腐食概論:腐食の基礎
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ここでは,腐食と化学反応に関連し, 【腐食の速さとは】, 【主な用語】 を紹介する。
腐食の開始と継続
腐食の速さとは
前項の「腐食し易さとは」で示したように,仕事関数,標準酸化還元電位の何れにおいても,アルミニウム,亜鉛及びチタンは,鉄に比較して“腐食し易い金属”と評価される。しかし,大気環境での経験など,実環境では,鉄より腐食し易いとは理解し難いのが一般的な感覚である。
この経験とのギャップは,腐食し易さと腐食の速さとを分けて考えることで,容易に理解できる。
腐食の速さを決める要因
腐食の速さは,「酸素拡散律速」で解説したように,アノード部の酸化反応,カソード部の還元反応の速度そのものより,反応に関与する反応物や生成物の拡散などの影響を強く受ける。
例えば,中性水中での鋼腐食では,カソード部の還元反応に関わる溶存酸素の拡散速度が還元反応の速度より遅いため,単位時間当たりの還元反応の量は沖合からカソード部まで運ばれる溶存酸素の量に大きく影響を受ける。
アノード部においても,酸化反応で生成した金属イオンの金属表面から沖合への移動が遅い場合は,アノード部付近の濃度が高くなり,単位時間当たりの反応量が減少する。すなわち,金属のイオン化やイオンの移動の障害となる状況では,腐食量が低減する。
とりわけ,金属をとり囲む環境の影響で,電気化学列で卑な金属(腐食しやすい金属)の表面が酸化物で覆われることで,本来の活性を失い,貴な金属(腐食し難い金属)のように挙動する場合もある。この現象を不動態(passive state)といい,この状態になることを不動態化(passivity)という。
アルミニウム,亜鉛,チタンの腐食の特徴
アルミニウムは,中性環境では,表面が薄い酸化物で覆われ,その後の腐食を著しく抑制する。酸性やアルカリ性の環境では,生成した酸化物皮膜が溶解するため腐食が進む。すなわち,アルミニウムの腐食速さは溶液の pHに影響を受ける。亜鉛も同様の傾向を示す。
チタンは,活性な金属ではあるが,一般的な使用環境では直ちに薄い酸化物皮膜で覆われ,腐食速度が著しく遅くなる。
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主な用語の概説
拡散(diffusion)
物質,熱(エネルギー),運動量(エネルギー)などが自発的に散らばり広がる物理現象をいう。
物質の拡散は,原子や分子の熱運動に基づく運動で,気体や液体でのブラウン運動や浸透現象で一般的である。固体中の原子も熱によってランダムに跳躍した結果として正味の原子移動が起きる。
熱(エネルギー)の拡散は,温度勾配のある物質中を熱が移動する熱伝導として知られる。
運動量の拡散は,固体表面を流れる流体の層流の問題で,運動量が固体表面近くの境界層を通して拡散する現象である。
フィックの法則(Fick's laws of diffusion)
気体,液体のみならず固体(金属)にも適用できる物質の拡散に関する基本法則である。フィックの法則には第 1法則と第 2法則がある。
フィックの第 1法則 : “拡散束(流束;flax)は,濃度勾配に比例する”と表現される法則で,定常状態拡散(濃度が時間で変わらない)で適用される。
拡散係数を D ,位置 x での濃度 c とした時,拡散束 J は,
J = − D grad c あるいは J = − D ( dc /dx ) で与えられる。
フィックの第 2法則 : 実際の拡散で見られる濃度が時間に関して変わる非定常状態拡散に適用される。拡散係数 D が定数のとき,濃度 c の時間変化は,
∂c /∂t = − div J = D∇2 c あるいは∂c /∂t = D (∂2 c /∂x2 ) で与えられる。
不動態(passive state)
これまでの文献等では,用語として不働態を用いていたが,現在は,JIS 用語を含め,不動態を用いる例が多い。
標準電位列で卑な金属であるにもかかわらず,電気化学的に貴な金属であるような挙動を示す状態。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
本来,ひ(卑)である電極電位を示し,不安定であるべき金属があたかも貴である金属のように振る舞う状態。この状態では,電極電位も貴の値を示す場合が多い。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
一般的には,金属をとり囲む環境の影響で,電気化学列で卑な金属(腐食しやすい金属)が,表面を酸化物で覆われるなどして本来の活性を失い,貴な金属のように挙動する状態を不動態といい,この状態になることを不動態化(passivity)と理解されている。
不動態化は,酸化力のある酸にさらされた場合,陽極酸化処理によっても生じる。不動態となる酸化被膜(不動態被膜)の典型的な厚みは,数 nm である。
すべての金属が不動態となるわけではなく,不動態になりやすいのは,アルミニウム,クロム,チタンなどやその合金である。
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