化 学 (無機化学)

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 ここでは,金属元素(遷移元素)の化学的性質に関連し,【はじめに】【バナジウム】【ニオブ】【タンタル】【ドブニウム】に項目を分けて紹介する。

 【周期表第5族】

 周期表第5族に分類される元素,バナジウム( V ),ニオブ( Nb ),タンタル( Ta ),ドブニウム( Db )の概要を紹介する。
 なお,実用材料などに利用される主な元素を太字で示した。また,これらの元素は,レアメタルに分類される。
 次表には,これらの中から実用に供され元素の基礎物性を紹介する。比較のため,身近な金属単体として,アルミニウム,鉄の値も併記する。
 なお,ポーリングの電気陰性度イオン化エネルギーは別途紹介している。なお,これらの値は,算出に用いる解離エネルギー値や結合エネルギー値の改訂で変わるので,紹介した値は最新値ではなく,引用文献での値である。


周期表第 5 族元素(単体)の基礎物性
  元素記号    V    Nb    Ta    Al    Fe 
  原子番号    23    41    73    13    26 
  原子量    50.94    92.91    180.95    26.98    55.85 
  融点(℃)    1910    2477    3017    660.3    1538 
  密度(×106 gm-3   6.0    8.57    16.69    2.70    7.87 
  結晶構造    bcc    bcc    bcc    fcc    bcc 
  格子定数(×10-10 m)    3.024    3.300    3.306    4.0496    2.867 
  モース硬度    6.7    6.0    6.5    2.8    4.0 
  電気抵抗(×10-8 Ωm:20℃)    19.7    15.2    13.1    2.82    9.61 
  熱伝導率( W m-1K-1:300K)    30.7    53.7    57.5    237    80.4 
 出典:化学便覧(融点,密度,格子定数,電気抵抗率,熱伝導率),モース硬度(化学便覧など)
 備考: fcc (立方最密充填,面心立方格子),bcc (体心立方格子)

 

 【バナジウム( V )】

 バナジウムは,天然に広範囲に存在するが,資源としては偏在性が強い。主なバナジウム鉱物には,褐鉛鉱(バナジン鉛鉱: Pb5 (VO4)3 (OH,F,Cl) ),カルノー石( 2(UO2)2 (VO4)2•3H2O ),パトロン石( V2S5 )などがある。バナジウムは,褐鉛鉱の他に,他の金属生産における副産物として産出されている。
 バナジウムは,常温・常圧では体心立方格子( bcc )が安定な金属である。単体は,軟らかく,展延性があり容易に圧延加工でき,塩酸,希硝酸,希硫酸や塩基とは反応しないが,濃硝酸,濃硫酸,ふっ化水素酸には溶解する。
 
 用途例
 金属素材としての用途
 ナジウムの主要な用途は,鉄鋼の改質を目的とした添加剤である。鋼にバナジウムを 0.1%程度添加すると,結晶粒の細かい金属構造になり,靭性を損なわないで強度を挙げられ,耐熱性も向上する。
 高張力鋼(高強度低合金鋼)と呼ばれる安価で強靱な鋼として,高層ビル,鋼橋,車両,石油パイプライン用の厚板などに使用されている。
 非調質鋼として,車軸,ボルトなど調質熱処理(焼き入れ,焼きなまし)をせずに強靱さが保証される鋼材として用いられる。
 他には,機械用工具,切削工具,金型工具などのクロムバナジウム鋼(工具鋼ともいう)に,エンジンバルブ,タービンブレードなどに耐熱性ステンレス鋼に用いられている。
 鉄鋼以外の合金では,アルミニウム合金,チタン合金に用いられている。 。
 
