第三部:化学反応 電極反応
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ここでは,電気化学の電極反応に関連し,【標準電極電位とは】, 【標準電極電位と式量電極電位】, 【主な元素の標準電極電位】 に項目を分けて紹介する。
標準酸化還元電位(標準電極電位)とは
【イオン化傾向】で紹介するように,酸化還元電位( redox potential ,oxidation-reduction potential )とは,水溶液中など酸化還元反応が起きる場(反応系)での電子授受で発生する電極電位をいう。
酸化還元電位は,規定する条件下において,反応にあずかる物質の電子の放出しやすさ,又は受け取りやすさを定量的に評価する尺度となる。
前項の【電極電位の測定】で紹介した方法により,半反応の電位を計測できる。作用極に不活性電極を用いることで,溶液の酸化還元反応の電位を測定できる。
また,作用電極に金属を用い,環境を模擬した電解質溶液での電位を計測することで,模擬した環境での金属の酸化還元電位が求められるので,その環境で発生する電位差の推定,金属の腐食現象の理解を容易にする。
このように,実測された酸化還元電位は,対象とした物質と置かれた環境に依存する値であり,物質固有の値ではない。
標準酸化還元電位(標準電極電位)とは
測定条件に依存する実測できる酸化還元電位とは異なり,熱力学的に基づいて,理論的に求まる電極電位は,物質固有の値で,標準酸化還元電位( standard redox potential ,standard oxidation-reduction potential ),又は標準電極電位( standard electrode potential )と呼はれる理論値である。
【参考】
電極電位( electrode potential )
JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」では,
a ) 電極が溶液相などのイオン伝導体相と接しているとき,後者の内部電位に対する前者の内部電位。
注記:この値を直接実測することは不可能である。
b ) 注目している電極系を,ある参照電極と組み合わせてガルバニ電池を構成させたとき,注目する電極に取り付けた
金属端子の内部電位から,参照電極に取り付けた同種の金属端子の内部電位を差し引いた値。
と定義している。
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標準電極電位と式量電極電位
標準電極電位( standard electrode potential )
(標準酸化還元電位; standard oxidation-reduction potential )
JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」では,
電極反応 A + ne- ⇌ B の標準酸化還元電位(標準電極電位)( E0 )は,次の式で表す。
E0 = -ΔrG0 /nF
ここに,ΔrG0 :反応 A + n/2 H2 → B + nH+ の標準反応ギブズエネルギー,
F:ファラデー定数( 96,485 C mol-1 )
と定義している。
電極反応での標準反応ギブズエネルギーΔrG0 は,生成物と反応物の標準生成ギブズエネルギーΔf G0 の差
ΔrG0 = (生成系のΔf G0 の合計) - (反応系のΔf G0 の合計)
として求められる。
例えば,水素の酸化還元反応( 2H+ + 2e- ⇆ H2 )では,
ΔrG0 = ΔrG0 ( H2 ) - 2ΔrG0 ( H+ )
とできるので,標準電極電位 E0 との関係は
E0 =(Δf G0 ( H2 ) -2Δf G0 ( H+ ) )/2F
となる。
下記の【参考】に紹介するように,単体と水素イオンの標準生成ギブズエネルギーはゼロ( 0 )と定義されているので,水素の標準電極電位(標準酸化還元電位)は 0V となる。
上述のように,標準電極電位は,ギブズエネルギー変化から熱力学的に求まる理論値である。一方,実環境の電極電位は,標準電極電位との関係式(ネルンストの式)から求めることができる。
ネルンストの式: E = E0 + ( RT /nF ) ln ( [Ox] /[Red] )
式量電極電位( formal electrode potential )
式量電位ともいい,JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」では,
ネルンスト式において,活量の代わりにモル濃度を用いてネルンスト式と同じ形式で表して定義したときの値( E0' )。
電極反応 Ox+ne- ⇄ Red において,電気活性物質 Ox,Red のモル濃度をそれぞれ COx,CRedとし,気体定数を R,ファラデー定数を F,絶対温度を T とすれば,平衡電位 E は次の式で表す。
E = E0' + ( RT/nF ) ln ( COx /CRed )
この値は,溶液のイオン強度によって変化するので,見かけの電位ともいう。
と定義している。
【参考】
ネルンストの式( Nernst equation )
酸化還元反応: Ox + ne- ⇆ Red
が平衡状態の時,基準電極(標準水素電極)との電位差 E (平衡電極電位)は,
E = E0 + ( RT /nF ) ln ([Ox] /[Red] )
の関係にある。
ここで,E0 :標準電極電位,R :気体定数( 8.314 JK-1mol-1 ),T :熱力学的温度( K ),
n :酸化還元反応にて授受される電子数,F :ファラデー定数( 96,485 C mol-1 ),ln :自然対数,
[Ox] :酸化型の化合物の活量,[Red] :還元型の化合物の活量である。
