第四部:無機化学の基礎 生活と無機(環境問題)

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  ここでは,地球温暖化による環境問題に関連して, 【地球温暖化とは】, 【温室効果とは】, 【温室効果ガス】, 【低炭素社会の構築】, 【亜酸化窒素( N2O )の発生と削減】 に項目を分けて紹介する。

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  地球温暖化とは

 石炭・石油等の化石燃料の燃焼等により,二酸化炭素( CO2 )など温室効果ガスの大気中濃度が上昇し,この結果として地球規模の気温上昇,気候の変動を生じる問題を気候変動地球温暖化という。
 気候変動に関する政府間パネル( IPCC )は,2014年の第 5次評価報告書統合報告書において,観測された変化や将来の気候変動について,次の様に報告している。
 観測された変化及びその原因
 ・気候システムの温暖化については疑う余地がない。
 ・人為起源の温室効果ガスの排出が 20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった 可能性が極めて高い。
 ・ここ数十年,気候変動は全ての大陸と海洋にわたり,自然及び人間システムに影響を与えている。
 将来の気候変動,リスク及び影響
 ・温室効果ガスの継続的な排出は,更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし,それにより,人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を生じる可能性が高まる。
 ・21 世紀終盤及びその後の世界平均の地表面の温暖化の大部分は二酸化炭素の累積排出量によって決められる。
 ・地上気温は,評価された全ての排出シナリオにおいて 21世紀にわたって上昇すると予測される。
 ・多くの地域で,熱波がより頻繁に発生し,また,より長く続き,極端な降水がより強くまたより頻繁となる可能性が非常に高い。
 ・海洋では,温暖化と酸性化,世界平均海面水位の上昇が続くだろう。
 ・気候変動の多くの特徴及び関連する影響は,たとえ温室効果ガスの人為的な排出が停止したとしても,何世紀にもわたって持続するだろう。

世界平均地上温度の変化

世界平均地上温度の変化
図出典:環境省H27「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」

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  温室効果とは

 地表の物体温度や地表近くの気温は,地表が受けた日射と地表からの放射のバランス(熱収支)により定まる。地表における日射と放射の機構について,概念的には,【腐食概論】の「放射冷却」で紹介している。

 地表の温度を厳密に評価するためには,地形,物質の放射率,熱容量,熱伝達,水の気化,気流などの複雑な影響を考慮しなければならないが,単純化すると次のように考えられる。
 地表面付近の温度は,物体(大地,海洋,大気)が,最大の熱源である太陽からの光エネルギー吸収(約 70%)することで物体の分子振動などの運動エネルギー増加で上昇する。
 一方で,物体から宇宙に向かってエネルギー(波長の長い赤外線として)が放射されることで分子振動などの運動エネルギー減少で温度が低下する。
 実際的にも,日射のある昼間より,放射が中心となる夜間の温度が低いこと,晴天の日より宇宙へのエネルギー放射を遮る雲の多い日の地表温度に変化が少ないことなどでもこの現象を経験できる。

 地球の熱収支と大気の役割
 ここで,地球に大気が無いと仮定した場合に,太陽から地球に入射する単位時間・単位面積当たりのエネルギーを 1,366W・m-2 ,地球の太陽光の反射能を 0.3 シュテファン‐ボルツマン定数 5.67×10-8W・m-2・K-4 から計算される地球表面の年間の平均温度は -18℃となる。
 一方,実施の地球表面では,地表面から一旦宇宙空間に向かって放射されたエネルギーが大気に吸収され,その後大気から放射されるエネルギーの一部が地表面に向かって放射される大気放射量'(下向き赤外放射量ともいう)により,年間平均温度 +15℃が保たれている。これが,大気による温室効果の結果である。

