第四部:無機化学の基礎 無機分析化学(分析とは)

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  ここでは,多くの分野で物質の特定に活用される 【分析化学と化学分析の違い】, 具体的な【化学分析の分類】, 具体的な【状態分析とは】, 化学分析に用いる原理別に 【光学】, 【クロマトグラフィー】, 【滴定法】, 【電磁気的特性】, 【その他】 に分けて分析法を紹介するともに,化学分析関連の 【 JIS 規格(通則)】 を紹介する。
 第四部では、無機物質の化学分析を紹介し,有機物質の化学分析に関しては,第五部の【有機化合物の分析】で紹介する。

  分析化学と化学分析の違い

 分析化学( analitical chemistry )
 物質を分析する理論や技術を研究する学問分野,すなわち化学の一分野を意味する。

 化学分析( chemical analysis )
 JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門): Technical terms for analytical chemistry (General part) 」では,
 “物質の化学種を明らかにするための,又はそれを定量するための操作及び技術
と定義している。なお,注書きに,“化学種を認知するもので,化学的方法,物理的方法などを問わない”とある。

 化学種( chemical species )
 “物質を構成している元素又は化合物の集合体”
 なお,同 JISでは,分析( analysis )
 “物質又は現象を成分,要素に分解し,定量,確認する操作。”
 と定義し,一般的な用語としての“ある物事を分解して,それらを成立している成分・要素・側面を明らかにすること。”より狭い意味で用いている。

 すなわち,学問体系を意味する場合の用語は分析化学を,手法を意味する場合の用語には化学分析を用いなければならない。

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  化学分析の分類

 化学分析は,目的や用いる手法などに応じて多くの分類がある。次に主な分類について JIS K 0211 「分析化学用語(基礎部門)」を参考に紹介する。

 分析目的による分類
 物質に含まれる成分の種類を明らかにする化学分析を定性分析( qualitative analysis )といい,
 物質の成分の量的関係を明らかにする化学分析を定量分析( quantitative analysis )という。
 試料物質の含有する元素の検出,又は定量を目的とした化学分析は,特に元素分析( elemental analysis )という。
 元素組成以外の化学情報(例えば,化合物の形態,分布,結晶系など)を得るための分析は,次項で紹介する状態分析( analysis of state )という。

 なお,定性分析の行為を定性( qualification )といい,定性分析で未知物質と既知物質との物性値を比較し既知物質と同一であるということを確認する操作を同定( identification )という。
 同様に,定量分析の行為を定量( determination )と称する。
 さらに,定量分析ではないが,量的概念を加味して行う定性分析を半定量分析( semi quantitative analysis )という。

 対象とする分野による分類
 無機物質を対象として取り扱う無機[化学]分析( inorganic [ chemical ] analysis )と,有機物質を対象として取り扱う有機[化学]分析( organic [ chemical ] analysis )に分けられる。
 ここでは,主に無機化学分析で利用される化学分析方法を中心に紹介する。有機化学分析で利用される核磁気共鳴分光分析法,赤外分光分析法,ガスクロマトグラフィーなどについては,【有機化合物の分析】で紹介する。

 用いる分析手法による大分類
 溶液中の反応によって行う化学分析方法を湿式分析法( wet analysis )といい,滴定操作によって,分析種と定量的に反応する標準液の体積を求め,その値から分析種を定量する化学分析を容量分析( volumetric analysis )という。
 定量しようとする成分を一定の組成の純物質として分離し,その質量又は残分の質量から分析種の量を求める定量分析を重量分析( gravimetric analysis )という。
 機器を用いる化学分析については,機器分析( instrumental analysis )ともいう。

 その他の分類
 試料の状態を変えないで行う化学分析を非破壊分析( non-destructive analysis )その場分析( in-situ analysis )生きたままの分析( in-vivo analysis )などといい,試料の状態を不可逆に変えて行う化学分析を破壊分析( destructive analysis )という。
 化学分析において,目的成分を分離して行う分離分析( separation analysis )と分離せずに行う共存分析( non-separation analysis )あるいは同時分析( multi-element/species analysis )という。

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  状態分析とは

 状態分析( analysis of state )
 試料の含有元素以外の化学情報(例えば,化合物の形態,分布,結晶系など)を得るための分析。( JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門)」)

