化 学 (無機化学)

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 ここでは,元素分析目的で実施される機器分析として原子吸光分析に関連して,【原子吸光分析とは】【原子吸光の原理】【原子吸光分析の概要】【バックグランド補正】に項目を分けて紹介する。

 【原子吸光分析とは】

 元素の定性・定量分析が可能な多数の機器分析法がある。表面分析を除き,元素(イオン)の直接的な定量分析が可能な JIS 規格の一つとして JIS K 0121 「原子吸光分析通則: General rules for atomic absorption spectrometry 」がある。
 この他には,JIS K 0116 「発光分光分析通則」,JIS K 0133 「高周波プラズマ質量分析通則」,JIS K 0119 「蛍光 X 線分析方法通則」,JIS K 0127 「イオンクロマトグラフィー通則」などがある。
 
 原子吸光(分光)分析(atomic absorption spectrometry)とは,原子吸光分析装置を用い,試料中に含まれる分析対象元素を,フレーム(炎),電気加熱又は化学反応によって基底状態の原子とし,その原子蒸気層の吸光度を測定することによって,分析対象元素の濃度を求める方法である。 この方法の原理は,フラウンホーファー線の発見により開発された。
 
 フラウンホーファー線とは,太陽光のスペクトル(可視光)に暗線の存在がイギリスの化学者ウォラストンにより発見( 1802 年)され,その後の 1814 年にドイツの物理学者ヨゼフ・フォン・フラウンホーファーにより,地上で観察される太陽光スペクトルの系統的な研究により明らかにされた 570 を超える暗線である。
 1860 年には,フラウンホーファー線が元素による吸収スペクトルであることがロシアの物理学者グスタフ・ローベルト・キルヒホフにより証明された。

 

 【原子吸光の原理】

 「発光・吸光の原理」で紹介したように,原子は,基底状態より励起状態へ遷移するときに,そのエネルギー差(⊿ E )に相当するエネルギーの光(特定波長 λ)を吸収し,その励起状態から基底状態へ遷移するときに発熱或いは発光する。
      ⊿ E = h cλ-1
      h = 6.626070040×10 -34 Js = 4.135667662×10 -15 eV s
      c = 2.99792458×108 m s-1
 光吸収を利用した化学分析法が原子吸光法で,発光を利用した化学分析法は発光分光法である。
 原子吸光法では,物質を基底状態の原子にし,外部から光を当て,吸収された光の波長を調べることで,原子の種類と量を分析できる。
 一方。発光分光法では,炎色反応と同様に,励起状態の原子を作りだし,緩和過程に放出される光の波長を調べることで,原子の種類と量を分析できる。

光吸収と発光の関係(模式図)

光吸収と発光の関係(模式図)

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 【原子吸光分析の概要】

 原子吸光法は,物質の原子化に用いる方法により,フレーム原子吸光分析(flame atomic absorption spectrometry),電気加熱原子吸光分析(electrothermal atomic absorption spectrometry),冷蒸気原子吸光分析(cold vapor atomic absorption spectrometry) に分けられる。
 
 冷蒸気原子吸光分析は,試料溶液に還元剤を加え,水銀を還元気化させる還元気化器と吸収セルで構成される水銀分析に特化した機能をもつ原子吸光分析(水銀専用原子吸光分析)である。環境分析における総水銀の分析(環境省水銀分析マニュアル)などで利用されている。
 
