第五部:有機化学の基礎 脂肪族炭化水素の基礎

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  ここでは,同じ化学式の有機化合物の三次元的な分子構造に関連し, 【立体化学とは】,  【構造異性体とは】, 【立体異性体とは】 に項目を分けて紹介する。

  立体化学とは

 立体化学( stereochemistry )
 3次元的な分子構造,構造を調べる方法論,構造由来の物性論などに関する学問領域である。
 有機化学物質の立体的構造は,物性に極めて大きな影響を及ぼすこともあり,化学の基本的な分野である。

 一般的な用語として頻繁に登場する異性体( isomer ) は,同じ分子式(原子の組成が同じ)であるが,各原子の結合の種類,方向などの分子構造が異なる分子をいう。ある分子が異性体に変化することを異性化という。

 異性体は,次に説明するように,構造異性体( constitutional isomer ,structural isomer )立体異性体( stereoisomer )に大別される。
 立体異性体の原因となりえる分子に固有な原子の空間的な配置立体配置( configuration )という。
 なお,単結合まわりの回転などで生じる通常の条件で相互に変換可能な空間的な配置は,後述のジアステレオマーで紹介する立体配座( conformation )であり,立体配置と混同しないように分けて用いる。

異性体の分類

異性体の分類

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  構造異性体とは

 単に異性体といった場合は,
 例えば,分子式 C4H10 の化合物には,ブタン CH3−CH2−CH2CH3 とイソブタン( 2 –メチルブタン) CH3–CH(CH3)-CH3 の関係,
 分子式 C3H8O の場合の 1 –プロパノール  CH3−CH2−CH2OH ,2 –プロパノール  CH3–CH(OH)-CH3 ,エチルメチルエーテル  CH3−CH2O–CH3 の関係を言うのが一般的である。
 このように,同じ分子式であるが,原子の結合状態が異なり,示性式が異なる異性体を構造異性体という。

 構造異性体( constitutional isomer ,structural isomer )
 連鎖異性( chain isomerism )
 ブタンとイソブタンのように主鎖となる炭素鎖が異なる構造異性。炭素鎖異性体ともいう。
 位置異性( position isomerism )
 1 –プロパノールと 2 –プロパノールのように,同じ官能基の位置が異なる構造異性。
 官能基異性( functional isomerism )
 2 –プロパノールとエチルメチルエーテルのように,官能基の種類が異なる構造異性。
などに分けることが多い。
 しかし,これらの用語は,定義の厳密さを欠くため,IUPAC 命名法では使用を推奨していない。

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  立体異性体とは

 異性体には,例えば, 2–ブテン示性式 CH3–CH=CH–CH3 で表され,乳酸( 2 –ヒドロキシプロパン酸)は示性式 CH3–CH(OH)–COOH で表されるが,
 下図に示すように,同じ示性式でも立体配置(三次元的な構造)が異なる化合物が存在する。これを立体異性体という。

立体異性体の例

立体異性体の例

 立体異性体は,その結合様式の違いから,これまでに光学異性体( optical isomer )といわれた鏡像関係にある異性体のエナンチオマー( enantiomer ),エナンチオマー以外の立体異性体のジアステレオマー( diastereomer )に分けられる。詳細については,別に項目を立てて紹介する。
 ジアステレオマーは,さらにシス‐トランス異性体配座異性体に分けられる。
 なお,エナンチオマーに対しては鏡像異性体との日本語訳が当てられるが,ジアステレオマーの適切な日本語訳がないので,カタカナ表記が一般的である。

 立体異性体の説明において,高等学校の化学教育や参考書・専門書で光学異性体,幾何異性体の用語を用いている。
 しかし,厳密性に欠けるため,IUPAC 命名法ではこれらの用語の使用を推奨せず,エナンチオマー,ジアステレオマー,シス‐トランス異性体,配座異性体(回転異性体)の使用を推奨している。
 これらと従来表記との関係は,光学異性体≒エナンチオマー,幾何異性体≒シス‐トランス異性体である。

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