第五部:有機化学の基礎 芳香族炭化水素

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  ここでは,芳香族化合物に関連し, 【芳香族化合物とは】, 【芳香族炭化水素の用途と特徴】, 【芳香族炭化水素の分類】, 【複素芳香族化合物について】 に項目を分けて紹介する。

  芳香族化合物とは

 芳香族化合物( aromatic compounds )
 有機化合物の分子構造による分類の一つで,脂肪族化合物に対する有機化合物で,「芳香族性」を有する化合物と定義されている。

 芳香族化合物は,過去には芳香(良いにおい,香り)性を有する化合物を称していたが,現在は次に紹介する「芳香族性」を有する化合物と定義されている。
 芳香族化合物の特徴として,他の不飽和環構造に比べ安定であると同時に,例えば,ベンゼンに対して臭素( Br2 )は置換反応を起こすが,アルケンなどの非芳香族不飽和化合物での付加反応は起こらないなど,反応性も異なることが挙げられる。

 芳香族性( aromatic )
 環状不飽和化合物の中で,分子が平面の環状共役系で,全部で 4n+2 ( n = 0, 1, 2, 3, ...) 個のπ電子を持つ(ヒュッケル( hückel )の 4n+2 則という)場合のみをいう。
 4n 個のπ電子を持つ平面共役分子(例えばシクロブタジエン)は,非局在化すると不安定化するので,芳香族とはいわず反芳香族( antiaromatic )といわれる。例えば,シクロオクタテトラエンは,8 員環で 4 つの二重結合を持つが,8 個のπ電子が環内で共役しておらず,平面ではなく桶型の構造をもつため反芳香族に分類される。
 なお,π電子系は C=C 二重結合由来のπ電子だけに限定されず,ベンゼン環( 6 員環)である必要もない。実際に,5 員環の芳香族化合物も数多く知られている。

 芳香族化合物は,炭化水素のみで構成された芳香族炭化水素( aromatic hydrocarbon ),環構造にヘテロ原子を含む複素芳香族化合物( heteroaromatic compound )に分けられる。
 なお,ヘテロ原子( hetero atom )とは,有機化学の分野で,炭素と水素以外の原子の総称をいう。

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  芳香族炭化水素の用途と特徴

 主な用途
 芳香族炭化水素は,他の化学物質を製造するための材料として広く利用されている。用途の大部分は,プラスチック,ゴム,樹脂,接着剤,潤滑剤などの化成品,医薬品,爆薬などの製造に用いる原料として利用されている。
 芳香族炭化水素の代表例であるベンゼン,トルエン,キシレン類の用途には次の物がある。
 ベンゼンの主な誘導品であるスチレンモノマー,フェノールは樹脂の原料として,ナイロンの原料にはシクロヘキサンが,合成洗剤原料のアルキルベンゼン等がある。
 トルエンの主な用途に,溶剤用途,ガソリンのオクタン価基材,ベンゼンやキシレンの原料がある。
 キシレンは,溶剤用途,パラキシレンは合成繊維(ポリエステル)の原料に用いられる。

 一般的な特徴
 芳香族炭化水素( aromatic hydrocarbon )は,アレーン( arene )ともいわれ,一重結合と二重結合が交互に並び,電子が非局在化( sp2混成軌道 )し平面に配置される 6 つの炭素原子から成る単環(ベンゼン環あるいは複数の平面環(縮合環で構成される炭化水素である。

 最も構造が単純な芳香族炭化水素ベンゼン( C6H6であり,ベンゼン環として知られている 6 つの炭素からなる環状化合物である。
 芳香族炭化水素の一般的な特徴は,閉じた共役系を持つ,炭素は sp2 混成軌道から成る平面構造,炭素に対する水素の比が低い,脂肪族炭化水素のように求核置換反応を受けず,親電子置換反応を受ける。

 芳香族炭化水素の基礎となる単環,すなわちベンゼン( C6H6 : benzene )の表記に用いられる構造式や略記号は,下図に示すように,時代や文献により複数みられる。

ベンゼン( C<sub>6</sub>H<ub>6</sub> : benzene )の表記法と構造

ベンゼン( C6H6 : benzene )の表記法と構造

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  芳香族炭化水素の分類

 芳香族炭化水素は,ベンゼン環に置換基が一つの一置換化合物,置換基が二つの二置換化合物,複数のベンゼン環が結合している芳香族多環化合物,ベンゼン環の1辺を共有した構造を持つ縮合環化合物(ヘテロ原子や置換基を含まないものを多環芳香族炭化水素という)に分けられる。

 芳香族炭化水素が置換基となった場合はアリール基( aryl group )といい略記号 Ar – で表される。アリール基には,フェニル基( phenyl group : Ph – ),ナフチル基( naphthyl group : Np – )などがある。

 一置換化合物の例
 代表的な一置換化合物には,トルエン( toluene : C6H5CH3 ),フェノール( phenol : C6H5OH ),安息香酸( benzoic acid :C6H5COOH )などがある。
 二置換化合物の例
 二置換化合物では,置換基の位置の違いによる 3 種の構造異性体ができる。
 1 位と 2 位につく場合をオルト( ortho- , o- ),1 位と 3 位につく場合をメタ( meta- , m- ),1 位と 4 位につく場合をパラ( para- , p- )とする。
 代表的な二置換化合物には,キシレン( xylene : C6H5(CH3)2 ),クレゾール( cresol : C6H5(OH)CH3 ),フタル酸( phthalic acid :C6H5(COOH)2 )などがある。
 芳香族多環化合物の例
 代表的な芳香族多環化合物には,ビフェニル( biphenyl : (C6H5)2 ),ベンゾフェノン( benzophenone : (C6H5)2CO ),トリフェニルメタン( triphenylmethane : (C6H5)3CH )などがある。
 縮合環化合物(多環芳香族炭化水素)の例
 代表的な縮合環化合物には,ナフタレン(ナフタリン,naphthalene :C10H8 ),ベンゼン環 3 つが連続するアントラセン( anthracene :C14H10 ),アントラセンの異性体で,くの字に折れ曲がったフェナントレン( phenanthrene :C14H10 )などがある。

芳香族炭化水素の例

芳香族炭化水素の例

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  複素芳香族化合物について

 複素芳香族化合物( heteroaromatic compound )
 2種類以上の元素により構成される複素環式化合物の中で芳香族性のあるものをいい,環の大きさ,縮合状態,複素元素や電荷の存在などベンゼンとは異なる構造を有するものが多数存在する。
 例えば,窒素を含む 6 員環のピリジン( C5H5N ),5 員環のピロール( 1H –ピロール : C4H5N ),酸素を含む 5 員環のフラン( 1 –オキサ– 2,4 –シクロペンタジエン: C4H4O ),ベンゼン環( C6H6 )とピロール環( C4H5N )が縮合したインドール( C8H7N )などが例として挙げられる。

複素芳香族化合物の例

複素芳香族化合物の例

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