第五部:有機化学の基礎 食品添加物

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  ここでは,着色料として用いられる食品添加物に関連し, 【食品添加物の用途別分類】, 【着色料とは】, 【タール系色素とは】, 【食用タール系色素】, 【クロロフィル系の色素】, 【カラメル色素】, 【カロテノイド】, 【その他の色素】 に項目を分けて紹介する。

  食品添加物の用途別分類

 東京都福祉保健局:食品衛生の窓>たべもの安全情報館>食品添加物の解説では,
 食品添加物を用途別の「甘味料」,「着色料」,「保存料」,「増粘剤安定剤;ゲル化剤(糊料)」,「酸化防止剤」,「発色剤」,「漂白剤」,「防かび剤又は防ばい剤」,「乳化剤」,「膨脹剤」,「調味料」,「酸味料」,「苦味料」,「光沢剤」,「ガムベース」,「栄養強化剤」,「製造用剤等」,「香料」に分けて主な添加物を紹介している。
 
 ここでは,赤字で示した「着色料」を東京都福祉保健局の紹介記事,(公財)日本食品化学研究振興財団で提供する“厚生労働省行政情報”などを参考に紹介する。

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  着色料とは

 着色料( coloring )
 食品の色調を人為的に調整するために用いられる添加物を着色料という。
 着色料の中で,タール系色素は鮮明な色を出し,退色しにくいという優れた特徴を持ち,代表的な添加物である。
 日本では,より自然に近い色を好む傾向があり,紅花の赤色,クチナシの実の黄色,ヨモギの葉の緑色など天然の着色料も広く使用されている。
 着色料は,鮮魚介類,食肉,野菜類などの生鮮食品等での使用が禁じられている。この理由は,生鮮食品等に着色料を使用することで,品質,鮮度等に関する消費者の判断を誤らせる恐れがあるためである。

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  タール系色素とは

 タール色素の名称は,コールタールから得られた芳香族化合物(ベンゼン,ナフタレン,フェノール,アニリンなど)を原料として製造された合成染料(アゾ染料に対し与えられた。
 現在は,原料となる芳香族化合物は,石油精製時に得られるナフサなどから得られる石油製品で,コールタールを原料とすることなくなったが,名称はそのまま残っている。
 また,芳香族化合物を原料とするアゾ化合物以外の色素に対しても用いられ,一般的には合成着色料と分類されるが,分野によってはタール系色素として分類されてもいる。
 食品衛生法施行規則において「○色○号」と呼ばれる 12 種類の食品添加物に利用される法定色素は,「食用タール系色素と命名されている。

 アゾ染料( azo dyes )
 発色団にアゾ基( –N=N– )を有する天然には存在しない染料である。芳香族第一級アミン( Ar–NH2を塩酸( HCl )と亜硝酸ナトリウム( NaNO2 )によりジアゾ化(例えば Ar=N=N ⇆ Ar–N≡N )し,フェノール類や芳香族アミン類とのカップリング反応で比較的容易に合成できる。

 カップリング反応( coupling reaction )とは,2つの化学物質を選択的に結合させる反応を指し,この場合は,芳香族求電子置換反応でありジアゾカップリングといわれる。ジアゾ成分とカップリング成分の組合せを変えることで多種類の染料を合成することができる。

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  食用タール系色素

 タール色素は,染料あるいは合成着色料の一種で,医薬品,化粧品,衣服,食品の着色料として広く使用されている。この中で,食品の添加物として使用が認められている 12 種の色素を食用タール系色素という。
 食用タール系色素は,菓子,漬物,魚介加工品,畜産加工品などに用いられているが,使用基準が定められており,次の食品への使用は禁止されている。
 カステラ,きなこ(うぐいす粉を除く),魚肉漬物,鯨肉漬物,こんぶ類,しょう油,食肉,食肉漬物,スポンジケーキ,鮮魚介類(鯨肉を含む),茶,のり類,マーマレード,豆類,みそ,めん類(ワンタンを含む),野菜,わかめ類

