腐食概論:鋼の腐食

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         【水質の影響(陰イオン)】

 結論から言うと,鋼腐食に大きく影響する陰イオン(anion , negative ion)は,塩化物イオン(Cl-),及び硫酸イオン(SO42-)である。
 日本の一般的な淡水には,これらの含有量は低く,溶存酸素の影響が卓越している。従って,陰イオン濃度に多少の変化があっても,静止している淡水中では,鋼腐食に大きく影響しないと考えられている。
 しかし,水が流動する場合には,淡水(塩分濃度 500ppm以下)のすくない量の塩化物イオン(chloride ion)の影響が顕在化することもある。
 下図は,塩化物イオン濃度の異なる水中での鋼腐食と流速との関係を模式的に示したものである。なお,乱流の影響は考慮されていない。

鋼腐食に影響する塩化物イオンと流速の関係(模式図)

鋼腐食に影響する塩化物イオンと流速の関係(模式図)
出典:松島巖,日本材料学会,腐食防食部門委員会資料,No.94, Vol.19, Part1.Japan (1980)

 図中の曲線①は,塩化物イオンをほとんど含まない淡水での挙動,塩水と表記した曲線②は, 30ppmの塩化物イオンを含む淡水での挙動,曲線③海水での挙動を示す。
 なお,【淡水とは】で説明したように,塩分濃度 500ppm,塩化物イオン濃度で約 300ppmまでは淡水と定義されている。
 
 曲線①は,【流速の影響】で紹介したように,ある流速を超えると,不動態化(passivity)による腐食速度低に至る。
 曲線②は,少量の塩化物イオンを含むことで,塩化物イオンによる不動態被膜の破壊が起きるため,曲線①の塩化物イオンを含まない水に比較して,不動態化による腐食速度低下の開始流速が大きいほうに移動する。
 曲線③海水のように高濃度の塩化物イオンを含む水では,流速を上げても 不動態化は起こらず,【溶存酸素の拡散】で解説した酸素の流束 J の増加により腐食速度が単調に増加する。
 なお,図からわかるように,何れの場合も,不動態化の影響が出ない流速範囲では,腐食速度は酸素の流束 J に依存し,塩化物イオンの濃度によらずほぼ同じになる。

 【参考資料】
 1):日本材料学会,腐食防食部門委員会資料,No.94, Vol.19, Part1.Japan (1980)

 【参考】
 陰イオン(anion , negative ion)
 アニオン(anion)ともいい,負の電荷を帯びたイオンをいう。イオン(ion)とは,原子や原子団(分子)が電子を得たり失うことで電荷を帯びた状態をいう。
 歴史的には,ファラディーが電気分解の実験で,陽極(アノード:anode )に向かう粒子と陰極(カソード:cathode )に向かう粒子を発見し,これらの粒子をイオン(ion)と名付け,陽極に向かう粒子を陰イオン(anion :アニオン),陰極に向かう粒子を陽イオン(cation :カチオン) と呼んだのが始まりである。
 塩化物イオン(chloride ion)
 鋼の腐食:水質(陰イオン)の影響 塩化物(chloride)とは,塩素(Cl)と他の元素や原子団との化合物をいう。単体の塩素 (Cl2)は,ヘリウム,ハロゲンなどの希ガス類(第18族元素)以外のほとんどの元素と反応し塩化物を形成する。
 イオン結合性の化合物では,容易に陰イオン(Cl)として遊離するので,この陰イオンを塩化物イオン(chloride ion)という。塩化物イオンは,古くは塩素イオンといわれていたが,この呼び方は推奨されない。
 不動態(passive state)
 これまでの文献等では,用語として不働態を用いていたが,現在は,JIS 用語を含め,不動態を用いる例が多い。
 標準電位列で卑な金属であるにもかかわらず,電気化学的に貴な金属であるような挙動を示す状態。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 本来,ひ(卑)である電極電位を示し,不安定であるべき金属があたかも貴である金属のように振る舞う状態。この状態では,電極電位も貴の値を示す場合が多い。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 一般的には,金属をとり囲む環境の影響で,電気化学列で卑な金属(腐食しやすい金属)が,表面を酸化物で覆われるなどして本来の活性を失い,貴な金属のように挙動する状態を不動態といい,この状態になることを不動態化(passivity)と理解されている。
 不動態化は,酸化力のある酸にさらされた場合,陽極酸化処理によっても生じる。不動態となる酸化被膜(不動態被膜)の典型的な厚みは,数 nm である。
 すべての金属が不動態となるわけではなく,不動態になりやすいのは,アルミニウム,クロム,チタンなどやその合金である。

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