 状態分析法の一例
 熱分析( thermal analysis )
 物質の温度を調節されたプログラムに従って変化させながら,その物質(及び/又はその反応生成物)のある物理的性質を温度の関数として測定する一群の技法。( JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門)」
 物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら,その物質のある物理的性質を温度の関数として測定する一連の技法の総称(ここで,物質とはその反応生成物も含む)。( JIS K 0129「熱分析通則」

 代表的な熱分析手法には,温度(基準物質との温度差)を検出する示差熱分析( DTA ),基準物質との熱流差を検出する示差走査熱量測定( DSC ),質量(重量変化)を検出する熱重量測定( TG ),寸法変化を検出する熱機械分析( TMA ),弾性率を検出する動的粘弾性測定( DMA )の 5技法がある。
 示差熱分析( differential thermal analysis )では,試料の温度変化の情報が得られ,相転移(融解,ガラス転移,結晶化,気化,昇華など),反応現象(脱水,分解,酸化,硬化など)の把握が可能である。
 示差走査熱量測定( differential scanning calorimetry )では,試料の熱エネルギーの入力差を温度の関数として測定でき,相転移(融解,ガラス転移,結晶化など),反応や熱履歴の把握,比熱容量の測定が可能である。
 熱重量測定( thermogravimetry )では,試料の質量を温度又は時間の関数として測定でき,重量変化のみられる現象(昇華,蒸発,熱分解,脱水など)の把握が可能である。
 熱機械分析( thermomechanical analysis )では,圧縮,引張り,曲げなどの非振動的荷重を加えてその物質の変形を温度又は時間の関数として測定でき,形状変化の伴う現象(熱膨張,熱収縮,ガラス転移,硬化反応,熱履歴など)の把握が可能である。
 動的粘弾性測定( dynamic mechanical analysis )では,試料の複素弾性率を温度又は時間の関数として測定でき,分子内の運動や構造変化に伴う現象(ガラス転移,結晶化,反応,熱履歴など)の把握が可能である。

 光分析( photometric analysis,photometry )
 光分析 光の放射,吸収,散乱などを利用する化学分析法の総称。( JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門)」
 分光分析( spectrometry )
 物質が放射,散乱又は吸収する光のスペクトルを利用して行う定性・定量分析。( JIS K 0212「分析化学用語(光学部門)」
 スペクトル( spectrum )
 光を単色光成分に分解して波長若しくは光量子のエネルギーの大きさの順に並べたもの,又は一つの放射源から発生する電磁波の放射をプリズム,回折格子などの分散体によって分散したもの。( JIS K 0212「分析化学用語(光学部門)」

 光は電磁波である。電磁波は,波であると共に粒子でもある。物質に波が当たると相互作用が起こり,波の透過,吸収,反射,散乱,回折などの物理現象が起きる。この現象を利用して行う化学分析を光分析という。
 光分析は,物質との応答により,次の二つに分けられる。
 ① としての応答を利用した方法
 光(電磁波)のとしての性質(散乱・回折・干渉・屈折など)を利用する方法である。
 レーザー光を用いた粒度分布測定に用いられるレーザー回折( laser diffraction ) レーザー散乱法( laser scattering method ),光の干渉を利用して光の波長・屈折率・スペクトル線の構造などを調べる干渉計( interferometer ),物質の屈折率を測定する屈折計( refractometer ),X線が結晶格子で回折を示す現象を利用し,結晶構造を決定するX線回折法( XRD; X-ray diffractometry )などが挙げられる。
 結晶の格子定数や面間隔を求められるX線回折法と同様に,電子線の波としての性質を利用した方法は電子線回折( electron diffraction )という。
 ② エネルギーの吸収に対する応答を利用した方法
 光(電磁波)のエネルギーの吸収を利用する方法である。
 特定の波長における光の吸収を測定して定性・定量を行う吸光光度分析法( absorption spectrometry ),吸光光度分析法の取り扱う波長範囲は紫外部(約 200~380nm ),可視部(約 380~780nm ),および赤外領域( 780nm以上)である。赤外領域は,有機化合物の官能基の分子振動によるエネルギー吸収領域であることから,赤外線分光光度法として別に取り扱われることが多い。
 物質が光,熱,電気などのエネルギーを吸収し,その応答として発生した光を利用する発光分光分析法( AES; atomic emission spectrometry,OES; optical emission spectrometry ),与えるエネルギーが電子線又はX線の場合はX線発光分光法( X-ray emission spectroscopy; XES )といい,化学反応によって生成した励起化学種からの発光を利用する方法は,化学発光法( chemiluminescence method )といわれる。

