第五部:有機化学の基礎 身近のプラスティック
☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒
ここでは,生活に実用される高分子材料の基礎知識に関連し, 【高分子化合物の構造】, 【高分子化合物の特性】, 【無機高分子:シリコーンとは】 に項目を分けて紹介する。
高分子化合物の構造
高分子化学( polymer chemistry )とは,分子量が概ね 10000 を超える無機化合物および有機化合物を高分子化合物といい,これを研究対象とする学問分野である。
高分子化合物は,低分子化合物とは異なる特徴的な性質を持つ。特に固体や溶液の力学的,熱力学的特性は低分子化合物のそれとは大きく異なる。このため,高分子化学として,一般的な無機化学や有機化学とは異なる研究分野として確立されている。
具体的には,高分子化学には,高分子化合物の分子構造(高分子構造論),固体としての熱的,力学的,電気的性質(固体論),溶媒に溶解した溶液の物性(溶液論),高分子合成方法(合成論)や合成するための化学反応(反応論)などを研究する分野がある。
高分子化合物( high polymer ,macromolecule ,high molecular weight compound )
単に高分子ともいわれ,一般的には,セルロース,蛋白質,核酸,天然ゴム,合成繊維,プラスチックなど有機高分子化合物を指す場合が多い。
高分子化合物とは,単に分子量の大きい化合物を指すのではなく,単位となる構造(単量体:モノマー)の繰り返しを持ち,共有結合を介して,線状や網目状に連なった化合物を指す。
一般的に,1000 個程度以上の原子を持ち,又は分子量が 10000 程度以上のものを高分子と見なし,それ以下のものはオリゴマーと呼ばれる。なお,モノマー,ポリマー,オリゴマーの概念の違いは,【基礎用語】で紹介している。
構造の区分
1 種類の単量体(モノマー)の重合によってできた高分子を単独重合体(ホモポリマー)といい,2 種類以上の単量体の重合(共重合)によってできた高分子を共重合体( copolymer )という。なお,2 種の場合を二元共重合(コポリマー),3 種の場合を三元共重合(ターポリマー)と呼ばれる。
二元共重合体は,単量体の配置に規則性のないランダム共重合体,交互に重合した交互共重合体,規則性を持ち周期的に配置した周期的共重合体,同種の単量体が連続するブロック共重合体の 4 種類の構造がある。
また,ブロック共重合体の中で,幹となる高分子鎖に異種の高分子鎖が枝分かれした構造をグラフト共重合体と呼ぶ。
モノマー( monomer )
単量体ともいい,重合反応などでポリマーを作る際の単位となる分子をいう。
ポリマー( polymer )
重合体ともいい,複数のモノマー(単量体)が重合し,単量体構造が繰り返し連結した化合物をいう。一般的には,高分子(ハイポリマー)と同義で用いられることも多いが,オリゴマーを意識する場合は,高分子とは区別した意味で用いられる。
なお,2 種類以上の単量体からなる重合体を共重合体( copolymer ;コポリマー)と言う。
オリゴマー( oligomer )
モノマー(単量体)が重合してできたポリマー(重合体)のうち,比較的低い重合度のものをいう。重合度に明確な範囲はないが,一般的には分子量 1000程度のポリマーで,低分子と高分子の中間の性質をもつ。
オリゴマーは,モノマーの数に応じ,ダイマー( dimer :二量体),トライマー( trimer :三量体),テトラマー( tetramer :四量体)などともいわれる。
高分子材料における強度などの実用的な物理・化学特性を示すためには,分子量が少なくとも数万程度以上を必要とする。オリゴマーは高分子材料の性質を示さず,一般の有機化合物と同様の特性を持つ。このため,オリゴマーは潤滑剤,可塑剤,化粧品などの用途,高分子化することで製品として完成する塗料,接着剤などの中間製品の原料として使われている。
ハイポリマー( high polymer )
高分子,高分子化合物ともいい,分子量が概ね 10000 を超えるポリマーをいう。
ページの先頭へ
高分子化合物の特性
分子量
