第五部:有機化学の基礎 食品添加物
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ここでは,食品保存に用いられる添加物に関連し, 【食品添加物の用途別分類】, 【食品保存料とは】, 【主な保存料】, 【酸化防止剤とは】, 【主な酸化防止剤】, 【防かび剤とは】 に項目を分けて紹介する。
食品添加物の用途別分類
東京都福祉保健局:食品衛生の窓>たべもの安全情報館>食品添加物の解説では,
食品添加物を用途別の「甘味料」,「着色料」,「保存料」,「増粘剤安定剤;ゲル化剤(糊料)」,「酸化防止剤」,「発色剤」,「漂白剤」,「防かび剤又は防ばい剤」,「乳化剤」,「膨脹剤」,「調味料」,「酸味料」,「苦味料」,「光沢剤」,「ガムベース」,「栄養強化剤」,「製造用剤等」,「香料」に分けて主な添加物を紹介している。
ここでは,赤字で示した「保存料」,「酸化防止剤」,「防かび剤又は防ばい剤」を東京都福祉保健局の紹介記事,(公財)日本食品化学研究振興財団で提供する“厚生労働省行政情報”などを参考に紹介する。
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食品保存料とは
食品保存料( food preservative )
食品の腐敗や変敗(変質・腐敗)の原因となる微生物の増殖を抑制(静菌効果という)し,腐敗や保存性を高める添加物である。
保存料は,微生物を殺すことを目的とした殺菌剤とは異なり,菌の増殖後に添加しても効果は得られない。
サラミやウィンナーなどの食肉製品,菓子類,漬物などの加工食品に使われるが,豆腐や精肉などの生鮮食品には使用されない。
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主な食品保存料
安息香酸( Benzoic Acid )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 40 の指定添加物
安息香酸ナトリウム( Sodium Benzoate )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 41 の指定添加物
安息香酸は,示性式 C6H5COOH の芳香族化合物(芳香族カルボン酸)である。ノキ科アンソクコウノキの樹脂にも含まれ,天然に存在する化合物であるが,化学的に合成されたものが用いられるため,指定添加物に分類している。水溶性のナトリウム塩が安息香酸ナトリウムである。
添加物の用途は,使用基準により,安息香酸は,キャビア,マーガリン,清涼飲料水,シロップ,しょう油の使用のみが認めら,安息香酸ナトリウムは,これらに加えて,菓子製造用の果実ペースト及び果汁にも使用できる。
しらこたん白抽出物( Milt protein )
既存添加物名簿番号 167 の添加物
しらこたん白抽出物は,しらこたん白,しらこ分解物,プロタミンなどともいわ,鮎魚女(アイナメ:Hexagrammos otakii Jordan et Starks ),樺太鱒(カラフトマス:Oncorhynchus gorbuscha , Walbaum ),白鮭(シロザケ:Oncorhynchus keta , Walbaum ),紅鮭(ベニサケ:Oncorhynchus nerka , Walbaum ),鰹(カツオ:Katsuwonus pelamis , Linnaeus )又は鰊(ニシン:Clupea pallasii Valenciennes )などの魚類の精巣から得られた塩基性タンパク質(プロタミン,ヒストンなど)を主成分とするものである。
しらこたん白抽出物は,微生物が増えることによって生じるネバネバ(ネト)の発生を遅くする効果があり,デンプン系の食品,魚肉ねり製品,調味料などに用いられる。
魚肉ねり製品に使用した場合は,弾力増強効果や塩味を和らげる塩なれ効果も得られる。
【参考】
タンパク質を構成するアミノ酸について,2つのカルボキシル基( –COOH )を持つアスパラギン酸,グルタミン酸などの多く含むものを酸性タンパク質といい,2つ以上のアミノ基( –NH2 )を持つリシン,アルギニン,ヒスチジンなどを多く含むものを塩基性タンパク質という。
ソルビン酸( sorbic acid )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 234 の指定添加物
ソルビン酸カリウム( potassium sorbate )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 235 の指定添加物
ソルビン酸カルシウム( calcium sorbate )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 236 の指定添加物
ソルビン酸( CH3(CH)4COOH )は,IUPAC名 2,4-ヘキサジエン酸の不飽和脂肪酸である。ソルビン酸の静菌効果は pH の低い酸性側で大きい。
ソルビン酸は,ナナカマド( Sorbus commixta )の未成熟果汁中に存在するなど,天然物であるが,実用の添加物は,化学合成品のため指定添加物に挙げられて,使用基準により,使用量が制限されている。
ソルビン酸は,かまぼこなどの魚肉練り製品,ハム,ソーセージなどの食肉加工製品,漬物,チーズ,魚介乾製品,つくだ煮,煮豆などに最も広く使われている保存料である。
ソルビン酸のカリウム塩であるソルビン酸カリウム,カルシウム塩のソルビン酸カルシウム。ソルビン酸と同様の用途に広く使用されている合成保存料の一つである。