 クロマトグラフィー( chromatography )
 複数の分析種が移動相及び固定相の 2相間でそれぞれ分布する度合いに違いがある場合,一方の相(移動相)を移動させてこれらの成分を分離する方法。( JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門)」
 移動相( mobile phase )
 クロマトグラフィーが行われる場の要素の一つで,固定相に接して流れる気体,液体,超臨界流体などの流体。( JIS K 0214「分析化学用語(クロマトグラフィー部門)」
 固定相( stationary phase )
 クロマトグラフィーが行われる場の要素の一つで,移動相と平衡状態にあり,試料成分と相互作用する相。( JIS K 0214「分析化学用語(クロマトグラフィー部門)」

 ガスクロマトグラフィー( GC; gas chromatography )
 移動相に気体を用い,固定相には液体を用いる分配型 (気液) クロマトグラフィーと固体を用いる吸着型 (気固) クロマトグラフィーがある。 試料成分は固定相と移動相との間で分配又は吸着を繰返しながら,出口に向かう。この間に成分の固定相との分配率,又は吸着率の差で生じる移動速度の差により,試料中の成分を分離する。また,分離した成分の質量分析が同時に可能なガスクロマトグラフ質量分析( GC/MS )も広く用いられている。
 液体クロマトグラフィー( LC; liquid chromatography )
 移動相として試料が溶け込んだ溶媒を用い,固定相を持つ充塡剤が詰められた管中を通す。試料中の成分の分子の大きさや電荷の差による移動速度の差を利用して分離する方法である。高圧をかけることで短時間に分離を可能とする高速液体クロマトグラフィー( HPLC )が広く用いられる。また,分離した成分の質量分析が同時に可能な液体クロマトグラフ質量分析( LC/MS )も広く用いられている。
 イオンクロマトグラフィー( IC; ion chromatography )
 電解質溶液中のイオン種成分の分離分析法。電解質溶液を移動相として,イオン交換体などを固定相とした分離カラム内で試料溶液中のイオンのイオン交換体との交換能力の差を用いて分離する。