 大気放射量は,大気を構成する成分の赤外線吸収能力の違いや濃度で変わる。地球温暖化対策の推進に関する法律施行令で指定される温室効果ガスは,人為的な要因で濃度が増加した気体成分をいう。
 すなわち,大気中の赤外線を吸収する物質で濃度が高く,最も高い温室効果を示す物質は水蒸気であるが,人為的な要因で濃度が変動する物質ではないため,地球温暖化に影響する温室効果ガスとして指定されていない。
 下図には,国立環境研究所のホームページから,温室効果を地表と大気から出る赤外線(エネルギー)のスペクトルを用いて説明する図に加筆したものを紹介する。

地表および大気上端における赤外線スペクトル

地表および大気上端における赤外線スペクトル
元図出典:国立環境研究所 地球環境研究センター

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  温室効果ガス

 地球の温暖化に影響し,地球温暖化対策の推進に関する法律施行令で温室効果ガスとして指定される化学物質は,二酸化炭素( CO2 ),メタン( CH4 ),一酸化二窒素(亜酸化窒素: N2O ),ハイドロクロロフルオロカーボン( HFCs )の一部( 19種 ),パーフルオロカーボン( PFCs )の一部( 9 種),六ふっ化硫黄( SF6 ),三ふっ化窒素( NF3 )などである。下図には日本における排出量調査結果を示す。

日本の温室効果ガス排出( 2013年度)

日本の温室効果ガス排出( 2013年度)
● 二酸化炭素排出の内側の円は各部門の直接の排出量の割合(下段カッコ内の数字)  :
● 外側の円は電気事業者の発電に伴う排出量及び熱供給事業者の熱発生に伴う排出量を
を電力消費量及び熱消費量に応じて最終需要部門に配分した後の割合(上段の数字)。

出典:環境省 H27「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」

 それぞれの温室効果の程度と主な排出源は次の通りである。
 CO2 は温室効果ガスの約 9割を占め,そのうち約 8割程度が化石燃料消費に伴い発生している。
 CH4 の地球温暖化係数は CO225倍で,天然ガス,石油ガスに含まれるとともに,農業や家畜飼育でも発生する。
 N2O の地球温暖化係数は CO2298倍で,ボイラ,内燃機関の燃焼や農業活動に伴い発生する。
 HFCs の地球温暖化係数は CO212~9,810倍で,代替フロンとしてエアゾール噴霧剤・溶剤・冷却剤として用いられている。
 PFCs の地球温暖化係数は CO27,390~17,340倍で,冷媒,噴射剤として用いられたフロン類である。
 SF6 の地球温暖化係数は CO222,800倍で,ガス絶縁開閉装置,ガス絶縁変圧器,ガス遮断器等の絶縁媒体や消弧媒体として広く用いられている。
 NF3 の地球温暖化係数は CO217,200倍で,液晶ディスプレイ,太陽電池フィルム用のプラズマ CVD処理室の洗浄などに用いられている。

 関連用語
 地球温暖化係数( global warming potential : GWP )
 二酸化炭素を基準に,その気体の大気中における濃度あたりの温室効果の 100年間の強さを比較して表したものである。評価は,単位質量の温室効果ガスが大気中に放出されたときの 100年間の放射エネルギー積算値を CO2 との比率として見積もったもので,統一的な計算方法がなく,IPCC の報告書でも年次により数値が変わるのが実情である。

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  低炭素社会の構築

 先の図に示されたように,CO2 は温室効果ガスの約 9 割を占め,そのうち約 8 割程度が化石燃料消費に伴い発生している。また,CO2 排出は,電力などのエネルギー転換部門と自動車などの運輸部門で多いことが分かる。このことは,地球温暖化問題は,エネルギー問題であるともいえる。
 日本で扱うエネルギーは,経済産業省資源エネルギー庁の総合エネルギー統計によると,下図に示すように,エネルギー起源 CO2 排出量は,景気の動向(エネルギー国内供給)と相関が認められたが,2011年 3月の東日本大震災の後は,原子力発電所の運転停止,石炭火力発電の復活により,国内供給が減少しているのに対し CO2 排出量は増加している。
 これらの現状からも,日本における温室効果ガスの削減は容易でない状況にある。このために,日本政府は,2013年度(平成 25年度)の総合エネルギー統計を受けて,2020 年に向けた我が国の新たな温室効果ガス排出削減目標として,「現政権が掲げる経済成長を遂げつつも,世界最高水準の省エネを更に進め,再エネ導入を含めた電力の排出原単位の改善,フロン対策の強化,二国間オフセット・クレジット制度,森林吸収源の活用など,最大限の努力によって実現を目指す野心的な目標」を表明している。

