第五部:有機化学の基礎 食品添加物

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  ここでは,食品の食感や形態に関連する添加物に関連し, 【食品添加物の用途別分類】, 【増粘安定剤とは】, 【主な増粘安定剤】, 【乳化剤とは】, 【主な乳化剤】, 【膨脹剤とは】 に項目を分けて紹介する。

  食品添加物の用途別分類

 東京都福祉保健局:食品衛生の窓>たべもの安全情報館>食品添加物の解説では,
 食品添加物を用途別の「甘味料」,「着色料」,「保存料」,「増粘剤安定剤;ゲル化剤(糊料)」,「酸化防止剤」,「発色剤」,「漂白剤」,「防かび剤又は防ばい剤」,「乳化剤」「膨脹剤」,「調味料」,「酸味料」,「苦味料」,「光沢剤」,「ガムベース」,「栄養強化剤」,「製造用剤等」,「香料」に分けて主な添加物を紹介している。

 ここでは,赤字で示した「増粘剤安定剤;ゲル化剤(糊料)」,「乳化剤」,「膨脹剤」を東京都福祉保健局の紹介記事,(公財)日本食品化学研究振興財団で提供する“厚生労働省行政情報”などを参考に紹介する。

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  増粘安定剤とは

 増粘安定剤( thickening stabilizer )
 ゲル化剤,糊料などとも呼ばれ,「水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子物質」のことである。

 増粘安定剤は,少量で高い粘性を示す目的では「増粘剤」,液体をゼリー状に固める作用を目的とする場合は「ゲル化剤」,食品成分を均一に安定させる目的の場合は「安定剤」と名称を区別することがある。
 なお,「ゲル化剤」とは,冷やすと固まる性質のゼラチン(動物の皮や骨),寒天(テングサ),カラギナン,ペクチンなどの総称である。

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  主な増粘安定剤

 カラギナン( Carrageenan )
 既存添加物名簿番号 62 の添加物

 カラギナンは,直鎖含硫黄多糖類の一種で,D-ガラクトース(又は 3,6-アンヒドロ- D -ガラクトース)と硫酸から構成される陰イオン性高分子化合物である。
 カラギナンは,加工ユーケマ藻類( Semirefined carrageenan , Processed eucheuma algae , Processed red algae ),精製カラギナン( Purified carrageenan , Refined carrageenan )ともいわれる。また,ミリン科キリンサイ属の全藻を,乾燥・粉砕して得られたものは,ユーケマ藻末( Powdered red algae )という。
 カラギナンは,スギノリ目・スギノリ科・スギノリ属( Gigartina ),ツノマタ属( Chondrus ),ギンナンソウ属( Iridaea ),スギノリ目・イバラノリ科・イバラノリ属( Hypnea ),スギノリ目・ミリン科・キリンサイ属( Eucheuma ),オオキリンサイ属( Kappaphycus )などの紅藻類から水(アルカリ性水溶液)で抽出・精製して得られる。
 カラギナンには,原料に用いた紅藻類の違いで,キリンサイ属から得られ,軟らかいゲルを作る ι(イオタ)-カラギナン,オオキリンサイ属から得られ,硬く強いゲルを作るκ(カッパ)-カラギナン,スギノキ属などから得られ,水ではゲル化しないが,タンパク質と混ぜたときに軟らかいゲルを作るλ(ラムダ)-カラギナンなどに分けられる。
 ゼリー,ジャム,プリン,アイスクリーム,ドレッシングなどに利用されている。
 カルボキシメチルセルロースナトリウム( sodium carboxymethylcellulose )
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 100 の指定添加物

 カルボキシメチルセルロースナトリウムは,繊維素グリコール酸ナトリウム( Sodium Cellulose Glycolate )や略称の CMC などとも呼ばれる。
 植物繊維成分のセルロースを水酸化ナトリウムなどで処理して製造される。水に容易に溶け,粘性,安定性,保護コロイド性(コロイド粒子を安定的に分散させる性質)などの特性を持ち,アイスクリーム,シャーベット,ソース,めん類などに用いられる。
 キサンタンガム( Xanthan gum )
 既存添加物名簿番号 78 の添加物

 グラム陰性菌のキサントモナス属菌( Xanthomonas campestris )の培養液から分離製造される。
 主な成分がグルコース,マンノース,グルクロン酸などからなる多糖類で,ドレッシング,たれ類,漬物,つくだ煮,冷凍食品,レトルト食品などに用いられる。
 キサンタンガムは,カロブビーンガム既存添加物名簿番号 73 の添加物で,イナゴマメの種子の胚乳成分から得られる。),グァーガム既存添加物名簿番号 91 の添加物で,マメ科グァーの胚乳成分から得られる。)との併用で,相乗的な増粘効果が期待できる。
 ペクチン( Pectin )
 既存添加物名簿番号 285 の添加物