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  光学を活用した化学分析

 X線回折法( X-ray diffraction ; XRD )
 結晶にX線を照射すると,ブラッグの反射条件又はラウエの回折条件に従って,その結晶に特有の回折パターンが得られることを用いて,結晶の構造解析を行う方法。
 全反射X線回折法( total reflection X-ray diffractometry ; TXRD )
 全反射が起こるような低角度で試料面にX線を照射することによって表面からの回折X線だけを検出して,物質の表面の結晶構造を解析する方法。
 X線吸収端構造( X-ray absorption near edge structure , XANES )
 X線吸収端近傍の吸収スペクトルに現れる化学状態の違いに基づく形状の変化。
 化学発光法( chemiluminescence method )
 化学反応で放出されたエネルギーによって励起された化学種が,低いエネルギー準位に遷移するとき放出する二次光を利用する分析方法。
 吸光光度分析法( molecular absorption spectrometrry )
 波長約 200 nm ~ 2500 nm の特定の波長における光の吸収を測定して定性・定量を行う方法。
 蛍光分光分析法( fluorescence spectrometry )
 蛍光スペクトル又は励起スペクトルを測定し,物質の定性・定量を行う方法。
 蛍光X線分析法( XRF :X- ray fluorescent analysis )
 蛍光 X 線を測定し,物質の定性・定量を行う方法。エネルギー分散方式,波長分散方式などがある。
 全反射蛍光X線分析法( total reflection X-ray fluorescence spectrometric analysis ; TXRF )
 全反射が起こるような低角度で試料面にX線を照射することによって表面に存在する元素から発生する特性X線を解析して物質の表面の元素の分析を行う方法。
 原子吸光[分光]分析法( atomic absorption spectrometry )
 試料中に含まれる分析対象元素を,フレーム(炎),電気加熱(フレームレス),又は化学反応によって原子化し,その原子蒸気層の吸光度を測定することによって分析対象元素の濃度を求める方法。
 核磁気共鳴分光法( NMR :nuclear magnetic resonance spectroscopy )
 核磁気共鳴現象を利用して分子の化学組成及び隣接する原子間の距離の解析などを行う分析方法。
 赤外分光分析法( infrared spectrometry )
 赤外吸収スペクトルを測定して定性・定量を行う分析方法。
 電子スピン共鳴分光法( ESR : electron spinresonance spectroscopy )
 電子スピン共鳴現象を利用して得られたスペクトルから物質の電子の構造解析などを行う分析方法。
 発光分光分析法( atomic emission spectrometry )
 電気的,熱的など各種の方法によって試料を励起し,基底状態に戻る際に放射される原子スペクトルを分光器又は分光光度計で観測する定性・定量分析の総称。スパーク放電,グロー放電,レーザなどを励起源とする。
 光分析( photometric analysis ; photometry )
 光の放射,吸収,散乱などを利用する化学分析法の総称。
 光音響分光法( PAS :photoacoustic spectrometry; )
 断続的な照射光を吸収した試料が熱膨張を起こし,その内部に発生させる照射光と同期した疎密波を音響として検出することによってスペクトルを得る分光法。
 比色分析( colorimetric analysis )
 試料物質又は試料物質に適切な試薬を加えて発色させたものについて透過光又は反射光を測定し,色調,色の濃さなどを標準色板,標準色溶液などと比較することによって行う定性又は定量分析。
 フーリエ変換赤外分光光度計( Fourier transform infrared spectrophotometer ; FT-IR )
 干渉曲線の信号のフーリエ変換によって分光スペクトルを測定する赤外分光光度計。
 誘導結合プラズマ発光分光分析法( ICP / AES :inductively coupled plasma atomic emission spectrometry )
 工業用周波数の高周波を用いて,コイルによる電磁誘導によって発生する磁場でガスを電離させて得られる高温のプラズマを光源とした発光分光分析法。
 ラマン分光法( Raman spectroscopy )
 a) ラマン散乱を分光することによって,目的物質の遷移(主に分子振動準位間の遷移)を観測する手法。
 b) ラマン散乱の分光で得られる情報と同等の情報(選択律は異なる場合がある。)を得ることが可能なハイパーラマン分光法,コヒーレント反ストークスラマン分光法,逆ラマン分光法,誘導ラマン分光法などの非線形分光法。

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  クロマトグラフィーを用いた化学分析

 クロマトグラフィー( chromatography )
 複数の分析種が移動相及び固定相の 2 相間でそれぞれ分布する度合いに違いがある場合,一方の相(移動相)を移動させてこれらの成分を分離する方法。
 イオンクロマトグラフィー( ion chromatography ; IC )
 電解質溶液中のイオン種成分の分離分析法。溶離液を移動相として,イオン交換体などを固定相とした分離カラム内で試料溶液中のイオン種成分を展開溶離させ,電気伝導度検出器,電気化学検出器,分光光度検出器又は蛍光検出器で測定する分析方法。
 イオン交換クロマトグラフィー( ion-exchange chromatography )
 固定相にイオン交換能をもつ物質を用いてイオン解離性試料の分離を行う液体クロマトグラフィー。
 液液クロマトグラフィー( liquid-liquid chromatography )
 固定相として液体を用いる液体クロマトグラフィー。
 液体クロマトグラフィー( liquid chromatography ; LC )
 移動相として液体を用いるクロマトグラフィー。被検成分を固定相との相互作用(吸着,分配,イオン交換,サイズ排除など)の差を利用して,分離,定量する。
 液体クロマトグラフ質量分析計( liquid chromatograph/mass spectrometer ;LC/MS )
 液体クロマトグラフと質量分析計とを結合した機器。
 ガスクロマトグラフィー( gas chromatography ; GC )
 移動相として気体を用いるクロマトグラフィー。被検成分を固定相との相互作用(吸着,分配)の差を利用して,分離,定量する。
 ガスクロマトグラフ質量分析計( gas chromatograph/mass spectrometer ;GC/MS )
 ガスクロマトグラフと質量分析計とを結合した機器。
 吸着クロマトグラフィー( adsorption chromatography )
 試料成分の気固又は液固吸着平衡の差によって分離が行われるクロマトグラフィー。
 高速液体クロマトグラフィー( high performance liquid chromatography ; HPLC )
 液体の移動相をポンプなどによって加圧してカラムを通過させ,試料成分を固定相と移動相との相互作用(吸着,分配,イオン交換,サイズ排除など)の差を利用して高性能に分離して検出する方法。
 薄層クロマトグラフィー( thin layer chromatography ; TLC )
 ガラスなど平滑な板の上に吸着剤を薄く均一に塗布したものを固定相とした液体クロマトグラフィー。

