物 理 熱力学(熱力学とは)

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 ここでは,熱の出入りを物理的に解明する熱力学の概要に関し 【熱力学の歴史】【熱力学の基礎】【熱力学の基本法則】【絶対温度】【熱と熱量】 に項目を分けて紹介する。

【熱力学の歴史】

 熱力学(thermodynamics)は,19 世紀には,熱機関の発展と共に熱を扱うための技術が発達し,熱のもつ性質を物理的に明らかにすることが求められ発達した学問である。
 19 世紀後半には,熱的な現象(熱平衡,状態変化,仕事との関係など)を,物質を巨視的な立場から扱う古典物理学の一部門として熱力学が確立している。
 
 18世紀後半から19世紀に,気体の性質について研究され,19世紀初めにボイル・シャルルの法則理想気体の性質)としてまとめられた。
 なお,1662年にロバート・ボイルによって発表されたボイルの法則ジャック・シャルルにより 1787年頃に発見されていたが未発表のシャルルの法則を 1802年にゲイ=リュサックが発表することでまとめることができた。
 1820年代には,カルノーが熱機関の科学的研究を目的としてカルノーサイクルによる研究を行うことで,本格的な熱力学の研究が始まった。
 
 マイヤー,ヘルムホルツ,ジュールにより,エネルギーの一種であることが発見され,熱力学の第一歩が踏み出された。
 エネルギーの一形態として捉えたエネルギー保存則を初めて提唱したのはマイヤーである。
 彼の論文は1842年に発表されたが全く注目されなかった。しかしほぼ同時期にジュールが行った同様の研究はトムソン(ケルビン卿の知るところとなり,彼らの共同研究から熱力学第一法則が明らかにされた。
 さらにトムソンカルノーの研究を知り,絶対温度熱力学的温度の概念および熱力学第二法則に到達した。クラウジウスも独立に第一および第二法則に到達し,カルノーサイクルの数学的解析からエントロピーの概念の重要性を明らかにし,1850年代には両法則が確立された。
 
 19世紀後半には,ヘルムホルツにより自由エネルギーギブズにより化学ポテンシャルが導入され,化学平衡などを含む広い範囲の現象を熱力学で論じることが可能になった。
 
 20 世紀には,ボルツマン,マクスウェル,ギブズにより,分子論の立場から熱力学的なマクロの現象を説明する理論が創始され,熱現象を考えている系に含まる粒子一つ一つの動きに注目し,確率や統計手法で論じる統計力学(statistical mechanics)が発達した。統計力学は,統計物理学(statistical physics)統計熱力学(statistical thermodynamics)とも呼ばれる。

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 【熱力学の基礎】

 熱力学では,巨視的な状態を巨視的な量(圧力,体積,温度などで,状態量という)で記述する。記述に際して,状態量(quantity of state)の間の普遍的な関係(法則)と経験式(状態方程式)とが用いられる。これらの関係を用いることで,少ない状態量状態変数:state variable , state space)で熱力学的状態を記述できる。
 
 熱力学的状態の記述に用いられる状態量の関数は,例えば内部エネルギー,エントロピー,自由エネルギーなどで,状態関数(state function),熱力学関数(thermodynamic function),熱力学ポテンシャル(thermodynamic potential)と呼ばれる。
 なお,熱力学ポテンシャルは,(system)の熱力学的性質の情報を全て持つように作られた熱力学関数なので,完全な熱力学関数とも呼ばれる。
 熱工学などの実用面では,これらの間の関係式を求めることで,熱力学的現象の一般的結論を導き出す手法が用いられる。
 
 (system)
 物理学や化学におけるとは,一定の相互作用や相互連関のもとにあるものから成る全体を意味する。W. グライナー,L. ナイゼ,H. シュテッカー著の「熱力学・統計力学」(シュプリンガー・フェアラーク東京,1999)では,熱力学におけるについて,次のように定義している。
 孤立系(isolated system):周囲のものとはいかなる相互作用もしない系をいう。
 閉じた系(closed system):周囲とエネルギーのやり取りは許されるが,物質のやり取りがない系をいう。
 開放系(open system):周囲とエネルギーおよび物質のやり取りを行なう系をいう。
 均一な系(homogeneous system):系のどの部分をとっても性質が同じな系をいう。
 不均一な系(heterogeneous system):系の性質がある境界の領域を境に不連続に変化する場合をいう。不均一な系において均一な部分を(phase), 各相を囲む領域を相境界(phase boundary)という。
 
