腐食概論鋼の腐食

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 ここでは,サイトの対象である鋼腐食に関連し, 【構造物用の鋼材の種類】, 【鋼橋に用いる鋼の変遷】 を紹介する。

 鋼腐食の基礎

 構造物用の鋼材の種類

 建築,橋,船舶,車両,及びその他の構造物用として強度,及び必要に応じて溶接性を重視して製造された構造用鋼材(steel for structure , structural steel)が用いられる。
 現代の鋼橋や大型建築物で採用されている主な鋼材を次に紹介する。
 SS材と略称される一般構造用圧延鋼材(rolled steels for general structure)は,JIS G 3101 に規定される鋼材で,高い溶接性を求めない一般構造に用いる熱間圧延鋼(hot rolled steel)である。
 SM材と略称される溶接構造用圧延鋼材(rolled steels for welded structure)は,JIS G 3106 に規定される鋼材で,鉄骨造建築物を除き,橋梁,船舶,車両,石油貯槽,容器,その他の溶接構造に用いる熱間圧延鋼材である。溶接性に優れ,SS材より化学成分規定が厳しくなっている。
 SN材と略称される建築構造用圧延鋼(rolled steels for building structure)は,JIS G 3136 に規定される鋼材で,SM材(溶接構造用圧延鋼材)と同様に熱間圧延鋼材であるが,建築構造物用途に応じた要求性能に対応するための塑性変形能力の高い鋼材が規定されている。
 SMA材と略称される溶接構造用耐候性熱間圧延鋼(hot-rolled atmospheric corrosion resisting steels for welded structure)は,JIS G 3114 に規定される鋼材で,溶接構造用熱間圧延鋼材(SM材)と同様の機械特性を有する。大気中の水と酸素の影響で生成した腐食生成物が鋼材表面に付着し,その後の腐食を抑制できるように,銅(Cu),クロム(Cr),ニッケル(Ni)などの合金成分を添加した低合金鋼である。
 他には,金属めっき(metal plating)や金属溶射(metal spraying)などを施したの表面処理鋼板(surface treated steel sheet , surface treated steel plate)などが用いられる。
 なお,表面処理鋼板などの金属被覆鋼の腐食問題は,被覆金属と鋼との関係(密着性,酸化還元電位など),及び被覆金属の腐食特性を分けて考える必要がある。
 
 【参考】
 熱間圧延鋼板( hot rolled steel plates and strip in cut length )
 圧延機によって,熱間で圧延した鋼板。熱間圧延鋼帯からの切板及び熱加工制御を行った鋼板も含む。
 注記 熱加工制御は,TMCP と呼ぶことがある。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】

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 鋼橋に用いる鋼の変遷

 鉄橋は,年代により用いられる材料が異なるため,主に用いられた材料による年代区分が用いられている。
 1770~1850年;鋳鉄(cast iron)が主に用いられた 鋳鉄橋
 1850~1880年;錬鉄(wrought iron)が主に用いられた錬鉄橋
 1880~1896 年;錬鉄とベッセマー鋼(bessemer steel)が併用された橋梁が多い錬鉄・鋼併用橋
 1895年以降;ベッセマー鋼を主に用いた鋼橋
 なお,鋼橋は,ベッセマー鋼を主に用いた時代(1895~1910年)と一般構造用圧延鋼材(rolled steels for general structure)を用いるようになった 1910年以降とを区別することも多い。
 
 1960年代までの鋼構造物は,リベット接合(rivet joint)の構造であった。このため,用いられる鋼材は,溶接性を考慮する必要のない一般構造用圧延鋼材(SS材)が用いられてきた。
 その後,接合に溶接接合(welding)を用いるようになり,SS材では溶接個所の品質に課題が出た。このため,溶接構造用圧延鋼材(SM材)が新たに規定され用いられるようになった。
 
 1980年代には,鋼構造物の維持管理負担の低減を目的に,腐食性の低い環境に限り,無塗装でも実用上問題とならない腐食量ですむ鋼材として,溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材(SMA材)が用いられるようになった。
 最近では,設計技術の向上により,引張強度の高い炭素鋼の高張力鋼(high tensile strength steels)も用いられるようになってきている。
 このため,現存する鋼構造物は,耐用年数 60年といいつつ,適切な維持管理により 100年以上使用されるものもある。このため鋼構造物は,架設年代により,錬鉄,ベッセマー鋼,SS材,SM材,SMA材や高張力鋼が混在していることになる。
 なお,鋼材の詳細な組成や規格については,【金属概要】の「鉄および鋼」で解説している。

【参考】 
 高張力鋼とは
 鉄鋼メーカ毎に成分が異なり,明確な定義はないが,シリコン(Si),マンガン(Mn),チタン(Ti)など10数種類の元素を配合した炭素鋼である。一般には,概略で 490 MPa程度以上の引張強度のものから高張力鋼と呼ばれる。 主流は,引張強度 590 MPa,780 MPa程度のものであるが,1 GPa級のものもある。
 高張力鋼は,軽量化を目的に 1950年代以降の鉄道車両や自動車に多用されてきた。構造物に関しては,大型化や板厚の増加による構造の簡略化などを目的に適用を検討されてきている。
 ボルトの記号について
 構造物ではF10TS10Tボルトがよく用いられる。ボルトの記号の意味は次の通りである。
 最初の記号は,一般的には F は摩擦接合用(for Friction Grip Joints)を意味し,S は構造用(for Structural Joints)を意味する。しかし,土木分野では,高力六角ボルトに F を,これと区別するためトルシア形高力ボルトに S を用いている。
 数値の 10 は強さ 10ton・f・cm-2(100kgf・mm-2)を,は強さが引張り(Tensile Strength)であることを表している。

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