第四部:無機化学の基礎 金属元素(遷移元素)

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  ここでは,遷移元素周期表 3族(アクチノイド系)で実用される金属元素について,  【周期表 3族:アクチノイド系とは】, 【アクチニウム】, 【トリウム】, 【プロトアクチニウム】, 【ウラン】, 【ネプツニウム】, 【プルトニウム】, 【アメリシウム】, 【キュリウム】, 【バークリウム】, 【カルホルニウム】, 【アインスタイニウム】, 【フェリミウム】, 【メンデレビウム】, 【ノーベリウム】, 【ローレンシウム】 に項目を分けて紹介する。

  周期表 3族:アクチノイド系とは

 周期表 3族に分類される元素で,アクチノイド系元素のアクチニウム( Ac ),トリウム( Th ),プロトアクチニウム( Pa ),ウラン( U ),ネプツニウム( Np ),プルトニウム( Pu ),アメリシウム( Am ),キュリウム( Cm ),バークリウム( Bk ),カルホルニウム( Cf ),アインスタイニウム( Es ),フェルミウム( Fm ),メンデレビウム( Md ),ノーベリウム( No ),ローレンシウム( Lr )の概要を紹介する。
 なお,実用材料などに利用される主な元素を太字で示した。アクチノイド系元素は,ランタノイド系元素と異なり,希土類元素(レアアース),及びレアメタルには分類されない
 次表には,これらの中で実用に供されウランプルトニウムの基礎物性を紹介する。比較のため,身近な金属単体として,アルミニウム,鉄の値も併記する。


周期表 3 族(アクチノイド系元素単体)の基礎物性(参考; Al, Fe )
  元素記号    U    Pu    Al    Fe 
  原子番号    92    94    13    26 
  原子量    238.03    (244)    26.98    55.85 
  融点(℃)    1132    639.3    660.3    1538 
  密度(×106 gm-3   19.1    19.816    2.70    7.87 
  結晶構造    *1    *2    fcc    bcc 
  格子定数(×10-10 m)    *1    *2    4.0496    2.867 
  ビッカース硬度( MPa )    ?    ?    167    608 
  電気抵抗(×10-8 Ωm:20℃)    28    146    2.82    9.61 
  熱伝導率( W m-1K-1:300K)    27.5    6.74    237    80.4 
 出典:化学便覧(融点,密度,格子定数,電気抵抗率,熱伝導率),モース硬度(化学便覧など)
 備考: fcc (立方最密充填,面心立方格子),bcc (体心立方格子)  *1:斜方晶系 2,854 , 5.869 , 4.955 ,*2: :単斜晶系

周期表

周期表(2015年)

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  アクチニウム( Ac )

 アクチニウムは,原子番号 89 ,原子量 (227) の元素で,単体は,常温・常圧で立方最密構造( fcc )が安定で,密度 10×106 gm-3 ,融点 1050℃の金属である。湿った空気中で酸化被膜を形成する。
 アクチニウムは,安定同位体を持たず,36 個の放射性同位体が知られている。
 天然には半減期 21.77 年のアクチニウム 227 と半減期 6.15 時間のアクチニウム 228 が存在する。アクチニウム 227 の放射線(アルファ線)が強く,暗所では青白く光る。

  トリウム( Th )

 天然には,希土類鉱石のモナザイト: (Ce, La, etc.)PO4 に含まれる。安定同位体は無く,27 種の放射性同位体が知られている。天然には半減期約 140 億年のトリウム 232 が存在する。
 トリウムは,原子番号 90 ,原子量 232.038 の元素で,単体は,常温・常圧で立方最密構造( fcc )が安定で,密度 11.7×106 gm-3 ,融点 1842℃の金属である。

 反応性
 空気中で表面が酸化被膜で覆われその後の酸化が抑制(不動態化)される。酸化物,水酸化物とも水不溶性のため,水との接触でも水酸化物で覆われ,反応が進まない。

 用途例
 【放射性壊変とは】に紹介するように,トリウム 232 が中性子を吸収し,トリウム 233 ⇒(ベータ崩壊)⇒プロトアクチニウム 233 ⇒(ベータ崩壊)⇒ウラン 233 (核燃料)となる。そのためトリウム 232 は核燃料としても利用されていた。
 過去には,真空管フィラメント,高屈折率レンズ,血管造影剤などにも利用されていたが,代替が進み,現在ではほとんど実用されていない。

