化 学 (無機化学)

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 ここでは,物質の表面や局所の分析に関連して,【局所と表面の分析】【幾何学的構造の分析方法】【原子状態の分析方法】【原子価状態,結合状態の分析方法】【その他の局所・表面分析法】に項目を分けて紹介する。

 【局所と表面の分析】

 局所分析( local analysis )とは,JIS K 0211 「分析化学用語(基礎部門)」で“試料の微視的部分の組成を求め,試料内の成分濃度の分布又は存在状態を知るために行う化学分析”と定義されている。
 
 表面分析又は表面化学分析( surface chemical analysis )は,JIS K 0147 「表面化学分析−用語」,JIS K 0211 「分析化学用語(基礎部門)」の何れにも定義されていないが,一般的には次の様に考えられている。
 表面分析とは,固体表面幾何学構造(表面原子配列,欠陥)や表面原子の状態(原子組成,結合状態その他),固体表面に吸着した化学種に関する諸現象の解析,定性・定量分析などの総称である。
 これらを実現するため,固体表面に電子,イオン,光,中性原子などを衝突させ,表面との相互作用(散乱,吸収,透過,イオン化など)を観察する方法が採られる。
 表面からの深さ方向では,相互作用に用いる手法により異なり,表面第一層(単分子層)からμm 単位の内部まで,目的に応じて選択できる。
 
 JIS K 0147 「表面化学分析−用語」に規定される分析方法には,
 オージェ電子分光法( Auger electron spectroscopy ; AES ),電子エネルギー損失分光法( electron energy loss spectroscopy ; EELS ),X 線光電子分光法( electron spectroscopy for chemical analysis ; ESCA ),高速原子衝撃質量分析法( fast atom bombardment mass spectrometry ; FABMS ),グロー放電分析法( glow discharge spectrometry ; GDS ),グロー放電発光分光分析法( glow discharge optical emission spectrometry ; GDOES ),グロー放電質量分析法( glow discharge mass spectrometry ; GDMS ),高速イオン散乱分光法( high-energy ion-scattering spectrometry ; HEISS ),低速イオン散乱分光法( low-energy ion-scattering spectrometry ; LEISS ),中速イオン散乱分光法( medium-energy ion-scattering spectrometry ; MEISS ),ラザフォード後方散乱法( Rutherford backscattering spectrometry ; RBS ),二次イオン質量分析法( secondary-ion mass spectrometry ; SIMS ),スパッタ中性粒子質量分析法( sputtered neutral mass spectrometry ; SNMS ),全反射蛍光 X 線分析法( total-reflection X-ray fluorescence spectroscopy ; TXRF ),真空紫外光電子分光法( ultra-violet photoelectron spectroscopy ; UPS ),X 線光電子分光法( X-ray photoelectron spectroscopy ; XPS )が,
 さらに局所の表面分析が可能な方法として,走査オージェ電子顕微鏡( scanning Auger microscope ; SAM ),電子線マイクロアナリシス( electron probe microanalysis ; EPMA ),走査電子顕微鏡( scanning electron microscope ; SEM )などが挙げられている。
 
 JIS K 0215 「分析化学用語(分析機器部門)」の表面分析機器欄に規定される分析方法には,
 イオン散乱分光( ion scattering spectroscopy ; ISS ),オージェ電子分光法,グロー放電スペクトル法,低速電子線回折( low energy electron diffraction method ; LEED ),高速電子線回折( high energy electron diffraction method ; HEED ),反射高速電子線回折法( reflection high energy electron diffraction method ; RHEED ),X 線光電子分光法,真空紫外光電子分光法,全反射 X 線回折法,全反射蛍光 X 線分析法,二次イオン質量分析法,ラマン分光法( Raman scattering spectroscopy )が,
 さらに局所の表面分析が可能な方法として,走査オージェ電子顕微鏡,原子間力顕微鏡( atomic force microscope ; AFM ),走査近接場光顕微鏡( scanning near field optical microscope ),走査トンネル顕微鏡( scanning tunneling microscope ; STM ),走査プローブ顕微鏡( scanning probe microscope ; SPM ),電界イオン顕微鏡( field ion microscope ; FIM ),電子線マイクロアナライザーなどが挙げられている。
 
 なお,比較的活用例の多い電子顕微鏡,電子線回折の原理を【電子顕微鏡・電子線回折】で,電子線マイクロアナリシス,オージエ電子分光法,X線光電子分光法の原理を【電子衝突と局所・表面分析】で紹介する。

