第五部:有機化学の基礎 有機化学とは

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  ここでは,有機化合物の一般的な分類に従い, 【分子の構造による分類】,  【芳香族化合物の特徴】, 【脂肪族化合物の特徴】 に項目を分けて紹介する。

  分子の構造による分類

 化合物の構造の違いによる分類は,母体化合物(母体,母体構造,母核や親化合物などともいう)の構造の違い,すなわち鎖状か環状か,多重結合の有無,環状不飽和構造(芳香環)の有無,枝分かれの状態などで分類される。
 これらの違いは,【化学結合の表記】で紹介した分子構造を反映した示性式又は構造式で示すと違いが分かりやすい。
 また,構造の違いは,化合物の名称にも反映される。これについては,【有機化合物の命名法】で紹介する。
 次には,基本となる母体化合物の結合形状の違いによる分類を紹介する。

 鎖状,環状による分類
 鎖式化合物( open chain compound )
 炭素-炭素の結合が鎖状につながる化合物で,非環式化合物( acyclic compound )とも言われる。
 環式化合物( cyclic compound )
 結合が環状につながる化合物で,環式化合物は,環状の結合が単一の元素(有機化合物では炭素のみ)によって構成される単素環式化合物( homocyclic compound ),2種類以上の元素(例えば炭素と酸素など)で構成される複素環式化合物( heterocyclic compound )に分けられ,有機化合物で,炭素以外の元素をヘテロ原子といい,環構造にヘテロ原子を含む化合物をヘテロ環式化合物ともいう。

 環状不飽和構造の有無による分類
 芳香族化合物( aromatic compounds )
 ベンゼン環に代表される環状不飽和構造芳香族性)を持つ化合物。なお,環状不飽和構造は,芳香環( aromatic ring )ともいわれる。
 脂肪族化合物( aliphatic compounds )
 環状不飽和構造を持たない非芳香族性の化合物

 【参考】
 示性式( rational formula )
 構造が単純で構造的な紛らわしさが無い場合には,官能基などの結合関係を示す示性式で表現される。化学反応の表記には,示性式を用いる場合が多い。


組成式,分子式,組成式の表記例
  化合物名    組成式    分子式    示性式 
  エタン    CH3    C2H6     CH3CH3  
  エタノール    C2H6   C2H6    CH3CH2OH 
  プロパノール    C3H8   C3H8   CH3CH2CH2OH (1-プロパノール) 
  CH3CH(OH)CH3 (2-プロパノール) 

 構造式( structure formula )
 構造式の結合状態の表記には,共有電子対を価標( bond :線の数で単結合,二重結合,三重結合を表現する)で表示するものと,共有電子対をコロン(単結合 : ,二重結合 :: ,三重結合 ::: )で表示するものがある。
 後述するように,価標で表示する構造式が一般的で,コロンで表示する場合は,電子式(ルイス構造式)といい,ラジカル反応などの化学反応での電子のやり取りなどを特に示したい場合などに用いられている。

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  芳香族化合物の特徴

 歴史的には,ベンゼン環は,アロマオイルなどの芳香(かぐわしい香り)をもつ化合物の共通構造であったことからベンゼン環を有する化合物を「芳香族」と呼ぶようになった。
 その後,数多くの化合物が合成され,現在知られる化合物には,必ずしも芳香を示さない物も多い。すなわち,芳香は,芳香族化合物の特性とはならない。
 現在は,芳香族性を持つ化合物を芳香族化合物と定義している。芳香族化合物は,環構造が炭化のみで構成される芳香族炭化水素( aromatic hydrocarbon )と環構造に炭素以外の元素を含む複素芳香族化合物( heteroaromatic compound )に分けられる。

 芳香族炭化水素( aromatic hydrocarbon )
 芳香族炭化水素は,アレーン( arene )ともいわれ,一重結合と二重結合が交互に並び,電子が非局在化( sp2混成軌道 )し平面に配置される 6 つの炭素原子から成る単環ベンゼン環あるいは複数の平面環縮合環で構成される炭化水素である。
 芳香環の表記法(構造式や略記号)を最も簡単な構造のベンゼン( C6H6 : benzene )で示すと,下図に示すように,時代や文献により異なる。最近は,記述の容易な右端の略記号を用いる例が多い。