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  滴定法を用いた化学分析

 容量分析( volumetric analysis )
 滴定操作によって,分析種と定量的に反応する標準液の体積を求め,その値から分析種を定量する化学分析。
 滴定法( titrimetry )
 試料溶液に含まれている分析種に対し,これと反応する試薬(滴定剤という。)として,濃度既知の標準液を用いるか又は滴定剤を電気化学的に発生させて,化学量論的な反応終点までに要した標準液の量又は電気量から分析種を定量する方法。
 カールフィッシャー滴定法( Karl Fischer titration method )
 カールフィッシャー試薬(よう素,二酸化硫黄及び塩基をメタノールなどに溶かしたもの。)を用いて水分を定量する滴定方法。
 間接滴定法( indirect titration )
 分析種を直接的に“滴定”しないで,間接的に“滴定”する方法。
 キレート滴定法( chelatometric titration )
 キレート生成反応を利用する滴定方法。
 逆滴定法( back titration )
 試料溶液に過剰量の標準液を一定量加え,反応せずに残った標準液の量を他の種類の標準液を用いて滴定し,分析種の量を求める滴定方法。
 光度滴定法( photometric titration )
 試料溶液の吸光度の変化を追跡して終点を検知する滴定方法。通常,指示薬を加え,その吸光度変化を測定する。
 コロイド滴定法( colloidal titration )
 水溶液中で正又は負の電荷をもつコロイドに反対電荷をもつコロイドを加え,このとき生じる電荷の中和反応の化学量論的な関係を利用する滴定方法。
 錯滴定法( compleximetry , complexometric itration )
 錯体の生成・分解反応を利用する滴定方法。
 酸塩基滴定法( acid-base titration )
 酸塩基反応を利用する滴定方法。
 酸化還元滴定法( oxidation-reduction titration , redox titration )
 酸化還元反応を利用する滴定方法。
 濁度滴定法( turbidimetric titration )
 終点の検知に濁りを利用する滴定方法。
 置換滴定法( displacement titration )
 置換反応を利用する滴定方法。キレート滴定においては,金属イオン M に対してキレート化合物 M' Y を加え,置換反応によって生じる M'を Y の標準液を用いて滴定する。
 中和滴定法( neutralization titration )
 酸とアルカリとの中和反応による滴定方法。 酸を用いた滴定は酸滴定(acidimetry),アルカリを用いた滴定はアルカリ滴定(alkalimetry)という。
 沈殿滴定法( precipitation titration )
 沈殿の生成又は消滅を利用する滴定方法。
 点滴分析( spot analysis )
 主として滴板上において 1 滴ぐらいの試料溶液によって行う化学分析。
 電位差滴定法( potentiometric titration )
 当量点近傍での電位差変化,又は当量点での電位差値から終点を決定する滴定方法。
 電量滴定法( coulometric titration )
 定電流電解によって試薬を発生させて反応を行わせ,終点までに要した電気量から定量する分析方法。
 よう素滴定法( iodimetry , iodometry )
 よう素の酸化作用又はよう化物イオンの還元作用を利用する滴定方法。

