第四部:無機化学の基礎 生活と無機(燃焼エネルギー)

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  ここでは,石炭の概要とその燃焼に関連し, 【石炭の成り立ち】, 【石炭の分類】, 【石炭の特徴と用途】, 【石炭の燃焼】 に項目を分けて紹介する。

  石炭の成り立ち

 石炭( coal )
 JIS M 0104 「石炭利用技術用語:Technical Terms Used in Coal Utilization 」では,
 “主に太古の植物が,生物化学的及び地球物理・化学的反応によって,変質して生成した可燃性岩石状物質。”
と定義している。

 数億年前の古生代から数千万年前の恐竜が生きていた時代は,大気中に多量の二酸化炭素(現在の 10倍ほどともいわれる)があり,地球の温暖化と活発な光合成により,陸上では多量の大型植物の成長と,多量の死滅した樹木により,地表は枯れた植物の積み重なった層で覆われていた。

 今の地上では,倒れた樹木は,土中の菌類や微生物,昆虫により分解されるが,古生代には樹木を分解できる生物が少なかったため,大量の植物群が分解されずに土中に埋没していた。
 地中に埋没した植物は,地圧・地熱の影響を受け,様な化学反応(脱水反応,脱炭酸反応,脱メタン反応など)を伴い変化していった。
 この変化は総称して石炭化( coalification )と呼ばれ,その程度を石炭化度( coal rank , degree of coalification )という。

 【参考】
 古生代( palaeozoic era )小学館;日本大百科全書(ニッポニカ)より抜粋。
 地質時代区分で,現在から数えて 3番目の代。先カンブリア時代と中生代の間の約 5億 4100万年前から約 2億 5217万年前までの約 2億 8883万年間に相当する。
 古生代は古い順に,カンブリア紀,オルドビス紀,シルル紀(ゴトランド紀),デボン紀,石炭紀,ペルム紀(二畳紀)の六つの紀に区分されている。石炭紀には種子シダ類などとともに大森林を形成する。
 石炭紀( carboniferous period )小学館;日本大百科全書(ニッポニカ)より抜粋。
 古生代後期の地質時代で,デボン紀とペルム紀(二畳紀)との間の約 3億 5890万年前から約 2億 9890万年前までの約 6000万年間に相当する。石炭紀に形成された地層を石炭系という。
 生物界では,温暖湿潤の環境下で森林を形成し,石炭の素材になったシダ植物やトクサ類の著しい繁栄と,森林生活に適応して急激に発展した節足動物のクモ類や昆虫類,脊椎(せきつい)動物の両生類が特筆される。
 陸上植物では,無種子の維管束植物(ヒカゲノカズラ類、トクサ類を含む),種子シダ類の著しい繁栄がある。これらの植物は,温暖湿潤な当時の気候のもとで広大な低湿地帯に大森林を形成し,多量の石炭層を残した。石炭紀の地層はすべての大陸に広く分布している。
 中生代( mesozoic era )小学館;日本大百科全書(ニッポニカ)より抜粋。
 地質時代区分で,現在から数えて二番目の代。古生代と新生代の間の約 2億 5217万年から約 6600万年までの約 1億 8617万年に相当する。 中生代はさらに 3分され,古いほうから三畳紀(系),ジュラ紀(系),白亜紀(系)となる。
 中生代にはアンモナイト,ベレムナイト(矢石,箭石(やいし)),巨大な爬虫類(はちゅうるい)(恐竜など)が大発展を遂げるが,これらも中生代末には絶滅して,現在に近い新生代の動物と交代する。
 植物界の大変革は動物界に先駆けておこっている。中生代は全体として裸子植物が繁栄した時代であったが,白亜紀後半はすでに被子植物の時代に入る。
 裸子植物( gymnospermae )
 読み「らししょくぶつ」,子房をもたず,胚珠が裸出している植物群をさす。現代のソテツ類,イチョウ類,球果類 (針葉樹類) ,マオウ類,サバクオモト (ウェルウィッチア) 類,グネツム類などに分けられる。化石植物では,ソテツシダ類,ベネチテス類,コルダイテス類などもこの裸子植物であることが知られている。
 被子植物( angiospermae )
 読み「ひししょくぶつ」,雌性の胞子葉に相当する心皮が 1つまたはいくつか集ってできた子房の内部に,胚珠が保護されている植物をまとめた群である。現在地球上で最も優勢でまた進化の進んだ植物で,およそ 1万属,25万種をこえる種類が知られ,人類の生活に関係の深い植物の大部分はこれに属する。