ベンゼン( C<sub>6</sub>H<sub>6</sub> : benzene )の表記法

ベンゼン( C6H6 : benzene )の表記法

 芳香族炭化水素は,ベンゼン環に置換基が一つの一置換化合物,置換基が二つの二置換化合物,複数のベンゼン環が結合している芳香族多環化合物,ベンゼン環の1辺を共有した構造を持つ縮合環化合物(ヘテロ原子や置換基を含まないものを多環芳香族炭化水素という)に分けられる。
 参考有機化学の分野で,炭素と水素以外の原子の総称をヘテロ原子( hetero atom )という。

芳香族化合物の分類例

芳香族化合物の分類例


 複素芳香族化合物( heteroaromatic compound )
 複素芳香族化合物とは,2種類以上の元素により構成される複素環式化合物の中で芳香族性のある化合物をいう。環の大きさ,縮合状態,複素元素や電荷の存在などベンゼンとは異なる構造を有するものが多数存在する。

 【参考】
 芳香族性( aromatic )
 環状不飽和化合物の中で,分子が平面の環状共役系で,全部で 4n+2 ( n = 0, 1, 2, 3, ...) 個のπ電子を持つ(ヒュッケルの 4n+2則)場合のみをいう。

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  脂肪族化合物の特徴

 脂肪族化合物とは
 非芳香族性の鎖式(非環式)又は環式の炭素化合物である。従って,脂肪族化合物は芳香族化合物の対義語となる。
 脂肪族の骨格に部分的にでも芳香族性のある基が結合した構造を持つ化合物は,脂肪族化合物ではなく芳香族化合物に分類される。

 脂肪族化合物が炭素と水素のみで構成されている場合は,別途に脂肪族炭化水素( aliphatic hydrocarbon )ともいわれる。
 脂肪族炭化水素の水素をヒドロキシ基( – OH ),アルデヒド基( – CHO ),カルボキシ基( – COOH ),アミノ基( – NH2 )などのヘテロ原子を含む官能基で置換した化合物は脂肪族炭化水素とはいわず,脂肪族化合物という。

 脂肪族化合物の分類
 脂肪族化合物は,多重結合の有無により飽和と不飽和に,形状により鎖状と環状に分けられる。
 多重結合の有無による分類
 飽和脂肪族化合物
 炭素-炭素間の結合がすべて単結合の脂肪族化合物を飽和脂肪族化合物といい,炭素と水素のみで構成される鎖式の飽和脂肪族炭化水素アルカン( alkane :鎖式飽和炭化水素)ともいわれる,

 不飽和脂肪族化合物
 分子内に炭素-炭素間の二重結合や三重結合をもつものを不飽和脂肪族化合物という。炭素と水素のみで構成される鎖式の不飽和脂肪族炭化水素(鎖式不飽和炭化水素)の中で,分子内に二重結合を一つもつものをアルケン( alkene )といい,三重結合を一つもつものをアルキン( alkyne )という。

脂肪族化合物の構造分類例

脂肪族化合物の構造分類例

 アルカン( alkane )
 一般式 CnH2n+2 で表される鎖式飽和炭化水素で,メタン系炭化水素,パラフィン系炭化水素や脂肪族化合物などとも呼ばれる。なお,パラフィン( paraffin )といった場合は,炭素原子の数が 20以上のアルカンを指すのが一般的である。
 アルカンの炭素原子数が 4以上では,炭素鎖の枝分れが可能となる。炭素鎖の構造が違う分子を構造異性体( structural isomer )という。構造異性体のうち直線状のものをノルマル系( n- )といい,側鎖のあるものをイソ系( iso- )という。
 環状の構造を持つ飽和炭化水素(飽和環状化合物)は,アルカンとは区別されシクロアルカン( cycloalkane )という。

 アルケン( alkene )
 一般式 CnH2n で表される鎖式不飽和炭化水素で,エチレン系炭化水素,オレフィン( olefin ),オレフィン系炭化水素とも呼ばれる。アルケンのπ結合の結合エネルギーが C – H 結合エネルギーより小さいため,付加反応が起こりやすい。
 環状の構造のアルケンをシクロアルケン( cycloalkene )という。

 アルキン( alkyne )
 一般式 CnH2n−2 で表される鎖式不飽和炭化水素で,アセチレン系炭化水素とも呼ばれる。広義には分子内に非環式および環式の炭素-炭素三重結合を持つ化合物全般を指す。

 【参考}
 誘導体( derivative )
 有機化学においては,分子内の原子または基が他の原子または基で置き換えられて生じた化合物をいう。なお,母体の構造や性質は大幅には変わらない。
 同族体( homologue ,homolog )
 有機化学においては,分子の一般式が R - (CH2)n - X ( R ,X は官能基)で表せ,CH2 の数 n が異なる誘導体を同族体という。

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