第五部:有機化学の基礎 食品添加物
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ここでは,食品の味や香りを変える添加物に関連し, 【食品添加物の用途別分類】, 【甘味料とは】, 【主な甘味料】, 【酸味料とは】, 【苦味料とは】, 【香料とは】 に項目を分けて紹介する。
食品添加物の用途別分類
東京都福祉保健局:食品衛生の窓>たべもの安全情報館>食品添加物の解説では,
食品添加物を用途別の「甘味料」,「着色料」,「保存料」,「増粘剤安定剤;ゲル化剤(糊料)」,「酸化防止剤」,「発色剤」,「漂白剤」,「防かび剤又は防ばい剤」,「乳化剤」,「膨脹剤」,「調味料」,「酸味料」,「苦味料」,「光沢剤」,「ガムベース」,「栄養強化剤」,「製造用剤等」,「香料」に分けて主な添加物を紹介している。
ここでは,赤字で示した「甘味料」,「酸味料」,「苦味料」,「香料」を東京都福祉保健局の紹介記事,(公財)日本食品化学研究振興財団で提供する“厚生労働省行政情報”などを参考に紹介する。
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甘味料とは
砂糖が代表的な甘味食品であるが,砂糖は酵母(イースト)の栄養源になりやすく,食品の品質劣化に影響する。そこで,保存性を高めるために用いられる砂糖以外の甘味料( sweetener )が指定されている。
最近は,糖尿病,肥満,虫歯などの予防を目的に砂糖の代替品としても用いられている。
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主な甘味料
食品衛生法施行規則 別表第一 指定添加物リストと既存添加物名簿に記載される主な甘味料を紹介する。
アスパルテーム(Aspartame )
番号 15 の指定添加物,別名 L-α-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル( L-a-Aspartyl-L-Phenylalanine Methyl Ester )の化合物である。
2 種類のアミノ酸(アスパラギン酸,フェニルアラニン)が結合した化合物で,砂糖の約 200 倍の甘さを示し,ダイエット食品,清涼飲料水,菓子などに用いられる。
フェニルケトン尿症の人はフェニルアラニンを分解できないためその摂取量を制限する必要があるため,食品表示では,「L-フェニルアラニン化合物」を含む旨の併記が定められている。
アセスルファムカリウム( Acesulfame Potassium )
番号 16 の指定添加物,アセスルファムK( Acesulfame K )ともいわれ,酢酸由来のジケテンを原料として製造される砂糖の約 200 倍の甘さを示し,生体内で利用されないためノンカロリー甘味料として,砂糖代替食品,菓子,清涼飲料水,漬物,つくだ煮などに用いられている。
水に溶けやすく,甘味の発現が早いことから,他の甘味料(アスパルテーム,スクラロース,ステビア等)と組み合わせて使われる。
キシリトール( Xylitol )
番号 106 の指定添加物,キシリットともいわれ,樹木などから抽出したキシラン( (C5H8O4)n の多糖類)を加水分解して得られたキシロース( C5H10O5 の単糖)に水素添加して得られる。
甘味度,カロリーともショ糖(砂糖)と同程度の甘味料で,加熱等の通常の食品加工の条件下で安定な化合物である。
溶解時に吸熱し,清涼感があり,虫歯にならず歯を丈夫にする機能を持つことから,特定保健用食品(チューインガムなど),キャンディー,ジャム,焼き菓子などに用いられている。
サッカリン( Saccharin ),サッカリンナトリウム( Sodium Saccharin )
番号 166 の指定添加物,サッカリンナトリウムは,溶性サッカリン( Soluble Saccharin )とも呼ばれる。
サッカリンは,砂糖の 500倍と極めて強い甘味が特徴で,サッカリンナトリウムは,水に溶けにくいサッカリンを水に溶けやすくしたものである。
