第一部:化学と物質構造・化学結合

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 ここでは,分子集団形成に影響する分子間相互作用として,【分子間力とは】, 【基礎用語の解説】  に項目を分けて紹介する。

 分子間力とは

 分子間力( intermolecular force )
 広義での化学結合( chemical bond )には,分子内結合の他に,分子間相互作用により分子同士の集団を形成する結合も含まれる。この際に作用する力を分子間力という。
 分子間力は,狭義では電気的に中性の分子に作用する力(ロンドン分散力,ファンデルワールス力,双極子相互作用)を指し,気体から液体や固体への相転移( phase transition :変態ともいう)で重要な役割を果たす。
 広義には,分子間などの離れた部分の間に働く電磁気学的な力で,ファンデルワールス力,双極子相互作用に加えて,より強い力を示す水素結合イオン間相互作用を含んで言う場合がある。

 ヘリウム( He ),ネオン( Ne )などの希ガス類(周期表 18 族)は,原子の構造で示したように,最外殻軌道が電子で満たされ,価数 0 で非常に安定な,反応性に乏しい(フッ素以外の原子と結合しない)単原子分子として存在する。
 しかしながら,元素一覧で示したように,ヘリウムで約 – 269 ℃(約 4 K ),ネオンで約 – 246 ℃(約 27 K )まで冷却することで,反応性に乏しい希ガス元素にも関わらず,単原子分子が互いに比較的近い距離で凝集した状態の液体(凝集力が働く)に変わる。
 液体状態,即ち凝集した分子集団として存在する原因に関し,唯一の理論的回答は,安定な分子間に働く引力の存在である。

 現在の理論では,電気的に中性の分子の凝集を引き起こす力には,ファンデルワールス力双極子に基づく力,及び水素結合が知られている。
 一般的には,液化の際に分子間に影響する主要な力は“ファンデルワールス力”で,“双極子に基づく力”は液体の性質や固体の結晶化などに影響を与えると考えられる。

 “水素結合”については,原子間の電気陰性度に大きな差があり,大きい双極子モーメントに基づく力が発生する構造の特殊な分子(水やアンモニアなど)で問題となる。なお,水素結合については,別途にその他の結合で解説する。

 ファンデルワールス力と双極子に基づく力の関係について
 奥野久輝訳,ギャレット化学(1974,東京化学同人)において,分子間引力に基づくエネルギーをファンデルワールスエネルギー双極子エネルギーに分けて推定している。
 これによると,全エネルギーに対する双極子エネルギーの割合が勝っているのは,液体として水素結合により特異な性質を示すアンモニア( NH3 )と( H2O )のみで,ハロゲン化水素など推定した分子は,双極子エネルギーの全エネルギーに対する寄与は小さい。
 概して,液体として特異な性質を示すもの以外は,分子間結合において,双極子に基づく力よりファンデルワールス力が重要であるといえる。

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  基礎用語の解説

 相転移( phase transition )
 物質の三相(気相,液相,固相)が,温度や圧力を変えることで,相互に変化することをいう。
 物質の三相間の相互転移などエントロピーや体積などの値が両相で有限の差をもつような一般的な相転移を一次相転移という。
 鉄鋼の相転移など,固体であっても温度や圧力により結晶構造の違いなどで生じる複数の相の間での転移,例えば,磁性体における常磁性-強磁性転移,合金の秩序無秩序転移,液体ヘリウムの λ 点における正常流体から超流動流体への転移など定圧比熱容量や等温圧縮率の値に有限の差をもつような相転移を二次相転移という。
 ファンデルワールス力( Van der Waals force )
 互いに近づいた原子,分子,及びイオン間に働き,その力は粒子間の距離の 6 乗( 7 乗とする文献も)に反比例する。従って,力の作用する距離は限られた範囲となる。
 ファンデルワールス( Johannes Diderik van der Waals )(ヨハネス・ディーデリク・ファン・デル・ワールス)
 オランダの物理学者( 1837 ~ 1923 ),分子間力の提唱,分子間力の働く範囲をファンデルワールス半径という。1910年ノーベル物理学賞受賞。
 双極子( dipole )
 双極子には,電気双極子(electric dipole)と磁気双極子(magnetic dipole)がある。
 分子内に生じた電子の偏りを原因として発生する電荷のひずみである。すなわち,分子構造の中で,正の電荷の重心と負の電荷の重心が一致しない電荷の配置を電気双極子という。電荷を磁荷に置き換えた関係を磁気双極子という。
 双極子モーメント( dipole moment )
 双極子モーメントは,微小な距離だけ離れた大きさの等しい 1対の正負の電荷や磁極をさす双極子の強さを表わす量で,前者を電気双極子モーメント(electric dipole moment),後者を磁気双極子モーメント(magnetic dipole moment)というが,一般的には,前者を双極子モーメント,後者を磁気モーメント(magnetic moment)と称する例が多い。
 (電気)双極子モーメント μは,電荷の大きさδ,電荷の正と負の重心間の距離γとすると,
    μ = δ ・ γ    
 で与えられる。
 双極子モーメントの単位は,SI 単位系として認められていないが,広く使用(高等学校教育でも)されている D (デバイ)が用いられる。
 水素結合( hydrogen bond )
 分子間に水素を介して働く力を水素結合という。
 第 2 周期の元素(炭素,窒素,フッ素)の水素化物は,分子量が小さいにもかかわらず,同族元素の第 3 周期の元素より異常に高い沸点,融点を有する。このことは,これらの分子にファンデルワールス力以外の強い分子間力(水素結合)が働いていることを示す。

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