ナトリウム塩のソルビン酸ナトリウム( sodium sorbate )は,日本では食品添加物でとして指定されていないが,諸外国では保存料として用いられている。
プロピオン酸( propionic acid )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 354 の指定添加物
プロピオン酸カルシウム(プロピオン酸Ca)
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 357 の指定添加物
プロピオン酸ナトリウム(プロピオン酸Na)
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 358 の指定添加物
プロピオン酸は,示性式 CH3CH2COOH のカルボン酸( IUPAC 名:プロパン酸 propanoic acid )である。
これらの保存料は,自然界にも微生物の代謝産物として存在し,みそ,しょう油,パン生地,ぶどう酒,チーズなどの発酵食品に含まれている。
カビ,芽胞菌(耐熱性の細胞を作る細菌)の発育を阻止するが,パンの発酵などに用いられる酵母に及ぼす影響が小さい特徴がある。
主な用途には,チーズ,パン,洋菓子などがある。
ε-ポリリジン(ε-Polylysine )
既存添加物名簿番号 309 の添加物
放線菌( Streptomyces albulus )の培養液を精製(イオン交換樹脂を用いた吸着・分離)で得られるε-ポリリシンともいわれる。精製物には,デキストリンを含むことがある。
ε-ポリリジンは,必須アミノ酸の L-リシンが鎖状に繋がった構造を持ち,ほとんどの細菌,酵母に対する増殖抑制効果はあるが,防かび効果はあまり期待できない。
主な用途には,デンプン系の食品を中心に一般食品の保存料として用いられる。
デキストリン( dextrin )とは,デンプンやグリコーゲンの加水分解で得られる低分子量の炭水化物(多糖類)の総称である。
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酸化防止剤とは
酸化防止剤( antioxidant )
空気中の酸素による食品の酸化を防止する目的で使用される。特に,油脂類の酸化により色,風味が悪くなるばかりでなく,酸化で生じた過酸化物による消化器障害を引き起こすこともあり,油脂を用いた食品での利用が多い。
酸化防止剤には,食品成分に代わって自身が酸化されることにより食品の酸化を防ぐ機能を持った化合物が用いられる。
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主な酸化防止剤
L-アスコルビン酸( L-Ascorbic Acid )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 7 の指定添加物
ビタミンC( Vitamin C )として知られる酸化防止剤,デンプンの加水分解で得られるブドウ糖の発酵で得られる。
栄養強化材として利用されている。酸化防止剤としては,清涼飲料水,果物,ジャムなどの果物加工品,飴,野菜,ソーセージなどに利用されている。
L-アスコルビン酸ナトリウム( Sodium L-Ascorbate )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 11 の指定添加物
ハム,ソーセージ,かまぼこなどに用いられる。
L-アスコルビン酸カルシウム( Calcium L-Ascorbate )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 8 の指定添加物
高血圧などでナトリウム摂取が制限される食材に用いられる。
L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル( L-Ascorbic Stearate )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 10 の指定添加物
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル( L-Ascorbic Palmitate )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 12 の指定添加物
L-アスコルビン酸との化合物として,油脂,バター,チーズ,小麦粉,菓子類,アイスクリームなどに用いられる。
エリソルビン酸( Erythorbic Acid )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 78 の指定添加物
イソアスコルビン酸( Isoascorbic Acid )ともいわれ,エリソルビン酸は,ブドウ糖の発酵で得たケトグルタル酸をエステル化後にエノール化したものを精製して得られる。この添加物は,酸化防止以外の目的での使用が禁止されている。
ハム,ウィンナーソーセージ,魚の塩漬けなど魚介加工品,惣菜,農産物缶詰,漬物,ジュースなどに用いられる。
ハムやソーセージでは,発色剤の亜硝酸ナトリウムと一緒に使うと発色効果が高くなるため,エリソルビン酸と合わせて使われる。
カテキン( Catechin )
既存添加物名簿番号 58 の添加物