 状態量(quantity of state , state quantity)
 熱平衡にある巨視的なにおいて,経路に依存せず,熱力学的状態を特徴づける物理量を状態量という。状態量は,直接的に操作できるような量で,通常用いられる状態量には,温度( T ),圧力( P ),体積( V ),物質量( N )などが挙げられる。
 独立変数の状態量を熱力学的変数として考えるときには状態変数(state variable , state space)といい,従属変数の状態量は,状態変数の関数となるので,この状態量を状態関数(state function)熱力学関数(thermodynamic function)という。状態関数を状態変数で表す数式を状態方程式(equation of state)という。
 どの状態量を独立変数として選ぶかは任意であり,どの状態量も変数にも関数にもなれるので,一般的には状態変数状態関数状態量の同義語としても使われる。
 すなわち,状態量(状態変数)は熱平衡状態にある巨視的な系の状態を特徴づける量といえる。
 
 状態量の分類
 状態量(状態変数)は,示量性を持つか示強性を持つかにより分類される。
 示量状態量(extensive property)
 示量変数(extensive variable)ともいわれ,系内の物質の量に比例する状態量をいう。例えば,体積,物質量,質量,エントロピー,エンタルピーがが挙げられる.
 示強状態量(intensive property)
 示強変数(intensive variable)ともいわれ,物質の量に依存しない状態量をいう。例えば,圧力,温度,密度,濃度,エントロピー,化学ポテンシャルが挙げられる。
 
 状態方程式(equation of state)
 状態方程式とは,状態関数を状態変数(状態量)で表す数式(関係式)をいい,巨視的な系の熱力学的性質を反映している。状態方程式の形は,対象とするにより変化する。
 具体的な状態方程式は実験的に求められるが,統計力学に基づき,熱力学からは与えられない。
 一般的に状態方程式という場合は,流体の圧力を温度,体積と物質量で表す式を指す場合が多いが,固体の弾性体,磁性体,誘電体における状態方程式を考える場合もある。
 次には,状態方程式の例として,流体の状態方程式,理想気体の状態方程式を紹介する。
 流体の状態方程式
 状態量の温度 T ,体積 V ,物質量 N の平衡状態にある流体の圧力 P を適当な関数 f によって
       P = f(T , V , N)
のように表した一般式を状態方程式という。
 物理学では,変数の記号と関数の記号を混用し,
       P = p(T , V , N)
と表すことが多い。
 理想気体の状態方程式
 熱力学的温度 T ,体積 V ,物質量 n の平衡状態にある理想気体の圧力 P は,気体定数 R を用いて
       P = n R T/ V
で与えられる。
 この式は,ボイル・シャルルの法則アボガドロの法則から導かれる。なお,一般的には,分母を払った
       P V = n R T
の形で扱われることが多い。

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 【熱力学の基本法則】

 熱力学は,平衡系の熱力学を扱う平衡熱力学(equilibrium thermodynamics)と非平衡系の熱力学を扱う非平衡熱力学(non-equilibrium thermodynamics)に大別されるが,非平衡系の熱力学は未発達で,限られた状況でしか成立しない状況にある。このため,単に「熱力学」という場合は平衡熱力学を指す。
 平衡(equilibrium)とは熱力学的平衡(熱平衡,力学的平衡,化学平衡)を意味し,問題とする系において,熱力学的な状態量の変化がないことを意味する。
 
 熱力学では,物体の熱力学的状態を,状態量(圧力,体積,温度など)の関数である熱力学的特性関数(内部エネルギー,エントロピー,自由エネルギーなど)で表し,それらの間の関係式を求めることで,現象の一般的結論を導き出す手法が用いられる。
 熱力学の基本原理は,熱力学第ゼロ法則(熱平衡の概念),熱力学第一法則(エネルギー保存),熱力学第二法則(エントロピー増大),熱力学第三法則(ネルンスト・プランクの仮説)などの経験則で構成される。
 