濃度が薄くなっても甘味が長く残る(後味を持つ)特性があり,漬物,粉末清涼飲料,魚介加工品,しょう油,つくだ煮,煮豆,ビン詰,缶詰などに用いられる。
D-ソルビトール( D-Sorbitol )
番号 233 の指定添加物,D-ソルビット( D-Sorbit )ともいわれ,ブドウ糖を還元して作られる。
甘さは砂糖の約 60%で,溶解時に吸熱性があるため清涼感のある甘味料である。保湿性や安定性などがあり,煮豆,つくだ煮,生菓子,冷凍すり身などに使われる。
自然界でも植物体内に中間代謝産物として広く存在し,特にリンゴ,プラムなどのバラ科植物に高率で分布している。中でもドライプルーン中のソルビトール含量は 20 %に達すると言われている。
カンゾウ抽出物( Licorice extract )
既存添加物名簿番号 75 の添加物,別名 カンゾウエキス,グリチルリチン,リコリス抽出物ともいわれ,ウラルカンゾウ( Glycyrrhiza uralensis Fischer ),チョウカカンゾウ( Glycyrrhiza inflata Batalin ),ヨウカンゾウ( Glycyrrhiza glabra Linne ),又はそれらの近縁植物の根若しくは根茎から得られた,グリチルリチン酸を主成分とするる甘味料である。
甘さは砂糖の約 200倍で,塩味を和らげる塩なれ効果や旨味出し効果があり,しょう油,みそ,漬物,つくだ煮,清涼飲料水,魚肉ねり製品,氷菓,乳製品など広範囲で使われている。
なお,カンゾウ抽出物からナトリウム塩として精製した甘味料(グリチルリチン酸二ナトリウム)は,番号 121 の指定添加物であるが,使用基準によりしょう油及びみそにしか使えない。
ステビア( Stevia )
ステビア抽出物( Stevia extract )
既存添加物名簿番号 169 の添加物,キク科ステビア( Stevia rebaudiana Bertoni )の葉から抽出して得られたステビオール配糖体(ステビオシド及びレバウジオシド)を主成分とする。ステビア抽出物はステビアエキスともいわれ,精製したものをステビオサイドまたはレバウディオサイドという。
ステビア末( Powdered stevia )
既存添加物名簿番号 170 の添加物,キク科ステビア( Stevia rebaudiana Bertoni)の葉を粉末としたものである。
甘味は砂糖に近く,甘さは砂糖の約 250~350倍で,ダイエット食品,清涼飲料水,菓子などに用いられる。
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酸味料とは
酸味料( acidifier , acidulant )
食品に酸味の付与,酸味の調整,味の調和のために使用される食品添加物である。
酸味料として用いられる添加物には次の物がある。
アジピン酸,イタコン酸,クエン酸,クエン酸一カリウム及びクエン酸三カリウム,グルコノデルタラクトン,グルコン酸,コハク酸,コハク酸一ナトリウム,コハク酸二ナトリウム,酢酸ナトリウム,DL-酒石酸,DL-酒石酸ナトリウム,L-酒石酸,L-酒石酸ナトリウム,二酸化炭素,乳酸,乳酸ナトリウム,氷酢酸,フィチン酸,フマル酸,フマル酸一ナトリウム,DL-リンゴ酸,リン酸
次には,食品衛生法施行規則 別表第一 指定添加物リストと既存添加物名簿に記載される主な甘味料を紹介する。
氷酢酸( Acetic Acid , Glacial )
番号 322 の指定添加物,酢酸( CH3COOH )は,食酢の酸味成分として知られる有機酸で,含有量 90 %以上の場合,室温で固体となるため,高含有量の酢酸は“氷酢酸”と呼ばれる。食品添加物の場合は,含有量 99 %以上のものを「氷酢酸」と呼んでいる。
酢酸発酵で得た発酵液から得られる酢酸を含む水溶液,すなわち「醸造酢」は,副産物を多く含み,酢酸だけを分離,抽出できないため,食品添加物としての酢酸は,化学的に合成したものになる。
酢酸の主要な用途は,合成酢と称される食酢,ソース類,マヨネーズなどの調味料食品,菓子類や漬物等での酸味・酸度の調整などに用いられている。
なお,酢酸を 30 %程度含む水溶液を「酢酸」と称し,含有量 4~5 %程度の水溶液を「食酢」と称するのが一般的である。
