第五部:有機化学の基礎 食品添加物
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ここでは,調味料として用いられる食品添加物に関連し, 【食品添加物の分類】, 【調味料とは】, 【アミノ酸系調味料】, 【核酸とは】, 【核酸系調味料とは】, 【有機酸系,無機酸系調味料】 に項目を分けて紹介する。
食品添加物の分類
東京都福祉保健局:食品衛生の窓>たべもの安全情報館>食品添加物の解説では,
食品添加物を用途別に「甘味料」,「着色料」,「保存料」,「増粘剤安定剤;ゲル化剤(糊料)」,「酸化防止剤」,「発色剤」,「漂白剤」,「防かび剤又は防ばい剤」,「乳化剤」,「膨脹剤」,「調味料」,「酸味料」,「苦味料」,「光沢剤」,「ガムベース」,「栄養強化剤」,「製造用剤等」,「香料」に分けて,それぞれについて主な添加物を紹介している。
ここでは,赤字で示した「調味料」を東京都福祉保健局の紹介記事,(公財)日本食品化学研究振興財団で提供する“厚生労働省行政情報”などを参考に紹介する。
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調味料とは
調味料( seasoning , condiment , flavor enhancer )
味噌,しょう油,塩,かつお節など食品扱いのものの他に,グルタミン酸ナトリウム,イノシン酸ナトリウムなど化学合成されたものなど添加物として扱われるものに分けられる。
添加剤としての調味料は,一般的には“旨み調味料”などとも呼ばれ,旧来より出汁(だし)として扱われた昆布やかつお節に含まれる旨味成分を抽出したものや化学合成したものである。
添加物としての調味料は,アミノ酸系,核酸系,有機酸系,無機塩系の 4 種に分けられる。食品表示にあたっては,例えば「調味料(有機酸)」のようにカッコ書きでグループ名の表示が義務付けられている。
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アミノ酸系調味料
アミノ酸( amino acid )
カルボキシル基の他にアミノ基( -NH2 )を持つ化合物をいい,狭義には,タンパク質を構成する単位(一般式 RCH(NH2)COOH の構造を持つα-アミノ酸 20 種)を指す。
アミノ酸系調味料
アミノ酸やアミノ酸から誘導される化合物をいい,化学合成できるL-アスパラギン酸ナトリウム。DL-アラニン,L-イソロイシンなど食品衛生法施行規則 別表第一 指定添加物リストに 21 物質が収載され,天然物から得られるアミノ酸系調味料として,次に紹介する添加物など既存添加物名簿に記載されている。
これらの物質を表示する場合は,「調味料(アミノ酸)」と記載しなければならない。
既存添加物名簿番号 7
L-アスパラギン( L-Asparagine ):植物性タンバク質を加水分解し,分離して得たも。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 8
L-アスパラギン酸( L-Aspartic acid ):発酵又は酵素法により得られたものを分離して得たものを指す。
既存添加物名簿番号 17
L-アラニン( L-Alanine ):タンパク質原料の加水分解又は発酵若しくは酵素法により得られたものを分離して得たもを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 21
L-アルギニン( L-Arginine ):タンパク質原料の加水分解により,又は糖類を原料とした発酵により得られたものを分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 112
L-グルタミン( L-Glutamine ):糖類を原料とした発酵により得られたものから分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 157
L-シスチン( L-Cystine ):IUPAC 名はシステインであるが,名簿ではシスチンと記載されているアミノ酸で,動物性タンパク質(特に動物毛,羽毛)を加水分解し分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 180
L-セリン( L-Serine ):タンパク質原料の加水分解により,又は糖類を原料とした発酵により得られたものを分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 204
