第四部:無機化学の基礎 生活と無機(建築材料)

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  ここでは,コンクリートの種類と典型的な劣化現象に関連し, 【コンクリートの種類】, 【コンクリートの劣化とは】, 【化学的変状(劣化)】, 【物理的変状(劣化)】 に項目を分けて紹介する。

  コンクリートの種類

 多種多様のコンクリート構造物,施工環境に応じて,適切なコンクリートの選択が肝要である。
 一般構造用コンクリート
 建築物や土木構造物の建設現場で目にすることの多い,コンクリートミキサー車(生コン車)で運ばれ,ポンプ車から圧送できる特性を持つコンクリートで,普通コンクリートともいわれる。
 寒中コンクリート
 一般構造用コンクリートは,低い気温では,流動性が低く,水和反応が進まない。
 そこで,日平均温度 4℃以下と予想される条件で施工可能なコンクリートとして,凍結抵抗性・流動性を向上する AE剤(界面活性剤で,微細な独立気泡を作る混和剤)を添加した材料が用いられる。この場合もセメント以外の材料の加温や保温養生などが求められる。
 暑中コンクリート
 一般構造用コンクリートは,高い気温では,水和反応や水分の蒸発が早すぎ,耐久性低下などの影響が出る。
 そのため,日平均温度 25℃を超えると予想される条件で使用可能なコンクリートして,水和熱の小さいセメントの使用,水和反応を遅らせる混和材を用いた材料が用いられる。
 この場合もコンクリート温度が 35℃以下となるようにセメント以外の材料の冷却,急激な水分の蒸発を防ぐ養生方法などが求められる。
 マスコンクリート
 ダムや大型橋脚など大型構造物や断面寸法 80cm以上の構造体の水和反応熱で発生する応力による割れに対処した材料である。
 流動化コンクリート
 高層ビル建設やプレキャスト工場製品などの流動性が求められる場合に,流動化させる混和剤(流動化剤)を配合した材料である。
 プレストレストコンクリート
 超大橋,建築物などの梁に用いられるコンクリートで,引張りに対する抵抗力を増すため,PC 鋼線などを用い,硬化前に鋼線を引っ張ることで,あらかじめ圧縮力を導入したコンクリートである。
 繊維補強コンクリート
 トンネル覆工,コンクリート製品などで, 引張りや曲げに対する抵抗性を向上するため,鋼繊維,ガラス繊維,炭素繊維などの短い繊維を混入したコンクリートである。
 ポリマーコンクリート
 防水ライニングなどで用いられる合成有機高分子材料(ポリマー)をセメントの代わりに用い,引張り,曲げに対する抵抗性,伸び,防水性を改善したコンクリートである。
 軽量コンクリート
 鉄骨造建築物の壁,床,屋根材,外壁や間仕切りの軽量化を目的に使用されるコンクリートで,骨材に軽石などを用いたコンクリート,又は多量の独立気泡を混入し軽量化したコンクリート(発泡コンクリート)である。

 上記のコンクリート以外にも,一部の特性を改善した高流動コンクリート,高強度コンクリート,低発熱コンクリート,低収縮コンクリート,膨張コンクリート,水密コンクリート,透水性コンクリート,水中コンクリート,吹付けコンクリートなどがある。

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  コンクリートの劣化とは

 コンクリートは,セメントの硬化反応で紹介したように,硬化体内部に連続した微細な空隙を有し,この空隙を通って気体,イオン,水分などの浸透,移動できる材料である。
 また,環境の変化による影響,具体的には採取できる骨材の品質(アルカリ骨材反応)や酸性雨の影響が顕在化している。

 コンクリートの劣化・変状は,塩害,中性化,化学的侵食,アルカリ骨材反応などの化学的変状(劣化),凍結と融解の繰り返しによる凍害,水流などの物理力によるすりへりなどの物理的変状(劣化)に分けられる。

セメント硬化体の組織(模式図)

セメント硬化体の組織(模式図)
元図出典:Sudjono, Agus Santosa ,早稲田大学博士学位論文(2月-2003)「ポルトランドセメントの複合水和反応と組織形成モデルに関する研究」

