第四部:無機化学の基礎 生活と無機(燃焼エネルギー)

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  ここでは,天然ガスや石油ガスの燃焼に関連し, 【天然ガスとは】, 【天然ガスの燃焼】, 【石油ガスとは】, 【石油ガスの燃焼】, 【燃焼熱と物体の温度変化の考え方】 に項目を分けて紹介する。

  天然ガスとは

 天然ガス( natural gas )
 天然に産する炭化水素ガスで,メタン( CH4 )を主成分とし,エタン( C2H6 )やプロパン( C3H8 )など炭素数 4以下の分子量の小さい炭化水素を少量含む。
 天然ガスの組成は,産地で異なり,例えば,北アメリカのアラスカ産は,メタン 99%以上に対し,インドネシア産は,メタン 87.7%,エタン 6.9%,プロパン 3.1%などである。

 天然ガスの起源については,“生物起源ガス”“非生物起源ガス”について諸説ある。
 生物起源ガス
 堆積物中の生物起源の有機物(石油,石炭,有機溶媒に溶けない有機物)の熱分解で生成したガスで,エタン・プロパン・ブタン・ペンタンを多く含有するウェットガス,有機物を分解するメタン菌や古細菌により生成したメタンを主成分とするドライガスがある。
 非生物起源ガス
 流紋岩等の火山岩体や海底枕状溶岩中に存在し,【石油製品と燃焼】で紹介する無機成因の石油と同様の現象で,マントル中の無機炭素の化学反応で生成したガスと考えられている。

 天然ガスの主要な用途は,火力発電の燃料,都市ガスの原料である。日本の発電における天然ガスの燃料投入量は,全体の 40%以上と最も多い燃料である。なお,天然ガスを用いた火力発電所では,石炭火力発電所や石油火力発電所とは異なり,硫酸酸化物の発生が殆ど無いので,排煙脱硫装置を必要としない特徴がある。

天然ガスの用途

天然ガスの用途
出典:資源エネルギー庁エネルギー白書 2020

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  天然ガスの燃焼

 組成に違いはあるが,メタンの含有量が圧倒的に多いので,天然ガスの燃焼は,原則的にメタンの燃焼と考えてよい。
 メタンの燃焼では,十分な酸素を供給し完全燃焼させると,1 mol の二酸化炭素と 2 mol の水が生成する。
      CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O
 酸素の供給が不足すると,
      2CH4 + 3O22CO + 4H2O
の反応(不完全燃焼)により,一酸化炭素が生成する。

 蛇足:メタンは高温の水蒸気との反応(水蒸気改質法)で一酸化炭素と水素の混合気(合成ガス)を生じる。一酸化炭素や水素は各種化学プロセスの原料として使用されている。
 なお,ガス事業者の提供する水素ステーションや石油会社やガス会社などが提供するエネファーム(家庭用燃料電池コージェネレーションシステム)で用いられる水素発生の主要なプロセスでもある。
      CH4 + H2O → CO + 3H2

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  石油ガスとは

 石油ガス( petroleum gases )
 石油製品とはで紹介したように,原油の精製過程で沸点範囲 35℃以下で回収した揮発性の高い成分をいう。

 石油ガスは, 直鎖飽和炭化水素のプロパン( C3H8 :沸点約 -42 ℃),二重結合を持つプロピレン( C3H6 :沸点 -47.6 ℃),飽和炭化水素のブタン( C4H10 :沸点 -0.5 ℃のノルマルブタンと沸点約 -12 ℃のイソブタン)及び二重結合を持つブテン( C4H8 :異性体 4種 沸点 -6.9 ~ 3.73 ℃)を主成分とする混合物である。
 石油ガスは,JIS K 2240 「液化石油ガス( LPガス): Liquefied petroleum gases 」の品質規定にあるように,用途と組成の違い,すなわち(プロパン+プロビレン)と(ブタン+ブテン)の比率の違いにより,7種の品質が規定されている。

 家庭の給湯やコンロで用いる圧力容器の LPガスは,プロパン+プロピレンの比率が 80%以上の品種で,一般にいうところのプロパンガスといって差し支えない。
 一方,卓上コンロやガスライターに用いられる LPガスは,沸点の高いブタンを主成分とするガスで,容器の表示をみると LPG(ブタン)と記されている。
 自動車に用いる LP ガスは,全国 LPガス協会によると,地域により組成が異なり,一般的な地域ではブタン 80%の LPG(ブタン)を用い,暖かい地方ではブタンの量が多く,寒い地方では沸点の低いプロパンの多い物を用いているようである。

