腐食概論鋼の腐食

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 鋼腐食の基礎

 応力腐食割れ(SCC)

 応力腐食割れ(SCC ;stress corrosion cracking)
 断面欠損に至らない程度の腐食(多くは,目視観察で検知できない程度)があった場合に,引張応力(外力,残留応力)が,その材料の引張強さ以下で割れや破断に至る現象の一つである。

 応力腐食割れには,金属結晶粒を横断するように進む粒内割れ(貫粒割れとも;trans-granular cracking)と,結晶粒界に沿って割れる粒界割れ (inter-granular cracking)がある。
 応力腐食割れには,次の項で解説する水素脆化(hydrogen embrittlement)を含めていう場合と,分けていう場合がある。ここでは分けて扱う。
 応力腐食割れの発生には,その金属(合金)に固有の腐食環境でしか生じないという特徴がある。また,割れを発生させる最小の応力(限界応力)が存在し,それ以下の応力では腐食割れを起こさないのも特徴である。
 
 炭素鋼(carbon steel)
 高温,高濃度の苛性アルカリ水溶液や硝酸塩水溶液で粒界割れが発生する。
 オーステナイト系ステンレス鋼(austenitic stainless steel)
 高温の塩化物イオン含む環境で粒内割れを起こすことが多い。
 現時点では,割れが発生する塩化物イオン濃度の下限や温度などに関して明確になっていない。また,高温の純水環境となる原子炉内のステンレス鋼でも応力腐食割れが観察されている。このように,応力腐食割れの機構については十分に解明されていないことが多い。
 鋭敏化したステンレス鋼では,粒界割れを起こすことも多いが,粒界腐食とは異なる機構で割れていると考えられている。フェライト系ステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼より応力腐食割れに対する感受性が小さい。
 アルミニウム合金(aluminum alloy)
 海水,塩水などの環境で,粒界腐食と同様の条件で粒界割れに至ることが知られている。しかし,その機構については明確にされていない。
 銅合金(copper alloy)
 アンモニウムイオンが存在すると粒界割れを生じやすいことが知られている。
 【参考】
 鋭敏化(sensitization)
 粒界への炭化物の析出による,粒界腐食に対するステンレス鋼の感受性の増加。
 備考:粒界腐食に対する抵抗を研究するために,鋭敏化処理が用いられる(ISO 3651-2 参照)。【JIS G 0201「鉄鋼用語(熱処理)」】
 鋭敏化処理とは,オーステナイト系ステンレス鋼の粒界腐食試験を行うために,500~800℃の温度範囲に加熱して,粒界腐食に鋭敏な組織状態にする熱処理。
 水素脆性(hydrogen embrittlement)
 読み「すいそぜいせい」,腐食,酸洗い,電解,溶接などによって生じた水素が金属中に吸蔵されて,材質がもろくなる現象。遅れ破壊(delayed fracture)ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 前処理及びめっき処理の過程で,被めっき物が水素を吸蔵して延性又はじん(靱)性が低下する現象。【JIS H0400「電気めっき及び関連処理用語」】
 ステンレス鋼(stainless steels)
 クロム含有率を 10.5%以上,炭素含有率を 1.2%以下とし,耐食性を向上させた合金鋼。常温における組織によってマルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系,オーステナイト・フェライト系及び析出硬化系の 5 種類に分類される。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
 アルミニウム合金(aluminum alloy)
 例えば,ジュラルミンとして身近な材料など,アルミニウムを主成分とする合金。アルミニウムの軽いという特性を生かし,銅(Cu),マンガン(Mn),ケイ素(Si),マグネシウム(Mg),亜鉛(Zn),ニッケル(Ni)などとの合金とすることで,強度などの特性向上を図った多数の合金がある。
アルミニウム合金は,加工法(展伸法,鋳造法)に応じた分類がある。
 展伸用途のアルミニウム合金は,国際アルミニウム合金名(4桁の数字)で示される。鋳造用途のアルミニウム合金は,鋳物用 AC ,ダイカスト用 ADC ,軸受け鋳物用 AJ の記号で示される。実用のアルミニウム合金の組成や品質については,JIS H4140 「アルミニウム及びアルミニウム合金鍛造品(Aluminium and Aluminium Alloy Forgings)」などが参考になる。

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