 かんきつ類,リンゴ等の果皮などに多く含まれ,水抽出で得られる。部分的にメチルエステル化されたポリガラクチュロン酸などの水溶性多糖類を成分とし,マーマレード,ジャム,ゼリー,アイスクリームなどに用いられる。

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  乳化剤とは

 乳化剤( emulsifier )
 界面活性剤と概ね同義であるが,食品用として使用される場合は,界面活性剤とは言わず乳化剤という。

 すなわち,乳化剤は,乳化,起泡,消泡などの目的で使用される薬剤の総称である。
 例えば,卵黄中に含まれるレシチンが乳化剤として働き,サラダ油が卵や酢の中に均一に混ざっているマヨネーズ,ケーキなどの起泡剤,焼き菓子などの型離れをよくする離型剤,デンプンの食感劣化を防ぐ老化防止剤などの様々な目的で使用されている。

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  主な乳化剤

 グリセリン脂肪酸エステル( Glycerol Esters of Fatty Acids )
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 119 の指定添加物

 グリセリン( propane-1,2,3-triol )の持つ 3 つのヒドロキシ基( -OH )のうち 1 つないし 2 つに脂肪酸エステル結合した代表的な食品用乳化剤で,グリセリンエステルともいう。
 結合した脂肪酸の数で,モノ,ジ,トリエステルの 3 種類がある。実用化されるものに,酢酸モノグリセリド,乳酸モノグリセリド,クエン酸モノグリセリド,ジアセチル酒石酸モノグリセリド,コハク酸モノグリセリド,ポリグリセリン脂肪酸エステル,ポリグリセリン縮合リノシール酸エステルなどがある。
 マーガリン,乳製品,乳飲料,菓子類などに広く用いられている。
 グリセリン脂肪酸エステルは,乳化剤以外に,デンプンの品質改良剤,起泡剤,消泡剤などの用途でも利用されている。
 例えば,デンプン粉と複合体を作りパンが硬くなるのを防ぐ効果,低温での起泡性,高温での消泡性などの効果を利用したケーキ用起泡剤や豆腐用消泡剤として,脂肪凝集作用を利用したホイップクリームやアイスクリームの保型性向上,防湿・被覆作用を利用したキャンディ・キャラメルのべたつき防止などに用いられる。
 サポニン( saponin )
 サポニンは,多環式化合物のサポゲニンから構成される配糖体の総称で,種々の植物や一部の棘皮動物(きょくひどうぶつ:ヒトデ,ナマコなど)の体内に含まれる界面活性を示す物質である。
 清涼飲料水,酒類,乳製品,菓子類などに用いられる食用添加剤には,
 キラヤ( Quillaja saponaria Molina )の樹皮から得られるキラヤ抽出物( Quillaia extract :既存添加物名簿番号 88 ),マメ科ダイズ( Glycine max Merrill )の種子を粉砕し,水又はエタノールで抽出後に精製して得られるダイズサポニン( Soybean saponin :既存添加物名簿番号 187 ),ユッカ・ブレビフォリア( Yucca brevifolia Engelmann )又はユッカ・シジゲラ( Yucca schidigera Roezl ex Ortgies )の全草から得られるユッカフォーム抽出物( Yucca foam extract , Yucca joshua tree :既存添加物名簿番号 338 )がある。
 ショ糖脂肪酸エステル( Sucrose Esters of Fatty Acids )
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 219 の指定添加物

 脂肪酸と砂糖(ショ糖)を反応させたエステルで,脂肪酸としてステアリン酸,パルミチン酸,オレイン酸などの高級脂肪酸を用いたもの,酢酸,イソ酪酸などの低級脂肪酸を用いたものがある。
 ホイップクリーム,ケーキ,清涼飲料水,カレールーなどに用いられる。
 ショ糖脂肪酸エステルは,乳化剤の他に粘度調整,デンプンの老化防止,食感の改良などの目的で使用される。
 レシチン( lecithin )類
 レシチンは,グリセロリン脂質の一種で,動植物の細胞中に存在する生体膜の主要構成成分である。
 グリせロリン脂質とは,分子構造中にリン酸エステル部位をもつリン脂質( phospholipid )の中で,グリセリンを骨格とするものをいう。
 次に紹介するアブラナやダイズなどの種子や卵黄から抽出されるレシチンが,食品添加物として認められ,アイスクリーム,マーガリン,菓子類,調整粉乳などに広く用いられている。
 植物レシチン( Vegetable lecithin )
 既存添加物名簿番号 166 の添加物