 CO<sub>2</sub> 排出量の関係

一次エネルギー国内供給とエネルギー起源 CO2 排出量( PJ :ペタジュール 1015 J )
出典:経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」2013

 参考
 炭素固定( carbon fixation )
 植物は,クロロフィル(葉緑素)を用いて,太陽光のエネルギーを補足し,二酸化炭素と水から例示するようにブドウ糖などの複雑な分子を作る(光合成という)ことができる。
      6CO2 + 6H2O → C6H12O8 + 6O2
 このように,空気中から取り込んだ二酸化炭素を炭素化合物として留めておく機能が炭素固定(炭酸固定,炭素同化などともいう)である。
 炭素固定には,植物の光合成の他に,細菌型光合成,メタン発酵などがある。
   細菌型光合成の例: 6CO2 + 12H2S → C6H12O6 + 6H2O + 12S , 6CO2 + 12H2 → C6H12O6 + 6H2O
   メタン発酵の例  : CO2 + 4H2 → CH4 + 2H2O

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  亜酸化窒素( N2O )の発生と削減

 亜酸化窒素( N2O )は,CO2約300倍の温室効果を持つといわれ,人為的発生源の中で約 40 %が自動車からの排出といわれている。
 亜酸化窒素は,エンジン内の燃焼で発生した窒素酸化物( NOx )などの浄化に用いる三元触媒を用いた車から特異的に排出,触媒の劣化や触媒反応時の温度(触媒温度)の低下が主要な要因である。
 三元触媒の特性は,(独)交通安全環境研究所 平成 13 年度フォーラム 小高ら,「寒冷地における触媒温度挙動が亜酸化窒素(N2O)排出に与える影響」によると,図に示すように,触媒活性化は,触媒温度に大きく依存する。図に示す触媒の窒素酸化物( NOx 茶色線)と一酸化炭素( CO 青色線)の浄化率が 50 %となる温度(触媒活性化温度)は約 250 ℃で,浄化率 95 %に達する温度(触媒活性温度)は 350 ℃付近にある。
 一方で,亜酸化窒素の生成(緑色線)は,150 ℃程度から始まり,触媒温度の増加と共に増加し,約 320 ℃でピークを迎え,その後の温度で亜酸化窒素の分解(赤色線)が進み,550 ℃付近で亜酸化窒素の浄化率が 95 %に至る。 
 すなわち,自動車排気ガスの浄化には,触媒温度が 500 ℃を超える運転が重要であることが分かる。

触媒温度に対する N<sub>2</sub> Oの生成分解特性

触媒温度に対する N2O の生成分解特性
出典:(独)交通安全環境研究所 平成 13 年度フォーラム「寒冷地における触媒温度挙動が亜酸化窒素(N2O)排出に与える影響」

 触媒温度は,自動車速度が高いほど高く,環境温度が高いほど高くなる。
 下図は,自動車運転時の環境条件の違いと排出ガスの関係を求めた実験例である。
 外気温が 25 ℃で運転した場合と外気温が -5 ℃の実環境で運転した場合の触媒温度の亜酸化窒素の排出量の測定結果である。触媒が十分に加熱されるまでの過程の違いで,亜酸化窒素の排出量が異なることが認められる。

環境温度の違いによるNO<sub>2</sub> 排出挙動

環境温度の違いによるNO2 排出挙動( 11 モード: 25℃,青森市内: -5 ℃)
元図出典:(独)交通安全環境研究所 平成 13 年度フォーラム「寒冷地における触媒温度挙動が亜酸化窒素(N2O)排出に与える影響」

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