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  石炭の分類

 石炭の成り立ち
 セルロースリグニンを主成分とする植物が,石炭化の過程で次のように変化する。
 泥炭(でいたん: peat )
 石炭になる前の状態で,ピート,草炭ともいう。沼沢地や湿地に生育した樹木,草本,コケ類などの植物が,嫌気性の環境下に蓄積し,ある程度の分解や炭化によって黒褐色になったもの。
 亜炭(あたん: lignite )
 国際的(地質学的)には,最も石炭化度の低い石炭を褐炭( brown coal )というが,特に石炭化度の低いもの(炭素含有量 66~70%)を日本固有(行政上)の分類で亜炭という。
 褐炭(かったん: brown coal )
 石炭化度による分類において,最も石炭化度の低い石炭をいうが,日本では,炭素含有量 70~78%をいい,それより炭化度の低いものを亜炭として分類している。
 亜瀝(歴)青炭(あれきせいたん: subbituminous coal )
 石炭化度による分類において,石炭化度が褐炭より高く,瀝青炭より低い炭素含有量 78~83%の石炭をいう。
 瀝(歴)青炭(れきせいたん: bituminous coal )
 最も代表的な光沢のある黒色で,石炭化度が亜瀝青炭より高く,無煙炭より低い炭素含有量 83~90%の石炭をいう。一般に石炭という場合には,瀝青炭を指す場合が多い。
  無煙炭(むえんたん: anthracite )
 石炭化度による分類において,最も石炭化度の高い炭素含有量 90%以上の石炭をいう。炭化が進んでいるため,揮発成分が少なく,煤煙を出さないで燃焼する。分類によっては,炭素含有量 93~95%以上の石炭をさす場合もある。

 【参考】
 セルロース( cellulose )
 セルロースは,繊維素ともいわれ,植物細胞の細胞壁,植物繊維の主成分である。セルロースは,地球上で最も多く存在する炭水化物といわれている。
 デンプンのアミロースなどは,α-D‐グルコースがα‐グリコシド結合で連なった多糖であるが,セルロースは,β-D‐グルコースがβ‐1 ,4 ‐グリコシド結合で連なった直鎖状(水素結合でシート状)の多糖である。
 リグニン( lignin )
 セルロースとともに高等植物の木化に関与する高分子化合物で,木質素とも呼ばれる。ベンゼン環に水酸基,メトキシル基が結合したプロピルベンゼン誘導体を構成単位とするフェノール性高分子化合物である。
 石炭化度( coal rank,degree of coalification )
 太古の植物が石炭化作用によって石炭に転化した度合。通常,揮発分,炭素分(いずれも無水無灰ベース又は無水無鉱物質ベース)又はビトリニット部の反射率などで表す。( JIS M 0104「石炭利用技術用語」)