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  電磁気的特性を活用した化学分析法

 質量分析( MS :mass spectrometric analysis , mass spectrometry )
 イオンを一定速度に加速して,電場及び磁場,又は 4 個の電極から構成した四重極場に導き,飛跡を曲げることによって質量スペクトルを求め,存在イオン種の定性及び定量を行う分析方法。
 誘導結合プラズマ質量分析法( ICP / MS :inductively coupled plasma mass spectrometry )
 試料に含まれる分析種を誘導結合プラズマによってイオン化し,生成したイオンを質量分析計に導入し,対象元素の質量/電荷数(m/z)におけるイオンの個数を測定することによって元素又は同位体を分析する方法。
 二次イオン質量分析法( secondary ion-mass spectrography ; SIMS )
 高エネルギー(数 keV∼20 keV)のイオンを固体に照射し,スパッタリングによって放出される二次イオンを質量分析計によって分析する方法。
 X線光電子分光法( X-ray photoelectron spectroscopy ; XPS )
 物質にX線( Al Kα,MgKα線など)を照射したときに放出される光電子の運動エネルギー分布を測定することによって光電子ピークのケミカルシフトから元素の化学結合状態について解析する方法。
 オージェ電子分光法( Auger electron spectroscopy ; AES )
 2 keV 程度の電子線を固体表面に入射させ,オージェ効果によって得られるオージェ電子のエネルギー分布から,固体の表面の元素を解析する電子分光法。
 ケミカルシフト( chemical shift )(化学シフト)
 原子が他の原子と結合する場合,原子が単体で存在するときと原子から電子を引離すときとでは,必要とする結合エネルギーに差を生じる現象。
 微小分析,マイクロプローブ分析( microprobe analysis )
 バルク試料の微小な領域[例えば,マイクロメートル(μm)径の面積]又は微小な体積部分について化学的又は物理的な情報を得る分析。
 局所分析( local analysis )
 試料の微視的部分の組成を求め,試料内の成分濃度の分布又は存在状態を知るために行う化学分析。
 走査電子顕微鏡( scanning electron microscope ; SEM )
 細く収束した数十 kV の電子プローブを試料上で二次元的に走査することによって試料から得られる二次電子などを用いて拡大像を形成することを基本機能とする顕微鏡。
 電子線マイクロアナリシス( EPMA :electron probe microanalysis; )
 試料面に照射した電子ビームによって発生する特性 X 線分光によって,微小領域の組成を分析する方法。 注記 1990 年頃までは X 線マイクロアナリシス( XMA :X-ray micro analysis )とも称していた。
 走査オージェ電子顕微鏡( scanning Auger electron microscopy ; SAM )
 細く絞った電子線を用いて試料表面を走査し,得られたオージェ電子による元素像(オージェ像)によって表面の元素,それらの分布状態を解析する顕微鏡。
 透過電子顕微鏡( transmission electron microscope ; TEM )
 数十 kV から数百 kV の電子線がもつ波の性質を利用して物質の透過像を拡大する顕微鏡。
 分析電子顕微鏡( analytical electron microscope ; AEM )
 透過電子顕微鏡に元素分析機能を追加した複合機器。照射電子線によって試料内で励起された特性X線をエネルギー分散形X線分光器(EDS)で元素分析を,電子エネルギー損失分光器によって試料を通過した電子線のエネルギー分析から元素分析及び結合状態分析を行う機器。
 走査近接場光顕微鏡( scanning near field optical microscope )
 可視光領域でのエバネッセント効果を利用した光源をプローブとして用い,それを走査しながら物質の光学的性質の変化を検出し,表面の構造を解析する顕微鏡。
 走査トンネル顕微鏡( scanning tunneling microscope ; STM )
 探針と試料との間に流れるトンネル電流値の変化を測定しながら,探針を走査し,表面の原子の位置及び電子状態を解析する顕微鏡。
 走査プローブ顕微鏡( scanning probe microscope ; SPM )
 探針を走査しながら試料と探針との間に働く原子間力,摩擦力,磁気力などの相互作用の変化を検出して,表面の形状,性質などを解析する顕微鏡の総称。
 原子間力顕微鏡( atomic force microscope ; AFM )
 探針を走査しながら試料と探針との間に働く原子間力の変化を検出して,表面の構造を解析する顕微鏡。
 核磁気共鳴分光分析法( nuclear magnetic resonance spectroscopy ; NMR )
 核磁気共鳴現象を利用して分子の化学組成及び隣接する原子間の距離の解析などを行う分析方法。
 核磁気共鳴とは,核磁気モーメントをもつ原子核のエネルギー準位が,外部磁場によって分裂して生じたエネルギー準位間の共鳴現象である。
 隣接する原子の影響で原子の電子系がもつ磁気モーメントが変化し,その影響によって核磁気モーメントの共鳴周波数がずれる現象の化学シフト(chemical shift)から原子の配列状態を評価できる。
 低速電子線回折( low energy electron diffraction method ; LEED )
 低エネルギー(加速エネルギーが 1 keV 以下)の電子線を入射し,電子線の回折像から物質の表面の原子構造を解析する方法。
 高速電子線回折( high energy electron diffraction method ; HEED )
 高エネルギー(加速エネルギーが 10 keV 以上)の電子線を入射し,得られる回折像を解析する方法。
 反射高速電子線回折( reflection high energy electron diffraction method ;RHEED )
 HEED で反射電子線の回折像を観察する方法。
 真空紫外光電子分光法( ultraviolet photoelectron spectroscopy ; UPS )
 ヘリウム共鳴線(58.4 nm,21.2 eV)などの真空紫外線を照射したときに放出される光電子の運動エネルギー分布,角度分布などを測定し,物質の電子構造,原子配列などを解析する方法。
 電界イオン顕微鏡(表面分析の)( field ion microscope ; FIM )
 試料表面から放出される電子又はイオンを用いて表面状態の拡大像を得る機器。
 電気化学分析( electrochemical analysis )
 物質の電気化学的性質を直接的又は間接的に利用して行う分析方法。
 電子スピン共鳴分光法( electron spinresonance spectroscopy ; ESR )
 電子スピン共鳴現象を利用して得られたスペクトルから物質の電子の構造解析などを行う分析方法。
 電磁気分析( electromagnetic method of analysis )
 X 線,電子線,イオンビーム,電場,磁場などの電磁気的性質を分析種に作用させて,分子,原子などに関する情報を得る分析。
 イオン散乱分光( ion scattering spectroscopy ; ISS )
 数百 eV 程度に加速した比較的軽いイオンを固体表面に入射し,散乱イオンのエネルギースペクトルによって表面に存在する元素種と濃度とを分析し,また,散乱イオン強度の入射角依存性によって表面上の原子配列を決定する方法。
 熱重量分析( thermogravimetry )
 試料物質の質量を,調節された速度で加熱又は冷却させる環境の中で,時間又は温度の関数として測定する方法。
 ボルタンメトリー( voltammetry )
 微小電極を用いた電解によって得たボルタモグラムを解析して行う分析方法。
 ポーラログラフィー( polarography )
 水銀などの滴下電極を作用電極として用いる電解において,作用電極の電位と電流との関係を測定する分析方法。ボルタンメトリーの一種。