クエン酸( Citric Acid )
番号 108 の指定添加物,「ポン酢」として知られる柑橘類等をはじめとして多くの食品に存在する代表的な食用の有機酸がクエン酸( C(OH)(CH2COOH)2COOH )である。
食品添加物としてのクエン酸は,でんぷん類を原料として発酵法により製造され,清涼飲料水,菓子類や乳製品などの酸味・酸度( pH )の調整の他に,酸化防止剤や保存料と併用し,保存性の強化目的(補助剤)などに用いられる。
DL-酒石酸( DL-Tartaric Acid )
番号 199 の指定添加物
L-酒石酸( L-Tartaric Acid )
番号 200 の指定添加物
代表的な食品用の有機酸の 1つである酒石酸( (CH(OH)COOH)2 )は,クエン酸やリンゴ酸との併用で,清涼飲料水,キャンディー,ゼリーなどに用いられている。
酒石酸は,ブドウなどの植物に含まれ,ワイン製造時の副産物として得られる酒石(酒石酸のカリウム塩)を原料として,カルシウム塩に変えた後に分解・精製して得られたものが L-酒石酸である。
人工的に合成される DL-酒石酸も食品添加剤としてリストに挙げられているが,現在はほとんど流通していない。
乳酸( Lactic Acid )
番号 286の指定添加物,多くの動物やイネなどの植物の組織に存在する有機酸として,ヨーグルトや乳酸菌飲料などの乳の発酵物に多量に含まれる有機酸(乳酸: CH3CH(OH)COOH )として知られる。
食品添加物としての乳酸は,発酵法を経由して合成・精製する方法,アルデヒド類から化学的に合成する方法により得られる。
発酵法では,使用する菌により L-体,D-体,DL-体の乳酸が,化学的合成法では DL-体が作られる。
やわらかいコク味とわずかな渋味が特徴で,清涼飲料水,漬物,酒類,氷菓などに用いられる。
コハク酸( Succinic Acid )
番号 143 の指定添加物,貝類のうま味成分の酸としてよく知られている有機酸がコハク酸( HOOC–(CH2)2–COOH )である。食品添加物のコハク酸は,マレイン酸などを原料に合成されたものである。
独特の酸味とうま味を有し,合成酒(清酒),味噌,醤油などの味調整に使われるが,酸味料より酸味を持つ調味料としての利用が多い。
DL-リンゴ酸( DL-Malic Acid )
番号 436 の指定添加物,リンゴを初めとする果実類,動植物に広く存在する有機酸の一つがリンゴ酸( HOOC-CH(OH)-CH2-COOH )である。
食品添加物のリンゴ酸は,マレイン酸を原料に合成されたもので,リンゴ加工食品の他に,清涼飲料,あめ菓子,マーガリン,マヨネーズ等の酸味・酸度の調整目的で用いられる。
天然系の L-リンゴ酸は,発酵法などで作れるが,既存添加物名簿に収載されていないため,食品添加物としては使用できない。
天然物から得られる既存添加物として,イタコン酸,フィチン酸が用いられている。
イタコン酸( Itaconic acid )
既存添加物名簿番号 29 の添加物,メチレンコハク酸ともいわれ,麹菌( Aspergillus terreus )による殿粉,又は粗糖発酵培養液より分離して得られたイタコン酸( 2-メチレンブタン二酸)が添加物として利用される。
フィチン酸( Phytic acid )
既存添加物名簿番号 261 の添加物,イネ科イネ( Oryza sativa Linne )の種子より得られた米ぬか,又はイネ科トウモロコシ( Zea mays Linne )の種子より,水又は酸性水溶液で抽出・精製して得たフィチン酸( (1R,2R,3S,4S,5R,6S)-cyclohexane-1,2,3,4,5,6-hexayl hexakis[dihydrogen (phosphate)] )が用いられる。
主成分はイノシトールヘキサリン酸である。 酸味料の他に,製造用剤としても用いられる。
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苦味料とは
ビール,茶,コーヒーなど,苦味も重要な味の要素である。
苦味料として用いられる主な物を次に紹介する。