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  プロトアクチニウム( Pa )

 プロトアクチニウムは,ウランの放射性壊変とはで微量生成するので,天然には,ウラン鉱石閃ウラン鉱: UO2人形石: CaU(PO4)2・nH2O n = 1 or 2 ,燐灰ウラン石: Ca(UO2)2 (PO4)2・mH2O m = 10 - 12 などに微量含まれる。
 プロトアクチニウムは,原子番号 91 ,原子量 231.036 の元素で,単体は,常温・常圧で正方晶系が安定で,密度 15.37×106 gm-3 ,融点 1568℃の金属である。

  ウラン( U )

 ウランは,安定同位体を持たず,多数の放射性同位体が確認されている。
 天然には,ウラン鉱石閃ウラン鉱: UO2人形石: CaU(PO4)2・nH2O n = 1 or 2 ,燐灰ウラン石: Ca(UO2)2 (PO4)2・mH2O m = 10 - 12 などとして産出される。
 天然ウランは,半減期約 45 億年のウラン 238 を 99%以上含み,他には半減期 7 億年のウラン 235 を少量,半減期約 25 万年のウラン 234 を微量含む。
 ウラン 234 の半減期は,約 25 万年と地球の年齢(約46億年)に比較し著しく短いが,放射性壊変とはで紹介したように,ウラン 238 の崩壊過程(ウラン系列)で生成するため,地球上に微量存在し続けることになる。
 ウラン単体は,常温・常圧で斜方晶構造(α型)が安定な銀白色の金属である。高温では,668℃で正方晶構造(β型),775℃で立方晶構造(γ型)に相転移する。

 反応性
 ウラン単体の反応性が高く,空気中で激しく酸化する。水との接触で,水素ガスを発生し溶解する。ウラン化合物は,+2 価から +6 価の原子価を取り,+6 価の化合物は一般に黄色を呈するためイエローケーキと呼ばれる。

 用途例
 ウランは,核燃料や核兵器として用いられる。この用途で用いられるウランは,存在量の最も多いウラン 238 ではなく,ウラン 235 である。
 核燃料にするため,ウラン原料からウラン 235 を濃縮する作業が行われ,この際に生じた放射性廃棄物(ウラン 238 )は,劣化ウランと呼ばれ,兵器として用いられている。
 ウランは比重が高いためにバラストに用いられることが過去にあった。また砲弾に添加して強度を増して徹甲弾(てっこうだん)の威力を増すために使用される。
 現在は,民間でウランを扱うことが難しいため,上記以外の用途での実用はほとんどない。

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  ネプツニウム( Np )

 安定同位体を持たず,多数の放射性同位体が確認されている。
 天然には,ウラン鉱石の主成分ウラン238の放射性壊変で生成した半減期 2.4 日のネプツニウム 239 が極微存在する。
 ネプツニウムは,原子番号 93 ,原子量( 237 )の元素である。単体は,常温・常圧で斜方晶が安定で, 280 °C以上で正方晶系,580 °C以上で体心立方構造( bcc )に転移する延性,展性に富む密度 20.45×106 gm-3 ,融点 637℃の金属である。

  プルトニウム( Pu )

 安定同位体を持たず,多数の放射性同位体が確認されている。
 天然には,ウラン鉱石閃ウラン鉱: UO2人形石: CaU(PO4)2・nH2O n = 1 or 2 ,燐灰ウラン石: Ca(UO2)2 (PO4)2・mH2O m = 10 - 12 などに微量含まれている。
 これらは,ウラン鉱石の主成分ウラン238放射性壊変で生成したもので,半減期約 2.4 万年のプルトニウム 239 ,半減期約 8000 万年のプルトニウム244がどが極微存在する。

 反応性
 プルトニウム単体は,常温・常圧で単斜晶が安定な構造で,酸化性の硝酸や濃硫酸には表面に形成した酸化被膜(不動態)のため溶解しないが,塩酸や希硫酸などの酸化性の無い酸に溶解する。なお,粉末状態では,湿度の高い大気中で自然発火する可能性がある。