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  石油ガスの燃焼

 LP ガスの主成分であるプロパンガスの完全燃焼は,
      C3H8 + 5O2 → 3CO2 + 4H2O
となり,プロパン 1モルで酸素 5モルを消費する。空気中に占める酸素の量は,約 20%である。
 従って,プロパン 1m3完全燃焼させるためには,同一温度・圧力の条件で,理論上で約 25m3 の空気が必要となる。実際の燃焼ではさらに多くの空気が無いと不完全燃焼(一酸化炭素の発生)に至る可能性がある。
 LPガスに限らず,室内で物を燃焼する場合には,十分な換気が必要であることは,このことからも再認識できでしょう。

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  燃焼熱と物体の温度変化の考え方

 燃焼熱について
 メタンの燃焼の熱化学方程式は,
      CH4(g) + 2O2(g) → CO2(g) + 2H2O (l)  ΔrH0 = - 890.71kJ/mol
である。燃焼熱は,化学便覧などで入手できる 25℃,1気圧(標準状態)でのエンタルピー変化(標準燃焼熱,標準生成熱)を示している。
 実際の燃焼では,反応生成物の水は,液体ではなく気体になると考えると,熱量の計算では,水の状態変化,に伴う遷移熱の考慮が必要である。すなわち,H2O (l) → H2O (g) の気化熱(蒸発熱)は,標準状態( 25℃,1気圧 = 101.325kPa )で 44.0kJ/mol ( 100℃,1気圧では 40.7kJ/mol )と与えられる。

 従って,気体状態のメタンの燃焼は,水 2モルの気化熱を考慮し,
      CH4(g) + 2O2(g) → CO2(g) + 2H2O (g)  ΔH = - 802.71kJ/mol
となる。

 燃焼熱と物質の温度変化について
 物体 A kgの温度を B ℃上げるのに必要なメタンガスの量 X kgは? 又はメタンガス X kg を燃焼した時,物体 A kgの温度上昇量 B ℃は?などの問題では,前述の潜熱を考慮したメタン燃焼の熱化学方程式,メタンの分子量( 16.042 ),物質の比熱容量が分かれば,理論上の答えを導くことができる。

 物質の定圧比熱 Cp ( kJ kg−1 K−1 ) とすると,物体 A ( kg) の温度を B (℃) 上げるのに必要なメタンガスの量 X ( kg ) は,熱エネルギーがすべて温度上昇に使われたと仮定すると,次により計算できる。
 物体の受け取るエネルギー:
      A×Cp×B ( kJ )
 メタンX ( kg ) の燃焼で発生するエネルギー:
      802.71×(X×103) /16.042 ( kJ )
 実用では,石油製品と燃焼内燃機関のエネルギー変換例の図に示しすように,燃焼熱の一部しか有効利用されない。
 これをエネルギー(変換)効率と呼ぶ。例えば,ガスコンロで水を沸かす場合で 60%程度,火力発電で電気エネルギーに変換する場合は 40%程度といわれている。

 【参考】
 比熱容量( specific heat capacity )
 圧力または体積一定の条件で,単位質量の物質を単位温度上げるのに必要な熱量( J kg−1 K−1 )である。圧力一定の条件下で測定した場合は定圧比熱( Cp ),体積一定の条件下で測定した場合は定積比熱( Cv )と呼ばれる。なお,古くは,水を基準にした単位 cal g−1 K−1 を用いていたので,水の比熱容量(18℃)は 1 cal g−1 K−1 ( = 4.184 kJ kg−1 K−1 )との比較で示されることが多かった。今でもこの単位を用いる分野がある。
 定圧比熱( kJ kg−1 K−1 )の例:標準状態( 25 ℃,1 気圧 = 101.325 kPa)
 水( 4.186 ),氷( 2.060 ),水蒸気( 1.850 ),乾燥空気( 1.005 ),水素ガス( 14.304 )
 鉄( 0.444 ),銅( 0.385 ),アルミニウム( 0.900 ),金( 0.129 )
 ガラス( 0.677 ),ダイヤモンド( 0.502 )

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