第四部:無機化学の基礎 非金属元素

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  ここでは,非金属元素の代表的な化合物として, 【酸化物とは】, 【主な酸化物の概要】 に項目を分けて紹介する。

  酸化物とは

 ここでいう酸化物とは,周期表 16族の酸素( O )原子又はイオンが,他の元素の原子又はイオンと直接結合しているものをいう。
 周期表 18族(希ガス)のヘリウム( He ),ネオン( Ne ),及びアルゴン( Ar )を除く元素は,酸素( O )と様々の化合物(酸化物)を作る。
 酸化物の性質や構造は極めて多様であるが,次のような観点から分類することができる。

 酸素の状態による分類
 一般的にいわれるところの酸化物( oxide )で,孤立した酸素原子( O )又はイオンが,他の元素の原子やイオンに直接結合しした化合物。
 一般に過酸化物( peroxide )と呼ばれる O – O 結合を含む化合物。なお,O – O 結合(ペルオキシド構造のイオンには, O22-過酸化物イオン( peroxide anion ),と O2-超酸化物イオン( superoxide anion )がある。

 酸性・塩基性による分類
 水に溶けると塩基性を示す Li2O , CaO , CuO , Cr2O3 などのブレンステッド塩基として働く酸化物を塩基性酸化物( basic oxide )という。主に金属の酸化物に多い。
 水に溶けると酸性を示す CO2 , SO3 などブレンステッド酸として働く酸化物を酸性酸化物( acidic oxide )という。主に非金属の酸化物に多い,金属元素であっても高酸化数の酸化物 CrO3 などは酸性酸化物である。
 酸・塩基としての作用に乏しい H2O , CO , N2O などは中性酸化物( neutral oxide )といい,条件によって酸性・塩基性両方の性質を示す Al2O3 . GeO2 などは両性酸化物( amphoteric oxide )という。

 結合様式による分類
 金属イオンと O2- からできる CaO , FeO , Al2O3 などをイオン性酸化物という。一般に不揮発性で,酸性・塩基性による分類の塩基性酸化物に属する物が多い。
 限られた数個の原子が共有結合を作って分子となる CO , SO2 などを分子性酸化物という。揮発性に富み,非金属元素の酸化物に多い。
 結合の本質は共有結合であるが,少数の原子に限られず ( SiO2 )n など巨大分子を作る酸化物を巨大分子酸化物という。

 【参考】
 ブレンステッド・ローリーの酸塩基定義( Brönsted –Lowry acid-base theory )
 プロトン供与体( H を与える物質)を酸,プロトン受容体( H を受け取る物質)を塩基と定義する。
 デンマークの科学者ヨハンス・ブレンステッドとイギリスの科学者マーチン・ローリーが同時期( 1923年)にそれぞれ独立に定義した。
 イオン結合( electrovalent bond )
 正の電荷を持った原子,又は分子(陽イオン)と負の電荷を持った原子,又は分子(陰イオン)とが静電気力(クーロン力,静電的引力と静電的斥力)によってできる結合をいう。
 共有結合( covalent bond )
 原子同士が電子を共有しあうことで生じる化学結合である。

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  主な酸化物の概要

 ここでは,典型元素に分類される非金属元素を中心に,実用例の多い酸化物を紹介する。

 1 族元素(アルカリ金属)の酸化物
 アルカリ金属は,空気中の酸素と直接反応し,その表面は速やかに酸化物など(一部は水酸化物)に覆われて光沢を失う。この際の酸化物は,一般式 M2O を形成する。
 空気中で燃焼した場合には,リチウムは主に Li2O を,ナトリウムは酸化物の他に過酸化物( Na2O2 )を,他のカリウムなどでは超酸化物( KO2 )を形成することが知られている。
 アルカリ金属の酸化物は,水と激しく反応して水酸化物を生成する。過酸化物は激しく加水分解して過酸化水素又は酸素を発生させる。超酸化物は,水溶液中で次第に分解して酸素を発生する。