 食品衛生法施行規則 別表第一の番号順に食用タール系色素を次に紹介する。
 赤色
 食用赤色2号
 既存添加物番号 207 ,赤色,別名(アマランス:Amaranth ),化合物の IUPAC 名:trisodium (4E)-3-oxo-4-[(4- sulfonato-1- naphthyl)hydrazono]naphthalene- 2,7-disulfonate
 食用赤色3号
 既存添加物番号 208 ,赤色,別名(エリスロシン:Erythrosine ),化合物の IUPAC 名:2-(6-Hydroxy-2,4,5,7-tetraiodo-3-oxo-xanthen-9-yl)benzoic acid
 食用赤色40号
 既存添加物番号 209 ,赤色,別名(アルラレッドAC:Allura Red AC ),化合物の IUPAC 名:disodium 6-hydroxy-5-[(2-methoxy-5-methyl-4-sulfophenyl)azo]-2-naphthalenesulfonate
 食用赤色102号
 既存添加物番号 210 ,赤色,別名(ニユーコクシン:New Coccine ),化合物の IUPAC 名:trisodium (8Z)-7-oxo-8-[(4-sulfonatonaphthalen-1-yl)hydrazinylidene]naphthalene-1,3-disulfonate
 食用赤色105号
 既存添加物番号 212 ,赤色,別名(ローズベンガル:Rose Bengale ),化合物の IUPAC 名:4,5,6,7-tetrachloro-3',6'-dihydroxy-2',4',5',7'-tetraiodo-3H- spiro[isobenzofuran-1,9'-xanthen]-3-one
 食用赤色106号
 既存添加物番号 213 ,赤色,別名(アシッドレッド:Acid Red ),化合物の IUPAC 名:sodium 4-(2-hydroxy-1-naphthalenylazo)-naphthalenesulfonate
 桃色,黄色,橙色
 食用赤色104号
 既存添加物番号 211 ,桃色,別名(フロキシン:Phloxine ),化合物の IUPAC 名:disodium 2',4',5',7'-tetrabromo-4,5,6,7-tetrachloro-3-oxospiro[2-benzofuran-1,9'-xanthene]-3',6'-diolate
 食用黄色4号
 既存添加物番号 214 ,黄色,別名(タートラジン:Tartrazine ),化合物の IUPAC 名:trisodium (4E)-5-oxo-1-(4-sulfonatophenyl)-4-[(4-sulfonatophenyl)hydrazono]-3-pyrazolecarboxylate
 食用黄色5号
 既存添加物番号 215 ,橙色,別名(サンセットイエローFCF:Sunset Yellow FCF ),化合物の IUPAC 名:disodium 6-hydroxy-5-[(4-sulfophenyl)azo]-2-naphthalenesulfonate
 緑色,青色
 食用緑色3号
 既存添加物番号 216 ,緑色,別名(ファストグリーンFCF:Fast Green FCF ),化合物の IUPAC 名:disodium2-[[4-[ethyl-[(3-sulfonatophenyl)methyl]amino]phenyl]-[4-[ethyl-[(3- sulfonatophenyl)methyl]azaniumylidene]cyclohexa-2,5-dien-1-ylidene]methyl]-5-hydroxybenzenesulfonate
 食用青色1号
 既存添加物番号 217 ,青色,別名(ブリリアントプルーFCF:Brilliant Blue FCF ),化合物の IUPAC 名:ethyl - [4 - [ [4 - [ethyl -[(3 - sulfophenyl) methyl] amino] phenyl] - (2 - sulfophenyl) methylidene] - 1 - cyclohexa - 2, 5 - dienylidene] - [(3 - sulfophenyl) methyl] azanium
 食用青色2号
 既存添加物番号 218 ,青紫色,別名(インジゴカルミン:Indigo Carmine ),化合物の IUPAC 名:3,3'-dioxo-2,2'-bis-indolyden-5,5'-disulfonic acid disodium salt