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 【表面の幾何学的構造の分析方法】

 表面原子配列の分析方法
 低速電子線回折( low energy electron diffraction method ; LEED )
 低エネルギー(加速エネルギーが 1 keV 以下)の電子線を入射し,電子線の回折像から物質の表面の原子構造を解析する方法。
 高速電子線回折( high energy electron diffraction method ; HEED )
 高エネルギー(加速エネルギーが 10 keV 以上)の電子線を入射し,得られる回折像を解析する方法。
 反射高速電子線回折法( reflection high energy electron diffraction method ; RHEED )
 HEED で反射電子線の回折像を観察する方法。
 
 電界イオン顕微鏡( field ion microscope ; FIM ),電界放射顕微鏡( field emission microscope : FEM )
 先端を鋭く尖らせた金属の針状試料に高電圧を印加することで,試料表面に生ずる極めて高い電界により,試料表面から放出される電子又はイオンを用いて表面状態の拡大像(投影型顕微鏡)を得る機器。
 
 微細構造,欠陥等の表面・局所の分析方法
 上記の低速電子線回折( LEED ),電界イオン顕微鏡( FIM )や電界放射顕微鏡( FEM )の他に,
 走査電子顕微鏡( scanning electron microscope ; SEM )
 細く収束した数十 kV の電子プローブを試料上で二次元的に走査することによって試料から得られる二次電子などを用いて表面の拡大像を観察できる顕微鏡。
 原子間力顕微鏡( atomic force microscope ; AFM )
 探針を走査しながら試料と探針との間に働く原子間力の変化を検出して,表面の構造を解析する顕微鏡。
 走査トンネル顕微鏡( scanning tunneling microscope ; STM )
 探針と試料との間に流れるトンネル電流値の変化を測定しながら,探針を走査し,表面の原子の位置及び電子状態を解析する顕微鏡。
 走査プローブ顕微鏡( scanning probe microscope ; SPM )
 探針を走査しながら試料と探針との間に働く原子間力,摩擦力,磁気力などの相互作用の変化を検出して,表面の形状,性質などを解析する顕微鏡の総称。

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 【表面の原子状態の分析方法】

 グロー放電分析法( glow discharge spectrometry ; GDS )
 グロー放電を利用して試料の成分元素を励起し,放射された光を分光して得られるスペクトルから成分分析を行う分析法。
 グロー放電を利用する方法には,試料表面で生成するイオンの質量対電荷比及び存在度を質量分析計によって測定するグロー放電質量分析法( glow discharge mass spectrometry ; GDMS ),グロー放電によって表面で励起される光の波長と強度とを発光分光器によって測定するグロー放電発光分光法( glow discharge optical emission spectrometry ; GDOES )がある。
 グロー放電発光分光法は,金属表面,半導体,有機物,ガラスなどの深さ方向の元素分布分析などで広く用いられており,JIS K 0144 「表面化学分析—グロー放電発光分光分析方法通則」に詳細な規定がある。
 電子線マイクロアナライザー( electron probe microanalyzer ; EPMA )
 細く絞った電子線を試料表面に照射し,発生する特性X線を分光して元素の組成及び分布を解析する機器。なお,EPMA は,1990 年頃までX線マイクロアナリシス( X-ray micro analysis ; XMA )とも称していた。
 X線光電子分光法( X-ray photoelectron spectroscopy ; XPS )
 物質にX線( AlKα,MgKα線など)を照射したときに放出される光電子の運動エネルギー分布を測定することによって光電子ピークのケミカルシフトから元素の化学結合状態について解析する方法。
 オージェ電子分光法( Auger electron spectroscopy ; AES )
 励起源として 2 keV 程度の電子線を固体表面に入射させ,オージェ効果によって得られるオージェ電子のエネルギー分布から,固体の表面の元素を解析する電子分光法。
 走査オージェ電子顕微鏡( scanning Auger electron microscopy ; SAM )
 細く絞った電子線を用いて試料表面を走査し,得られたオージェ電子による元素像(オージェ像)によって表面の元素,それらの分布状態を解析する顕微鏡。
 二次イオン質量分析法( secondary-ion mass spectrometry ; SIMS )
 高エネルギー(数 keV ~ 20 keV )のイオン( Cs+ ,O2+ など)を固体に照射し,スパッタリングによって放出される二次イオンを質量分離・検出する最も高感度で不純物分析が可能な方法。
 SIMS には,測定中に物質表面が連続的に削られるダイナミック SIMS と,表面が本質的な損傷を受けない条件(面ドーズ量 1016イオン数 /m2 未満)のスタティック SIMS がある。面ドーズ量とは,固体内に侵入した特定の種類のエネルギーをもった粒子数を表面積で割った値である。
 ラザフォード後方散乱分光法( Rutherford backscattering spectrometry ; RBS )
 高速イオン( He+ ,H+ など)を照射し,試料の原子核でラザフォード散乱(弾性散乱)を受けた散乱イオンのエネルギーと収量から深さ方向の元素組成を得る方法。
 真空紫外光電子分光法( ultraviolet photoelectron spectroscopy ; UPS )
 ヘリウム共鳴線( 58.4 nm,21.2 eV )などの真空紫外線を照射したときに放出される光電子の運動エネルギー分布,角度分布などを測定し,物質の電子構造,原子配列などを解析する方法。
 気体のスペクトルでは分子の振動スペクトル,固体のスペクトルでは固体の最外殻電子のスペクトル(バンドスペクトルともいう。)を含む。

