腐食概論:鋼の腐食

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         【孔 食】

 孔食(pitting corrosion)とは,金属内部に向かって孔状に進行する局部腐食(local corrosion)をいう。しかし,明確な定義がなく,どの程度の形態まで孔食と呼ぶかわは,主観的判断である。
 多くの文献等では,開口部の直径に対して深さが大きい場合を孔食と称している。
 典型的な孔食は,塩化物イオンを含む環境で,ステンレス鋼やアルミニウム合金など表面が不動態化(passivity)した金属で観察されることが多い。

 次には,ステンレス鋼を例に,孔食の機構を解説する。
 環境中に不動態皮膜を破壊する塩化物イオン(Cl-などが存在すると,局部的に不動態皮膜が破壊される。不動態皮膜が破壊された部分は,電極電位が不動態皮膜部よりになる。このため,「異種金属接触腐食」で示した原理と同等の理由で皮膜破壊部の腐食が局部的に進む。

 一旦腐食が開始すると,塩化物イオンがアノード(anode)に向って移動(電気泳動)する。 この結果,アノード(孔食部内部)では塩化物イオン濃度が増加するとともに,孔食内部ではイオンバランスをとるため pH が低下し,ついには酸性雰囲気になる。
 さらに,アノードで生成した金属イオン(鉄(Ⅱ)イオンFe2+,クロムイオンCr3+,ニッケルイオンNi2+)の一部は,孔の内部で加水分解を受けて水酸化物となる。Cr3+は最も加水分解を受け易く,[ Cr3++3H2O → Cr(OH)3+ 3H+ ] の反応が生じる。
 これらの結果として,孔食の内部は塩酸酸性雰囲気(実測例では pH 1~2)の状態が保たれる。この状態になると,孔食内部での再不動態化は望めず,腐食の進行が継続することになる。

 ステンレス鋼には,合金成分の異なる多種多様のものがある。あるステンレス鋼が想定される溶液中で孔食が発生するか否かは,電気化学的に求めた孔食電位(又は臨界孔食電位:critical pitting potential)を計測することで評価できる。
 臨界孔食電位は,任意の溶液中で,人為的に種々の電位に保持し,流れる電流を計測することで求められた電位である。この電位は,その溶液での孔食が発生し始める電位と考えることができる。
 一般には,モリブデン(Mo)の添加で耐孔食性を上げられる。Moを2~3%添加したSUS 316は一般的なSUS 304より耐孔食性が良好となる。さらに耐孔食性の向上を図ったMo 3~4%添加のSUS 317がある。

 【備考】
 チタン(Ti)
 表面が不動態皮膜で覆われ,高い耐食性を示す金属である。チタンの不動態皮膜は強固で,塩化物イオンによって破壊され難いので,海水中でもステンレス鋼のような孔食には至らず,耐孔食性が非常に高い金属として知られている。
 臨界孔食温度(critical pitting temperature)
 ステンレス鋼の塩化ナトリウム水溶液中における定電位法による臨界孔食温度の測定方法は,JIS G0590「ステンレス鋼の臨界孔食温度測定方法」に規定されている。

 【参考】
 腐食現象(corrosion)
 金属がそれをとり囲む環境物質によって,化学的又は電気化学的に侵食されるか若しくは材質的に劣化する現象。【JIS Z 0103「防せい防食用語」】
 電極(electrode)
 電気化学では,広義には金属などの電子伝導体の相と電解質溶液などのイオン伝導体の相とを含む少なくとも二つの相が直列に接触している系(電極系ともいう)。狭義にはイオン伝導体に接触している電子伝導体の相。【JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」】
 電極を示す名称には,カソード・アノード,正極(+極)・負極(-極),陰極・陽極などの名称が使われている。特に,陰極・陽極の用語は,技術分野で示す意味が異なり,混乱した使用例が見られるので,注意が必要である。
 なお,カソード(cathode)は還元反応を生じる電極,アノード(anode)は酸化反応を生じる電極をいう。
 局部腐食(local corrosion)
 読み「きょくぶふしょく」,金属表面の腐食が均一でなく,局部的に集中して生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 局部的に集中して起こる腐食。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 金属種や腐食要因の違いで孔食,すき間腐食,異種金属接触腐食など様々ある。
 不動態(passive state)
 これまでの文献等では,用語として不働態を用いていたが,現在は,JIS 用語を含め,不動態を用いる例が多い。
 標準電位列で卑な金属であるにもかかわらず,電気化学的に貴な金属であるような挙動を示す状態。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 本来,ひ(卑)である電極電位を示し,不安定であるべき金属があたかも貴である金属のように振る舞う状態。この状態では,電極電位も貴の値を示す場合が多い。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 一般的には,金属をとり囲む環境の影響で,電気化学列で卑な金属(腐食しやすい金属)が,表面を酸化物で覆われるなどして本来の活性を失い,貴な金属のように挙動する状態を不動態といい,この状態になることを不動態化(passivity)と理解されている。
 不動態化は,酸化力のある酸にさらされた場合,陽極酸化処理によっても生じる。不動態となる酸化被膜(不動態被膜)の典型的な厚みは,数 nm である。
 すべての金属が不動態となるわけではなく,不動態になりやすいのは,アルミニウム,クロム,チタンなどやその合金である。

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