天然高分子には,単一の分子量からなるものも多いが,合成高分子は,同一の組成を持つが,分子量の異なる(重合度の異なる)複数の分子の混合物の場合が多い。このため,合成高分子の分子量は,通常は平均分子量(数平均又は重量平均)で表される。
合成高分子の分子量分布は,物性面では分布が狭いことが望ましい。しかし,加工などの実用面では,広い分子量分布が有利になる場合も多い。
平均分子量の算出には,分子 1 個あたりの平均の分子量を示す数平均分子量,重量に重みをつけて計算した重量平均分子量がある。
なお,分子量測定にゲル浸透クロマトグラフ分析法( gel permeation chromatography : GPC )を用いる例が多い。この方法では,ゲル状の粒子を充填したカラムに,希釈した高分子の溶液を流し,分子の大きさによって流出するまでの時間を計測することで分子量を評価する。
その他に数平均分子量測定には,,束一的性質,すなわち溶液の蒸気圧・浸透圧・沸点がモル濃度に依存することを利用した方法(蒸気圧法・浸透圧法・沸点上昇法)などがある。
重量平均分子量測定には,溶液中の分子による光散乱の強度とその分子の質量に比例することを利用した分析法(光散乱法),わずかな比重差を利用し,遠心分離機を用い分子の分布状態を検出する沈降速度法(超遠心法)などがある。
熱力学的特性
一般に高分子は,結晶性領域の融点は単量体よりも高い。また,非結晶性の領域にはガラス転移点と呼ばれる擬似相転移温度を有する。特に主鎖に芳香環などが入った分子は,分子間の相互作用が強く融点,ガラス転移点が高くなる。
力学的特性
高分子は分子鎖が長く,液体の粘性とゴムなどのような弾性の性質を共に持つ粘弾性体である。また,分子は,三次元的な結合の程度や官能基の違いなどで,良く曲がる屈曲性高分子,硬く曲がり難い剛直性(棒状)高分子,その中間の半屈曲性高分子,塊(球)状高分子に分けられる
ページの先頭へ
無機高分子:シリコーンとは
無機高分子とは
JIS K 6900「プラスチック―用語: Plastics − Vocabulary 」では,有機高分子の用語を規定していなが,無機高分子( inorganic polymer )に関しては,
「主鎖に炭素原子をもたない重合体。 注−例:ポリジクロロフォスファゼン,ポリジメチルシロキサン。無機高分子には有機基側鎖が存在しているものもあるが,この場合にはその重合体はときには“半有機の”と呼ばれている。」
と定義している。
シリコーンとシリコン
元素を示すけい素( silicon )はシリコンと呼ばれるが,ポリシロキサンを示すsilicone の日本語訳をシリコーンの他にシリコンとする書籍,報告書や文献も多く,混乱する例が多い。
ここでは,化学系で多く見られる使い分け,すなわち元素を示す場合をシリコン,ポリシロキサンを示す場合をシリコーン( silicone )とする。
関連 JIS 規格
JIS K 6249「未硬化及び硬化シリコーンゴムの試験方法」
シリコーンとは
シロキサン結合が長く連なった高分子(ポリシロキサン)をシリコーンという。
シロキサン( siloxane )とは,ケイ素と酸素のシロキサン結合( Si–O–Si )を骨格とする有機けい素化合物(炭素−けい素結合を持つ有機化合物)の総称で,一般式 R3SiO–(R2SiO)n–SiR3( R:アルカン)で表される。
なお,siloxane は,silicon (けい素,シリコン),oxygen (酸素),alkane (アルカン)の合成語である。
シリコーンは,有機化合物と同様に,分枝や環構造を形成できる。
直鎖化合物の場合は,一般式の n が2000 以下で油状(シリコーンオイル),5000 以上でゴム状(シリコーンゴム)となる。
分枝やアリール基による置換を多く持つものは樹脂の性質(けい素樹脂:silicone resin )を持つ。
実用上は,耐熱性の高いエラストマーとしての性質を利用したものが多数を占めるので,【ゴム(エラストマー)とは】でも紹介する。
JIS 用語の定義では,シリコーン( silicone )は,無機高分子に分類されるが,半有機的な性質を持つ熱硬化性樹脂として日常生活での利用例も多い。
ページの先頭へ