)が起きる。
同時に,他方の電極表面へ,同じ量の電子が物質から放出され,陰イオンが中性分子に,中性分子が陽イオンになるなどの変化(酸化反応)が起き,両電極を結ぶ導線中で電子の移動による電流が流れる。
この状況の電極間の液体中では,イオンの移動により電流が流れる。この現象をイオン伝導( ion conductive )という。
気体( gas )
大気環境など通常の条件では気体に電気の伝導性はない。しかし,身近な例での雷などでは,高電圧の発生により気体分子の一部が陽イオンと電子に分かれて空中で自由に運動できるようになり電気が伝導する。
この状態はプラズマ( plasma )と呼ばれ,この現象を利用した身近なものとして,水銀ガスのプラズマを利用した蛍光灯,ネオンサイン,放電プラズマを利用したアーク溶接,プラズマ溶射などがある。
化学分析で用いられる発光分光分析には,アルゴンガスを流した状態で放電し,生成した電子やアルゴンイオンを電界で加速し,その衝突による電離で電子密度が急激に増加したプラズマトーチを利用した分光分析法(誘導結合プラズマ発光分光分析)がある。
【参考】
プラズマ( plasma )
加熱,電気的衝撃など外部から与えられたエネルギーにより,気体分子の一部が,陽イオンと電子などのように,正,負の荷電粒子に分かれて自由に運動している集合状態をいう。この状態を固体,液体,気体状態と区別し,物質の第四の状態として扱う分野もある。
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オームの法則
オームの法則( Ohm's law )
電気回路の部品に流れる電流と部品の両端の電位差との比例関係に関する法則で,ドイツの物理学者ゲオルク・オーム( Georg Simon Ohm )によって 1826 年に再発見・公表された。
表記法と記号の意味
電流が I で電位差が V であるとき
V = RI
と表記する場合は,比例係数 R は電気抵抗( electric resistance )と呼ばれる。電気抵抗は,一般的に物質の電気の通し難さの比較に用いられる指標として用いられる。この式を,
I = GV
と表記する場合は,比例係数 G( = 1/R )は電気伝導度( conductance ),あるいはコンダクタンス( conductance )と呼ばれる。電気伝導度は,一般的に物質の電気の通し易さの比較に用いられる指標として用いられる。
電流の単位にアンペア( A )を,電位差の単位にボルト( V )を用いたとき,電気抵抗 R の単位にオーム( ohm ,記号Ω)が用いられ,コンダクタンス G の単位にはジーメンス( siemens ,記号 S )が用いられる。
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電気抵抗率
オームの法則で表される電気抵抗は,物体の形状,すなわち断面積や長さで変化するので,物性値として扱えない。物質の特性値としては,物質の形状に依存しない電気抵抗率が用いられる。
電気抵抗率( resistivity )
ここで,簡単のため,物体内の微小な断面をΔ S とし,電流が断面の法線方向に均一に流れると仮定すると,電流 I と電流の密度 j の関係は,
I = j ・ Δ S
と表される。
一方で,微小な断面の法線方向に距離Δ L 離れた位置の電位差 V は,電場 E と
V = E ・ Δ L
の関係にある。
ここで,電流 I と電位差 V にオームの法則( V = RI )を適用すれば
E = ( R Δ S /Δ L ) j
E =ρ j
と電場と電流密度の関係が得られる。この表現はオームの法則の微分型表現といわれ,実際の導体の電気抵抗は,その形状で積分することで得られる。
この式における比例係数 ρ = RΔ S /Δ L は,原理的には導体の材質と温度で一義的に決まる値(物性値)として扱え,比例係数ρ(ロー)を電気抵抗率あるいは単に抵抗率という。単位は,Ω m(オームメートル )である。
電気抵抗率 ρ は,物質固有の値であるが,温度で変わる他に材料中の不純物の量や塑性ひずみの有無によっても変わる。電気抵抗率 ρ は,技術分野により,呼び名が固有抵抗( specific resistance ),比抵抗( resistivity , specific resistance )や体積抵抗率( volume resistivity )など様々である。
なお,体積抵抗率は,電気抵抗率の高い物体の絶縁性能の議論で問題となる物体表面を導通する電流の寄与の評価に用いる表面抵抗率(シート抵抗)と区分する場合に用いられる。
【参考】
電場( electric field )
電界とも呼ばれ,電荷の周りに存在する力の場。電場の強さは,E の文字を使って表されることが多い。用語として,電場は理学系で,電界は工学系で用いられることが多い。
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電気伝導率(導電率)
金属などの導体や絶縁体などでは,一般的に電気の通り難さの比較として電気抵抗率が用いられる。しかし,溶液や土壌を扱う技術分野では,電気の通り易さで比較した方が説明し易い場合が少なくないため,電気伝導率( electric conductivity )を用いる例が多い。
電気伝導率は,電気抵抗率ρの逆数を記号σ( = 1 /ρ:シグマ)で表し,導電率( conductivity ),比電導度( specific conductivity )の他に,電気伝導度,電導率,または単に伝導率,伝導度と称される。
電気抵抗の逆関数により,電流密度 j と電場 E との関係は
j =σE
で表される。
電気伝導率σの単位は,電気抵抗率の逆数なのでΩ-1 m-1 となるが,Ωの逆数は,すなわちコンダクタンスになるので,ジーメンス( siemens ,記号 S )を用い S m-1 (ジーメンス/メートル)を用いるのが一般的である。
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