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  その他の化学分析法

 電気化学分析( electrochemical analysis )
 物質の電気化学的性質を直接的又は間接的に利用して行う分析方法。
 気泳動法( electrophoresis )
 試料溶液中に電極を入れて,これに直流電圧を加えるとき,コロイド粒子,微細粒子などがどちらか一方の極へ移動する現象を利用して,試料溶液中の電荷をもった成分の分離・分析を行う方法。
 流れ分析( flow analysis )
 流れの中で試料と試薬とを反応させた成分を連続的に検出,定量する分析方法。
 熱分析( thermal analysis )
 試料の温度を所定のプログラムに従って変化させながら,試料及び/又は生成物のある物理的性質を温度の関数として測定する一連の方法の総称。
 熱重量測定装置( thermogravimetric analyzer ; TG )
 試料の温度を所定のプログラムに従って変化させながら,質量を温度の関数として測定する機器。
 示差走査熱量計( differential scanning calorimeter ; DSC )
 試料及び基準物質の温度を所定のプログラムに従って変化させながら,その試料と基準物質とのエネルギーの入力の差を温度の関数として測定する機器。
 示差熱分析装置( differential thermal analyzer ; DTA )
 試料及び基準物質の温度を所定のプログラムに従って変化させながら,その試料と基準物質との間の温度差を温度の関数として測定する機器。
 放射分析( radiometric analysis )
 元素分析を行うため,放射性核種を指示薬として用い,その放射能測定から物質中の元素を定量する方法。
 放射化学分析( radiochemical analysis )
 物質中に含まれる放射性核種を放射能測定によって定性又は定量する分析方法。 注記 広い意味で放射化分析法も含まれる。
 放射化分析法( activation analysis )
 a) 試料に中性子,荷電粒子(陽子,重陽子,3He2+,4He2+,重イオン),光子などを照射して試料に含まれている原子(安定な核種)と原子核反応を起こさせ,生成した放射性核種の放射能を測定して元素分析する方法。
 b) 放射化学放射化分析法と機器放射化分析法とを統合した用語。
 放射化学放射化分析法( radiochemical activation analysis )
 放射化分析法のうち,放射化した試料に放射化学的分離操作を行い,測定対象核種を選択的に分離・濃縮した後,その放射能を測定して行う分析方法。
 連続分析法( continuous analysis )
 分析装置に試料を自動的に導入するか,又は検出端を試料の流れの中に挿入することによって,試料の濃度などを自動,かつ,連続的に測定する方法。
 注記:測定が完全に連続でなくても,一定時間ごとに自動採取・測定が行われるものは,間欠連続として連続分析に含まれる。通常,測定は一定の項目に限定していることが多い。

