第一部:化学と物質構造・化学結合

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 ファンデルワールス力

 分子が自由に熱運動している気体状態において,気体の温度を下げてゆくと,分子の熱運動が低下し,圧力・体積の減少,即ち分子間の距離が接近する。
 ある温度を下回るまで冷却すると,気体中で衝突と反発を繰り返していた粒子が,相互に近づいた時,熱運動のエネルギーでは脱出できないファンデルワールス力による引力(共有結合,イオン結合,金属結合よりはるかに弱い力)で引き合うようになる。
 一方,ある距離まで近づくと粒子間に反発力が働き,それ以上近づけない距離ができる。
 このように,引力と反発力との関係で一定のバランスを保ちつつ分子の凝集が進み気体から液体に変化する。
 ファンデルワールス力の発生
 原子,分子,又はイオンがある距離まで近づいた時に,それぞれの粒子(原子,分子,又はイオン)の持つ外側の電子雲が静電的に反発しあい,相互の電子雲が歪む分極する)。
 電子雲が歪むことで,電荷の配列が不安定(原子核の偏りなど電気的につり合いのとれていない状況)となり,これを解消するため電子雲の振動振動する双極子が起こる。この振動する双極子が,引力の発生原因と考えられている。
 電子雲が歪みやすく,分極しやすい分子や原子は,歪みにくく,硬い構造の分子や原子より強いファンデルワールス力を示す。
 すなわち,原子の場合は,外側の軌道電子が原子核から離れているほど(原子番号が大きくなるほど)電子雲が歪みやすいと考えられる。
 実際に,元素一覧で示したように,希ガス元素の単原子分子やハロゲン元素の単体( F2 ,Cl2 ,Br2 ・・・)は,原子番号の大きい物ほど沸点が高くなる。
 分子の場合には,分子に含まれる原子核と電子の数が多いほど,電子雲が歪みやすいと考えられる。例えば,炭素( C )と水素( H )のみからなる分子(飽和炭化水素)では,炭素数が多くなるほどに,ファンデルワールス力が強くなり,沸点が増加する。
 ファンデルワールス力の作用範囲
 互いに近づいた原子,分子,及びイオン間に働き,その力は粒子間の距離の 6 乗( 7 乗とする文献も)に反比例する。従って,力の作用する距離は限られた範囲となる。
 共有結合などの化学結合では,価数に相当する電子の移動で相互作用は飽和され,影響の及ぶ原子は一定の数に収まる。
 しかし,ファンデルワールス力は,距離の影響は受けるが,数の制限が無いため,分子の周りには立体的に可能な限りの数の分子を引き付けることができる。
 【参考】
 熱運動・熱振動( thermal motion・thermal vibration )
 熱運動とは,熱平衡の状態にある物体内で原子や分子が個々に行う微視的で無秩序な運動(ブラウン運動の原因)である。熱運動は,熱の本質をなす。
 熱振動は,原子の振動のことで,分子や固体中の原子は運動エネルギーを持ち,基準となる位置を中心に振動運動をしている。結晶格子上の原子の熱振動は特に格子振動とよばれる。
 電子雲( electron cloud )
 電子軌道の中の電子は,主量子数と方位量子数で決まる形に分布する。電子の分布は,軌道関数で与えられる確立に従う。ある与えられた軌道について,確率最大の領域を図示すると,明確な境界が無く,あたかも雲のように表現されるので,電子雲と称された。
 分極( polarization )
 分極には,電荷の分極(誘電分極,又は電気分極という)磁極の分極(磁気分極),化学結合の分極,電気化学的分極などがある。
 誘電分極は,絶縁体(誘電体)に外部電場をかけた時に,誘電体内部に電気双極子が生じて分極する現象で,電子分極,イオン分極,配向分極,空間電荷分極などがある。
 磁気分極は,磁性体に外部磁場をかけた時に,磁性体が分極して磁石となる現象である。
 化学結合の分極は,ファンテルワールス力の発生で解説したように,電子雲のひずみで生じる電荷の偏りである。
 電気化学的分極は,陽極と陰極を結ぶ電気回路において,電極電位を静止電位(外部回路に電流が流れない状態)からずらす操作,又は静止電位からずれる現象をいう。
 双極子( dipole )
 双極子には,電気双極子(electric dipole)と磁気双極子(magnetic dipole)がある。
 分子内に生じた電子の偏りを原因として発生する電荷のひずみである。すなわち,分子構造の中で,正の電荷の重心と負の電荷の重心が一致しない電荷の配置を電気双極子という。電荷を磁荷に置き換えた関係を磁気双極子という。

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