L-チロシン( L-Tyrosine ):L-チロジン,チロシンともいわれ,動物性若しくは植物性タンパク質の加水分解により,又は糖類を原料とした発酵により得られたものを分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 252
L-ヒスチジン( L-Histidine ):タンパク質原料の加水分解により,又は糖類を原料とした発酵により得られたものを分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 278
L-プロリン( L-Proline ):タンパク質原料の加水分解により,又は糖類を原料とした発酵により得られたものを分離して得たものを指す。成分はL-プロリンである。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 347
L-リシン( L-Lysine ):L-リジン,リシンともいわれ,糖類を原料とした発酵により得られたものを分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 361
L-ロイシン( L-Leucine ):動物性若しくは植物性タンパク質の加水分解により,又は糖類を原料とした発酵法により得られたものより分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
既存添加物名簿番号 254
L-ヒドロキシプロリン( L-Hydroxyproline ):L-オキシプロリン,オキシプロリンともいわれ,ゼラチン等を加水分解し,分離して得たものを指す。栄養強化剤としても用いられる。
ヒドロキシプロリンは,タンパク質合成後に修飾を受けて作られるアミノ酸残基で,アミノ酸に分類されるプロリンのγ炭素原子にヒドロキシ基が結合した構造をもつ。
既存添加物名簿番号 290
ベタイン( Betaine ):テンサイ(Beta vulgaris Linne)の糖蜜より分離して得たものを指す。日本では食品添加物や化粧品等の保湿剤として使用されている。
ベタインとは,正電荷と負電荷を同一分子内の隣り合わない位置に持ち,正電荷をもつ原子には解離しうる水素原子が結合しておらず,分子全体としては電荷を持たない化合物(分子内塩)の総称である。べダインは,テンサイ( Beta vulgaris )に由来する名称である。
生体物質としては,テンサイから得られるトリメチルグリシン( N,N,N-trimethylglycine )やカルニチン(carnitine)などがある。
トリメチルグリシンは,タンパク質に含まれないアミノ酸で,異常アミノ酸ともいわれる。
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核酸とは
核酸( nucleic acid )
ヌクレオシド( nucleoside )にリン酸基が結合したヌクレオチド( nucleotide )がホスホジエステル結合( Phosphodiester bond )で連なった生体高分子で,リボ核酸( ribonucleic acid :RNA )とデオキシリボ核酸( deoxyribonucleic acid :DNA )の総称となっている。
リボ核酸( RNA )は,分子中の糖がリボース( ribose :5 個の炭素を持つ五炭糖,単糖)のものをいい,リボースの 2' 位の水酸基が水素基に置換された 2-デオキシリボースのものがデオキシリボ核酸( DNA )である。
ヌクレオシドとは,五炭糖( pentose )の1位に,プリン塩基(アデニン,グアニンなど),又はピリミジン塩基(チミン,シトシン,ウラシルなど)がグリコシド結合(糖分子と他の有機化合物との脱水縮合による結合)したもの。
ホスホジエステル結合とは,炭素原子の間がリン酸を介した 2 つのエステル結合によって共有結合していることをいう。
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核酸系調味料とは
核酸系調味料
リボ核酸( RNA )を原料とする食品添加物で,グルタミン酸などのアミノ酸系と混ぜるとうまみを増す相乗作用があり,両者を組み合わせた複合調味料が市販されている。
うま味を感じさせる核酸関連物質は,呈味性ヌクレオチドやヌクレオチド呈味物質ともいわれる。呈味(ていみ)とは,食べ物の味(甘味,塩味,酸味,苦味,うま味など)を指す。
核酸系調味料の一般的な製造は,RNA 分解法,直接発酵法,発酵と合成法の組み合わせによる方法などがある。
以下に紹介する食品衛生法施行規則 別表第一 指定添加物リストに収載されている 6 物質を調味料として使用した場合,「調味料(核酸)」と記載しなければならない。
指定添加物番号 60
