第三部:化学反応 酸化・還元反応

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  ここでは,積極的に酸化還元反応に関与する化合物として, 【酸化剤・還元剤】, 【主な酸化剤】, 【主な還元剤】, 【化学めっき】 に項目を分けて紹介する。

  酸化剤・還元剤

 酸化剤( Oxidizing agent , oxidant , oxidizer ) ; 酸化還元反応に於いて,電子を得る物質である。
 還元剤( reducing agent , reductant , reducer ) ; 酸化還元反応に於いて,電子を放出する物質である。

 酸化還元反応を一般化して示すと,
      酸化剤還元剤 → 生成物 A +生成物 B
 と表現できる。
 前項までに,具体的な酸化還元反応の例を示しているが,反応式を見ただけでは,酸化剤,還元剤の区別や授受される電子数を容易に判別するのが困難である。

 そこで,これを容易にするため,還元剤が電子を放出し自身が酸化される反応と,酸化剤が電子を受け取り自身が還元される反応とに分けて記述する半反応式(電子 e- を含むイオン反応式)が用いられる。
 例えば,臭化ナトリウムに二酸化マンガンと濃硫酸を加えて加熱し,臭素単体を得る反応
      2NaBr + MnO2 + 3H2SO4Br2 + MnSO4 + 2NaHSO4 + 2H2O
では,臭化ナトリウム酸化され( Brの酸化数 -1 → 0 )単体の臭素が得られているので還元剤となり,酸化マンガン(Ⅳ)還元され( Mn の酸化数 +4 → +2 )硫酸マンガンが得られているので,酸化剤となる。

 これを半反応式で表すと
 酸化剤(還元反応式)
      MnO2 + H2SO4 + 2H+ + 2eMnSO4 + 2H2O
 還元剤(酸化反応式)
      2NaBr + 2H2SO4Br2 + 2NaHSO4 + 2H+ + 2e
となり,酸化された物質,還元された物質,授受される電子数が容易に分かる。なお,当然ながら,“酸化還元反応式 = 酸化反応式+還元反応式”とならなければならない。

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  主な酸化剤について

 次には,対象物質の酸化を目的に,利用例の多い酸化剤とその半反応式を紹介する。
 なお,式中では簡便のために H+ と表記しているが,水溶液中ではヒドロニウムイオン(オキソニウムイオン: H3O+ として存在している。
 また,酸化剤として紹介する過酸化水素と二酸化硫黄は,次にも紹介するように還元剤としても作用する。

 過酸化水素: H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O (酸性),又は H2O2 + 2e- → 2OH- (中性,塩基性)
 二酸化硫黄: SO2 + 4H+ + 4e- → S + 2H2O
 オゾン: O3 + 2H+ + 2e- → O2 + H2O
 ハロゲン単体(例 Cl2 ): Cl2 + 2e- → 2Cl-
 過マンガン酸カリウム KMnO4 + 8H+ + 5e- → K+ + Mn2+ + 4H2O (酸性) ,
              又は KMnO4 + 2H2O + 3e- → K+ + Mn2+ + 4OH- (中性,塩基性)
 酸化マンガン(Ⅳ): MnO2 + 4H+ + 2e- → Mn2+ + 2H2O
 硝酸(濃): HNO3 + H+ + e- → NO2 + H2O
 硝酸(希): HNO3 + 3H+ + 3e- → NO + 2H2O
 硫酸(濃・熱): H2SO4 + 2H+ + 3e- → SO2 + 2H2O
 二(重)クロム酸カリウム(酸性) K2Cr2O7 + 14H+ + 6e- → 2K+ + 2Cr3+ + 7H2O

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  主な還元剤について

 次には,対象物質の還元を目的に,利用例の多い還元剤とその半反応式を紹介する。なお,還元剤として紹介する過酸化水素と二酸化硫黄は,前述の酸化剤としても作用する。

 過酸化水素: H2O2 → O2 + 2H+ + 2e-
 二酸化硫黄: SO2 + 2H2O → SO42- + 4H+ + 2e-
 よう化カリウム: 2KI → I2 + 2K+ + 2e-
 硫化水素: H2S → S + 2H+ + 2e-
 二酸化硫黄: SO2 + H2O → SO42- + 4H+ + 2e-
 しゅう酸: H2C2O4 → 2CO2 + 2H+ + 2e-
 塩化スズ(Ⅱ): SnCl2 → Sn4+ + 2Cl- + 2e-
 硫酸鉄(Ⅱ): FeSO4 → Fe3+ + SO42- + e-
 ヒドラジン: N2H2 → N2 + 4H+ + 4e-
 金属単体 ( Na など): Na → Na+ + e-