 用途例
 原子炉内で,ウランの核反応でプルトニウムが生成する。原子炉燃料の再処理で得られたプルトニウム 239 を主成分とするプルトニウム(原子炉級プルトニウム)は,高速増殖炉(日本では,常陽ともんじゅ)の燃料として活用が研究されている。
 一方,プルトニウム 240 の含有量の少ないプルトニウム(兵器級プルトニウム)は,核兵器として実用されている。
 半減期 87 年のプルトニウム 238 は,核崩壊の歳のエネルギーを利用した長寿命の電池(原子力電池)として,宇宙探査機などに実用されている。
 原子力電池( nuclear battery, isotope power generator )とは,放射性核種から放出される放射線のエネルギーを直接又は間接に電気に変換する装置。荷電粒子を電極に直接集め電位差を作り出す方法や,熱電子変換又は熱電気変換によって,放射性壊変によって生じる熱を電流に変換する方法がある。アイソトープ電池ともいう。( JIS Z 4001 「原子力用語」より)

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  アメリシウム( Am )

 原子番号 95 ,原子量( 243 )の安定同位体を持たず,多数の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,常温・常圧で六方最密充填構造( hcp )が安定な延性,展性に富む密度 12×106 gm-3 ,融点 1176℃の金属である。
 核爆発などで生成する元素で,アメリシウムの命名は,アメリカ大陸に由来する。

  キュリウム( Cm )

 原子番号 96 ,原子量( 247 )の安定同位体を持たず,19 の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,常温・常圧で面心立方構造( fcc )が安定な密度 13.51×106 gm-3 ,融点 1340℃の金属である。
 カルフォルニア大学(バークレー校)で加速器を用いて合成され,元素名は,キューリー夫婦にちなんで命名された。

  バークリウム( Bk )

 原子番号 97 ,原子量( 247 )の安定同位体を持たず,19 の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,常温・常圧で六方最密充填構造( hcp )が安定な密度 14.78×106 gm-3 ,融点 986℃の金属である。
 元素名は,最初に発見したカルフォルニア大学(バークレー校)の地名(バークレー)にちなんで命名された。

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  カルホルニウム( Cf )

 原子番号 98 ,原子量( 251 )の安定同位体を持たず,複数の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,密度 15.1×106 gm-3 ,融点 900℃,多くの物理・化学的性質が不明な金属である。
 元素名は,最初に発見したカルフォルニア大学(バークレー校)の地名(カルフォルニア)にちなんで命名された。

  アインスタイニウム( Es )

 原子番号 99 ,原子量( 252 )の安定同位体を持たず,複数の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,密度 8.84×106 gm-3 ,融点 860℃,多くの物理・化学的性質が不明な金属である。
 カルフォルニア大学(バークレー校)が,水爆実験の降下物から発見した。元素名は,物理学者アインシュタインにちなんで命名した。

  フェルミウム( Fm )

 原子番号 100 ,原子量( 257 )の安定同位体を持たず,19 の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,融点 1527℃,多くの物理・化学的性質が不明な金属である。
 カルフォルニア大学(バークレー校)が,水爆実験の降下物から発見した。元素名は,物理学者のエンリコ・フェルミにちなんで命名した。

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  メンデレビウム( Md )

 原子番号 101 ,原子量( 258 )の安定同位体を持たず,19 の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,融点 827℃,多くの物理・化学的性質が不明な金属である。
 カルフォルニア大学(バークレー校)が,サイクロトロンを用いて人工的に作った元素である。元素名は,周期表の考案者メンデレーエフにちなんで命名した。

 【ノーベリウム( No )】

 原子番号 102 ,原子量( 259 )の安定同位体を持たず,複数の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,多くの物理・化学的性質が不明な金属である。
 カルフォルニア大学(バークレー校)が,サイクロトロンを用いて人工的に作った元素である。元素名は,ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルにちなんで命名した。

  ローレンシウム( Lr )

 原子番号 103 ,原子量( 262 )の安定同位体を持たず,複数の放射性同位体を持つ天然には存在しない元素である。
 単体は,多くの物理・化学的性質が不明な金属である。
 カルフォルニア大学(バークレー校)が,サイクロトロンを用いて人工的に作った元素である。元素名は,サイクロトロンを発明したアーネスト・ローレンスにちなんで命名した。

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