 熱力学第一法則(first law of thermodynamics)
 「孤立系のエネルギーの総量は変化しない。」という熱力学の基本法則の一つで,内部エネルギー(internal energy)という概念を導入したエネルギー保存の法則(law of the conservation of energy)である。
 ある系の内部エネルギー U としたとき,内部エネルギーの変化量( d U )は,仕事と熱の変化の和として与えられる。 例えば,系に成した仕事 ∂W ,系に与えた熱量 ∂Q をとしたとき,内部エネルギー変化量 dU は,
      d U = ∂Q + ∂ W
で与えられる。なお,系が外部に仕事をした場合,系が外部に熱を与えた場合は,負の値になる。
 
 熱力学第二法則(second law of thermodynamics)
 エントロピー増大の法則(law of entropy increase)ともいわれ,エネルギーの移動の方向とエネルギーの質に関する経験則で,様々に表現される。
 代表的なものには,断熱系において不可逆変化が生じた場合,その系のエントロピーは増大するエントロピー増大則,低温の熱源から高温の熱源に正の熱を移す際に,他に何の変化もおこさないようにすることはできないというクラウジウスの法則がある。他に,トムソンの法則,ケルビンの法則,クラウジウスの不等式などの表現がある。
 熱力学におけるエントロピー(entropy)は,系の微視的な「乱雑さ」を表す指標として,伝統的にはクラウジウスの不等式(Σ( Qi / Ti ) ≦ 0 )を用いて定義している。エントロピーの次元は,エネルギーを温度で割った次元(単位:ジュール毎ケルビン)をもつ。
 
 熱力学第三法則(third law of thermodynamics)
 「完全結晶のエントロピーは絶対零度ではすべて等しくなる。」という熱力学の基本法則の一つで,エントロピーの基準値を決めることができることを意味する。
 熱力学第三法則ネルンストの定理(熱定理)「有限回の操作では決して,絶対零度には到達することができない。」と同等といわれている。

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 【絶対温度】

 温度(temperature)は,触感などによる主観的な冷温の程度を客観的に定めるため導入された概念である。
 熱力学第ゼロ法則「系 A と B が熱平衡,系 B と C が熱平衡の時,系 A と C も熱平衡にあると仮定できる。」により,系 A の体積,その他の物理的性質を元に決めた物理量を温度と名付けた時,系 B ,C とも同じ温度にあるとできる。
 次に示すように,初期の温度計は,体積を元に決めた示度を求める方法が採用されている。他には,圧力,電気抵抗の変化を利用したものもある。
 
 温度計の発明
 温度を定量的に定める試みの初めは,ガリレオ・ガリレイ(1564~1642年)による空気温度計といわれている。空気温度計は,空気の熱膨張を利用し温度を求めようとしたものであるが,気圧変化の影響を受けるため定量的指標には至らなかった。
 なお,温度変化が液体の密度変化に比例することを利用し,液体の浮力(浮力の原理)の変化から温度を評価するガリレオ温度計は,ガリレオの名に因んだもので,ガリレオの発明ではない。
 18 世紀になり,実用性の高い液体温度計(liquid thermometer)が開発された。液体温度計とは,ガラスなどで出来た透明容器に水銀やアルコールを封入し,液体の熱膨張に伴う液面の位置の変化を利用して温度を測定する計器である。
 
 温度目盛り
 種々の温度計が発明され,それぞれの温度計ごとに適宜分割された目盛で温度が表示されていた。このため,異なる温度計で得た値が比較できない状況であった。そこで,基準となる点を定めた温度目盛りが採用されるようになった。
 1724年に,ドイツの物理学者ファーレンハイト(1686 ~ 1736年)が,塩と氷の寒剤の温度を 0 度,(体温を 100 度),水の沸点 212 度としファーレンハイト温度目盛(ファーレンハイト度,カ氏,degree Fahrenheit,記号 ℉ )を提唱した。
 
 1742年に,スウェーデン天文学者のセルシウス(1701年 ~ 1744年)が,大気圧( 1 気圧)における水の凝固点を 100 度,沸点を0 度としたセルシウス温度目盛を提唱した。
 このように,当初は,温度が上がると表示値が下がる目盛であったが,セルシウスの死後(1744年)に,凝固点(水の三重点)を 0 度,沸点を 100 度とする現在のセルシウス温度目盛(セルシウス度,セ氏,degree Celsius,記号 ℃ )に改められた。
 
