第四部:無機化学の基礎 生活と無機(燃焼ガスの処理)

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  ここでは,ガソリンエンジンなどの燃焼ガス浄化に用いる三元触媒に関連し, 【三元触媒とは】, 【排ガス浄化の化学反応】, 【三元触媒の浄化特性に与える影響】 に項目を分けて紹介する。

  三元触媒とは

 1970年代に,自動車排気ガスの環境汚染に対する関心が高まり,排気ガス規制が 1975年から開始した。規制に適合するため,種々の開発がなされ,図に示すような三元触媒を用いた方式が一般化している。

三元触媒

三元触媒
出典:トヨタ自動車(株) トヨタ自動車75年史

 ガソリンエンジンの排出ガスに含まれる環境や人に対し毒性があり,比較的濃度が高い化学種として,炭化水素類( HC ),一酸化炭素( CO ),窒素酸化物( NOx )が主要物質として挙げられる。その他には,イオウ酸化物( SOx )やリン酸化物( POx )も少量であるが含まれる。ディーゼルエンジンでは,さらに固体の粉塵( SP )も問題となる。

 一酸化炭素は,人体に重大な影響を与える物質としてよく知られている。窒素酸化物は,呼吸器障害のみならず,「環境問題」で紹介するように光化学オキシダントの原因物質である。炭化水素は,窒素酸化物と同様に,光化学オキシダントの原因物質であるとともに,発がん性物質のベンゼンや 1 – 3 ブタジエンを含むことも問題視される。

 排ガス中の炭化水素,一酸化炭素,窒素酸化物を同時に処理する機能を持つ触媒を「三元触媒」という。
 三元触媒とは,触媒機能を持つ白金( Pt )パラジウム( Pd )ロジウム( Rh )などの貴金属(レアメタル)を微粒子(ナノ粒子)化し,下図に例示するように,担体表面に付着させたものである。
 担体には,多孔質の酸化アルミニウム(アルミナ( Al2O3 ),酸素貯蔵機能を有する酸化セリウム(Ⅳ)(セリア: CeO2 )と二酸化ジルコニウム(ジルコニア: ZrO2 )の固溶体などが多く用いられている。

三元触媒の電子顕微鏡像

三元触媒の電子顕微鏡像
図出典:科学技術・学術政策研究所 科学技術動向 2010年12月号自動車排出ガス触媒の現状と将来

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  排ガス浄化の化学反応

 三元触媒の表面では,複雑な化学反応が起きていると考えられる。これを模式的に示すと,次に示すように,炭化水素一酸化炭素を酸化し,二酸化炭素に変え,窒素酸化物を還元し,窒素に変える反応が起きている。
      4CnHm + (4n+m) O2 → 4nCO2 + 2mH2O
      2CO + O2 → 2CO2
      2NOx → N2 + xO2

 これらが同時に起きると考えると,次の様に表すこともできる。
      2NOx + αCO + 2βCnHm + γO2 → N2 + βmH2O + (α+2βn) CO2
      ここで,γ={α+β( m + 4n ) }/ 2 - x

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  三元触媒の浄化特性に与える影響

 浄化特性
 三元触媒の性能は,化学反応であることから,触媒の温度と酸素の濃度に影響される。ガソリンエンジンの空気と燃料の混合比を空燃比(A/F)といい,触媒周辺の酸素濃度が空燃比と相関があると仮定し,触媒の性能(浄化特性)を評価するのが一般的である。
 三元触媒の浄化特性は,下図に示すように,エンジンの空燃比(A/F)に大きく依存し,ある範囲(触媒の浄化ウインドウと呼ぶ)で最も有効に働くことが分かる。
 そこで,適切な浄化率の維持を,図「三元触媒」に示した例の様に,空燃比を精密に制御する酸素センサーを用いた燃料噴射制御( EFI )で実現しているのが通例である。

触媒の働きと浄化ウインドウ

触媒の働きと浄化ウインドウ
元図出典:トヨタ(株)技術開発 材料(補足説明)

 触媒温度の影響
 (独)交通安全環境研究所 小高らの「寒冷地における触媒温度挙動が亜酸化窒素(N2O)排出に与える影響」(平成 13 年度フォーラム 自動車の低公害化に関する研究 )の報告によると,
 触媒活性化は,触媒温度に大きく依存する。図に示す触媒の 窒素酸化物( NOx 茶色線)と 一酸化炭素( CO 青色線)の浄化率が 50%となる温度(触媒活性化温度)は約 250℃で,浄化率 95%に達する温度(触媒活性温度)は 350℃付近にある。
 一方で,窒素酸化物(例えば NO2 )の還元過程で生成する 亜酸化窒素( N2O )の量(緑色線)は,150℃程度から始まり,触媒温度の増加と共に増加し,約 320℃でピークを迎え,その後亜酸化窒素の分解が進み(赤色線)により減少し,550℃付近 浄化率 95%に至る。
 亜酸化窒素( N2O )は,CO2 の約300倍の温室効果を持つといわれ,人為的発生源の中で約 40%が自動車からの排出といわれている。従って,排気ガス浄化では,亜酸化窒素の発生を極力抑える必要がある。
 すなわち,自動車排気ガスの浄化では,触媒温度が 500℃を超える運転が重要であることが分かる。

触媒温度に対する N<sub>2</sub> Oの生成分解特性

触媒温度に対する N2O の生成分解特性
出典:(独)交通安全環境研究所 平成 13 年度フォーラム 自動車の低公害化に関する研究
「 ⑭ 寒冷地における触媒温度挙動が亜酸化窒素(N2O)排出に与える影響」

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