ツバキ科チャ( Camellia sinensis O.KZE. )の茎若しくは葉,マメ科ペグアセンヤク( Acacia catechu WILLD. )の幹枝,アカネ科ガンビール( Uncaria gambir ROXBURGH )の幹枝若しくは葉を原料とし,乾留・水抽出(又はエタノール抽出)・精製して得られる。
主成分は,カテキン類(抗酸化作用をもつポリフェノールのフラバノール類に分類される色素成分)で,ビタミンE,クエン酸,ビタミンCなどとの併用で酸化防止の相乗効果を発揮する。
水産加工品,食肉加工品,菓子,油脂,清涼飲料水などに用いられる。
ジブチルヒドロキシトルエン( Butylated hydroxytoluene :BHT )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 186 の指定添加物
略して BHT と呼ばれ,p-クレゾールとiso-ブチレンから人工的に合成される添加物である。
魚介冷凍品,チューインガムなどの菓子類,油脂類,バター,魚介乾製品などに用いられる。
多くの場合は,クエン酸やアスコルビン酸などの他の酸化防止剤と併用して用いられてきたが,発がん性の疑いが大きくなり,食品への添加がほとんどなくなりつつある。
トコフェロール( Tocopherol )類
d-α-トコフェロール( d-α-Tocopherol )
既存添加物名簿番号 219 の添加物
d-γ-トコフェロール( d-γ-Tocopherol )
既存添加物名簿番号 220 の添加物
d-δ-トコフェロール( d-δ-Tocopherol )
既存添加物名簿番号 221 の添加物
dl-α-トコフェロール( dl-α-Tocopherol )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 267 の指定添加物
トコフェロールとは,いわゆるビタミンEである。
天然物の既存添加物は,油糧種子(大豆,ごまなどの油脂含量の多い種子)から採取した植物油脂からミックストコフェロール(α,β,γ,及びδ-トコフェロールを主成分とする混合物)が得られ,これを分離・精製することで各添加物が得られる。
これらのトコフェロール類は,油脂類,マーガリンやバターなど油脂含有食品,インスタントラーメン,にぼし,菓子類などの酸化防止剤として用いられる。また,既存添加物は,ビタミン C と同様に栄養強化材としても利用されている。
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防かび剤とは
防黴剤( anti-mold agent , mildew-proofing agent )
かびの発生または増殖を防ぎ,あるいは除去するための薬剤をいう。なお,黴の読みは,“かび”,又は“ばい”である。
外国産のオレンジ,レモンなどのかんきつ類やバナナなどは,長時間の輸送貯蔵中にカビが発生する。その発生を防止するために収穫後に使用される農薬は,日本では添加物として規制している。
イマザリル( Imazalil )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 61 の指定添加物
別表記載のイマザリルは,ナイロンと同様に一般化した名称であるが,もともとは商品名である。物質名は,エニルコナゾール( Enilconazole )といい,ジクロルベンゼン誘導体とイミダゾールを反応させて製造されるイミダゾール系防かび剤である。
アメリカから輸入されるオレンジやレモンなどのかんきつ類やバナナなどに使用されている。
オルトフェニルフェノール( o-Phenylphenol:OPP )及びオルトフェニルフェノールナトリウ( Sodium o-Phenylphenate )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 92 の指定添加物
日本では,農薬としての使用は禁止されているが,アメリカでは使用が認められている。アメリカから輸入されるかんきつ類の防かび剤として使用できるよう,日本政府で食品添加物として指定した経緯がある。
アメリカから輸入されるかんきつ類に使用されている。
チアベンダゾール( Thiabendazole :TBZ )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 244 の指定添加物
抗菌剤として,農薬,食品添加物,動物用医薬品として広く使用されている。防かび剤としては,かんきつ類を浸漬するワックスエマルジョンに混合し,バナナの収穫時にスプレーする溶液に混合して用いられている。
アメリカから輸入されるかんきつ類やバナナに使用されている。
フルジオキソニル( Fludioxonil )
食品衛生法施行規則 別表第一 番号 350 の指定添加物
フルジオキソニル(体系名 4-(2,2-ジフルオロ-1,3-ベンゾジオキソール-4-イル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル)は,フェニルピロール系の非浸透移行性殺菌剤で,子発芽,発芽管伸長及び菌糸の生育阻害を示すことから,農薬としてブドウ及び野菜類の灰色かび病に対する茎葉散布剤や麦類の種子消毒剤として使用されてきた。
平成23年には,収穫後の果実の防かび目的の食品添加物に指定された。
あんず,おうとう,かんきつ類(みかんを除く),キウィー,ざくろ,すもも,西洋なし,ネクタリン,びわ,マルメロ,もも,りんごなどに用いられている。
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