第四部:無機化学の基礎 生活と無機(建築材料)
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ここでは,建築物に用いられる漆喰(しっくい)に関連し, 【漆喰とは】, 【塩焼き消石灰とは】, 【その他原料の役割と種類】 に項目を分けて紹介する。
漆喰とは
漆喰(しっくい: plaster )
土壁より防水性が高く,不燃素材のため,外部保護材料として,古くから建築物(城郭,寺社,家屋)の外壁,内装の間仕切り壁の上塗り材,瓦や石材の接着や目地などに用いられてきた建築素材である。
最近には,化学物質過敏症の原因物質(ホルムアルデヒドなど)の吸着分解の機能に注目されている。
漆喰の硬化機構
ペースト状の漆喰は,壁等に塗付けられたあと,過剰の水分が抜け,固体として付着するが,時間と共に,表面の消石灰( Ca(OH)2 )が空気中の二酸化炭素( CO2 )と反応することで,徐々に炭酸カルシウム( CaCO3 )に変化(炭酸化)する。これにより,表面の体積が増加し強固な不燃性で耐水性に優れる被膜が得られる。
Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O
Ca2+ (aq) + 2OH- (aq) + CO2 (g) → CaCO3 (s) + H2O (l)
Ca(OH)2 :モル質量( 74.0927gmol-1 ),密度( 2.211gcm-3 )
CaCO3 :モル質量( 100.087gmol-1 ),密度(方解石 2.711gcm-3 ,あられ石 2.93gcm-3 )
なお,漆喰壁の表面から 1mm 硬化するのに,約 3年かかるといわれている。
漆喰の種類と原料
日本の漆喰には,本漆喰,既調合漆喰,土佐漆喰,既調合漆喰,琉球漆喰などの種類がある。
本漆喰
旧くから用いられてきた一般的な漆喰で,海藻のり(フノリ),麻すさ(麻の繊維)と塩焼き消石灰を工事現場で混合して作られるものである。
既調合漆喰
漆喰メーカーで塩焼き消石灰,麻すさ,粉末海藻のり,合成樹脂,細骨材(炭酸カルシウムなど),化学繊維などを調合した粉末製品とし,工事現場で水を加え練るだけにした漆喰である。
土佐漆喰
発酵させた藁と塩焼き消石灰と水の混合物を熟成させた練り状の漆喰である。
琉球漆喰
藁,生石灰,水を混合したものを熟成させたもので,土佐漆喰より藁の混入量が多い漆喰で,沖縄の屋根瓦工事を中心に用いられる。
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塩焼き消石灰とは
消石灰とは,生石灰( CaO )と水( H2O )を混ぜ,次に示す「消化」と呼ばれる反応で得られる水酸化カルシウム( Ca(OH)2 )をいう。
CaO + H2O → Ca(OH)2 ;⊿H = - 63.7kJmol-1
この反応は,強酸と強塩基の標準中和熱 (⊿nH0 = - 56.5kJmol-1 ;25℃)より大きい反応熱(発熱)を持つ。このため,生石灰は,強力な乾燥剤や火を使わずに加熱する装置(弁当など)に利用されている。
生石灰は,伝統的な製法の貝殻(あさり,シジミ,赤貝など)を 800~1100℃で焼成して得られるものの他に,JIS A 6902 「左官用消石灰: Plastering lime 」に規格される石灰岩( CaCO3 )を原料に, 900~1000℃の竪窯で焼成して得られものがある。
塩焼き消石灰
漆喰に用いる消石灰は,塩焼き生石灰に水を添加する方法,又は湿度の高い空気中に放置する方法で消化して得る塩焼き消石灰である。
“塩焼き”と形容される製造方法について,中山石灰工業株式会社の特開2009-155161「竪形焼成炉による塩焼き生石灰の製造法およびその方法によって製造された塩焼き生石灰」を参考に紹介する。
竪形焼成炉に,こぶし大に粉砕した石灰岩とコークスを交互に積層し,火入れ後に塩を~ 0.5 %程度ふりかけた石灰石を投入する。
石灰石( CaCO3 )の加熱で,二酸化炭素( CO2 )が抜け出て生石灰( CaO )となる。このため,二酸化炭素の抜け跡や抜け通路に 0.1 μm 程度の空隙が生じる。
この焼成過程で,塩が存在すると,機構は明確になっていないが,生石灰の結晶に塩の蒸気が結晶の成長に作用し,1 μm 程度の空隙を有する多孔質で嵩密度の低い生石灰が生成する。
すなわち,生石灰の表面積が広く,活性度の高い製品が得られる。このため,早い反応を期待する製鋼用造滓剤(ぞうさいざい)や漆喰用消石灰の原料として,また土質改良剤等として塩焼き生石灰が利用されている。
この製法は,多孔質となる特徴以外に,白さを際立たせる漆喰にとっては,石灰石に含まれる有色の不純物(鉄分等の金属)が塩焼きすることで,塩化鉄などの塩化物として排除され,白さに優れた生石灰が得られる特徴もある。
なお,貝殻を原料とした塩焼き消石灰を「貝灰」,石灰岩を原料としたものを「石灰」と呼ばれている。
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その他原料の役割と種類
すさ
塗付けた漆喰は,過剰の水分を含むため,水分の蒸発(乾燥)で収縮する。この収縮で割れの発生を防止するため,補強(つなぎ)を目的に繊維が用いられる。これを“すさ”という。
すさには,麻(日本麻,マニラ麻,黄麻),わら,紙などをほぐし,短く裁断した植物繊維や絨毛(牛,馬,ヤギなど)が使われている。
のり
「のり」と呼称されるが,漆喰で用いる目的は“接着”ではなく,保水や粘度調整による“作業性の向上”である。
歴史的には“フノリ”と呼ばれる海藻(紅藻類の布海苔,つのまたや銀杏草など)を煮炊きして抽出したものが使われていた。現在は,加熱乾燥した銀杏草の粉末,左官用混和材として,CMC (カルボキシルメチルセルロース),MC (メチルセルロース),PVA (ポリビニルアルコール)などの化学のりが用いられている。
顔料
顔料を混ぜない白い漆喰を“白漆喰”といい,着色が目的の場合は,顔料を添加して使用する。
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