第五部:有機化学の基礎 食品添加物

  ☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒

  ここでは,色を鮮明にしたり光沢を与える目的で用いる食品添加物として, 【食品添加物の用途別分類】, 【発色剤とは】, 【漂白剤とは】, 【光沢剤とは】 に項目を分けて紹介する。

  食品添加物の用途別分類

 東京都福祉保健局:食品衛生の窓>たべもの安全情報館>食品添加物の解説では,
 食品添加物を用途別の「甘味料」,「着色料」,「保存料」,「増粘剤安定剤;ゲル化剤(糊料)」,「酸化防止剤」,「発色剤」,「漂白剤」,「防かび剤又は防ばい剤」,「乳化剤」,「膨脹剤」,「調味料」,「酸味料」,「苦味料」,「光沢剤」,「ガムベース」,「栄養強化剤」,「製造用剤等」,「香料」に分けて主な添加物を紹介している。

 ここでは,赤字で示した「発色剤」,「漂白剤」,「光沢剤」を東京都福祉保健局の紹介記事,(公財)日本食品化学研究振興財団で提供する“厚生労働省行政情報”などを参考に紹介する。

 ページのトップへ

  発色剤とは

 食品発色剤( food color formers )
 それ自体は色を持たないが,肉類の色を鮮やかに見せるため,動物性食品中に含まれる赤血球の色素(ヘモグロビン)や筋肉細胞の色素(ミオグロビン)と結合して,加熱しても安定した赤色の化合物になる食品添加物である。
 主に,亜硝酸ナトリウムが使われ,硝酸ナトリウム・硝酸カリウムを併用することがある。
 これらは,ハム,ソーセージ,かまぼこ,鯨肉ベーコン,イクラ,筋子に対しての使用は認められているが,日本の法令では生鮮食肉や鮮魚への使用は認められていない。

 亜硝酸ナトリウム( Sodium Nitrite :NaNO2
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 6 の指定添加物

 一酸化窒素ガス( NO )を水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウム溶液に吸収させて製造される。
 白~淡黄色の結晶性粉末で,食肉中のヘモグロビンやミオグロビンと結合して,食肉製品を鮮赤色に保たせる効果がある。
 アスコルビン酸などの発色補助剤と併用されることが多く,ボツリヌス菌の繁殖を抑える効果もある。
 ハム・ソーセージなどの食肉製品,鯨肉ベーコン,魚肉ハム・ソーセージ,いくら,すじこ,たらこの発色剤として用いられる。
 亜硝酸ナトリウムの人体への影響は強く,胃の中で亜硝酸ナトリウムと肉に含まれるアミンと反応し,発がん性のニトロアミンを生成するため,アミンを多く含むタラコやイクラなどの魚卵では,使用限度が低く定められている。
 硝酸カリウム( Potassium Nitrate :KNO3
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 206 の指定添加物

 硝酸ナトリウム( Sodium Nitrate :NaNO3
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 205 の指定添加物

 硝酸カリウム,硝酸ナトリウムは,無色の結晶又は白色の粉末で,食品中で亜硝酸となって効果を発揮する。一般的には,前述の亜硝酸ナトリウムと併用されることが多い。また,チーズや清酒の発酵調整剤としても用いられる。
 ハム・ソーセージなどの食肉製品,鯨肉ベーコンに用いられる。

  ページの先頭へ

  漂白剤とは

 漂白剤( bleach )
 原料などに含まれる好ましくない色素成分や着色物質を漂白することで,鮮明な色調に整える目的で使用される。
 漂白剤には,酸素の酸化作用で食品中の色素を分解して脱色する酸化漂白剤(亜塩素酸ナトリウムなど)と,分解して生じる亜硫酸で色素を還元して漂白する還元漂白剤(亜硫酸ナトリウムなど)がある。
 使用基準により,使用できる食品が制限され,ごま,豆類,野菜への使用は禁止されている。また,使用量も規制(例えば,ワインで 350 ppm )されている。
 ごま,豆類及び野菜への使用禁止は,その品質,鮮度等の判断を誤らせるおそれがあるための措置である。

 食品添加物として用いられる漂白剤は,亜塩素酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,過酸化ベンゾイル,高度サラシ粉,次亜塩素酸ナトリウム,次亜硫酸ナトリウム,ピロ亜硫酸カリウム,ピロ亜硫酸ナトリウムである,

 亜塩素酸ナトリウム( Sodium chlorite )
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 3 の指定添加物

