化 学 (無機化学)

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 ここでは,溶液中のイオンを分離・分析できるイオンクロマトグラフィーに関連して,【状態分析とクロマトグラフィー】【イオンクロマトグラフィーとは】【操作・動作の概要】【主な溶離液と関連用語】に項目を分けて紹介する。

 【状態分析とクロマトグラフィー】

 状態分析( analysis of state )とは,試料の含有元素組成以外の化学情報(例えば,化合物の形態,分布,結晶系など)を得るための分析をいう。
 
 物質の立体構造(結晶構造)
 結晶の格子定数や面間隔を求められるX線回折法( XRD ),低速電子線回折( LEED ),高速電子線回折( HEED )が,結晶構造の温度変化(相変化)の追跡に温度制御ができる高温X線回折が,結晶の配向程度(結晶性)の評価に偏光ラマン分光法などが用いられる。
 
 化合物組成や官能基など
 別に紹介する表面分析以外には,複数の原子が結合した状態の分子やイオンの構造は元素分析と質量分析( MS )との組み合わせで知ることができる。
 化合物の熱分解との関連を示差熱分析( DTA )などから,化合物を特定できる官能基の種類と量をラマン分光法,フーリエ変換赤外分光光度法( FT - IR )などから評価できる。また,注目する原子の周辺の原子に関する情報は,化学シフトを利用した核磁気共鳴分光分析法(NMR),蛍光X線分析( XRD ),X線吸収端分析などを用いて知ることができる。
 化合物やイオンを分離し,混合物試料の組成などについては,主として有機化合物については,例えば液体クロマトグラフィー( LC ),高速液体クロマトグラフィー( HPLC ),液体クロマトグラフ質量分析( LC/MS ),ガスクロマトグラフィー( GC ),ガスクロマトグラフ質量分析( GC/MS )などが,無機イオンを含むイオンの分離分析にについては,イオンクロマトグラフィー( IC )などが用いられる。
 
 クロマトグラフィーとは
 クロマトグラフィー( chromatography )とは,JIS K 0214 「分析化学用語(クロマトグラフィー部門): Technical terms for analytical chemistry (Chromatography part) 」では,“試料を固定相に接して流れる移動相に導入して,固定相及び移動相に対する成分の特性の差によって分離を行う方法。”と定義されている。
 具体的にいうと,クロマトグラフィーは,カラムと呼ばれる管の中に固定相を保持し,移動相に含まれる分析対象物質と固定層との相互作用によって混合物を分離・検出する分析法である。
 試料に含まれる複数の対象物質が,移動相によって運ばれる過程で,固定相との相互作用の大小によって,移動速度に差異が生じる。すなわち,固定相との相互作用が弱い成分はすぐに固定相から溶出し,固定相との相互作用が強い成分は固定相に長い時間保持される。
 試料中の成分の相互作用の大きさの違いにより,一定時間経過後に,試料を導入した箇所からの距離の違い(固定相からの溶出時間の違い)となり各成分が分離される。
 固定相との相互作用に利用される原理には,分配(化学成分の相への移行性,固定相と移動相の分配係数に依存),吸着(化学成分と相表面との吸着力),分子排斥(多孔質素材における成分の分子サイズに依存する浸透性,分子ふるいともいわれる),イオン交換(イオン交換樹脂との酸塩基平衡定数に依存)が挙げられる。
 
 クロマトグラフィーは,移動相に用いる物質(気体,液体,超臨界流体)により,ガスクロマトグラフィー( GC ),液体クロマトグラフィー( LC ),超臨界流体クロマトグラフィー( SFC )に大別される。
 なお,一般的な超臨界流体は二酸化炭素で,移動層には二酸化炭素と混合する液体(メタノールなどのアルコール類やアセトニトリル,ジクロロメタンなど)が用いられる。
 
 似ているため混同されやすい用語の定義を示すと,クロマトグラフィーによって分離を行うために用いる装置をクロマトグラフ( chromatograph )クロマトグラフを使った分析又は分析方法をクロマトグラフ分析( chromatographic analysis ),クロマトグラフィーにおける結果の記録,又は,試料成分の溶出状態を時間に対してプロットした図をクロマトグラム( chromatogram )という。

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 【イオンクロマトグラフィーとは】

 イオンクロマトグラフィー( ion chromatography ; IC )とは,電解質溶液中のイオン種成分の分離分析法で,固定相にイオン交換樹脂を用い,移動相に水溶液(溶離液を用いた液体クロマトグラフィーの一種と考えられる。
 イオンクロマトグラフィーは,溶液中の無機イオン,有機酸,低分子量アミン,ハロゲンなどの測定に利用され,大気・水・土壌などの環境モニタリング,食品の管理,飲料水,排水などの水質の管理,排ガスの管理,生体試料の解析,樹脂製品中の臭素系難燃剤など無機・有機材料に含まれるハロゲン及び硫黄元素の定量など,多くの分野で活用されている。
 