 石炭の分類
 石炭化度による分類
 発熱量,燃料比の違いでさらに分類される。
 JIS M 1002「炭量計算基準」では,燃料比発熱量(補正無水無灰基 = 発熱量×100/(100-灰分補正率×灰分-水分)を用いて,次のように分類している。
 褐炭
 褐炭 F1 燃料比:規定なし,発熱量( kJ/kg ): 29,470以上 30,560未満
 褐炭 F2 燃料比:規定なし,発熱量( kJ/kg ): 24,280以上 29470未満
 亜瀝青炭
 亜瀝青炭 E燃料比:規定なし,発熱量( kJ/kg ): 30,560以上 32,650未満
 亜瀝青炭 D燃料比:規定なし,発熱量( kJ/kg ): 32,650以上 33,910未満
 瀝青炭
 瀝青炭 C燃料比:規定なし,発熱量( kJ/kg ): 33,910以上 35,160未満
 瀝青炭 B2燃料比: 1.5未満,発熱量( kJ/kg ): 35,160以上
 瀝青炭 B1燃料比: 1.5以上,発熱量( kJ/kg ): 35,160以上
 無煙炭
 無煙炭 A2 燃料比: 4.0以上,発熱量( kJ/kg ): 規定なし,備考:非粘結,火山岩の作用で生じたせん石
 無煙炭 A1燃料比: 4.0以上,発熱量( kJ/kg ): 規定なし
 【参考】( JIS M 0104「石炭利用技術用語」)
 総発熱量( gross calorific value,gross heating value )
 単位質量の燃料が完全燃焼する際に発生する,水の蒸発の潜熱を包含した熱量。 高発熱量 (higher heating value) ともいう。JIS M 8814(石炭類及びコークス類の発熱量測定方法)では,断熱式ボンブ熱量計によって測定する。
 備考 通常,石炭の発熱量とは総発熱量を意味する。
 燃料比( fuel ratio,fuel rate )
  (1) 石炭の工業分析結果のうち,固定炭素 (%) を揮発分 (%) で割った値。
  (2) 高炉操業などにおける製品単位質量当たりの燃料消費量。
 固定炭素( fixed carbon )
 工業分析において,水分,揮発分,灰分の百分率の合計を 100 から差し引いた値をいう。
 揮発分( volatile matter )
 空気との接触を絶って,規定の条件のもとで,試料を加熱したときの,質量減少率から水分を差し引いた値である。
 JIS M 8812 「石炭類及びコークス類―工業分析方法」では,試料 1g をふた付きのるつぼに入れ,900±20 ℃で 7分間加熱したときの質量減少率から,同時に定量した水分( 107±2℃で 1時間)を差し引いた値を揮発分としている。

 JIS M 0104 「石炭利用技術用語」では, 石炭化度がある範囲内に入り,工業的に利用できるものを石炭と定義している。石炭は,石炭化度の他に,性状や用途などでも分類される。

 性状による分類
 石炭を乾留した時,軟化溶融状態において観測される性質,すなわち粘結性の程度により,粘結炭微粘結炭非粘結炭に分類される。
 【参考】( JIS M 0104「石炭利用技術用語」)
 乾留( carbonization,dry distillation )
 石炭を空気との接触を絶って加熱し,コークス又はチャー,ガス,タールなどを得ること。
 粘結性( caking property )
 石炭を乾留した時,軟化溶融状態( plastic stage )において観測される性質の総称。これらの性質とは,粘着性,流動性,膨脹性などである。
 粘結炭( caking coal )
 石炭の性状による分類において,粘結性を示す石炭。
 微粘結炭( slightly caking coal )
 石炭の性状による分類において,わずかに粘結性を示す石炭。
 非粘結炭( non-caking coal )
 石炭の性状による分類において,粘結性を示さない石炭。

 用途による分類
 発電及びセメント製造などの燃料として用いる原料炭を除いた石炭を一般炭,コークス製造の原料として用いる石炭を原料炭,ガス化炉でガスを製造するために用いる石炭をガス化用炭に分類される。
 石炭の用途では,火力発電と鉄鋼(製鉄)が圧倒的に多い。日本の発電における石炭の燃料投入量は,天然ガスに次いで2番目に多い燃料である。
 【参考】( JIS M 0104「石炭利用技術用語」)
 一般炭
 石炭の用途による分類において原料炭を除いた石炭。主に発電及びセメントの製造などの燃料として用いる。
  特に発電のために用いる一般炭をスティームコール ( steam coal ) という。
 備考 石炭の性状による分類において,軟化溶融しない石炭を一般炭 (non-coking coal) ということがある。
 原料炭( coal for coke making )
 石炭の用途による分類において,コークス製造の原料として用いる石炭。コークス用炭ともいう。
 備考 石炭の性状による分類において,単味で乾留すると軟化溶融してコークスになる石炭を原料炭 ( coking coal ; Kokskohle ) ということがある。
 参考 石炭の用途による分類において,石炭化学工業の原料として用いる石炭 ( coal for chemical use ) を指す場合がある。
 ガス化用炭( coal for gas making )
 石炭の用途による分類において,ガス化炉でガスを製造するために用いる石炭。
 備考 都市ガスなどを製造するために用いる高揮発分の石炭をガス用炭 ( gas coal ) ということがある。