 2 族元素の酸化物
 一般式 MO の酸化物を生成する。酸化ベリリウム( BeO )は水と反応しないが,他の酸化物は,水と反応し水酸化物 M(OH)2となり,アルカリ土類金属(カルシウム,ストロンチウム,バリウム,ラジウム)の酸化物は強塩基を示す。水酸化物の塩基性は原子番号の大きい元素ほど強くなる。
 イオン半径の大きいバリウムは,空気中で 500 ℃以上に加熱すると,安定な過酸化物( BaO2 )を生成する。

 13 族元素 ホウ素( B ),アルミニウム( Al )の酸化物
 一般式 M2O3 の酸化物は,耐熱性の高いホウケイ酸ガラス( 商品名パイレックス,SiO2·B2O3 )やセラミックスの原料として用いられている。
 純度の高い酸化物は,水酸化物( M(OH)3 )の強熱による脱水で得られる。

 14 族元素 炭素( C ),ケイ素( Si )の酸化物
 炭素の無機酸化物には,よく知られる一酸化炭素( CO ),二酸化炭素( CO2 )の他に,亜酸化炭素( O=C=C=C=O ),二酸化五炭素( O=C=C=C=C=C=O ),シクロブタンテトラオン( C4O4 ),メリト酸三無水物( C6(C2O3)3 )などがある。
 炭素は,低温での完全燃焼で二酸化炭素を,不完全燃焼で一酸化炭素を生成する。高温の燃焼では二酸化炭素と炭素の反応による一酸化炭素の生成(還元炎)が優位になる。これは,製鋼などの金属精錬の還元剤として活用される。
 ケイ素の代表的な酸化物である二酸化ケイ素( SiO2 )は岩石の主成分として地表に多量に存在する。 純粋な二酸化ケイ素の結晶は石英(水晶)と呼ばれる。分子配列が不規則な構造(非晶質)のものはガラスに分類され,シリカガラスや石英ガラスと呼ばれる。

 15 族元素 窒素( N ),リン( P )などの酸化物
 窒素とリンは多様な酸化物( N2O , NO , N2O3 , NO2 , N2O4 , N2O5 , P4O6 , P4O8, P4O10 )を形成する。
 窒素は酸化数 0 の単体が最も自由エネルギーが小さいので,窒素酸化物は酸化剤として利用されるものが多い。N2O は無色芳香のある気体で,顔面神経を刺激するので笑気ガスとも呼ばれる。一酸化窒素は酸素と接触することで,2NO + O2 → 2NO2 ⇆ N2O4 の平衡状態となる。
 リンの酸化物は単体リンよりも自由エネルギーが小さく安定である。なお,P4O6 は三価のリン酸化物 P2O3 の二量体,P4O8 は,四価のリン酸化物P2O4 の二量体,P4O10 は五酸化二リン( P2O5 )の二量体である。
 ヒ素( As ),アンチモン( Sb ),ビスマス( Bi )は一般式 M2O3 の酸化物が安定である。

 16 族元素 硫黄( S ),セレン( Se ),テルル( Te )の酸化物
 硫黄,セレン,テルルは,一般式 MO2 ,及び MO3 で表される酸化物を形成する。単体の燃焼で前者の酸化物が,これをさらに酸化することで後者の酸化物が得られる。
 二酸化硫黄( SO2 )は,亜硫酸塩と硫酸の作用や銅に濃硫酸を加えて加熱することで実験室的に得られる。これは,激しい刺激臭を持つ無色の気体で,還元剤( SO2 ⇒ SO42- )として作用する。一方で,硫化水素( H2S )など強力な還元剤との接触では酸化剤( SO2 ⇒ S )としても作用する。

 17 族元素の酸化物
 ふっ素は酸化数 -1 しか取れず酸化物は二ふっ化酸素( OF2 )となる。これは,ふっ素単体と水酸化ナトリウムとの反応で得られ,強力な酸化剤として作用する。
 ふっ素以外のハロゲン族元素は,酸化数( 1 , 3 , 4 , 5 , 7 )に応じ,種々の酸化物を与える。これらの多くは,強力な酸化剤として作用し,殺菌,消毒,消臭,漂白を目的としたものに利用される。

 18 族元素 キセノン( Xe )の酸化物
 ふっ化キセノン( XeF6 又は XeF4 )と水との反応で得られる三酸化キセノン XeO3 が知られる。

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