 イオンクロマトグラフィーの装置構成,操作方法や定性・定量分析方法の基本については,JIS K 0127 「イオンクロマトグラフィー通則 :General rules for ion chromatography 」に規定されている。
 
 基本構成
 イオンクロマトグラフィーの基本構成は,下図に示す例にあるように,溶離液槽,(脱気装置,グラジエント装置),送液部,試料導入部(濃縮カラム),(プレカラム),分離カラム,(前処理装置),検出器,データ処理部及び廃液槽である。( )の装置は,分析目的などにより必要のある場合に使用される附属装置である。
 なお,基本構成の例として示した下図では,汎用される電気伝導度検出器を用いたものである。個の検出器を用いる場合は,前処理装置として,測定対象のイオン種成分の検出を損なうことなくバックグラウンドとなる電気伝導度を低減できるサプレッサーを用いるものが多い。

イオンクロマトグラフ(電気伝導度)の基本構成

イオンクロマトグラフ(電気伝導度)の基本構成
図出典:(般社)日本分析機器工業会イオンクロマトグラフの原理と応用

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 【操作・動作の概要】

 基本操作
 測定対象のイオン種成分,用いる分離カラム及び分離方法(分離機構),検出器,カラム分離後の処理方法などによって選択された溶離液(例えば,無機陰イオンの電気伝導度分析用には炭酸塩緩衝液,水酸化カリウム,ほう酸塩緩衝液などの塩基性溶液)を定量ポンプ(脈流の小さい高圧の送液ポンプ)で一定量(例えば,1 – 2 mL /min )送り込む。
 出力値(バックグランド)が安定した段階で,試料導入部(インジェクター)から一定量の試料(例えば,25 μL )を溶離液の流れに瞬時に乗せる。この機能は,一定量の試料を保持するループを備え,溶離液の流路の切り替えが可能な 6 方バルブを用いることで実現される。
 
 試料を含む溶離液の流れが,分離カラムに入ることで,試料中のイオン種成分が酸塩基平衡定数の違いに応じて分離される。分離カラムは,内径 0.2 – 9 mm ,長さ 10 – 500 mm のステンレス鋼や合成樹脂製の管に充塡剤を詰めたものである。
 充填剤には,ポリスチレン,ポリメタクリレート,ポリビニルアルコールなどの有機高分子の表面をイオン交換体で被覆したもの,多孔性のシリカゲルの表面をイオン交換体で被覆したものの粒子が用いられる。
 陽イオンの分離には,スルホン酸基( – SO3- )やカルボン酸基( – COO- )をイオン交換基に持つ陽イオン交換体が用いられ,無機陰イオンの分離には,第四級アンモニウムカチオン( – N+ R3 )を持つ強塩基性陰イオン交換体が,有機酸類の分離ではスルホン酸基やカルボン酸基を持つ充填剤が用いられる。
 
 動作原理
 イオン交換基を有する表面では,図に示すように,反対イオンとの静電的吸脱着力の違いにより,繰り返しで移動するイオン交換モード,イオン交換基と同イオンの反発程度の違いにより移動するイオン排除モードがある。

イオンの分離法

イオンの分離法
図出典:(株)島津製作所有機酸の分析法

 陽イオンや強酸となる無機陰イオン(無機酸)の分離にはイオン交換モードが用いられ,弱酸が多い有機陰イオン(有機酸)の分離にはイオン排除モードが用いられる。なお,陽イオンと陰イオンを同時に分離できるように工夫された充填剤も存在する。
 
 試料を含む溶離液が分離カラムを移動するに従い,イオン種成分別に分離カラムを通過する時間に差が生じる。そこで,カラム出口から溶出する溶液を連続的に検出することで,下図に例示する溶出時間保持時間,リテンションタイムなどともいう)と検出信号の関係が得られる。
 同じ試験条件における標準物質の保持時間と検出強度を比較することで,イオン種の定性分析と定量分析が可能となる。
 なお,検出器には,電気伝導度検出器,紫外可視吸光光度検出器,電気化学検出器,蛍光検出器,質量分析計,ICP 発光分光分析計などが用いられる。

陰イオン分析例

陰イオン分析例
図出典:(株)島津製作所陰イオン12成分の標準試料のクロマトグラム

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 【主な溶離液と関連用語】

 JIS K 0127 「イオンクロマトグラフィー通則」
 溶離液( eluent )
 カラムに保持されている試料中のイオン種成分を展開,溶出させるための液体。
 溶離液の満たすべき条件
 1) 充塡剤に対して不活性である。
 2) 測定するイオン種成分の分離に適切である。
 3) 検出器での検出に適している。
 4) サプレッサー及び誘導体化装置を用いる場合はその機能を十分に満足しなければならない。
 5) 測定するイオン種成分を不純物として含まない。
 6) 長時間化学的に安定である。
 溶離液の例
 1) サプレッサー法による無機陰イオンの分析 溶離液には通常炭酸塩緩衝液,水酸化カリウム,ほう酸塩緩衝液などの塩基性溶液を用いる。
 2) ノンサプレッサー法による無機陰イオンの分析 溶離液にはモル電気伝導率が比較的低いフタル酸,p-ヒドロキシ安息香酸などの溶液を用いる。
 3) アルカリ金属,アンモニウム,アルカリ土類金属イオンの分析 溶離液には通常強酸(硝酸,硫酸など),有機酸(メタンスルホン酸,くえん酸,しゅう酸など)などを用いる。
 4) イオン排除法による有機酸の分析 溶離液には有機酸の解離を抑制するために,りん酸,過塩素酸,硫酸などの検出の妨害とならない酸を用いる。
 
