第五部:有機化学の基礎 身近のプラスティック

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  ここでは,生活に実用される有機材料に関連し, 【高分子材料とは】, 【高分子材料の実用上の分類】, 【有機材料の実用的な分類例】 に項目を分けて紹介する。

  高分子材料とは

 材料とは
 広辞苑では,材料( material , ingredient )
 “ 加工して製品にするもとの物。原料。研究や調査のために取り扱う資料。また,芸術的表現の題材。判断のもととなるもの。(取引用語)相場を上下させる要因。”
と解説している。
 ここでは,の意味の“加工して製品にする,もとの物。原料”である材料を扱う。なお,原料( raw material )とは,“製造・加工のもとになる材料。製品になった時,もとの形が残っていない物をいうことが多い。”と解説している。また,原料と材料を組み合わせた言葉,原材料( ingredient )については“生産の資材になるもの。もととなる材料。”と解説している。

 高分子化合物( high polymer )とは
 分子量が概ね 10 000 を超える化合物をいう。化合物の骨格(主鎖)は,多数の原子を共有結合で連結できる能力をもった元素により構成される。高分子化合物を研究対象とする学問分野を高分子化学( polymer chemistry )という。
 この能力を持つ元素は,炭素( C ),けい素( Si ),酸素( O )に限られる。このため,高分子化合物は,炭素の結合による有機高分子化合物,炭素以外の元素(けい素と酸素)の結合による無機高分子化合物に大別される。

 有機高分子化合物
 出所により自然界から得られる天然高分子,人為的に作られた合成高分子に分けられる。
 天然高分子
 動植物などの生命活動に由来するため生体高分子ともいわれ,タンパク質,核酸,脂質,セルロース,デンプンなどの多糖類,天然ゴムなどがある。
 合成高分子
 石油化学工業の発展により,多種多様の化合物が開発されている。体表的なものに,ポリ塩化ビニル,ポリエチレン,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂などの合成樹脂(プラスチック),ナイロン,ビニロン,ポリエステル,ポリエチレンテレフタラートなどの合成樹脂,塩化ゴム,ニトリルゴムなどの合成ゴムなどがある。
 無機高分子化合物
 出所により二酸化ケイ素(水晶や石英),雲母,長石,石綿など鉱物として産出される天然高分子とガラスや合成ルビーなど人為的に得られる合成高分子に分けられる。
 また,有機高分子化合物と無機高分子化合物の中間的な化合物として,シリコーンゴム,シリコーンオイルなどと呼ばれるけい素樹脂(シリコーン)が挙げられる。

 高分子材料とは
 一般的に高分子材料という場合は,ガラスやセラミックスなどの無機高分子化合物を意味する例が少なく,ニュアンス的には,人間の経済活動で利用される材料又は原材料としての有機高分子化合物の意味合いが強い。
 ちなみに,【参考】に示すように,会員数 10 000 を超える(公益社団法人)高分子学会研究会活動を見ると,有機高分子化合物に関する物が大勢を占め,無機高分子化合物に関する研究会は少ない。
 従って,本サイトで単に高分子材料と表現した場合には,有機高分子化合物を意味する。

 【参考】
 高分子学会における研究会一覧
 医用高分子研究会(医用デバイス,人工臓器,再生医療など)
 印刷・情報記録・表示研究会(液晶,有機EL,インクジェット,3Dプリンティングなど)
 エコマテリアル研究会(バイオマス,生分解性評価,環境浄化などの機能性材料など)
 NMR研究会(新規NMR測定技術,高分子の構造・ダイナミクス解析技術など)
 グリーンケミストリー研究会(廃棄高分子を資源とする資源循環システムなど)
 高分子基礎物性研究会(分子構造,会合・凝集構造,物性・機能との相関など)
 高分子ゲル研究会(ゲルの特性解析,構造解析,細胞培養材料,高強度ゲル材料など)
 高分子と水・分離に関する研究会(水構造,高分子材料の性能に関わる水との相互作用など)
 高分子ナノテクノロジー研究会(高分子に関わるナノテクノロジー)
 高分子表面研究会(複合材料の性能に影響する表面ナノメーター領域の官能基組成など)
 精密ネットワークポリマー研究会(3次元網目構造の合成・制御の精密化,材料設計,構造解析など)
 接着と塗装研究会(流動性から固体への変化による新たな界面層の構築)
 超分子研究会(多数の分子が集合・複合化した状態)
 水素・燃料電池材料研究会(水素の変換・貯蔵のための材料,燃料電池用触媒や膜電極接合体など)
 バイオ・高分子研究会(タンパク質,ペプチド,核酸,多糖などの生体高分子の性質や機能)
 バイオミメティクス研究会(生物の構造や機能などの生物模倣技術)
 光反応・電子用材料研究会(レジスト材料,感光性材料,光機能材料,電子機能材料など)
 フォトニクスポリマー研究会(屈折率,透明,分散などのフォトニクス機能を持つポリマー)
 プラスチックフィルム研究会(包装,光学,エレクトロニクス,エネルギー関連などを用途にしたフィルム)
 無機高分子研究会(無機元素や無機成分を含むポリマー,有機-無機ハイブリッド材料,無機ナノ粒子,セラミックス等)
 有機エレクトロニクス研究会(蛍光・リン光材料,低バンドギャップ高分子材料などの有機デバイス)
 過去には,高分子エレクトロニクス研究会,有機EL研究会,高分子の崩壊と安定化研究会,繊維材料研究会,反応工学研究会,高分子材料と加工研究会,土木建築材料研究会があった。