 アブラナ科アブラナ( Brassica rapa Linne , Brassica napus Linne ),マメ科ダイズ( Glycine max Merrill )の種子より得られた油脂から分離して得られたものである。
 卵黄レシチン( Yolk lecithin )
 既存添加物名簿番号 346 の添加物

 卵黄より得られた卵黄油から分離して得られたものである。
 酵素処理レシチン( Enzymatically modified lecithin )
 既存添加物名簿番号 127 の添加物

 「植物レシチン」又は「卵黄レシチン」とグリセリンの混合物にホスホリパーゼD(リン脂質を脂肪酸とその他の親油性物質に加水分解する酵素)を用いて得られたものである。
 酵素分解レシチン( Enzymatically decomposed lecithin )
 既存添加物名簿番号 130 の添加物

 「植物レシチン」又は卵黄から得られた「卵黄レシチン」から得られたホスファチジン酸及びリゾレシチンを主成分とするものである。酵素分解レシチンには,酵素分解植物レシチンと酵素分解卵黄レシチンがある。
 分別レシチン( Fractionated lecithin Cephalin Lipoinositol )
 既存添加物名簿番号 279 の添加物

「植物レシチン」又は「卵黄レシチン」より,メタノール,エタノール,含水エタノール,イソプロピルアルコール,アセトン,ヘキサン又は酢酸エチルで抽出して得られたもので,フォスファチジルコリン,フォスファチジルエタノールアミン,フォスファチジルイノシトール,スフィンゴミエリンを主成分とする。

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  膨脹剤とは

 膨脹剤( leavening agent )
 ふくらし粉とかベーキングパウダーとも呼ばれるもので,炭酸ガスやアンモニアガスを発生させて蒸し菓子や焼き菓子をふっくらと膨脹させるために使用される。

 炭酸水素ナトリウム( Sodium bicarbonate )
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 241 の指定添加物

 重炭酸ナトリウム( Sodium hydrogen carbonate )又や重炭酸ソーダ( Bicarbonate soda )ともいわれるが,一般的には重曹( baking soda )として知られ,焼き菓子,ホットケーキ,まんじゅうなどに用いられる。  工業的にはアンモニア・ソーダ法による炭酸ナトリウム製造の中間体として得られ,かんすい(中華麺などの製造に使うアルカリ塩水溶液)や pH 調整剤の用途にも用いられる。
 グルコノデルタラクトン( Glucono-delta-Lactone )
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 122 の指定添加物

 グルコノラクトン( Gluconolactone )ともいわれる天然の添加物である。
 また,ミツバチの体内でグルコースからグルコノラクトンを作り,蜂蜜に多く含まれるため,別名ハチミツ酸ともいわれる。
 他の酸に比べ,低温で反応することが少なく均一な発泡をするので,ビスケット,ドーナッツ,パンなどの膨脹剤の酸成分として,炭酸水素ナトリウムなどと併用して使用される。
 また,豆腐の凝固剤,氷菓等の酸味料,乳製品のキレート剤としても使用されている。キレート剤とは,金属イオンをその構造の中に固定化し,イオンを不活性化する能力を持つ化合物の総称である。
 硫酸アルミニウムカリウム( Aluminum potassium sulfate )
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 429 の指定添加物

 硫酸アルミニウムカリウム( AlK(SO4)2·12H2O )は,結晶物の場合にあっては別名ミョウバン又はカリミョウバン( Alum or Potassium Alum ),乾燥物の場合にあっては別名焼ミョウバン( Desiccated: Burnt Alum )として知られる。なお,化合物名は,表中の名称とは異なり,硫酸カリウムアルミニウム十二水和物である。
 ボーキサイトに硫酸を加えて硫酸アルミニウムを作り,これに硫酸カリウムを加えてミョウバンを結晶させたものを約 200 ℃に加熱して結晶水を揮散したものである。
 膨脹剤の酸成分として炭酸水素ナトリウムなどと併用される。炭酸水素ナトリウムとの反応が緩やかでガスの発生が持続する特徴がある。
 主な用途は,ビスケット,スポンジケーキ,クッキーなどの焼き菓子であるが,みそには使用できない。

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