 JIS K 0214 「分析化学用語(クロマトグラフィー部門)」
 イオンクロマトグラフィー( ion chromatography )
 イオン交換体などを固定相とした分離カラム内において試料溶液中のイオン種成分を展開溶離させ,電気伝導度検出器,電気化学検出器,分光光度検出器,蛍光検出器などによって測定する分析方法。
 液体クロマトグラフィー( liquid chromatography ; LC )
 移動相として液体を用いるクロマトグラフィー。
 高速液体クロマトグラフィー( high performance liquid chromatography ; HPLC )
 液体の移動相をポンプなどによって加圧してカラムを通過させ,試料成分を固定相と移動相との相互作用(吸着,分配,イオン交換,サイズ排除など)の差を利用して高性能に分離して検出する方法。
 ガスクロマトグラフィー( gas chromatography ; GC )
 移動相として気体を用いるクロマトグラフィー。
 吸着クロマトグラフィー( adsorption chromatography )
 固定相に吸着剤を用い,試料成分を気固又は液固吸着平衡の差によって分離するクロマトグラフィー。
 逆相クロマトグラフィー( reversed phase chromatography )
 固定相よりも極性の高い移動相を用いる分配液体クロマトグラフィー。
 注記 通常,ODS( n-オクタデシルシリル基を共有結合させたシリカゲルの略称。)のような疎水性の固定相と水系移動相(水,メタノール,アセトニトリルなどの混合溶液)とを用いる。
 ゲル浸透クロマトグラフィー( gel permeation chromatography ; GPC )
 サイズ排除クロマトグラフィーのうち,溶離液に有機溶媒を用い,試料成分の分子の大きさなどによって分離を行う液体クロマトグラフィー。
 ゲルろ過クロマトグラフィー( gel filtration chromatography ; GFC )
 サイズ排除クロマトグラフィーのうち,溶離液に水溶液を用い,試料成分の分子の大きさ,イオン相互作用などによって分離を行う液体クロマトグラフィー。
 サイズ排除クロマトグラフィー( size exclusion chromatography ; SEC )
 固定相として非吸着性多孔質固体を用い,試料成分の分子の大きさによって分離を行うクロマトグラフィー。
 薄層クロマトグラフィー( thin layer chromatography ; TLC )
 ガラスなど平滑な板の上に吸着剤を薄く均一に塗布したものを固定相とし,通常上昇展開によって行う液体クロマトグラフィー。
 ペーパークロマトグラフィー( paper chromatography )
 ろ紙(又はろ紙に含浸させた液体)を固定相とし,移動相を上昇又は下降展開させる液体クロマトグラフィー。
 イオン交換体( ion exchanger )
 イオン交換基をもつ充塡剤又は膜。イオン交換樹脂,イオン交換膜などがある。
 イオン交換容量( ion exchange capacity )
 単位量のイオン交換体がイオン交換できる対(たい)イオンの量。
 カラム( column )
 主に試料成分の分離が行われる充塡剤が充塡された管,又はキャピラリー管。キャピラリー管の内壁には,固定相が保持されたもの及び内面処理を施したものがある。
 注記 カラムには,分離カラム,プレカラム,ガードカラムなどがあるが,一般に分離カラムをいう場合が多い。
 キャピラリーカラム( capillary column )
 内径約 l mm 以下の中空カラム又は充塡カラムの総称。
 充塡剤( column packing ; packing material )
 クロマトグラフィー管に固定相として充塡する物質。主に,粒子,表面修飾した粒子及び連続構造のモノリス材がある。カラム充塡剤ともいう。
 サプレッサー( suppressor )
 イオンクロマトグラフィーにおいて電気伝導度検出器を用いる場合,測定するイオン種成分の検出を損なうことなくバックグラウンドとなる電気伝導度を低減する装置。
 内標準法( internal-standard method )
 一定濃度の内標準物質を含む 3∼4 段階濃度の希釈標準液のクロマトグラムを記録してピーク面積を測定し,次いで,導入した分析種の量(Mx)と内標準物質の量(Ms)との比(Mx/Ms)を横軸に,分析種のピーク面積(Ax)と内標準物質のピーク面積(As)との比(Ax/As)を縦軸にして作成した検量線から分析種の定量を行う方法。
 保持時間( retention time )
 カラムに試料を導入後,対象成分のピークの頂点が現れるまでの時間。
 溶媒効果( solvent effect )
 キャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィーにおいて,分析種がカラム先端部に凝縮した溶媒に強く保持され,ピーク幅が狭くなる現象。

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