 亜塩素酸ナトリウム( NaClO2は,酸性溶液中で発生した二酸化塩素( ClO2 )から生成した原子状酸素による酸化作用で漂白する。
 毒性の強い薬剤で,発がん性の可能性もある。このため,加工助剤として,最終製品の完成までに分解又は除去されなければならないとされている。
 なお,亜塩素酸ナトリウムは,加熱で分解し,塩素酸ナトリウム( NaClO3 )と塩化ナトリウム( NaCl )に変わる。
 生食用野菜類,卵類,ふき,もも,かんきつ類,さくらんぼ,果皮(製菓用)などの食品を製造するときに使用される漂白目的の加工助剤である。
 漂白剤としての使用の他に殺菌(カット野菜等の生食用野菜,卵殻の殺菌)目的でも使用される。
 加工助剤
 食品衛生法施行規則で,“食品の加工の際に使用されるが,(1) 完成前に除去されるもの,(2) その食品に通常含まれる成分に変えられ,その量を明らかに増加されるものではないもの,(3) 食品に含まれる量が少なく,その成分による影響を食品に及ぼさないもの。”と定義され,食品の表示義務から除外されている。
 なお,衣類の漂白剤として身近な次亜塩素酸ナトリウム( NaClO )は,食品衛生法施行規則 別表第一 番号 173 の指定添加物で,亜塩素酸ナトリウムとは異なる。
 亜硫酸ナトリウム( Sodium sulfite )
 食品衛生法施行規則 別表第一 番号 33 の指定添加物

 亜硫酸ナトリウム( Na2SO3 )は,亜硫酸イオンの酸化( SO32- ⇒ SO42-に伴う還元力で色素を還元する。
 かんぴょう,乾燥果実,水あめ,煮豆,えび,ワインなど広範囲の食品に使用されている。ワインでは,酸化防止剤としての機能も利用されている。

  ページの先頭へ

  光沢剤とは

 光沢剤
 食品の乾燥防止(水分の蒸発)や湿気から保護するために,食品の表面に皮膜を作り保護して光沢を与える目的で使用される食品添加剤である。

 光沢剤には,次に紹介するように,水不溶性のワックスや樹脂が使われる。
 シェラック( Shellac )
 既存添加物名簿番号 151 の添加物

 セラックともいい,カイガラムシ科ラックカイガラムシ( Laccifer lacca KERR )の分泌液から得られる樹脂状の物質である。
 シェラックは,アロイリチン酸( aleuritic acid :C16H32O5 ,9,10,16-トリヒドロキシヘキサデカン酸,アレウリチン酸ともいう)とシェロール酸( shellolic acid :C15H20O6,7α-メタノアズレン-3β,6-ジカルボン酸,シェロリン酸ともいう)などの樹脂成分が約 75%を占める。
 シェラックには,アルカリ性水溶液で抽出・漂白した白シェラック( White shellac ),及びエタノール,又はアルカリ性水溶液で抽出・精製した精製シェラック( Purified shellac )がある。
 また,ロウ分を除去していない含ロウ品及びロウ分を除去した脱ロウ品がある。
 シェラックは,エタノール溶液として菓子,糖衣食品,果実等の表面に塗布・乾燥させることで,表面に光沢性,防湿性のある皮膜を形成する。
 光沢剤の他にチューインガムベースとしても用いられる。
 パラフィンワックス( Paraffin wax )
 既存添加物名簿番号 247 の添加物

 パラフィンワックスは,石油の常圧及び減圧蒸留留出油から得た固形の炭化水素の混合物で,主として直鎖状の炭素数 20~40 の炭化水素の混合物である。
 キャンディー,チョコレート,果実等のコーティングに用いられる。
 ミツロウ( Bees wax )
 既存添加物名簿番号 320の添加物

 オウロウ,ビースワックス,ベースワックスともいわれ,ミツバチ( Apis spp. )のを加熱圧縮,ろ過で得られるパルミチン酸ミリシル( myricyl palmitate :CH3(CH2)14COOCH2(CH2)28CH3 ,青字をミリシル基という)を主成分とするワックスである。
 なお,パルミチン酸ミリシルは,脂肪酸のパルミチン酸( C15H31COOH )と高級一価アルコールのトリアコンタノール( CH3(CH2)28CH2OH )とのエステル化合物である。
 粘稠性,伸展性が強く,エタノールや油脂に溶かして,菓子,糖衣食品,果実等のコーティングに用いる。

  ページの先頭へ