5'-イノシン酸二ナトリウム( Disodium 5'-Inosinate ):
別名 5'-イノシン酸ナトリウム( Sodium 5'-Inosinate )ともいい,呈味性ヌクレオチドの1つで,鰹節に含まれるうま味成分のひとつといわれている。
イノシン酸( inosinic acid )とは,ヒポキサンチン( 6-ヒドロキシプリン)と D-リボース(五炭糖)とリン酸各 1 分子ずつで構成されたリボヌクレオチドで,イノシン 5'-リン酸,イノシン 5'-モノリン酸,イノシン一リン酸などともいわれる。主に肉類の中に存在する天然化合物である。
指定添加物番号 63
5'-ウリジル酸二ナトリウム( Disodium 5'-Uridylate ):
別名 5'-ウリジル酸ナトリウム( Sodium 5'-Uridylate )ともいう。
ウリジル酸( uridylic acid )とは,ウリジン一リン酸( uridine monophosphate )とも呼ばれ,ウラシル(ピリミジン- 2,4(1H,3H)-ジオン),五炭糖のリボース,1 つのリン酸より構成される。リン酸エステルの位置により,2'-体,3'-体,5'-体が知られ,5'-体は RNA の部分構造となる。5'-体の二ナトリウム塩はうま味調味料として用いられる。
指定添加物番号 107
5'-グアニル酸二ナトリウム( Disodium 5'-Guanylate ):
別名 5'-グアニル酸ナトリウム( Sodium 5'-Guanylate )ともいう。
グアニル酸( guanylic acid )とは,グアノシン一リン酸( Guanosine monophosphate )とも呼ばれ,グアニン( 2-アミノ-1,9-ジヒドロ-6H-プリン-6-オン),五炭糖のリボース,1 つのリン酸より構成される。リン酸エステルの位置により,2'-体,3'-体,5'-体が知られ,5'-体は RNA の部分構造となる。5'-体の二ナトリウム塩はうま味調味料として用いられる。
指定添加物番号 180
5'-シチジル酸二ナトリウム( Disodium 5'-Cytidylate ):
別名 5'-シチジル酸ナトリウム( Sodium 5'-Cytidylate )
シチジル酸( cytidylic acid )とは,シチジン一リン酸( cytidine monophosphate : CMP )ともいい,リボース部位上のどのヒドロキシ基にリン酸が結合しているかによって,2'-シチジル酸,3'-シチジル酸,5'-シチジル酸の3種類がある。5'-体は RNA の部分構造となる。5'-体の二ナトリウム塩はうま味調味料として用いられる。
指定添加物番号 422
5'-リボヌクレオチドカルシウム( Calcium 5'-Ribonucleotide )
指定添加物番号 423
5'-リボヌクレオチドニナトリウム( Disodium 5'-Ribonucleotide )
リボヌクレオチド( Ribonucleotide )とは,D-リボース(五炭糖)を含むヌクレオチドで,核酸の前駆体と考えられている。
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有機酸系,無機酸系調味料
有機酸系
クエン酸カルシウム,クエン酸三ナトリウム,グルコン酸カリウムなど食品衛生法施行規則 別表第一 指定添加物リストに 17物質が掲載されている。調味料として使用する場合は,「調味料(有機酸)」と表示しなければならない。
貝類特有のうま味成分として知られるコハク酸ナトリウムは,代表的な有機酸系調味料で,マレイン酸を還元して得られる。
無機塩系
塩化カリウム,リン酸三カリウム,リン酸水素二カリウムなど食品衛生法施行規則 別表第一 指定添加物リストに記載される 8 物質,以下に紹介する既存添加物名簿に記載される 2 物質,及び一般飲食物添加物 1 物質を調味料として使用する場合は,「調味料(無機塩)」と表示しなけらばならない。
既存添加物名簿番号 41
塩水湖水低塩化ナトリウム液( Sodium chloride-decreased brine ):
塩水湖水ミネラル液(saline lake)ともいわれ,塩水湖の塩水を天日蒸散により濃縮し,塩化ナトリウムを析出分離し,残りの液体をろ過したもの。主成分はアルカリ金属塩類及びアルカリ土類金属塩類である。
既存添加物名簿番号 182
粗製海水塩化カリウム( Crude potassium chloride ):
海水を濃縮し,塩化ナトリウムを析出分離させた後,そのろ液を室温まで冷却し析出分離したもの。主成分は塩化カリウム( KCl )である。
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