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  化学分析関連の JIS 規格(通則)

 用語
 JIS K 0147 「表面化学分析−用語」 Surface chemical analysis-Vocabulary
 JIS K 0211 「分析化学用語(基礎部門)」 Technical terms for analytical chemistry (General part)
 JIS K 0212 「分析化学用語(光学部門)」 Technical terms for analytical chemistry (optical part)
 JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」 Technical terms for analytical chemistry (Electrochemistry part)
 JIS K 0214 「分析化学用語(クロマトグラフィー部門)」 Technical terms for analytical chemistry (Chromatography part)
 JIS K 0215 「分析化学用語(分析機器部門)」 Technical terms for analytical chemistry(analytical instrument part)
 JIS K 0216 「分析化学用語(環境部門)」 Technical terms for analytical chemistry (Environmental part)

 湿式分析
 JIS K 0050 「化学分析方法通則」 General rules for chemical analysis

 光分析
 JIS K 0115 「吸光光度分析通則」 General rules for molecular absorptiometric analysis
 JIS K 0116 「発光分光分析通則」 General rules for atomic emission spectrometry
 JIS K 0117 「赤外分光分析方法通則」 General rules for infrared spectrophotometric analysis
 JIS K 0119 「蛍光X線分析通則」 General rules for X-ray fluorescence analysis
 JIS K 0120 「蛍光光度分析方法通則」 General rules for fluorometric analysis
 JIS K 0121 「原子吸光分析通則」 General rules for atomic absorption spectrometry
 JIS K 0131 「X線回折分析通則」 General rules for X-ray diffractometric analysis
 JIS K 0134 「近赤外分光分析通則」 General rules for near-infrared spectrophotometric analysis
 JIS K 0137 「ラマン分光分析通則」 General rules for Raman spectrometry
 JIS K 0144 「表面化学分析—グロー放電発光分光分析方法通則」 Surface chemical analysis−Glow discharge optical emission spectrometry (GD−OES) −Introduction to use

 クロマトグラフィー
 JIS K 0114 「ガスクロマトグラフ分析通則」 General rules for gas chromatography
 JIS K 0123 「ガスクロマトグラフ質量分析通則」 General rules for gas chromatography / mass spectrometry
 JIS K 0124 「高速液体クロマトグラフィー通則」 General rules for high perfomance liquid chromatography
 JIS K 0127 「イオンクロマトグラフ分析通則」 General rules for ion chromatography
 JIS K 0135 「分取液体クロマトグラフィー通則」 General rules for preparative liquid chromatography
 JIS K 0136 「高速液体クロマトグラフィー質量分析通則」 Liquid chromatography / mass spectrometry

 その他
 JIS K 0111 「ポーラログラフ分析のための通則」 General Rules for Polarographic Analysis
 JIS K 0113 「電位差・電流・電量・カールフィッシャー滴定方法通則」 General rules for methods of potentiometric, amperometric, coulometric, and Karl Fischer titrations
 JIS K 0122 「イオン電極測定方法通則」 General rules for ion selective electrode method
 JIS K 0126 「流れ分析通則」 General rules for flow analysis
 JIS K 0129 「熱分析通則」 General rules for thermal analysis
 JIS K 0130 「電気伝導率測定方法通則」 General rules for electrical conductivity measuring method
 JIS K 0132 「走査電子顕微鏡試験方法通則」 General rules for scanning electron microscopy
 JIS K 0133 「高周波プラズマ質量分析通則」 General rules for high frequency plasma mass spectrometry
 JIS K 0461 「競合免疫測定方法通則」 Water quality-Guidelines for competitive immunoassay
 JIS K 0462 「非競合免疫測定方法(サンドイッチ法)通則」 Guidelines for non-competitive immunoassay (Sandwitch method)
 JIS K 0464 「ポリクロロビフェニル(PCB)の免疫測定方法通則」 Guidelines for PCB immunoassay

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