腐食概論:鋼の腐食

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         【水素脆化】

 水素脆化(hydrogen embrittlement)とは,酸洗い,電解,溶接,腐食などによって生じた原子状水素が金属中に吸蔵されて,材質がもろくなる現象である。割れ等の現象が現れるまでに時間を要するため,遅れ破壊ともいう。
 既に解説した応力腐食割れは,割れの生成そのものが腐食により起きる現象であるのに対し,水素脆化においては,腐食は原子状の水素の生成にのみ必要で,割れ現象には直接関与しないという違いがある。

 腐食により原子状の水素が金属中に侵入するのは,酸性雰囲気下の腐食で起こり易い。酸性環境では,水素発生型の腐食が起きる。この場合,金属表面に吸着した水素イオン(H+)が電子(e-)を受け取る還元反応で,原子状の水素(H)が生成する。
 生成した原子状水素の多くは,その後に会合し水素ガス(H2)として金属表面から離脱する。しかし,一部の原子状水素が水素ガスになる前に金属の内部に浸透する。
 原子状水素から水素ガスになり易い場合は,水素の侵入量は問題とならない量であるが,この反応を阻害する要因がある場合,原子状水素として金属表面に滞在する時間が長くなり,結果として金属に吸蔵される原子状水素の量が増える。
 水素原子の会合を阻害する要因として知られるものに,硫化水素がある。応力下にある高張力鋼は,水分を含む硫化水素雰囲気で容易に水素脆化で割れに至り,これを特に硫化物応力腐食割れ(SSCC又はSSCという)と称する。

 中性環境の腐食であっても,僅かであるが水素イオンの還元による原子状水素の生成がある。
 水素脆化は,同じ量の水素が侵入しても金属種により感受性が異なる
 炭素鋼の場合は,強度の高い,あるいは硬い鋼ほど水素脆化感受性が大きい。SM490以上の高張力鋼で水素脆化感受性が明確に現れる。また,硬さや金属組織の違いによっても感受性が変わると考えられている。

 鋼橋などの中性環境で水素脆化が問題となるのは,高力ボルトにおいてである。1980年代に添接部のボルト接合において,ボルト数削減を目的に各種の高力ボルトが使用された。
 その後しばらくして,ボルトの破断事故が多発した。破壊の観察されたボルトでは,ねじ部(ナットとねじ部のすき間)から侵入した水分により,ボルト軸部,ねじ部に腐食が発生していた。原因究明で,水素脆化(遅れ破壊)であることが明らかになった。
 これを受けて,各種試験が実施され,F11T以上の高力ボルトで実用上の問題になることが分かり,その後はF10T以下のボルト使用が設計上の常識になった。過去に施工されたF11T以上のボルトは,落下防止対策が施されている。

【参考】 ボルトの記号について
 構造物ではF10TS10Tボルトがよく用いられる。ボルトの記号の意味は次の通りである。
 最初の記号は,一般的には F は摩擦接合用(for Friction Grip Joints)を意味し,S は構造用(for Structural Joints)を意味する。しかし,土木分野では,高力六角ボルトに F を,これと区別するためトルシア形高力ボルトに S を用いている。
 数値の 10 は強さ10ton・f・cm-2(100kgf・mm-2)を,は強さが引張り(Tensile Strength)であることを表している。

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