腐食概論鋼の腐食

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 鋼腐食の基礎

 鋼の局部腐食(粒界腐食)

 「金属結晶の構造欠陥」で述べたように,工業的に作られた合金は,固溶体の結晶粒と混合物を含む結晶粒が不規則に集合した状態となり,結晶粒の界面(結晶粒界は,二つの結晶粒の格子がみられた不連続領域になっている。
 結晶粒界(grain boundary)は,結晶粒内部に比べて,不純物が入り込む機会が多く,金属の腐食にとって欠陥部として働き,甚だしい場合には,局部的な腐食である粒界腐食(intergranular corrosion)として問題となることがある。
 
 通常の合金では,結晶粒界のみが選択的に腐食することはない。しかし,ある種の合金(オーステナイト系ステンレス鋼や銅を含むアルミニウム合金など)が不適切な熱影響を受けたとき,結晶粒界やその周辺の組織構造が変化し,結晶粒界をアノードに,結晶粒をカソードとする腐食が発生し易くなる。
 カソードとなる結晶面の面積は,アノードとなる結晶粒界の面積に比較し圧倒的に広く,「異種金属接触腐食の程度」で例示したように,面積の小さいアノード(結晶粒界)が非常に速い速度で腐食する。
 熱影響を受けてこのような状況になることを,結晶粒界感受性という。

 ステンレス鋼(stainless steels)が不適切な熱処理により粒界腐食感受性のある状態に変化することを鋭敏化(sensitization)という。
 ステンレス鋼では,含まれる炭素量,加熱時間,及び加熱温度の組合せで,鋭敏化の可能性が推測できる。この関係図を鋭敏化曲線やTTS曲線(time-temperature-sensitization)という。
 例えば,一般的なステンレス鋼である SUS 304(炭素量0.05~0.06%)は,600~800℃で短時間に鋭敏化するが,550℃では鋭敏化に数十時間要する。しかし,900℃以上では鋭敏化しない。
 従って,SUS 304の製造工程で 1050~1100℃での溶体化処理(solution treatment)した後に急冷する溶体化処理(solution treatment)は,鋭敏化する温度-時間領域を速やかに通過し,鋭敏化の進展を回避する目的である。
 
 実用上で,ステンレス鋼の粒界腐食が問題となるのは,不適切な溶接や,不用意な歪取りのための熱処理を行ってしまった場合などである。
 アルミニウム合金では,3%以上のマグネシウム(Mg)を加えた5083,マグネシウムと亜鉛(Zn)を加えた7030,銅(Cu)を添加した20247075などが,粒界腐食の感受性が高い材料として知られている。
【参考】
電極(electrode)
 電気化学では,広義には金属などの電子伝導体の相と電解質溶液などのイオン伝導体の相とを含む少なくとも二つの相が直列に接触している系(電極系ともいう)。狭義にはイオン伝導体に接触している電子伝導体の相。【JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」】
 電極を示す名称には,カソード・アノード,正極(+極)・負極(-極),陰極・陽極などの名称が使われている。特に,陰極・陽極の用語は,技術分野で示す意味が異なり,混乱した使用例が見られるので,注意が必要である。
 なお,カソード(cathode)は還元反応を生じる電極,アノード(anode)は酸化反応を生じる電極をいう。
局部腐食(local corrosion)
 読み「きょくぶふしょく」,金属表面の腐食が均一でなく,局部的に集中して生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 局部的に集中して起こる腐食。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 金属種や腐食要因の違いで孔食,すき間腐食,異種金属接触腐食など様々ある。
結晶粒界(grain boundary)
 液体が冷却され固体になるとき,多数の微小な結晶が別々に成長して多結晶体になる。個々の結晶の方向が揃うことは稀であり,形成された多結晶体を構成する結晶は隣接する結晶と方向が異なる。結晶との間に生じる不連続な境界面を結晶粒界という。
 結晶粒の界面(結晶粒界)は,二つの結晶粒の格子が乱れた不連続領域になっている。結晶粒界は,結晶粒内部に比べて,不純物が入り込む機会が多く,金属の腐食にとって欠陥部として働き,甚だしい場合には,局部的な腐食である粒界腐食(intergranular corrosion)として問題となることがある。

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