化 学 (無機化学)

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 ここでは,非金属元素の化学的性質に関連し,【水素とは】【水素化合物と水素化物】【侵入型固溶体】【イオン結合型水素化物】に項目を分けて紹介する。

 【水素とは】

 水素( hydrogen )は,周期表の 1 族に分類されているが,他の 1 族元素とは性質が大きく異なる。第一周期の水素は非金属元素であるが,第二周期以降のリチウム,ナトリウムなどの元素は,アルカリ金属元素に分類される。
 水素は,一価の陽イオンになり易く,大気中などの身近な環境では,安定な単体の水素分子H2 (水素ガス)として存在し,一般に「水素」という場合は水素分子を指すことが多い。
 
 水素及び水素分子は,元素及び気体分子の中で最も軽く,また宇宙空間に最も多く存在する。例えば,木星は液状の水素(金属水素)で構成されていると考えられている。地球上では,単体の水素分子としてはほとんど存在しないが,水などの化合物として多量に存在する。
 
 単体の水素の製造は,工業的には炭化水素(天然ガス)の酸化還元反応で得られる。炭化水素を分解して得られる水素よりクリーンなエネルギー源として,水素の環境調和型の製造方法探求を目的に,1974 年からのサンシャイン計画(通産省),1993 年からのニューサンシャイン計画(経済産業省)など,国家プロジェクトとして,海洋上での太陽光発電による海水の電気分解による水素製造技術や光合成微生物を用いた水素製造技術の研究が実施された経緯がある。
 
 水素分子は,常温・常圧では無色無臭の気体で,燃焼・爆発しやすいため,日本では赤いボンベでの保管が規定(高圧ガス保安法容器保安規則)されている。


水素(分子)の基本物性
  元素記号    原子番号    原子量    密度( 0℃, 1気圧) 
  H    1    1.00794    0.08988 (g/L) 
  融点( K )    融解熱( kL/mol )    沸点( K )    蒸発熱( kJ/mol ) 
  14.01    0.117(単体)    20.28    0.904(単体) 
 代表的な用途
 アンモニア製造(ハーバー・ボッシュ法),塩酸の製造,油脂類の改質などの原料,金属鉱石(酸化物)の還元剤,アニリン,ナイロン 66 ,メチルアルコール製造における還元剤,燃料電池,ロケットの燃料に使用されている。

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 【水素化合物と水素化物】

 水素は,18 族の希ガス元素を除き,ほとんどすべての元素と水素化合物( hydrogen compound )を作る。
 水素化合物とは,水素と化合した物質の総称である。この中で水素と他の元素とから構成される 2 元素化合物を特に水素化物( hydride )と呼ぶ。
 水素化物は,結合様式と反応性など物性の違いにより次の 3 種に分類される。
 
 金属層に水素が入り込んだ介在型(侵入型固溶体
 水素より電気陰性度の低い元素(陽性元素)との化合物(イオン結合型水素化物),
 水素より電気陰性度の大きい元素(陰性元素)との化合物(共有結合型水素化物),
 
 一般的に水素化物と称した場合は,イオン結合型水素化物を指す場合が多い。
 ここでは,侵入型固溶体とイオン結合型水素化物を紹介し,共有結合型水素化物については次項で紹介する。

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 【侵入型固溶体】

 金属結合をもつ単体金属は,緻密な結晶構造を持つが,水素などの小さい原子は,結晶構造のすき間に入り込み,結晶構造を変えないで化合物を作ることができる。
 これを侵入型固溶体( interstitial solid solution )侵入型化合物( interstitial compound )又は介在型化合物などという。化合物の組成は,必ずしも一定の整数にならないことが多い。
 水素の侵入によるディメリットに水素脆性がある。活用例としては,水素貯蔵を目的とした水素吸蔵合金がある。
 水素の他に窒素,ホウ素や炭素も遷移金属と侵入型固溶体を作るが,電気陰性度の大きい酸素やハロゲン元素とは侵入型固溶体を作らない。

 

 【イオン結合型水素化物】

 一般的に水素化物という場合,この化合物を指す場合が多い。すなわち,水素より電気陰性度の小さいアルカリ金属元素(水素を除く 1 族元素)2 族のアルカリ土類金属,希土類元素(スカンジウム,イットリウム及びランタノイドの 17 元素),及び 13 族のアルミニウムで,一般式で MHn ( n : 1 ~ 3 の整数)で示される。
 イオン結合型水素化物は,水素化物イオン( H- )を持ち,水や酸との接触で 水素( H2 )と水酸化物イオン( OH- )を生成する。
      H- + H2O → OH- + H2
 
 1 族元素の水素化物
 アルカリ金属の水素化物は,正のアルカリイオン( M+ )と負の水素化物イオン( H- )とからなる塩である。水素雰囲気下で溶融したアルカリ金属に水素を接触させることで得られ,塩化ナトリウム型の結晶構造を持つ。水と接触すると分解し,水素の発生を伴う強い還元性を呈する。
 水素化リチウム( LiH : lithium hydride )
 融点 680 ℃で,720 ℃で分解する青灰色の固体である。アルカリ金属の水素化物中で最も安定で,常温の乾燥空気中では分解しないが,光で分解し黒くなる。
 有機溶媒の脱水,塩化アルミニウムと反応させ有機化学での還元剤である水素化アルミニウムリチウムの製造に用いられる。
 水素化ナトリウム( NaH : sodium hydride )
 融点はなく,800 ℃でナトリウムと水素に分解する白色(灰色)の固体である。
 有機合成において,縮合反応の試薬,OH基,NH基,SH基からプロトン( H )を引き抜くのに用いられる。
 水素化カリウム( KH : potassium hydride )
 360 ℃で分解する無色の固体である。水素化カリウムは非常に強い塩基で,その塩基性は水素化ナトリウムよりも強い。有機化合物から酸性プロトン( H+ となり電離し易い水素)を除去する際に用いられる。
 水素化ルビジウム( RbH : rubidium hydride )
 170 ℃で分解する白色の固体,強い還元剤として働き,空気および水と激しく反応する。
 
 2 族元素(ベリリウムを除く)の水素化物
 マグネシウムは高圧加熱下で水素と反応し,アルカリ土類金属( Ca , Sr , Ba )は単体を水素気流中で加熱することで,一般式 MH2 の水素化物が得られる。水と接触すると分解し,水素の発生を伴う強い還元性を呈する。加熱することで,再び単体に分解する。
 水素化マグネシウム( MgH2 : magnesium hydride )
 融点 651 ℃,灰色の固体である。比較的安全な水素貯蔵材料,水素発生入浴剤としての用途がある。
 水素化カルシウム( CaH2 : calcium hydride )
 融点 651 ℃,白色(灰色)の固体である。有機合成において比較的マイルドな乾燥剤(水分除去)として用いられる
 希土類金属水素化物
 希土類金属は金属原子 1 個当たり最大 3 個の水素原子を吸収して,超高濃度水素化物となるため,高性能水素貯蔵材料の構成元素として注目されている。
 
 13 族の水素化アルミニウム(AlH3 : aluminum hydride )
 融点 150 ℃の白色(無色)の固体で,極めて酸化されやすく空気中で自然発火するため,研究目的の有機合成での還元剤以外の用途はない。

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