 化合物としての用途例
 バナジウム化合物は,触媒としても極めて重要で,硫酸製造において,接触法の硫黄酸化触媒として白金触媒に替わり酸化バナジウム(Ⅴ) V2O5 が広く用いられている。 他に,有機化学(例えば無水マレイン酸や無水フタル酸の製造)の酸触媒として,排気ガス処理で用いる触媒としての用途がある。
 バナジウムは酸化数で色彩が変化するので,塗料などの顔料や高温に耐える着色剤(釉薬など)として,例えば,オレンジ色から赤色には酸化バナジウム(Ⅴ)や塩化バナジウム(Ⅲ) VCl3 が用いられる。
 バナジウムを用いた釉薬に用いる顔料には,バナジウム黄( ZrO2 + NH4VO3 )は,1300℃で焼成することで,ZrO2 粒子表面に V2O5 が結合し黄色に発色する顔料,トルコ青( ZrO2 + SiO2 + NaCl + NH4VO3 )は,800℃の焼成で ZrSiO4 にバナジウムイオンが固溶し青く発色する顔料などがある。他にバナジウム・錫系,ビスマス・バナジウム系の顔料が知られている。
 酸化バナジウム(Ⅳ) V2O4 酸化バナジウム(Ⅲ) V2O3 は,温度により電気抵抗が大きく変化するので,酸化物半導体としてサーミスタ(CTR:critical temperature coefficient thermistor )や赤外線カメラの非冷却型の受光素子,CMOSイメージセンサなどに利用されている。

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 【ニオブ( Nb )】

 天然では,パイロクロア鉱石( (Ca,Na)2Nb2O6 (O,OH,F) ),タンタル石又はコルンブ石( (Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6 )として産出される。タンタルに化学的性質がよく似ていて,鉱物中の結晶構造上でも共存している。
 ニオブは,常温・常圧で体心立方格子構造( bcc )が安定で,単体は,軟らかく展性・延性に富み,空気中で表面が酸化物被膜(不動態)で覆われ,その後の酸化が進まず,酸化力のある酸やふっ化水素酸を除き,通常の酸や塩基には溶解しない金属である。
 単体は,絶対温度 9.2 Kで超伝導転移を起こす。
 
 用途例
 ニオブの用途の 90%は,鉄鋼の添加剤である。自動車や石油パイプライン用の高張力鋼,耐海水性ステンレス鋼,タービン用耐熱超合金などで利用されている。
 酸化ニオブ(Ⅴ) NbO5 は,光学ガラス(高屈折率レンズ)の添加剤に用いられている。
 Nb3Ti ,Nb3Sn などの金属間化合物が超電導材料として,MRI装置,リニアモーターカーなどの超電導コイルに利用されている。
 他に,圧電素子,熱電素子,ニオブコンデンサ,高圧ナトリウムランプ,磁性体,ジョセフソン素子などに利用されている。

 

 【タンタル( Ta )】

 天然では,タンタル石又はコルンブ石( (Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6 )として産出される。ニオブに化学的性質がよく似ていて,鉱物中の結晶構造上でも共存している。
 タンタルの単体は,ニオブより耐酸性が強く,王水に溶解しないが,硝酸とふっ化水素の混合溶液には溶解する。絶対温度 4.5 K で超伝導転移を起こす。
 炭化タンタル( TaC )は,モース硬度約 9 ~ 10 と非常に硬く,融点 3985℃と全物質中最も高い。
 
 用途例
 タンタルは,チタンと同様に体液と反応しない無害な金属として,人工骨,人工関節,手術用縫合糸,人工心臓の材料,歯科インプラントの材料に用いられている。金属アレルギーにならない金属として,宝飾品や高級時計に用いられることもある。
 タンタルコンデンサは,小型で安定度がよく,パソコンや携帯電話などに使用されていた。

 

 【ドブニウム( Db )】

 ドブニウムは,原子番号 105 ,原子量(268),安定同位体が存在せず,複数の放射性同位体が知られる天然には存在しない元素である。その中で,ドブニウム 268 の半減期 29 時間が最も長い。
 アメリカ合衆国のカリフォルニア大学バークレー校,ソビエト連邦(ロシア)のドブナ研究所で,ほぼ同じ時期に発見された人工の元素である。元素名は,ドブナ研究所の地名から付けられた。

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