第四部:無機化学の基礎 金属元素(遷移元素)

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  ここでは,遷移元素の金属元素の共通する特徴について, 【遷移元素とは】, 【実用される遷移元素について】 に項目を分けて紹介する。

  遷移元素とは

 遷移元素 ( transition element )
 原子の電子配置に基づく元素分類の一種(電子軌道 d軌道あるいは f軌道が閉殻でない元素)で,周期表 3族から 11族( 12族を含める学者もいる)までの全ての元素をいう。遷移元素は,全て金属元素に分類される。
 遷移元素は,典型元素とは異なり,各族の縦の類似性はさほど著しくなく,横の類似性が目立つ元素類である。
 なお,鉄,銅,マンガン,モリブデン,及びクロムは,生体にとって必須のミネラルとして,健康増進法(平成 14年法律第 103 号)に基づき「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で基準摂取量が定められている。

 金属( metal )
 明確な定義はないが,固体状態で,次の性質を示すものの総称として用いるのが一般的である。
 塑性変形が容易で,展延加工ができる。
 不透明で輝くような金属光沢がある。
 ③ 電気およびをよく伝導する。
 水溶液中で 陽イオン(カチオン,cation , positive ion )になる。
 なお,水銀のみは,常温・常圧の下で液体である。一般には,比重 4~5より重いものを重金属,軽いものを軽金属という。

 【参考】
 必須ミネラル
 健康増進法(平成 14年法律第 103 号)に基づき厚生労働大臣が定める「日本人の食事摂取基準(2015年版)」 に基準摂取量が定められているミネラルをいう。必要所要量の違いで,主要ミネラル 7 種,微量ミネラル 9 種に分けられる。
 主要ミネラル( 100 mg /1日 以上):硫黄 S(骨・軟骨・皮膚・髪の毛・爪など),塩素 Cl(胃液中の胃酸),ナトリウム Na(血液・体液の浸透圧を調整),カリウム K( 血圧の上昇抑制,利尿作用),マグネシウム Mg(骨や歯の強か,酵素の補助),カルシウム Ca(骨・歯の成分,エネルギー代謝),リン P(骨・歯の成分,代謝の補助)
 微量ミネラル( 100 mg /1日 未満): 鉄 Fe(赤血球のヘモグロビン),亜鉛 Zn(生殖機能,ホルモン合成),銅 Cu(ヘモグロビン生成,骨格成分),マンガン Mn(骨や関節),ヨウ素 I(甲状腺ホルモン,代謝),セレン Se(抗酸化力,老化防止),モリブデン Mo(肝臓,腎臓の老廃物分解),クロム Cr(糖の代謝),フッ素 F(虫歯予防)
 延性( ductility )
 物質に引張り力を加えた時の変形する能力をいう。一般的には,針金状に延ばせる能力をいう場合が多い。
 金属の延性は,金( Au )>銀( Ag )>白金( Pt )>鉄( Fe )>ニッケル( Ni )>銅( Cu )>アルミニウム( Al )>亜鉛( Zn )>スズ( Sn )>鉛( Pb )の順にである。鋼(鉄の合金)の延性は,合金成分の種類と量(特に炭素)で大きく変わる。
 展性( malleability )
 物質に圧縮力を加えた時の変形する能力をいう。工業的な作業工程の鍛造や圧延で薄いシート状に成形できる能力をいう場合が多い。そのため展性を可鍛性(かたんせい)とも呼ぶ。
 金属の展性は,金( Au )>銀( Ag )>鉛( Pb )>銅( Cu )>アルミニウム( Al )>スズ( Sn )>白金( Pt )>亜鉛( Zn )>鉄( Fe )>ニッケル( Ni )の順である。
 金属光沢
 自由電子は,可視光を含めた広い波長範囲の電磁波を反射(種々の波長の光を吸収し,再放出)できる。これにより,金属固有の光沢が生まれる。
 自由電子( free electron )
 自由電子とは,束縛を受けていない電子をいう。即ち,特定の原子核の近傍に留まらず結晶全体に非局在化している電子である。
 自由電子の存在が,電気や熱の高い伝導性の要因の一つとなっている。このため,自由電子は伝導電子とも呼ばれる。

周期表

周期表(2015年)

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  実用される遷移元素について

 周期表 3族にはランタノイド系,アクチノイド系が含まれるので最多の 32元素が属し,周期表 4族~ 11族にはそれぞれ 4元素が属する。その中で,研究目的以外での実用例が認められる元素は,次の通りである。

 周期表 3族
 触媒,磁器添加剤などにスカンジウム( Sc ),鉄鋼添加剤,LED,超伝導体などにイットリウム( Y )
 ランタノイド系
 光学レンズ,コンデンサなどにランタン( La ),顔料,燃料電池などにセリウム( Ce ),光ファイバーなどにプラセオジム( Pr ),磁石,超伝導体などにネオジム( Nd ),磁石,ガラス添加剤などにサマリウム( Sm ),蛍光体などにユウロビウム( Eu ),磁性材料などにガドリウム( Gd ),磁石,放電ランプなどにジスプロシウム( Dy ),ガラス着色剤,光ファイバーなどにエルビウム( Er ),光ファイバーなどにツリウム( Tm ),ガラス着色剤,レーザー添加剤などにイッテリビウム( Yb )
 アクチノイド系
 核燃料などにウラン( U )

 周期表 4族
 耐食材料,顔料,光触媒などにチタン( Ti ),顔料,圧電素子などにジルコニウム( Zr ),プラズマ電極などにハフニウム( Hf )

 周期表 5族
 合金成分などにバナジウム( V ),圧電素子,鉄鋼添加剤などにニオブ( Nb ),,医療関連,コンデンサなどにタンタル( Ta )

 周期表 6族
 めっき材,合金成分などにクロム( Cr ),合金成分などにモリブデン( Mo ),発熱体,合金成分などにタングステン( W )

 周期表 7族
 合金成分などにマンガン( Mn ),医療関連などにテクネチウム( Tc ),熱電対,触媒などにレニウム( Re )

 周期表 8族
 構造材料,鉄鋼材料などに鉄( Fe ),触媒などにルテニウム( Ru ),ペン先,触媒にオスミウム( Os )

 周期表 9族
 合金成分,顔料などにコバルト( Co ),めっき,触媒などにロジウム( Rh ),点火プラグ,ペン先などにイリジウム( Ir )

 周期表 10族
 めっき材,合金成分などにニッケル( Ni ),水素吸蔵,医療関連などにパラジウム( Pd ),宝飾品,めっき材などに白金( Pt )

 周期表 11族
 電気配線,合金成分などに銅( Cu ),宝飾品,めっき材などに銀( Ag ),金( Au )

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