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  化学的変状(劣化)

 外部環境から供給される化学物質とセメント水和物,骨材や鉄筋とが化学反応を起こすことによって生じる変状(劣化)現象である。
 中性化( carbonation )
 硬化したコンクリートが空気中の二酸化炭素の作用を受けて次第にアルカリ性を失っていく現象で,炭酸化と呼ばれる。
      Ca (OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O
 コンクリート中の水酸化カルシウムが徐々に炭酸カルシウムになり,コンクリートのアルカリ性が低下する現象で,鉄筋の不動態被膜が形成されなくなり,鉄筋の腐食から構造物の耐荷性,耐久性の低下に至る。
 中性化は,コンクリートの通気性が高いほど進みやすい。また,環境条件として,二酸化炭素濃度が高い(室内)ほど,湿度が低いほど,温度が高いほど進行が速い。
 JIS A 1152 「コンクリートの中性化深さの測定方法: Method for measuring carbonation depth of concrete 」
 JIS A 1153 「コンクリートの促進中性化試験方法: Method of accelerated carbonation test for concrete 」

 塩害( damage by salt attack , damage by chloride attack )
 コンクリート中に存在する塩化物イオン( Cl-によって鋼材が腐食し,コンクリートにひび割れ,剝離,剝落などの損傷を生じさせる現象である。
 コンクリート中に塩化物イオンが一定量以上存在すると,【鋼腐食の基礎】孔食で紹介した機構と同様に,塩基性雰囲気下で形成した鉄筋表面の不動態被膜が部分的に破壊され鉄筋などの鋼材の腐食が開始し易くなる。
 塩化物イオンの発生源として,細骨材(海砂),混和剤,セメント,練混ぜ水などに最初から含まれている場合(内在塩化物イオン),環境から飛来する海水飛沫,海塩粒子,凍結防止剤などのコンクリート表面への付着・浸透(外来塩化物イオン)とがある。
 JIS A 1144 「フレッシュコンクリート中の水の塩化物イオン濃度試験方法: Method of test for chloride concentration in water of fresh concrete 」
 JIS A 1154 「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法: Methods of test for chloride ion content in hardened concrete 」

 アルカリ骨材反応( alkali aggregate reaction )
 アルカリ金属イオンとの反応性をもつ骨材(オパール,クリストバライト,トリジマイトなど)が,セメントなどに含まれていたアルカリ分と長期にわたって反応し,コンクリートに膨張ひび割れ,ポップアウトを生じさせる現象で,広義にはコンクリートの細孔溶液中のアルカリ金属イオン( K や Na )と骨材中のアルカリ反応性鉱物との間の化学反応(アルカリシリカ反応: ASR )をいう。
 ASR が進むと,コンクリートのひび割れ,ゲルの滲出,目地のずれなどが生じる。
 JIS A 1145 「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法): Method of test for alkali-silika reactivity of aggregates by chemical method 」
 JIS A 1146 「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法): Method of test for alkali-silica reactivity of aggregates by mortar-bar method 」

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  物理的変状(劣化)

 凍害( frost damage )
 コンクリートに含まれる水の凍結や凍結・融解の作用によって,表面劣化,強度低下,ひび割れ,ポップアウトなどの劣化を生じる現象である。
 耐凍害性が小さい骨材を用いると骨材が割れ,吸水率の大きい軟石を用いると骨材自身が膨張し,表面のモルタルをはじき出す(ポップアウト)。
 コンクリートの耐凍害性は,コンクリート中の空気量ときわめて密接に関係し,気泡が小さいほど耐凍害性は向上する。
 JIS A 1148 「コンクリートの凍結融解試験方法: Method of test for resistance of concrete to freezing and thawing 」
 JIS 規格試験では,供試体の中心部温度 5±2℃~−18±2℃の繰り返し条件を採用している。一般に,コンクリート内部の水は,径 0.1μm 未満の細孔内に存在するため,過冷却により水の凍結温度は −2℃以下となり,これより低い温度で凍結した水(氷)の体積増加による膨張圧が発生する。実用上では −10℃以下となる環境で問題となる現象である。

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