 水素化物
 次に紹介する水素化物は,酸化数 - 1 のヒドリド H- 供与による有機化合物の還元に活用される。
     水素化ホウ素ナトリウム( NaBH4 ),水素化アルミニウムリチウム( LiAlH4 ),
     水素化シアノホウ素ナトリウム( NaBH3CN ),水素化イソブチルアルミニウム( ( i-bu)2AlH )など

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  化学めっき

 化学めっき( chemical plating )は,無電解めっき( electroless )とも呼ばれ,外部からの電気を用いないで,金属塩溶液から 金属を対象物の表面に析出させる酸化還元反応を利用した方法である。
 化学めっきは,手法の違いで,置換めっき化学還元めっきに分けられる。

 置換めっき
 めっき対象の金属より酸還元電位( redox potential )の大きい金属種のイオンを含む電解液に浸漬することで,対象物の金属の酸化反応と電解液中の金属イオンの還元反応を利用し,酸化還元電位の大きい金属で被覆する方法である。
 例えば,アルミニウムに無電解ニッケルめっきを行う場合に,アルミニウム表面の改質(不動態被膜の除去と密着性確保)を目的に,前処理として亜鉛イオンによる置換めっきが行われる。

 化学還元めっき
 金属塩の水溶液に還元剤を投入し,対象物表面に金属を析出させる方法で,金属以外にプラスチックやセラミックスのような不導体にもめっき可能である。また,素材の形状や種類にかかわらず均一な厚みで欠陥の少ない皮膜が得られる特徴がある。
 めっきでは,前処理として,粗面化(表面に微細な凹凸を作る),親水性化を施す。対象物質が触媒作用を示す金属の場合はそのままで,触媒作用を示さない場合は,触媒となる物質(パラジウム金属核など)を表面に付着させる触媒化処理を行う。
 触媒の表面でめっき浴成分の酸化反応が起こり,この酸化反応で生成した電子で金属イオンの還元によるめっき被膜が生成する。
 ホスフィン酸の還元作用によるニッケルリン合金めっき
 例えば硫酸ニッケル( 0.08 mol/L ),ホスフィン酸ナトリウム(0.2 mol/L ),乳酸( 0.31 mol/L ),プロピオン酸( 0.031 mol/L )を含む溶液中では,触媒表面でホスフィン酸(俗称次亜リン酸)の酸化( P +1 → +3 )
      PH2O2-PO2- + 2H+ + 2e-
が起き,同時にホスフィン酸の還元( P +1 → 0 )とニッケルイオンの還元( Ni +2 → 0 )
      PH2O2- + 2H+ + e-P + 2H2O 
      Ni2+ + 2e-Ni
によりニッケルとリンの合金被膜が作られる。
 ヒドラジンの還元作用によるニッケルめっき
 ヒドラジンの還元反応( N +2 → 0 )を利用しためっき方法で,自触媒型と非自触媒型がある。
      N2H4N2 + 4H+ + 4e-
 実用化されているめっきには,ニッケル,銅,スズ,金などがある。この方法の特徴は,めっき被膜の均一性が高いことである。
 金の化学めっき
 金を含む物質にシアン化カリウム水溶液を作用させて,シアン化金(Ⅰ)カリウムで,金を分離・回収する。
      4Au + 8KCN + O2 + 2H2O → 4KAu(CN)2 + 4KOH-
 これを,酸化反応と還元反応の半反応は次の通りである。
      O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
      4Au + 8KCN → 4Au(CN)2- + 8K+ + 4e-
 シアン化金(Ⅰ)カリウム溶液に,あらかじめ金属めっき(例えば,ニッケルめっきや亜鉛めっき)を施した対象物を入れると,酸化還元電位の違いによる置換めっきが起きる。
      2KAu(CN)2 + Ni → K2Ni(CN)4 + 2Au

 他に,シアン化合物を用いない方法として,亜硫酸金ナトリウム( Na3Au(SO3)2 )溶液を用いる方法,テトラクロリド金(Ⅲ)酸(塩化金酸: HAuCl4 )などを用いる方法などがある。

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