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  クロロフィル系の色素

 クロロフィル( Chlorophyll )
 既存添加物名簿番号 117 の添加物,葉緑素などともいわれ,クロレラ,ホウレンソウ,コンフリー,スピルリナなどの色素成分を多く含む緑色植物からエタノールなどで抽出して得られる緑色の色素である。
 クロロフィルは,4つのピロールが環を巻いた構造で,中心にマグネシウムイオン( Mg2+ )を抱えたテトラピロールに,フィトールと呼ばれる長鎖アルコールがエステル結合した基本構造をもつ。
 ピロール( pyrrole )
 分子式 C4H5N の五員環構造を持つ複素芳香族化合物のアミンの一種である。4 個のピロールを含む化合物群をテトラピロール( tetrapyrrole )という。
 フィトール( phytol )
 天然に存在する直鎖状のジテルペンアルコール( 4 つのイソプレンによって構成され C20H32 の分子式を持つテルペンのアルコール)の一つである。
 クロロフィルは,中性~塩基(アルカリ)性では安定であるが,酸性や光にに対して不安定な化合物である。

 次の添加物は,青色~緑色の色素としてキャンデーなどのあめ類,チューインガムなどの菓子類,魚肉練製品,めん類などに用いられている。なお,それぞれの色素には使用基準がある。
 銅クロロフィル( Copper Chlorophyll )
 既存添加物名簿番号 266 の添加物,クロロフィルの安定性を増す目的で,分子中のマグネシウムイオンを銅イオンに置き換えたものである。
 クロロフィリン( Chlorophylline )
 既存添加物名簿番号 116 の添加物,クロロフィルアルカリ処理(温時アルカリ性エタノール水溶液で加水分解し,希塩酸で中和後,含水エタノールで抽出)したものである。
 銅クロロフィリンナトリウム( Sodium Copper Chlorophyllin )
 既存添加物名簿番号 265 の添加物,クロロフィリン分子中のマグネシウムイオンを銅イオンとナトリウムイオンに置き換えたものである。

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  カラメル色素

 カラメル色素( Caramel )
 原料の“でん粉加水分解物,糖蜜又は糖類の食用炭水化物”を熱処理して得られる色素である。処理方法の違いにより,カラメルⅠ ,カラメルⅡ,カラメルⅢ,カラメルⅣに分けられる。
 カラメルには,着色の他に風味付け効果があり,古くからしょう油やソースなどに使用されていた。他には,清涼飲料水,乳飲料,菓子,漬物,つくだ煮などの着色料として用いる他に,ウイスキーの製造用剤として品質調整などにも使用される。

 カラメルⅠ( plain )
 既存添加物名簿番号 65 の添加物,原料の食用炭水化物をそのまま熱処理して得られたもの,又は酸若しくはアルカリを加えて熱処理して得られたもので,亜硫酸化合物及びアンモニウム化合物を使用していないものである。
 カラメルⅡ( caustic sulfite process )
 既存添加物名簿番号 66 の添加物,原料の食用炭水化物に,亜硫酸化合物を加えて,熱処理して得られたもので,アンモニウム化合物を使用していないものである。
 カラメルⅢ( ammonia process )
 既存添加物名簿番号 67 の添加物,原料の食用炭水化物に,アンモニウム化合物を加えて,熱処理して得られたもので,亜硫酸化合物を使用していないものである。
 カラメルⅣ( sulfite ammonia process )
 既存添加物名簿番号 68 の添加物,原料の食用炭水化物に,亜硫酸化合物及びアンモニウム化合物を加えて,熱処理して得られたものである。

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  カロテノイド

 カロテノイド( carotenoid )
 カロテノイド色素,カロチノイド,カロチノイド色素などとも呼ばれ,黄色~橙色から赤褐色などを示す天然色素の一群である。
 カルテノイドは,微生物,動物,植物などから 750 種を超えるものが発見されている。