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 【原子価状態,結合状態の分析方法】

 前出のX線光電子分光法( XPS ),オージェ電子分光法( AES ),真空紫外光電子分光法( UPS )でケミカルシフトを用いることで,結合状態などを解析できる。その他には,次の方法がある。
 電子スピン共鳴分光法( electron spinresonance spectroscopy ; ESR )
 電子スピン共鳴現象を利用して得られたスペクトルから物質の電子の構造解析などを行う方法。
 X線吸収微細構造解析( X-ray absorption fine structure ; XAFS )
 X線照射による内殻電子の励起に起因して得られる吸収スペクトルの励起電子と近接原子からの散乱電子の相互作用に起因して得られる振動構造を解析し,着目元素の局所構造(周囲の原子種,配位原子数,原子間距離など)に関する情報が得られる方法。

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 【その他の局所・表面分析法】

 上記の他に,JIS K 0147 「表面化学分析−用語: Surface chemical analysis Vocabulary 」に定義され表面分析法として,次のものがある。
 全反射蛍光X線分光法( total reflection X-ray fluorescence spectroscopy ; TXRF )
 全反射条件の下で一次X線を照射した表面から放出される蛍光 X 線のエネルギー分布をX線分光器で測定する手法。(表面層の元素分析)
 イオンビーム分析( ion beam analysis ; IBA)
 固体の最表面にある原子層の組成と構造とを調べる方法であって,原則的には単一エネルギーのプローブイオンが表面から散乱されたものを,そのエネルギー又は散乱角,若しくは両方の関数として記録する方法。
 プローブイオンのエネルギーが 0.1 keV ~ 10keV,50 keV ~ 200 keV,1 MeV ~ 2 MeV の範囲で基本的に異なった物理現象が起り,それぞれに対し低速イオン散乱分光法( LEISS ),中速イオン散乱分光法( MEISS ),ラザフォード後方散乱法( RBS )に分けられる。
 高速原子衝撃質量分析法( fast atom bombardment mass spectrometry ; FABMS )
 高速の中性原子の衝撃によって放出される二次イオンの質量対電荷比及び存在量を質量分析計によって測定する方法。
 スパッタ中性粒子質量分析( sputtered neutral mass spectrometry ; SNMS )
 粒子の衝撃によって放出される中性粒子を二次的にイオン化して,質量対電荷比及び存在度を質量分析計によって測定する方法。
 
 以上の分析法以外で,JIS K 0215 「分析化学用語(分析機器部門)」に表面分析機器として規定される方法として次の物がある。
 ラマン分光法( Raman scattering spectroscopy )
 ラマン散乱によって現れるスペクトルを対象とする分光法。
 全反射X線回折法( total reflection X-ray diffractometry ; TXRD )
 全反射が起こるような低角度で試料面にX線を照射することによって表面からの回折X線だけを検出して,物質の表面の結晶構造を解析する方法。
 反射高速電子線回折法( reflection high energy electron diffraction method ; RHEED )
 高速電子線回折法( HEED )で反射電子線の回折像を観察する方法。
 イオン散乱分光( ion scattering spectroscopy ; ISS )
 数百 eV 程度に加速した比較的軽いイオンを固体表面に入射し,散乱イオンのエネルギースペクトルによって表面に存在する元素種と濃度とを分析し,また,散乱イオン強度の入射角依存性によって表面上の原子配列を決定する方法。
 走査近接場光顕微鏡( scanning near field optical microscope )
 可視光領域でのエバネッセント効果を利用した光源をプローブとして用い,それを走査しながら物質の光学的性質の変化を検出し,表面の構造を解析する顕微鏡。

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