なお,25℃の時は,RT /F = 0.0592 となる。
標準生成ギブズエネルギー
単体(標準状態で一番安定)を原点に定め,単体から物質 1 mol を生成する反応のギブズエネルギー変化 ΔG を測り,これを各物質の標準生成ギブズエネルギーと呼び,ΔfG0 で表す。なお,添え字の f は formationの頭文字である。
定義から,単体のΔfG0 は,全て 0 J mol-1 になる。また,希薄な水溶液中のイオンについては,水素イオン( H+ )のΔfG0 を原点( 0 )に採った時の相対値で表す。
多くの物質について,標準生成エンタルピー,標準エントロピーが求められているので,これらから標準生成ギブズエネルギーを求めるのは比較的容易である。さらに,多くの物質の標準生成ギブズエネルギー値は,理化学辞典,化学便覧等に掲載されている。
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主な元素の標準電極電位
ここでは,イオン化傾向や起電力の計算などの参考とするため,主な金属原子の標準電極電位(標準酸化還元電位)を紹介する。
なお,電気化学では,標準水素電極の反応を酸化反応(アノード反応)として表記するよう定められている。従って,測定対象とする電極反応は全て還元反応(カソード反応)として表示される。電極電位の単位は基準点を明らかにするため, V vs. SHE と表記する。
ただし,米国で逆の定義を採用していた時期があるので,正負が逆の酸化反応で表記する資料もある。米国の文献を不用意に引用すると混乱するので注意が必要である。
電子は負の電荷を帯びている。従って,電極電位の負の値が大きいほど,電子のエネルギーが高い状態になる。すなわち,電極電位(酸化還元電位)の比較で,電位の負の値が大きいほど電解質中で酸化(電子の放出)され易い,すなわち金属原子の場合は陽イオンになり易い(イオン化傾向が大きいという)ことを示す。
主な元素について,化学便覧(第五版)から抜粋した半反応と標準電極電位(標準酸化還元電位)を次表に紹介する。
元素 | 半反応 | 電位 | 元素 | 半反応 | 電位 |
---|---|---|---|---|---|
リチウム | Li+ + e- → Li | - 3.045 | コバルト | Co(OH)2 + 2e- → Co + 2OH- | - 0.733 |
カリウム | K+ + e- → K | - 2.925 | コバルト | Co2+ + 2e- → Co | - 0.277 |
バリウム | Ba2+ + 2e- → Ba | - 2.92 | ニッケル | Ni(OH)2 + 2e- → Ni + 2OH- | - 0.72 |
ストロンチウム | Sr2+ + 2e- → Sr | - 2.89 | ニッケル | Ni2+ + 2e- → Ni | - 0.257 |
カルシウム | Ca2+ + 2e- → Ca | - 2.84 | すず | Sn2+ + 2e- → Sn | - 0.1375 |
ナトリウム | Na+ + e- → Na | - 2.714 | 鉛 | Pb2+ + 2e- → Pb | - 0.1263 |
マグネシウム | Mg(OH)2 + 2e- → Mg + 2OH- | - 2.687 | 水素 | 2H2O + 2e- → H2 + 2OH- | - 0.828 |
マグネシウム | Mg2+ + 2e- → Mg | - 2.356 | 水素 | 2H+ + 2e- → H2 | 0.0000 |
アルミニウム | Al(OH)3 + 3e- → Al + 3OH- | - 2.300 | 酸素 | O2 + 2H2O + 4e- → 4OH- | 0.401 |
アルミニウム | Al3+ + 3e- → Al | - 1.676 | 酸素 | O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O(l) | 1.229 |
チタン | Ti2+ + 2e- → Ti | - 1.63 | 銅 | Cu2+ + 2e- → Cu | 0.340 |
マンガン | Mn(OH)2 + 2e- → Mn + 2OH- | - 1.56 | 銅 | Cu+ + e- → Cu | 0.520 |
マンガン | Mn2+ + 2e- → Mn | - 1.18 | 水銀 | Hg22+ + 2e- → Hg | 0.7960 |
亜鉛 | Zn(OH)2 + 2e- → Zn + 2OH- | - 1.246 | 銀 | AgCl + e- → Ag + Cl- | 0.2223 |
亜鉛 | Zn2+ + 2e- → Zn | - 0.7626 | 銀 | Ag+ + e- → Ag | 0.7991 |
クロム | Cr(OH)3 + 3e- → Cr + 3OH- | - 1.33 | 白金 | Pt2+ + 2e- → Pt | 1.188 |
クロム | Cr2+ + 2e- → Cr | - 0.90 | 塩素 | Cl2(aq) + 2e- → 2Cl- | 1.396 |
鉄 | Fe(OH)2 + 2e- → Fe + 2OH- | - 0.891 | 金 | Au3+ + 3e- → Au | 1.52 |
鉄 | Fe(OH)3 + e- → Fe(OH)2 + OH- | - 0.556 | 金 | Au+ + e- → Au | 1.83 |
鉄 | Fe2+ + 2e- → Fe | - 0.44 | ふっ素 | F2(g) + 2H+ + 2e- → 2HF(aq) | 3.053 |
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