第四部:無機化学の基礎 無機分析化学(機器分析)
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ここでは,物質の状態分析目的で実施されるX線回折に関連し, 【X線回折法とは】, 【X線回折装置】, 【X線源】 に項目を分けて紹介する。
X線回折法とは
X線回折法( X-ray diffractometry ; XRD )
X線が結晶格子で回折を示す現象を利用して,物質の結晶構造を決定する方法。( JIS K 0212「分析化学用語(光学部門)」)
結晶にX線を照射すると,ブラッグの反射条件又はラウエの回折条件に従って,その結晶に特有の回折パターンが得られることを用いて,結晶の構造解析を行う方法。( JIS K 0215「分析化学用語(分析機器部門)」)
ラウエの回折条件は,結晶によるX線の回折の基本となる条件で,ブラッグ条件と同等である。
ブラッグ反射( Braggʼs reflection )
結晶の格子面に入射し,反射したX線がブラッグの式の条件を満たすとき,回折波(反射線)として強め合う現象。( JIS K 0212「分析化学用語(光学部門)」)
ブラッグの式( Bragg equation )
結晶によるX線の回折が起こるための条件を与える式。
注記 式は次による。 2d sin θ=nλ
ここに,d:格子面間隔 θ:ブラッグ角 λ:X線の波長 n:整数( JIS K 0212「分析化学用語(光学部門)」)
物質に照射されたX線
特性X線では,物質に照射されたX線のうち,あるエネルギーを超えるX線は,内殻原子に吸収され,電子の放出に寄与することを紹介した。
実際には,外部から照射されたX線のうち,内殻電子に吸収されるX線は一部であり,照射されたX線の多くは,物体の原子と原子の間(すき間)を通過したり,原子による反射(散乱・回折)により物体の外部に出てゆく。
波としてのX線
X線は,電磁波の一種である,すなわち波としての特徴を有する。
水の波(波紋),空気の波(音),電磁波(ラジオ波,光,X線,γ線),粒子の波(電子線,中性子線)などの媒体を伝わる波は,障害物があると,その背後に回り込む現象,すなわち回折( diffraction )が起きる。
障害物が多数存在する場合は,それぞれで回折した波の衝突が起き,ある場所では波が弱め合い,異なる場所で強め合う干渉( interference )が起きる。
吸光光度計などの分光に用いる回折格子では,得られる縞(干渉縞)の強め合う限界の角度θm ,平衡に配置される格子間の距離 d ,波の波長λ,波の入射角度θ0 とすると,次の関係にあることが知られている。
d ( sinθm – sinθ0 ) = nλ ( n は正負の整数)
一方,物体は原子の集合体であり,結晶性が高い場合には,【固体の形と結晶構造】で紹介したように,複数の原子で構成される単位格子が繰り返し,原子が規則正しく配列している。
このため,結晶内には,原子の並んだ面(結晶面)が複数存在する。これが,回折格子における格子成分に相当する。なお,複数ある結晶面を区別するため,結晶学では面指数(ミラー指数)が用いて区別している。
X線回折関連用語
面内回転試料台( specimen rotation stage )
試料を測定面に垂直な軸の周りに回転させることによって,回折X線強度への粒径の影響を平均化する試料台。
モノクロメータ( monochrometor )
X線の波長選択を行うための分光器。
質量吸収係数( mass absorption coefficient )
X線の吸収する度合を表す係数(吸収係数)を物質の密度で割った量。
リートベルト法( Rietveld method )
粉末回折データを非線型最小二乗法で処理することによって格子定数や構造パラメータの最も確からしい値を求める方法。最も確からしい値を求めることを精密化という。
面指数( Miller indices )
結晶の格子面を表す指数。ミラー指数ともいう。
残留応力( residual stress )
多結晶体が外力によって弾性的に変形されて応力が生じ,外力が除去された後も多結晶体内部に残存する応力。試料表面に対して平行な方向に引っ張られたような変形を示す場合を引張応力 ( tensile stress ) ,圧縮が加えられたような変形を示す場合を圧縮応力( compressive stress ) という。
動径分布( radial distribution )
任意の原子を中心としたときの他の原子までの距離の分布。
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X線回折装置
一般的なブラッグ-ブレンターノ( Bragg - Brentano )型の回折計では,検出器の回転( 2 θ)に連動して,必ず半分の角度(θ)で試料を回転させながらX線の強度を測定する。
この時,X線源,試料面,及び検出器はローランド円に接するように移動するゴニオメータを用いている。
このようにすることで,平板状に成形された試料表面で,次に示すブラッグ条件を満たすように反射したX線は,線源と対称な位置にある検出器で近似的に焦点を結ぶことができる。
この装置で,試料の結晶面と検出器の成す角度をθとすると,X線源と結晶面の成す角度は-θとなるので,干渉により強め合う限界は,先に示した干渉縞の式において,θm = θ,θ0 = -θとでき,d を結晶面の間隔,λをX線の波長,n を整数とした時
2d sinθ = nλ
とできる。この関係式をブラッグ条件と呼び,この条件が満たされるとき,X線は強め合う。
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X線源
同じミラー指数の結晶面の間隔( d )は,概ねで0.5×10-10m ~ 3×10-10 m の範囲が多い。ブラック条件から分かるように,これと同程度の波長を持つX線が入射すると回折現象を観察することができる。
最適の特性X線は,最も強度の高い Kα1 線であるが,概ねで半分の強度の Kα2 線の波長が近いので,標準的な粉末X線回折計ではこれらを区別せずに両方とも検出する仕様となっている。
このため,X線回折結果では,Kα1 線と Kα2 線の加重平均した波長( Kα 線)を用いて面間隔を計算するのが常である。
一般的なX線回折用の線源(X線管)は,【蛍光X線分析】で紹介したX線管と同様の構造で,ターゲット用金属には,下表に示すように,結晶面の間隔に近い波長の特性X線( Kα線)を持つクロム( Cr ),コバルト( Co ),鉄( Fe ),銅( Cu ),及びモリブデン( Mo )が用いられている。この中で最も一般的に用いられるのは銅である。
ターゲット金属 | Kα1 | Kα2 | Kα (加重平均) |
---|---|---|---|
クロム( Cr ) | 2.293606 | 2.28970 | 2.29100 |
鉄( Fe ) | 1.939980 | 1.936042 | 1.937355 |
コバルト( Co ) | 1.792850 | 1.788965 | 1.790260 |
銅( Cu ) | 1.540562 | 1.544390 | 1.541838 |
モリブデン( Mo ) | 0.709300 | 0.713590 | 0.710730 |
X線回折法については,JIS K 0131 「X 線回折分析通則」において,装置関連以外に,粉末試料の作成方法,定性分析方法,定量分析方法,格子定数の測定方法,結晶化度の求め方,配向性評価,残留応力測定方法,動径分布測定などが規定されている。
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