第五部:有機化学の基礎 アルコール・カルボン酸

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  ここでは,分子内にヒドロキシ基を持つアルコール類に関連し, 【アルコール製法の例】,  【水への溶解性】, 【状態変化(固体,液体,気体)】, 【酸・塩基性】 に項目を分けて紹介する。

  アルコール製法の例

 アルコールは,アルケン付加反応カルボニル化合物(エステル,アルデヒド,ケトンなど)の還元反応カルボニル化合物グリニヤール試薬を付加するグリニャール反応など,多くの化合物を用いて作ることができる。

 グリニヤール試薬( Grignard reagent )
 一般式 R-MgX ( R :有機基,X :ハロゲン)で表される有機マグネシウムハロゲン化物で,有機合成には欠かせない有機金属試薬である。

 次には,代表的なアルコールの工業的製造法を紹介する。
 メタノール
 メタノールの製造には,木材由来の木酢液の蒸留(木精),メタノール生産菌による発酵,一酸化炭素(石炭や天然ガスの部分酸化で製造)に触媒(酸化銅-酸化亜鉛/アルミナ複合酸化物)を用いて水素を反応(水素化)させる方法で得られる。工業的生産の主流は天然ガスから得た一酸化炭素に水素を反応させる工程である。
      CO + 2H2 → CH3OH  (触媒反応)
 エタノール
 エタノールの大部分は,アルコール発酵( ethanol fermentation )によって製造されている。アルコール発酵では,植物由来の糖(グルコース,フルクトース,ショ糖など)を分解してエタノールと二酸化炭素を生成する酵素を用いた嫌気的反応で得られる。
      C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2 (酵素の嫌気的反応)
 この他に,化石燃料から得たエチレン( C2H4 )の加水分解によっても得られる。
      C2H4 + H2O → C2H5OH
 1-プロパノール
 化石燃料から得たエチレンのヒドロホルミル化で得たプロパナール( propanal )を触媒(ロジウム錯体等)で水素化する方法が用いられる。
      C2H4 + CO + H2 → CH3CH2CHO (プロパナール)
      CH3CH2CHO + H2 → CH3(CH2)2OH  (触媒反応)
 ヒドロホルミル化( hydroformylation )とは,アルケンに一酸化炭素と水素を付加させてアルデヒドを合成する化学反応。
 2 -プロパノール
 プロピレン( CH3CH=CH2 )の水和反応で生産されている。水和反応には,触媒(酸化タングステンや酸化チタンなど)で直接水和する方法,硫酸化後に加水分解を行う間接水和法がある。
      C3H6 + H2O → CH3CH(OH)CH3

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  水への溶解性

 アルコールは,極性の大きいヒドロキシ基と極性の小さいアルキル基の化合物のため,アルキル基の小さい化合物はヒドロキシ基と極性の大きいとの親和性の影響を強く受け親水性を示すが,アルキル基の大きい化合物は水に対しての親和性が小さくなり,疎水性を持つ。フェノール類も同様に考えられる。

 すなわち,疎水性の基が小さいほど,ヒドロキシ基の数が多いほど水への溶解性が高くなる。
 例えば,アルコールの場合は,炭素数 3 までは,水と混和(あらゆる比率で溶解)し,炭素数 7 を超えると水にほとんど溶解しなくなる。
 炭素数 4 から6 までは,1 – ブタノール(炭素数 4 )の溶解度 77g /L,1 – ペンタノール(炭素数 5 )で溶解度 22g /L,1 - ヘキサノール(炭素数 6 )は水にわずかに溶解と溶解性が低下する。
 フェノール類では,ベンゼン環にヒドロキシ基 1 つのフェノールの水への溶解度 83g /L に対し,ベンゼン環にヒドロキシ基が 2 つある o –ベンゼンジオールの水への溶解度 430g /Lである。

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  状態変化(固体,液体,気体)

 物質状態変化,すなわち,固体,液体,気体間の変化は,構成する分子の大きさに依存する分子間引力(ファンデルワールス力,分子の持つ双極子に依存する極性,及び水素結合の影響を受ける。
 アルコールは,同程度の分子量を持つ極性を持たない炭化水素に比較し,極性や水素結合の影響を受けて,固体から液体,液体から気体への状態変化に多くのエネルギーを有する。

 水素結合の影響
 最も身近な分子量 46.07 のエタノール( C2H5OH )融点 - 114.3 ℃,沸点 78.37 ℃に対し,同程度の分子量 44.11 のプロパン( C3H8 )は融点 - 187.6 ℃,沸点 - 42.09 ℃である。すなわち,エタノールは融点で 73 ℃,沸点で 120 ℃プロパンより高い。
 炭素数 6 の 1–ヘキサノール( C6H13OH 分子量 102.17 ,融点 – 51.6 ℃,沸点 157 ℃)で比較してみても,同程度の分子量 100.2 を持つ飽和脂肪族炭化水素のヘプタン( C7H16 )の融点 – 90.5 ℃,沸点 98.38 ℃に比較し,融点で 39 ℃,沸点で 59 ℃と大変高い温度である。

 1–ヘキサノールと同じく炭素数 6 で酸素を有するカルボニル基を持つ化合物,エーテル結合を持つ化合物と比較しても,メチルイソブチルケトン( methyl isobutyl ketone :MIBK )として知られる 4 -メチル – 2 - ペンタノン( CH3COCH2CH (CH3)2 )の分子量 100.16 ,融点 - 84 ℃,沸点 116.2 ℃,ジプロピルエーテル( 1,1'- オキシビスプロパン : C3H7 O C3H7 )の分子量 102.20 ,融点 - 122 ℃,沸点 88 ℃に対し,融点沸点とも 1–ヘキサノールが著しく高い。
 このように,アルコールの異常に高い融点沸点は,ヒドロキシ基による水素結合の影響と考えられる。

 構造の影響
 炭素数 6 ,ヒドロキシ基 1 で構造の違う鎖式脂肪族の 1 – ヘキサノール( C6H13OH ),環式脂肪族のシクロヘキサノール( C6H11OH ),芳香族のフェノール( C6H5OH )の沸点を比較すると,それぞれ 157 ℃,161 ℃,181.7 ℃であり,分子間力に立体的な構造の影響もあることが分かる。

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  酸・塩基性

 ヒドロキシ基( -OH 基)は,水分子との親和性は強いが,水中ではほとんど電離しないため,酸としての強い作用はないが,非常に弱い酸性を示す。
 このため,アルコールは,水やカルボン酸などと同様にプロトン性溶媒( protic solvents )に分類される。なお,プロトン性溶媒とは,酸素や窒素原子に結合した比較的酸性度の高い水素を持ち,水素イオン(プロトン)供与性を持つ溶媒のことである。
 一方,ヒドロキシ基( -OH 基)の酸素原子が非共有電子対を有するので,ルイス塩基として働く。
 すなわち,アルコールは基本的には中性であるが,水と同様に弱い酸であり弱い塩基でもある。

 アルコールの陽イオンは一般式 R-OH2 (フェノールでは,Ar-OH2で表されオキソニウムイオンである。
 陰イオンは一般式 R-O で表されアルコキシドイオン( alkoxide ion )といい,フェノール類の場合( Ar-O )はフェノキシドイオン( phenoxide ion )という。

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