 一般的な元素分析には,フレーム原子吸光分析と電気加熱原子吸光分析(フレームレス原子吸光分析ともいう)が用いられる。
 原子吸光分析装置は,光源部,試料原子化部,光学系,検出部及びデータ処理部から構成されている。
 光源
 原子吸収スペクトルのスペクトル幅が非常に狭い(通常0.01nm程度)ため,一般的な分光光度計の光源(スペクトル幅 1 ~ 2 nm )を用いたのでは,原子の吸収度を測定できない。このため,スペクトル幅 0.001 nm 程度の狭い光(輝線)が得られる中空陰極ランプ( hollow cathode lamp )が用いられる。
 中空陰極ランプは,ホロカソードランプともいい,低圧の希ガスを封入し,内径10mm程度の中空2重管の電極で構成され,電極間に高電圧をかけることで発生するグロー放電で発光する光源である。分析目的の元素を含む電極を陰極部に用いることで,その元素の輝線スペクトルが得られる。通常は一元素の電極であるが,複数の元素を含む電極もある。
 高精度での分析,バックグランドの補正などの特殊目的では,低圧水銀ランプ,高輝度中空陰極ランプ,無電極放電ランプ,キセノンランプ,重水素ランプ,タングステンランプなども用いられる。
 なお,低圧水銀ランプ( low-pressure mercury lamp )は,水銀蒸気の圧力 133 Pa 以下の水銀放電管で,253.7 nmの共鳴線を強く発光するので,冷蒸気原子吸光分析などでの水銀分析専用の光源として用いられる。
 
 試料原子化部
 試料に含まれる元素を原子化する装置で,フレーム原子吸光分析と電気加熱原子吸光分析では構造が大きく異なる。
 フレーム原子吸光分析では,試料を原子化部(バーナ)に送り,アセチレン・空気などの炎の中で気化・原子化する方式である。
 電気加熱原子吸光分析(フレームレス原子吸光分析)は,黒鉛製や耐熱金属性の電気加熱炉で乾燥,灰化,原子化する方式である。

原子吸光分析装置の試料噴霧・原子化部

原子吸光分析装置の試料噴霧・原子化部
元図出典:(般社)日本分析機器工業会原子吸光光度計の原理と応用

 分析手順
 試料
 何らかの前処理を行った後,水に溶かし,適切な濃度に希釈又は濃縮して分析試料とすることが原則である。
 例えば,固体試料は,酸分解,アルカリ分解,有機溶媒による溶解,低温灰化,高温加熱灰化などの分解方法によって水に可溶な状態にしてから,水溶液試料として調整する。
 気体試料は,JIS K 0083 「排ガス中の金属分析方法:Methods for determination of metals in flue gas 」JIS K 0222 「排ガス中の水銀分析方法:Methods for determination of mercury in stack gas 」などによって調整するのが望ましい。
 
 定量
 【検量線を用いた濃度決定】で紹介した方法を用いる。すなわち,濃度の異なる 4 種類以上の検量線作成用溶液を用い,濃度と表示値との関係線を作成した検量線を用いて,試料溶液中の分析対象元素の濃度を求める方法(検量線法),同一試料溶液から 4 個以上の試料を等しく採取し,1 個を除き,他のものには分析対象元素の濃度が既知である溶液を段階的に加えて作成した濃度と表示値との関係線を作成し,横軸の切片から試料溶液中の分析対象元素の濃度を求める方法(標準添加法)が用いられる。

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 【バックグランド補正】

 原子吸光分析で適切な測定値を得るためには,輝線の吸収の計測に加えてバックグラウンドでの吸収の影響評価(バックグラウンド補正が必要不可欠である。
 一般に用いられるバックグラウンド補正方式には,連続スペクトル光源補正方式(background-correction system using continuous-spectrum sources),ゼーマン分裂補正方式(background-correction system using Zeeman splitted spectrum),非共鳴近接線補正方式(background-correction system using nonresonance spectrum),及び自己反転補正方式(background-correction system using self-reversal spectrum)の 4 種類がある。
 連続スペクトル光源補正方式
 連続スペクトルを発生する光源を,バックグラウンド補正に用いる光学系の一方式。
 ゼーマン分裂補正方式
 磁場によってゼーマン分裂したスペクトル線を,バックグラウンド補正に用いる光学系の一方式。
 非共鳴近接線補正方式
 中空陰極ランプから発生する分析対象元素の共鳴線に近接するスペクトル線を,バックグラウンド補正に用いる光学系の一方式。
 自己反転補正方式
 中空陰極ランプに通常の電流と高電流とを交互に流し,高電流による放電で生じる自已反転したスペクトル線をバックグラウンド補正に用いる光学系の一方式。

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