石炭の用途

石炭の用途
出典:資源エネルギー庁エネルギー白書 2020

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  石炭の特徴と用途

 泥炭 (peat)
 品質が悪いため工業用の石炭として分類されないが,スコッチ・ウイスキーの製造で,大麦麦芽を乾燥させる燃料(ピート)として香り付けを兼ねて用いられる。この他に,保水性や通気性を利用し,園芸用土として使用されている。
 亜炭 (lignite)
 質の悪い褐炭と位置づけられ,燃料としての用途はほとんどなく,土壌改良材などに利用例がある。
 褐炭 (brown coal)
 石炭化度が低く,水分・酸素の多い石炭で,練炭・豆炭などの加工品に使用される。
 亜瀝青炭 (subbituminous coal)
 埋蔵量が多く,広く分布している。コークス原料には使えないが,揮発分が多く火付きが良くため,電力用や産業用の微粉炭ボイラに利用される。
 瀝青炭 (bituminous coal)
 粘結性が高いものは,コークス原料に使われる。
 半無煙炭 (semianthracite)
 粉炭ボイラ用としては揮発分が少なく適さない。セメント産業の燃料流動床ボイラに使われる。
 無煙炭 (anthracite)
 石炭化度が高く,揮発分が少ないので,燃やしても煙の少ない石炭で,家庭用の練炭原料,カーバイドの原料,粉鉄鉱石を塊状に焼結する焼結炉に使われる。

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  石炭の燃焼

 炭種によるが,有機質の元素組成は,一般的に C100 H30~110 O3~40 N0.5~2 S0.1~3 と表される。式からも有機質の中に硫黄( S ),窒素( N )が多く含まれることが分かる。さらに,石炭には,硫酸塩の硫黄( SO42- ),黄鉄鉱の硫黄( FeS2など無機質の硫黄としても多く含まれる。
 このことは,石炭の燃焼で,天然ガスや石油に比較して,硫黄酸化物( SOx )や窒素酸化物( NOxを発生しやすく,四大公害病の一つ四日市ぜんそく酸性雨原因物質ともなっている。
 従って,石炭の利用では,燃焼排気からの脱硫や脱硝のための工夫がとられている。

 燃焼過程
 燃料として用いられる石炭は,揮発分として 40 %程度を含む亜瀝青炭や瀝青炭が用いられる。下図の火力発電所では,石炭は微粉砕してからバーナに導入されている。

石炭火力発電所の仕組み

石炭火力発電所の仕組み例
元図出典:北陸電力(株)火力発電について

 バーナに導入された低温の石炭粒子の燃焼過程は,下図に示すように,まず周囲の火炎や放射によって温度が上昇(予熱領域)し,粒子の温度が約 400 ℃になると熱分解が始まる。
 熱分解で放出した揮発分の量が増えると石炭粒子に着火する。揮発分の燃焼によって粒子温度がさらに高くなる。
 揮発分の放出が進み,終には揮発分を含まない固形分(チャーとなるが,固形分の炭素の酸化(燃焼)が継続し炭素分が減少する。燃焼終了後の残差は,未燃分(フライアッシュ)と呼ばれる。

微粉炭の燃焼過程

微粉炭の燃焼過程
元図出典:(一般財団)石炭エネルギーセンターコールサイエンスハンドブック

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