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  高分子材料の実用上の分類

 一般的な用途で実用例の多い高分子材料には,プラスチック類,ゴム類,繊維(染料),塗料,接着剤などが挙げられる。

 プラスチック( plastics )
 構造材,容器や袋として熱可塑性樹脂熱硬化性樹脂が多数実用されている。
 実用される主な熱可塑性樹脂としては,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリ酢酸ビニル,メタクリル樹脂,ふっ素樹脂,ポリエチレンテレフタラートなどが挙げられる。
 熱硬化性樹脂には,アルキド樹脂,ポリウレタン樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,シリコーン,イオン交換樹脂などが挙げられる。

 繊維強化ブラスチック( fibre reinforced plastic )
 プラスチックと強化材の複合材料の一種で,強化材に無機繊維や有機繊維を用い,FRP と称され,金属に代わる軽量構造用材料として広く実用されている。
 代表的なものにガラス繊維強化プラスチック( GFRP ),炭素繊維強化プラスチック( CFRP )などがある。

 繊維( fibre , fiber )
 衣類を中心に,シート,ロープなどに実用される木綿,麻,羊毛,絹,レーヨン,アセテート,ナイロン,ポリエステル,アクリル,ビニロン,ポリアミドなど多種多様の材料がある。

 合成ゴム( synthetic rubber )
 弾性の高い固体として,結束バンド,制振材,シール材として実用される天然ゴム,ブタジエンゴム,イソプレンゴム,ブタジエンゴム,クロロプレンゴム,スチレン‐ブタジエンゴム,アクリロニトリル‐ブタジエンゴム,ふっ素ゴムなどの合成ゴムがある。

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  有機材料の実用的な分類例

 有機材料とは,一般には高分子有機材料も含む概念であるが,単に有機材料といった場合には,高分子材料の原材料や実用的な分類での界面活性剤(洗剤,化粧品,表面処理剤など),食品添加物,顔料(染料),農薬,医薬品などが挙げられる。

 界面活性剤(洗剤など)
 【界面活性剤とは】で紹介したように,分子内に親水基と疎水基を持つ有機化合物で,液 /液界面,液 /固界面,気 /液界面に吸着することで界面自由エネルギーを低下させることができ,ミセルの形成(コロイド化)による分散性向上などの特性を利用した用途に利用されている。
 具体的には,衣類や食器の洗浄剤,化粧品,食品乳化剤,表面処理剤(帯電防止剤,撥水剤,潤滑剤,防錆剤など)として利用されている。
 界面活性剤は,特性基の違いで,陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤),陽イオン界面活性剤(カチオン界面活性剤),両性界面活性剤(双性界面活性剤),非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)に分けられる。

 食品添加物( food additives )
 食品添加物とは,食品製造の際に,製造や加工の必要性,風味・外観の向上,保存性の向上,栄養成分など品質強化などを目的とし,食品衛生法で使用の認められる無機化合物,有機化合物である。
 食品添加物の主ものには,パンのイーストの活動を活性化する無機塩,チューイングガムに用いられる合成樹脂,香料(天然,合成),酸味料(有機酸),調味料(無機塩,天然,合成),豆腐用凝固剤(カルシウム塩,マグネシウム塩,グルコノデルタラクトン),乳化剤(脂肪酸エステルなどの界面活性剤),かんすい(アルカリ塩水溶液),pH調整剤(有機酸,無機塩など),酵素,膨張剤(イースト,炭酸塩など),苦味料(香辛料抽出物,カフェインなど),光沢剤(シェラックなどの樹脂や蜜蝋などのワックス),軟化剤(チューインガムなどに用いるグリセリンなど)などがある。

 顔料( pigment ),染料( dye )
 顔料は着色に用いる粉末で水や油に不溶のものの総称で,水や油に溶けるものは染料と呼ばれる。
 顔料や染料は,塗料,インク,合成樹脂,織物,化粧品,食品などの着色に使われ,無機,有機に分けられ,有機顔料や染料は,天然から抽出された化合物と合成された化合物に分けられる。
 天然から抽出された化合物は高価なため草木染など特殊用途に限られ,ほとんどの用途では合成化合物が用いられている。

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