 カルテノイドは一般に 8 個のイソプレン単位(-CH=C(CH3)CH=CH-)が結合して構成された化学式 C40H56 の基本骨格を持つ。
 カルテノイドは,分子骨格に長い共役二重結合(ポリエン)を持つため,電磁波(光)の波長 400~500 nm の間に吸収の極大を持つスペクトルを示す。共役二重結合の長さにより,黄色~橙色~赤褐色の異なる色を呈する。
 また,カルテノイド抗酸化作用もこの共役二重結合に由来する。

 食品添加物として実用例の多いアナトー色素,ディナリエラカロテン,ニンジンカロテン,ウコン色素を紹介する。
 アナトー色素( Annatto extract )
 既存添加物名簿番号 12
の添加物,ベニノキ科ベニノキ(Bixa orellane LINNE)の種子の被覆物から抽出されたもので,カロテノイド(カロチノイド:carotenoid )系の天然色素(ビキシン及びノルビキシン)を主色素とする添加物である。
 抽出方法には,熱時油脂若しくはプロピレングリコールで抽出して得る方法,室温時ヘキサン若しくはアセトンで抽出し,溶媒を除去して得る方法,熱時アルカル性水溶液で抽出し,加水分解し,中和して得る方法などがある。
 ハム,ソーセージ,水産加工品,チーズ,マーガリンなどに用いられる色素である。
 ディナリエラカロテン( Dunaliella carotene )
 既存添加物名簿番号 213
の添加物,デュナリエラ( Dunaliella bardawil 又は Dunaliella salina )の全藻から得られた,β-カロテンを主成分とするものである。
 バター,マーガリンなどの油脂製品,果汁飲料,めん類,菓子類などに用いられる色素である。
 ニンジンカロテン( Carrot carotene )
 既存添加物名簿番号 238
の添加物,ニンジン( Daucus carota Linne )の根から得られたカロテンを主成分とするものである。
 バター,マーガリンなどの油脂製品,果汁飲料,めん類,菓子類などに用いられる色素である。
 ウコン色素( Turmeric oleoresin Curcumin )
 既存添加物名簿番号 35
の添加物,クルクミン,ターメリック色素ともいわれ,ショウガ科ウコン( Curcuma longa Linne )の根茎からエタノール,油脂又は有機溶媒で抽出して得られたポリフェノール化合物のクルクミン( curcumin )を主成分とする色素である。
 食肉加工品,農水産物加工品,栗の砂糖漬けなどに用いられる鮮やかな黄色の色素である。

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  その他の色素

 クチナシ色素( carotenoid )
 クチナシ黄色素( Gardenia yellow )
 既存添加物名簿番号 98
の添加物,アカネ科クチナシ( Gardenia augusta Merrill 又は Gardenia jasminoides Ellis )の果実から水やアルコールで抽出したクロシンとクロセチンを主成分とする抽出液(イリドイド配糖体)である。
 クチナシ青色素( Gardenia blue )
 既存添加物名簿番号 96
の添加物,抽出液(イリドイド配糖体)とタンパク質分解物の混合物に,β-グルコシダーゼを添加して得られる着色料である。
 クチナシ赤色素( Gardenia red )
 既存添加物名簿番号 97
の添加物,抽出液(イリドイド配糖体)のエステル加水分解物とタンパク質分解物の混合物に,β-グルコシダーゼを添加して得られる着色料である。
 これらの着色料は,菓子,冷菓,めん類,農産物加工品などに用いられている。

 コチニール色素( Cochineal extract )
 既存添加物名簿番号 133
の添加物,スペイン南部や中南米のサボテンに寄生するカイガラムシ科の昆虫エンジムシ( Dactylopius coccus Costa(Coccus cacti Linnaeus))の乾燥体から水やアルコールで抽出して得られる。主成分はカルミン酸( Carminic acid )で,橙~赤紫色を示する。
 清涼飲料水,酒精飲料,冷菓,菓子,食肉製品,かまぼこなどの着色料として用いられる。

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