化 学 (無機化学)

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 ここでは,物質の状態分析目的で実施されるX線回折に関連して,【状態分析とX線回折】【X線回折法とは】【X線回折装置】【X線源】【関連用語】に項目を分けて紹介する。

 【状態分析とX線回折】

 状態分析( analysis of state )とは,試料の含有元素以外の化学情報(例えば,化合物の形態,分布,結晶系など)を得るための分析をいう。
 
 物質の立体構造(結晶構造)
 結晶の格子定数や面間隔を求められるX線回折法( XRD ),低速電子線回折( LEED )高速電子線回折( HEED )が,結晶構造の温度変化(相変化)の追跡に温度制御ができる高温X線回折が,結晶の配向程度(結晶性)の評価に偏光ラマン分光法などが用いられる。
 
 化合物組成や官能基など
 別に紹介する表面分析以外には,複数の原子が結合した状態の分子やイオンの構造は元素分析と質量分析( MS )との組み合わせで知ることができる。
 化合物の熱分解との関連を示差熱分析( DTA )などから,化合物を特定できる官能基の種類と量をラマン分光法,フーリエ変換赤外分光光度法( FT - IR )などから評価できる。また,注目する原子の周辺の原子に関する情報は,化学シフトを利用した核磁気共鳴分光分析法(NMR),蛍光X線分析( XRD ),X線吸収端分析などを用いて知ることができる。
 化合物やイオンについては,例えば液体クロマトグラフィー( LC ),高速液体クロマトグラフィー( HPLC ),液体クロマトグラフ質量分析( LC/MS ),ガスクロマトグラフィー( GC ),ガスクロマトグラフ質量分析( GC/MS ),イオンクロマトグラフィー( IC )を用いて,状態別に分離することで定性・定量分析ができる。

 

 【X線回折法とは】

 X線回折法( X-ray diffraction ; XRD )とは,“結晶にX線を照射すると,ブラッグの反射条件又はラウエの回折条件に従って,その結晶に特有の回折パターンが得られることを用いて,結晶の構造解析を行う方法。”と定義される。
 
 物質に照射されたX線
 【蛍光X線,特性X線】で紹介したように,物質に照射されたX線のうち,あるエネルギーを超えるX線は,原子に吸収され内殻電子の放出に寄与することを示したが,内殻電子に吸収されるX線は一部で多くのX線は,物体の原子と原子の間(すき間)を通過したり,原子による反射(散乱)により物体の外部に出てゆく。
 
 波としてのX線
 X線は,電磁波の一種である,すなわち波としての特徴を有する。
 水の波(波紋),空気の波(音),電磁波(ラジオ波,光,X線,γ線),粒子の波(電子線,中性子線)などの媒体を伝わる波は,障害物があると,その背後に回り込む現象,すなわち回折( diffraction )が起きる。
 障害物が多数存在する場合は,それぞれで回折した波の衝突が起き,ある場所では波が弱め合い,異なる場所で強め合う干渉( interference )が起きる。
 
 吸光光度計などの分光に用いる回折格子では,得られる縞(干渉縞の強め合う限界の角度θm ,回折格子の格子成分同士の距離 d ,波の波長λ,波の入射角度θ0 とすると,次の関係にあることが知られている。
      d ( sinθm – sinθ0 ) = nλ ( n は正負の整数)
 
 一方,物体は原子の集合体であり,結晶性が高い場合には,【固体の形と結晶構造】で紹介したように,複数の原子で構成される単位格子が繰り返し,原子が規則正しく配列している。
 このため,結晶内には,原子の並んだ面(結晶面が複数存在する。これが,回折格子における格子成分に相当する。なお,複数ある結晶面を区別するため,結晶学では面指数ミラー指数が用いて区別している。