 熱力学(的)温度絶対温度
 温度の異なる2つの熱源の間で動作する可逆熱サイクルの一種のカルノーサイクルの研究が,トムソン(ケルビン卿:1824年~1907年)の知るところとなり,絶対温度(absolute temperature)の概念および熱力学第二法則に到達した。
 すなわち,ケルビン卿は 1848 年に,可逆機関の効率は作業物質に関係なく温度差に依存する一定値であることに着目し,物質の性質に関係なく,熱力学的に温度目盛りが定められることを示し,熱力学的な絶対温度を提案した。
 その後,概ね 100 年後の 1954 年の第 10 回国際度量衡総会において,唯一の温度の定点として水の三重点の温度を 273.16 Kと定め,国際単位系 SIの基本単位として温度の単位ケルビン(記号 K )を水の熱力学(的)温度の 1/273.16 とすることが決定された。
 水の三重点のセ氏温度は 0.01℃であるから,同一温度の絶対温度 T とセ氏温度 t との関係は T=t+273.15 で与えられる。
 近年は,絶対温度の呼称より,熱力学(的)温度(thermodynamic temperature),ケルビン温度の呼称が広く用いられる。
 
 国際単位系 (SI)では,“セルシウス温度の単位はセルシウス度であり,記号は °C で,定義によりケルビンの大きさに等しい。温度の差または間隔はケルビンまたはセルシウス度のどちらによっても表すことができ(第 13 回 CGPM,1967-1968年,決議 3),その数値は同じになる。ただし,セルシウス度で表したセルシウス温度の数値はケルビンで表した熱力学(的)温度の数値に対して次の関係を持つ。
       t / ℃ = T / K − 273.15

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 【熱と熱量】

 熱とは
 (heat)とは,温度の異なる物体や系の接触によって移るエネルギーをいう。従って,熱はエネルギーの移動(熱伝導における一形態である。
 熱力学第一法則で紹介するように,エネルギー移動の形態には,仕事と熱があり,ある系に成した仕事 𝜕 W ,系に与えた熱量 𝜕 Q をとしたとき,内部エネルギー変化量 d U は,
      d U = 𝜕 Q + 𝜕 W
で与えられる。すなわち,エネルギーの移動後は,系を構成する原子や分子の運動エネルギーや位置エネルギーの形の内部エネルギーになる。
 
 熱と物質の状態
 系に熱(エネルギー)を与えた場合に,外に対して行った仕事を差し引いた残りのエネルギーは,系を構成する分子や原子などの微粒子の内部エネルギー(運動エネルギー)として蓄えられる。
 気体や液体を構成する微粒子の運動を熱運動( thermal motion )といい,固体を構成する微粒子の運動を熱振動( thermak vibration )という。
 
 固体に熱を与える(温度を上げる)と,内部エネルギーの増加,即ち微粒子の熱振動が激しくなり,遂には固体中の微粒子を固定する力を超えて自由に動ける液体に変わる。
 液体に熱を与えると,分子間力による分子の拘束(引力)を超える熱運動に至り,分子が自由に運動する気体に変わることができる。
 逆に,気体がら熱を奪う(温度を下げる)と,内部エネルギーの減少で,液体,固体に変化する。
 このように,熱の出入りで,物質を構成する粒子(分子,原子)の熱運動量の変化を原因として,物質の状態は気体,液体,及び固体(三態の間で変化する。
 
 三態間の状態変化を相転移(phase transition)といい,三態の境界線を圧力と温度で示した物質の状態図を相図(phase diagram)という。
 
 熱量とは
 熱量(quantity of heat)とは,高温物体から低温物体へ移動する熱,化学反応で発生,吸収される熱などの大きさを表す量で,1 g 水の温度を 1 ℃だけ上げるのに必要な熱量を 1 カロリー(cal)と定義された。
 熱量の単位として,カロリーが長い間用いられてきた。しかし,蒸気機関,ガソリン・ディーゼルエンジン,ガスタービン機関などの熱機関(heat engine)で仕事に変えることができるため,熱の単位として仕事の単位であるジュール( J )が用いられるようになった。
 熱の単位を仕事の単位に変えるための修正係数(W/ Q)を熱の仕事当量(mechanical equivalent of heat)といい,1 cal = 4.18605 J である。

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