カフェイン(抽出物)( Caffeine (extract) )
既存添加物名簿番号 60 の添加物,アカネ科コーヒー( Coffea arabica Linne )の種子(コーヒー豆)又はツバキ科チャ( Camellia sinensis O.KZE.)の葉より,水又は二酸化炭素で抽出・分離・精製して得られる。抽出物の主成分はカフェイン( 1,3,7-トリメチルプリン-2,6-ジオン )である。
カフェイン抽出物は,コーラ,ドリンク,チューインガムなどに用いられる。
ナリンジン( Naringin )
既存添加物名簿番号 234 の添加物,ナリンギン( 4',5-ジヒドロキシ-7-[(2-O-α-L-ラムノピラノシル-β-D-グルコピラノシル)オキシ]フラバン-4-オン )ともいい,グレープフルーツの果皮,果汁又は種子から水,又はエタノール,若しくはメタノールで抽出・分離して得られる。
清涼飲料水,チューインガムなどに用いられている。
ニガヨモギ抽出物( Absinth extract )
既存添加物名簿番号 236 の添加物,キク科ニガヨモギ( Artemisia absinthium Linne )の全草から,水,又はエタノールで抽出して得られたもので,主成分はセスキテルペン( 3つのイソプレンから構成され,C15H24 のテルペン)である。
清涼飲料水,酒精飲料などに用いられている。
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香料とは
香料( flavor )
食品に香りと味の一部を付与する食品添加物で,香気成分は微量でその種類が多い。
食品の香りを再現するためには多数の香料が必要になり,天然物から抽出された天然香料,化学的に合成された合成香料を調合したものが香料ベースとして用いられる。
香料ベースは,使用対象に応じて,水溶性香料製剤,油性香料製剤,乳化香料製剤,粉末香料製剤の 4 つの形態がある。
天然香料
植物原料や動物原料から抽出して得られた成分として,食品衛生法第 4 条第 3 項に規定する天然香料「天然香料基原物質リスト」には 612 品目収載されている。
他に,一般に食品として飲食に供されるものを香料として使用する場合もある。
合成香料
アセト酢酸エチル,アセトフェノン,アニスアルデヒドなど食品衛生法施行規則 別表第一 指定添加物リストに収載されている物質も香りの付与目的で使用される。
指定添加物リストには,香料に関連する「類又は誘導体として指定されている18項目の香料」(いわゆる18類)が記載され,許可されている物質は 3000 を超え,食品の持つ香気と同じものを作り出すため多数の物質を組み合わせた調合品が使用されている。
香料 18類とは,「着香の目的に限る」と定められた,次の「類及びその誘導体」である。
イソチオシアネート類(指定添加物番号 52 )
インドール及びその誘導体(指定添加物番号 62 )
エステル類(指定添加物番号 66 )
エーテル類(指定添加物番号77 )
ケトン類(指定添加物番号140 )
脂肪酸類(指定添加物番号189 )
脂肪族高級アルコール類(指定添加物番号 190 )
脂肪族高級アルデヒド類(指定添加物番号 191)
脂肪族高級炭化水素類(指定添加物番号 192 )
チオエーテル類(指定添加物番号 251 )
チオール類(指定添加物番号 252 )
テルペン系炭化水素類(指定添加物番号 262 )
フェノールエーテル類(指定添加物番号 341 )
フェノール類(指定添加物番号 342 )
フルフラール及びその誘導体(指定添加物番号 351 )
芳香族アルコール類(指定添加物番号 372 )
芳香族アルデヒド類(指定添加物番号 372 )
ラクトン類(指定添加物番号 417 )
個々の物質については,厚生労働省 25年度その他の監視指導に関する通知の食安基発0725第2号・食安監発0725第2号「類又は誘導体として指定されている18 項目の香料に関するリストについて」(平成25年7月25日)が参考になる。
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