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 【X線回折装置】

 一般的なブラッグ-ブレンターノ( Bragg - Brentano )型の回折計では,検出器の回転( 2 θに連動して,必ず半分の角度(θ)で試料を回転させながらX線の強度を測定する。
 この時,X線源,試料面,及び検出器はローランド面に接するように移動するゴニオメータを用いている。
 このようにすることで,平板状に成形された試料表面で,次に示すブラッグ条件を満たすように反射したX線は,線源と対称な位置にある検出器で近似的に焦点を結ぶことができる。
 
 この装置で,試料の結晶面と検出器の成す角度をθとすると,X線源と結晶面の成す角度は-θとなるので,干渉により強め合う限界は,先に示した干渉縞の式において,θm = θ,θ0 = -θとでき,d を結晶面の間隔,λをX線の波長,n を整数とした時
      2d sinθ = nλ
 とできる。この関係式をブラッグ条件と呼び,この条件が満たされるとき,X線は強め合う

 X線回折の原理図

X線回折の原理図

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 【X線源】

 同じミラー指数の結晶面の間隔d は,概ねで0.5×10-10m ~ 3×10-10 m の範囲が多い。ブラック条件から分かるように,これと同程度の波長を持つX線が入射すると回折現象を観察することができる。
 最適の特性X線は,最も強度の高い Kα1 線であるが,概ねで半分の強度の Kα2 線の波長が近いので,標準的な粉末X線回折計ではこれらを区別せずに両方とも検出する仕様となっている。
 このため,X線回折結果では,Kα1 線と Kα2 線の加重平均した波長( Kα 線を用いて面間隔を計算するのが常である。
 
 一般的なX線回折用の線源(X線管)は,【蛍光X線分析】で紹介したX線管と同様の構造で,ターゲット用金属には,下表に示すように,結晶面の間隔に近い波長の特性X線( Kα線を持つクロム( Cr ),コバルト( Co ),鉄( Fe ),銅( Cu ),及びモリブデン( Mo )が用いられている。この中で最も一般的に用いられるのはである。


代表的なX線管の特性X線の波長( ×10-10 m )
  ターゲット金属    Kα1    Kα2    Kα (加重平均) 
  クロム( Cr )    2.293606    2.28970    2.29100 
  鉄( Fe )    1.939980    1.936042    1.937355 
  コバルト( Co )    1.792850    1.788965    1.790260 
  ( Cu )    1.540562    1.544390    1.541838 
  モリブデン( Mo )    0.709300    0.713590    0.710730 

 X線回折法については,JIS K 0131 「X 線回折分析通則」において,装置関連以外に,粉末試料の作成方法,定性分析方法,定量分析方法,格子定数の測定方法,結晶化度の求め方,配向性評価,残留応力測定方法,動径分布測定などが規定されている。

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 【関連用語】

 面内回転試料台( specimen rotation stage )
 試料を測定面に垂直な軸の周りに回転させることによって,回折X線強度への粒径の影響を平均化する試料台。
 モノクロメータ( monochrometor )
  X線の波長選択を行うための分光器。
 質量吸収係数( mass absorption coefficient )
  X線の吸収する度合を表す係数(吸収係数)を物質の密度で割った量。
 リートベルト法( Rietveld method )
  粉末回折データを非線型最小二乗法で処理することによって格子定数や構造パラメータの最も確からしい値を求める方法。最も確からしい値を求めることを精密化という。
 ブラッグの式( Bragg equation )
  X線回折が起こるための条件を与える式。
 面指数( Miller indices )
  結晶の格子面を表す指数。ミラー指数ともいう。
 残留応力( residual stress )
  多結晶体が外力によって弾性的に変形されて応力が生じ,外力が除去された後も多結晶体内部に残存する応力。試料表面に対して平行な方向に引っ張られたような変形を示す場合を引張応力 ( tensile stress ) ,圧縮が加えられたような変形を示す場合を圧縮応力 ( compressive stress ) という。
 動径分布( radial distribution )
  任意の原子を中心としたときの他の原子までの距離の分布。

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